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異世界英雄は帰りたい  作者: テト
一章:叛逆の英雄、異世界に飛ぶ
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十二話 期待の新人

難産回です。

 





「これが今月分の金だ。使い道は自由だが、切らしても次の月にならん限りは新しい金は渡さないから注意しろよ。」

「分かってるって。ま、私はともかくとしてセラの装備とか揃えないといけないから、割とすぐに溶けそうだけどねー。」


 依頼達成の報告のためギルドまで送ってもらったアデリーナ達は、ザルドからの忠告を受けていた。


「このカードが証明書代わりだな。これを見せれば大抵の人間には、お前がルード商会の上客だということがわかる。商会の紋様や俺様のサインも書いてあるしな。一応この街の系列店には通知を出すが、もしこれを見せても態度が変わらんようなら俺様に報告しろ。そいつをクビにしてやる。」

「手厳しいねー。」

「当然の処置だ。なにせ商会全体の信用に関わるんだぞ。冒険者プレートの提示くらいはさせられるかもしれんが、それでもまだ見た目で判断するような輩はこの商会には不要だ。」

「なるほど、大きな組織になると末端は把握しきれないからね。この機に排除する腹積もりもあるって訳だ。」

「そういうことだな。」


 どうやらそういった細々したことにもアデリーナは利用されるらしい。ただ、商人ならこれくらい強かでないとダメだ、と思っているアデリーナは満足そうだ。


「何か用事がない限りは月の始めに報告に来い。アデリーナはまだFランクだからな、さっさと経験を積んでランクを上げることだ。ランクが上がれば、支援金や融通できる素材の種類や質を上げることができる。そしてお前が活躍するほど、この商会の評判も良くなる。」

「どっちも幸せってね。」

「くどいかもしれんが、契約を結んだ以上、ルード商会に不利益を被るような事態は起こさんでくれよ。まぁそんなことをすれば、ルード商会から物を買うことは出来なくなると思え。」

「おお、怖い怖い。そんじゃ、またね。」

「ああ。…それと、最後に1つだけ忠告を言っておく。今日俺様がギルドに来たのはタマモ殿、つまり精巧な自動人形が発見されたからなのだが、その情報を掴んでいるのは俺様だけではないだろう。場合によっては、決闘などの正規の手順を踏まずに奪おうとしてくるバカどもがいるかもしれん。タマモ殿もいるしあまり心配はしないが、気をつけるようにな。もっとも、たとえ決闘を仕掛けられても受ける必要はない。お前は既に俺様に決闘で勝っていて、さらに今はルード商会の庇護下にある。受けなくても評判が下がることはないだろうし、カードを身に着けているだけでも、冒険者以外なら決闘を躊躇う程度には効果がある筈だ。そういう意味でも、くれぐれもその証明カードは失くさないようにな。」


 ザルドは最後にアデリーナの首に提げてあるカードを指差して言い、ラディスを連れて馬車を出した。それを見送ったジルベルトは、仕事があるからとギルドの建物に入っていった。アデリーナも、報告に行くために歩きだした。


「私達も行こうか、セラ。」

「はい、でも、納品はあっちの入り口ですよ?」


 アデリーナが正面の入り口からギルドの中に入ろうとするのを見て、アデリーナが今日初めて依頼を受けたことを思い出すセラであった。












 集めた依頼品の納品場所はギルドの裏にある建物の中のようだ。考えてみれば確かに、魔物によっては血の滴る証明部位を受付にドンと置くわけにはいかないだろう。場所が分かれているのも納得である。


 魔道具の光に照らされた室内を進み、いくつかある受付の1つに並んで順番を待つ。商会で打ち合わせを行っている間に大体の冒険者達は来てしまったのか、あまり混雑はしていない。すぐにアデリーナ達の番になり、中年の男性職員の前に向かった。


「白黒の服の兎人…Fランク冒険者のアデリーナさんですね、もう職員の間では噂になってますよ。Fランク冒険者のジャイアントキリングだって。」

「いーねぇ、どんどん噂してよ。そのうちSランクになるからさ。早くSランクダンジョンに行きたいからさ、強いって分かれば許可証も貰えやすくなるじゃない?その為にももっと有名になんないと。」

「あはは、期待してますよ。今日はどのようなご用件で?」

「依頼報告だよ。はい、コレ。」


 アデリーナは依頼用紙を取り出してカウンターに置く。職員の男性は用紙を受け取り内容を確認した。


「えー、フォレストウルフの討伐、Eランクの依頼ですね。3体以上の討伐ですね、では、牙を出して頂けますか?」

「はい、これです。」


 あらかじめ別の袋に入れておいた牙をセラがカウンターの上におく。セラに、マジックバッグを持っていると分かると良からぬ者達に狙われるかもしれないと言われたので、ここで出すものだけ別にしておいたのだ。有名にはなりたいが、つまらないことでちょっかいを出されるのは不愉快なので、少し対策じみたことをしているのである。もっともザルドが言っていたように、タマモが自動人形であることが既に広まっているのなら、そのことで狙われそうではあるが。


「おお、たくさんありますね…合計23本ですね。…23本⁈すごい数ですね、今日だけでこの成果ですか。さすがにBランクのラディスさんに勝つだけはありますね。」

「まあね。あ、でも半分くらいはセラがやったんだよ?いやー、思ったより出来るね、この子。」

「えっ?いや、そんなことないです!アデリーナさんとパーティーを組んでる者としては当然と言いますか、なんと言いますか、」

「そうですか!いやぁ、良かったですねぇセラさん。実は私達ギルド職員も心配していたのですよ。パーティーを組むのを拒否されたり、1人だけ分け前を少なくされたりしているのを見て心苦しく思っていたのですが…ギルド職員から冒険者へ過度な働きかけをするのは推奨されていないので、何も具体的なことが出来ずにいましたが。本当に良かった。戦い方を学べたようですね。これならもう大丈夫でしょう。それに、アデリーナさんもいることですしね。」

「あ、その、ありがとうございます…」


 アデリーナにセラの活躍を聞いた職員は、ホッとしたように語り出した。それを聞いたセラは顔を赤くして俯いている。褒められたことに照れているのと、心配されていたことが嬉しいようだ。


「ほら、褒められたじゃん、良かったね。あ、職員さん。これ買い取ってくれたりする?」


 アデリーナは後ろに控えていたタマモに声をかけ、大きめの袋を出させた。中身を覗いた職員は思わず仰け反る。


「これは…まさか、スニークボアですか?頭だけですが、大きいですね…この大きさの毒牙なら、結構な額で売れますよ。」

「あ、体もあるよ。タマモ、持ってきて。」

「承りましたわ。」


 タマモは外に出て台車を引いてくる。その上には一部ぶつ切りになったスニークボアの大きな体が乗っていた。


「こいつ、風魔術使ってきたんだけど、普通はそんなことないの?セラが変異種だとかいってたけど。」

「それは本当ですか?…このスニークボアなのですが、一旦こちらで預かっても宜しいですか?精査したいのですが。」

「いいよ。ただし、もしも適正な額で取引されないとかいうことになったら…」


 アデリーナは首にかかっているルード商会のカードをちらりと見せる。


「ま、いろいろあるかもね。」

「このギルドにそんな命知らずな職員はいませんよ、おそらく。」

「そう?」

「ええ。ではこの依頼は達成ということでサインしておきましたので、ギルド受付にて報酬をお受け取りください。スニークボアの精査の結果については後日こちらから報告致します。」

「ありがと。セラ、行こう。」








 サインされた依頼用紙を受け取り、ギルド本部に戻ったアデリーナ達。受付に行くと、今朝見かけた職員がいたので声をかける。


「やっ、おねーさん。今朝ぶり。」

「あ、戻ってきた!どうやら無事みたいね。…あのねぇ、そんな何事もなかったような顔して…あなたが決闘するって、しかも相手はBランク冒険者。どれだけ心配したと思ってるの‼︎」

「心配してくれたの?いやー嬉しいね。」

「茶化さないっ!」

「あー、ゴメンね心配かけたみたいで。まぁ何も怪我とかないから大丈夫だよ。」

「知ってるわよ、支部長に全部聞いたわ…それで、ここに来たのは依頼の報告かしら?」

「そ。はいこれ。」

「あ、わたしのもお願いします…」


 アデリーナとセラはそれぞれのプレートと、依頼用紙を受付に置く。職員の女性はそれを受け取って奥に入っていった。少しして受付まで戻ってきた職員は、呆れ顔でアデリーナを見る。


「初めてのフォレストウルフ討伐依頼で、討伐数23体…まぁあのラディスに勝ったのならあり得なくない数字だけど…Fランク冒険者としてはあり得ないわね。はい、プレートと、これが報酬の銀貨18枚に銅貨4枚ね。…この分だとFランクなんてすぐに上がりそうだわ、恐ろしい。」

「褒め言葉だね。それじゃ、私達は行くね。」

「はいはい、せいぜいゆっくり休みなさい。」


 職員はどっと疲れたようにカウンターに突っ伏して言う。それを見たアデリーナは苦笑してギルドを後にした。









「あの、今日はありがとうございます。報酬、半分も貰ってしまっていいんですか?」

「もちろん。それはセラの働きに対する正当な報酬だからね。」


 遠慮気味のセラに対し、アデリーナはきっぱりと言った。


「それに、もし今回の報酬に負い目があるのなら、これからの働きで挽回してよ!ギルド職員じゃないけど、期待してるよ?」

「これからも、パーティーを組んでくれるんですか?」

「あったりまえじゃん!」


 セラはそれを聞いて思わず目尻に涙が浮かぶ。アデリーナの言葉には一切の負の感情が無く、ストレートに自分が必要とされているのだということがはっきり分かるからだ。


「っはい!明日からも、宜しくお願いします!わたし、もっと頑張ります!タマモさんも、よろしくお願いします!」

「ふふ、よろしくね。明日は朝の2回目の鐘がなる頃にギルド前に集合ね。」

「お嬢様が選ばれた方です。もともと何の心配もしておりませんわ。」


 アデリーナはそれじゃ、と言い、タマモと共にセラに背を向けた。セラはその背中を見て、もっと頑張ってあの背中に追いつくのだと決意したのだった。










「やっぱり同じ宿に泊まらない?集合とか面倒だし。」


 決意から少し。セラが宿に戻ろうとアデリーナ達が歩いていった方向に背を向け、歩き出すとアデリーナに声をかけられた。


 なぜか終わりが締まらないアデリーナだった。

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