九話 結果の見えた決闘
遅れてすみません
さすがに帰り道まで何かに遭遇することはなく、ギルドまで戻ってきたアデリーナとセラ。
「じゃあ報酬はとりあえず山分けで、蛇の分だけ私が貰うね。ほかの素材に関しては、半分だけ売ってあとはグラちゃんの中にしまっておくから、また今度それで人形でも作って貰うね。」
「でもわたし、人形なんて作ったことないですよ?」
「それはそのときにまた教えるから。今日は精算して解散にしよう。」
アデリーナ達がギルドに入ると、冒険者受付の前で3人の男女が口論しているのが目に入った。しかも女性はとても見覚えのある姿、ぶっちゃけて言えばタマモだった。口論に見えたが騒いでいるのは男性の片方だけで、タマモは完全に無視している。近づくと、タマモはアデリーナ達に気づいた。
「お帰りなさいませ、お嬢様、セラ様。依頼はいかがでしたか?」
「‼︎っ、キサマ、自動人形の分際でこの俺様を無視するのか!」
「ただいまタマモ。問題ないね、楽勝だったよ。セラも思ったより動けるし、初依頼としてはいい感じだね。今から精算してくるから、詳しい話は後にしよう。」
「承知致しました。」
「あの、アデリーナさん…?いいのかな…」
タマモが無視しているので、アデリーナも相手にする必要がないと考えたようだ。したがって、会話している間もうるさく話しかけてくる男に関心を持ったのはセラだけとなった。
「お前がこの人形の主人か?ちょうどいい、人形では話にならんからな。おい、お前。この人形を俺様によこせ。光栄に思えよ、将来ルード商会を継ぐことになるこの俺様に献上できるんだからな。金は払ってやる、幾らだ。」
「おいタマモ、なんだコイツ。お前に用があると思って放置してたのに、急にこっちに話振ってきたぞ。こいつに何言ったんだ。」
「どうやら何処からか私が自動人形であることを聞きつけてきたようです。先ほど資料室を出て1階に降りてきたら、突然話しかけられた次第にございます。私にはお嬢様という主人がいる、ということを伝えたところ、関係ないと怒り始めて、現在まで怒鳴っておられました。」
「あっそう。…聞いてた?オジサン、タマモには私っていう主がいるからさ、諦めてよ。さすがに人のもの奪うのは犯罪でしょ?」
「俺様はまだ28だ、オジサンと言われる歳じゃねえ!はっ、もういい、こうなったら決闘だ!おい、ガキ。お前に決闘を申し込んでやる。」
「セラ、決闘ってなに」
「なんで知らないんですか…決闘は、お互いに欲しいものをかけて戦い合うという、法律で定められた賭けの一種です。決闘は代理人が行うことも可能ですが、そのときの審判に、両者に力の差がありすぎると判断された場合、強いほうにペナルティが課されることもあります。」
「まぁ隣にいる男にやらせるつもりだろうねぇ、本人があの真ん丸体型じゃ動けないだろうし。断れるの?」
「一応断ることもできますが、これは特に冒険者の場合なんですけど、評判が悪くなります。今回はあちらがペナルティを課される側だと思うのでそこまでではないと思いますが、やはり多少は…」
「はぁ…で?そっちは何を賭けてくれるのかな?当然自動人形に匹敵する何かだよね?それとも、こっちが指定していいのかな。」
「ふん、万一にもないだろうがな。いいだろう、もしキサマが勝ったのなら、この王国に名を轟かすこのルード商会が、これから先キサマに便宜を図ることを約束してやろう。」
「ルード商会ってどうなの、セラ。」
「とっても大きな商会ですよ。西のルード商会、東のレスト商会と言って、王国を二分する商会の1つです。」
「へー。じゃ、それでいいよ。」
「ならばさっさと始めるぞ。」
決闘はギルドの隣の訓練場で行われるようだ。急な決闘だったので、審判は支部長が行うことになった。
「今回の審判を務める、ここの支部長のジルベルトだ。さっそくルール説明をさせてもらう。どちらかが戦闘不能になる、降参する、もしくは審判である俺に致命的な寸止めだったと判断された時点で勝敗が決まることになる。」
「ながーい。まだー?」
「法で決まっていることだからな、書かれている通りに話させてくれ。それぞれが勝利したときに得られるものは、ザルド殿は自動人形であるタマモ、アデリーナはこれから先、ルード商会の最高クラスの援助を得られる、ということで異論はないな?」
「ないよー」
「此方も無い。」
「では、決闘を実際に行う者を指定してもらう。まず、ザルド殿から指定して頂きたい。」
「俺様はラディスを指定する。」
「Bランク冒険者、炎剣のラディスで間違いないな?」
「おう。悪いねお嬢ちゃん、これも依頼の内なんだ。手加減はできねぇぜ。」
「いーよ別に、勝つし。」
「アデリーナは誰を指定する?」
「これって私がタマモを指定するのはアリなの?」
「詳しく書かれていないから断定は出来ないが…おそらく駄目だろう。自動人形はあくまで"物"だからな。人同士の決闘に指定するのは不適当だろう。」
「じゃあ、私が人形を使って戦うのは?」
「それは大丈夫だろう。君のジョブは人形使い、人形を使って戦うことに問題は無い。」
「それなら、私は自分で戦うよ。」
「そうか。ではハンデの話をする。戦う当人同士の差によって決まるが、今回の決闘ではどちらも冒険者だ。ランク差でのハンデの指標があるので、それに従わせてもらう。ランクはFとB、よってラディスには自分の武器の使用不可、というハンデで決闘を行ってもらう。何か異存は?」
「いや、ない。」
「私もないよー。」
どうやら大体の打ち合わせは終わったようで、場に緊張感が漂い始める。もっともアデリーナはいつも通りで、フードで見えない表情の、唯一見える口元がニヤついている。
1番緊張しているのはセラで、ピリピリとした空気に耐え切れなかったのか、タマモに話しかけた。
「あの、自分の武器を使えないって、ハンデになるんですか?」
「ええ、相当なハンデですね。戦う人間というのは、使う武器にとても力を入れます。それは強い者であるほど顕著です。自分の命を預ける訳ですからね。それに、あのラディスという冒険者は、炎剣と呼ばれていました。という事は、剣に炎を纏うか、それに近い戦法をとるのでしょう。ラディスの普段使う剣には、それに耐えられる機構が備わっていると考えられます。ですから、その技は普通の剣では使えなくなってしまうはずです。少なくとも、今手渡された凡庸な剣では確実に無理でしょうね。なので、ラディスは剣の実力のみでお嬢様と戦うことになるのです。」
「ほへー…今の会話からそんな事が…あ、でも、それでもまだアデリーナさんが不利ですよね。」
「お嬢様が普通の冒険者ならの話ですがね。」
「あ、パッチー…」
「ああ、パッチーに会ったのですか?」
「はい、私の護衛にって。見かけによらずとっても強かったです。」
「パッチーに近距離戦で優勢になるには、相当な実力がないと無理でしょうね。技能が使えるならまだしも、あのハンデでは難しいでしょうね。」
「タマモさんはアデリーナさんが勝つと思ってますか?」
「無論。私はお嬢様の従者なのですから。」
「両者は位置につくように。…準備はいいか?それでは……始め‼︎」