十三話 ランクアップと不穏な話
推敲してないのであとで書き直すかもです
宿については、アデリーナ達が今泊まっているところの期限が来る5日間は別々、終わり次第ルード商会系列の宿に変えて、そこに全員で泊まることにした。
そしてランク上げのために日々依頼をこなしていたアデリーナ達は、現在ルード商会の本店の作業部屋で黙々と服を作成していた。ことの発端は2日前にさかのぼる。
ーー2日前
「はい、出来たわよ。まったく、登録から一週間でランクアップなんてとんでもないわね。2人ともEランクになったから、パーティーランクもEよ。本当だったらこれで半人前脱出って発破かけるところなんだけど、あなた達には必要なさそうね…」
「さっさとDランクまで上がってダンジョンに行きたいからね、急ぎもするよ。」
「あなたの後ろのセラさんは死にそうなほど疲れてるけどね。」
「え?このくらい大丈夫だよね、セラ。」
「…」
「返事が聞こえないなぁ。無言は大丈夫と見做すけど?」
「うぅ、大丈夫です…」
「全然大丈夫そうに見えないんだけど…冗談抜きに少しは休養も取ったほうがいいわよ。討伐系の依頼ばかりじゃ緊張が続いちゃうでしょう?」
「んー…まあそうだね。何か街の中の依頼にしようかな?」
「や、休みはないんですね…」
「じゃあ休みはあの蛇の詳細が分かったらにしよう。」
Eランクにランクアップし、その手続きや今後の予定を決めていたアデリーナ達。そこに後ろから声がかかった。
「街の依頼にするのか?丁度いい、それならば俺様からの依頼を受けてくれ。」
「あれ?ザルドさんじゃん。ランクアップしたよー。」
「何?俺様の記憶が正しければお前が冒険者になったのはたったの一週間前だったはずだが?」
「いいじゃんそんなこと。それで?依頼は何?」
「ああ。実は大口の商談があってだな。学校の制服を作成して欲しいとのことなんだが、量が問題でな。うちの職人だけでは間に合わんかも知れないのだ。アデリーナは人形を自分で作るのだろう?それなら服も作れるかと思ってな。」
「もちろん作れるよ。あ、セラのジョブが針子なんだけど、手伝わせていいよね?」
「おお、それは心強いな。是非お願いしたいが、セラ殿もいいか?相応の報酬は出そう。」
「は、はい!もちろんです!」
「なら、早速だが商会まで来てくれ。型紙はあるから、あとは説明通りに作って貰いたい。あまり時間がないのだ。」
「ほいほい。んで、私達のノルマはいくつなの?」
「まぁ、ざっと200といったところか…」
「200⁈私達の負担多くない?」
「実は職人が何人か怪我をしてしまってな。この間魔獣の森に染料を取りに行ったときに魔物に襲われたらしい。職人達もウルフ程度なら問題ないくらいの手練れなのだが、運悪くウィングリザードに出くわしてしまったらしい。」
ウィングリザードは4足歩行の大きなトカゲのような魔物で、前足に飛膜が付いていて滑空することができる。魔力を活用する魔物で、風の魔術を好んで使い、また身体強化によって素早い動きを実現する、魔獣の森の中層に生息する魔物である。
「そんなに深いところまで行ったの?」
「いや、普段行く浅い場所だったらしいが…まぁそんなわけだ。行くぞ、喋るなら馬車の中にしよう。」
そして現在に至る。説明を受けたアデリーナはメイカー達も総動員して制服を作成しているが、もう2日目が終わるというのにまだ布の入った箱はなくなりそうにない。
「あ″〜終わらない〜」
「結局街の外じゃなくてもハードですね…」
「腕攣りそう…今日はもう終わりにしよう。どうせ夜通しやっても終わらんと思うしね。」
「そうですね…もう集中力も気力も無くなりました…」
アデリーナ達は作業部屋を出た。そのままザルドの執務室に向かい、装飾された扉をノックする。
「アデリーナだよ。入ってもいい?」
「ああ、入れ。どうした?」
「今日はもう帰ろうと思ってね。声をかけにきただけだよ。」
「あとどのくらいで終わりそうだ?」
「セラも針子の本領発揮というのか、服作るの速いんだよね。まぁ明日で終わると思うよ。そのときにまた来るね。」
「あぁ、よろしく頼むぞ。と、そうだった。悪いが明日は報告に来なくていいぞ。実は明日の早朝から出る予定でな。一週間は戻らんと思うから、制服は職人達に渡して、依頼が終わったことはギルドに報告してくれ。」
「ギルドね、分かりましたー」
商会を出て新しい宿に帰ってきたアデリーナ達は、宿の厨房で料理を作っているタマモを見つけた。
「やっほ。ただいま。」
「戻りました。」
「お帰りなさいませ。そろそろ戻られる頃かと思いましたので、夕飯を作っておりました。もう出来上がるので、部屋で待っていてください。」
「うん、お腹すいたし早くしてね。」
「かしこまりましたわ。」
新しい宿になってから、タマモは宿の厨房を借りてご飯を作っている。初めて宿に来た日、厨房を借りて夕飯を作ったところその料理に宿の料理人が驚き、是非料理を参考にしたいと言ってきたので了承したのだ。それから厨房を借りるのにもお金が必要なくなり、むしろ客に出すのを手伝ってお金をもらっていることもある。
料理を完食したアデリーナは、セラが疲れて眠ったのを見計らってタマモに話しかける。アデリーナとタマモはこうして毎日情報を共有している。
「こっちからは何もないよ、1日部屋にこもって服作ってたし。タマモは今日もギルドに行ってきたんだろ?何か新しい情報はあるか?」
「ギルド職員が少し騒がしかったですね。なんでも、最近魔獣の森の浅い場所で、そこに相応しくない魔物が現れているそうで。」
「私達があの大蛇見つけたみたいなことが頻発してるってこと?」
「はい。今日も新人が襲われたらしい、という噂を耳にしました。それに、気になることも聞いています。」
「気になることって?」
「占い師という未来予知系の能力を持つ冒険者が、近いうちに魔獣の森で災いが起こると予知したそうです。その冒険者はイージアへの護衛依頼を受けていたのですが、急遽依頼を破棄して王都へ引き返したそうです。」
「それ、もしかしなくてもアレックスが言ってたやつ?」
「ええ、おそらくは。関連付けて考えている者は少ないようですが、森の浅い場所で強力な魔物が出ていることと間違いなく関係しているでしょう。」
「ああ。その災いが何かは知らないが、面倒ごとじゃなければいいなぁ。…今考えても分からないし、今日はもう寝る。依頼も明日で終わると思うし、それからまた情報を集めないとね。おやすみ。」
災いが本当にあるのか、あるなら内容は何なのか。考えようにも情報が足りず分からないので、今日のところは寝ることにしたアデリーナだった。