十四話 その覚悟を問う
キリがいいところで切ったら短くなってしまいました。
昨日の夕方にはまだ積まれるほどあった布の箱も残すところあと1つ。アデリーナは魔力消費を抑えるためにすでにメイカー達をしまっていて、セラと2人で制服を作っていた。
「セラ、残りは?こっちの分はこれで終わりだけど。」
「わたしも今ので終わりです、ようやく解放されますね…」
「おお、速いな。まぁでも私もこれで終わりっと。さて、じゃあギルドに報告しに行こうか。」
針を凄まじい勢いで動かし、しかし雑になることなく服を仕上げたアデリーナは、立ち上がって1つ伸びをした。同じ姿勢でいたためか、背中から骨の鳴る音がする。
「アデリーナさん、ちょっとおじさん臭いですよ…」
「いーんだよ、どうせ誰も見てないんだし。…ん?これは、タマモか?」
アデリーナは部屋に近づく何かを感知していた。誰かまで分かったのは、それが自分の人形だったからか。すぐにノックの音がして、タマモが部屋の外から声をかける。
「お嬢様、よろしいでしょうか。」
「どうぞー。」
「失礼致します、お嬢様、セラ様。早急にお話しなければならないことができました。」
「話?言ってみて。」
「昨夜話していた災いの内容が何か判明致しました。ギルドが調査していたことを聞いたのですが、どうやら大型の魔物及びその取り巻き多数が魔獣の森の中程に確認されたそうです。詳細は不明ですが、中層には生息していない魔物のようで、現在街に向かって進行中とのことです。道中では他の魔物には目もくれずこちらに向かってきているそうです。」
タマモはそこで1度話を切った。セラは報告に顔を青ざめている。それを横目にアデリーナはうんざりした様子で言った。
「魔物だかなんだか知らないけど、こっちに来ないでほしいね…迷惑だよ。それで?まだあるでしょ?」
「はい。ここからはまだ告知されていない情報なのですが、どうやらギルドは昼過ぎに、緊急依頼を出す形で今回の魔物の進行を抑えるつもりのようです。緊急依頼には、その街にいるEランク以上の全ての冒険者に参加の義務があります。話を聞く限り出発は明日の朝で、森の前で迎撃するようです。どうなさいますか?」
「どうするもこうするも、準備するしかないんじゃないですか?」
セラはタマモの話を一通り聞き終わったと見ると、あわあわと外に出ようとする。アデリーナはそんなセラの服をつかんで止める。
「あのねぇセラ、タマモがギルドの告知よりも早く私達に連絡してくれた意味を考えなよ。」
「意味…?」
「そ。緊急依頼は発令されたら、Eランク以上の冒険者には参加義務がある。それはつまり、される前ならまだ受けるかどうか決められるってこと。」
「…つまりアデリーナさんは、この街から出ることで参加義務がなくなる、そう言いたいんですね?」
「そういうこと。どうする?私達はパーティーを組んでるわけだし、相談して決めようよ。と、言っても私はどっちでもいいよ。だからセラに任せるね。まぁ強いて言えば面倒ごとには巻き込まれたくないなーってのはあるけど。今はまだ昼前だし、今から街を出れば魔物の進行にも出くわさないだろう。あ、そうだ。私は別にセラがどんな判断をしてもそれを批難することはないから。」
「わたしは…」
アデリーナは珍しく口元を緩めずにセラに選択をさせる。セラは続きをすぐに言えず、俯いてしまった。しかしそれも少しの間のことで、セラは顔を上げてはっきりと言う。
「わたしは、この依頼に参加したいと思っています。わたしはこの街の生まれではありませんが、この街で冒険者になりました。同じ冒険者の人にいい思い出はありませんが、ギルドの人達や商店街の皆さんにはたくさんお世話になっています。それを見捨てて逃げるなんて、できません!」
「でもセラの実力じゃ大した貢献はできないかもよ?」
「それでもです!たとえそうだとしても、街を守らずに逃げ出すなんて、わたしにはできません!」
セラは声を張り上げ、アデリーナのことをしっかりと見つめる。フードの奥からその目を見たアデリーナは、心中でやはりな、と確信していた。
(これは、たとえ私が、依頼に参加したらパーティーを解散すると言っても動かないだろうな。それに、しっかりと芯のあるいい目だ。間違いなく、セラには英雄の素質がある。ま、セラが参加しないって言ってもやるつもりではいたけど。たとえ世界が違うと言っても、無辜の民衆が困っているのに助けないなんて英雄失格だからな。)
しばらくの無言の間を挟み、アデリーナは満足そうに頷いた。
「なるほど、それなら参加しようか。準備もしないといけないね。今朝メイカー達を運用するのに使った魔力も回復してないし、マジックポーションも買わなきゃね。」
「さ、参加してくれるんですか?」
「当たり前じゃん、最初に言ったでしょ、セラに任せるって。それよりホラ、ぐずぐずしてないで、セラもさっさと準備しなよ。」
「は、はい!」
「終わったら、ギルドに依頼の報告に行こうか。ちょうどギルドから告知があるんじゃないかな?」
アデリーナはタマモに服の入った箱をいくつか持たせ、部屋の扉を開けた。セラも慌てて残った箱を持ち、アデリーナを駆け足で追いかけた。
そしてギルドで報告を終えると、予想通りギルドから緊急依頼が発令されたのだった。