第2話 かあちゃを探しに魔の山へ(1)
それは、数日が経過したある日のことです。この日も、相変わらず夏の厳しい暑さが続いています。
そんな中、誰もいない山道を水の入った桶を持ちながら歩いている柿五郎の姿がありました。
「よいしょ、よいしょ」
柿五郎は、いつものように近くの川から水を汲むと、すぐに家のほうへ戻っていきました。まだ数え年で5歳の柿五郎にとって、両手で水汲み桶を1つずつ持ちながら、水をこぼさずに運ぶのは容易なことではありません。
「かあちゃ、水を汲んできたよ!」
「柿五郎くん、いつもありがとうね」
柿五郎は、お母さんがいる家の軒下へ水を汲んだ桶を置きました。お母さんは、早速たらいで洗濯するために水を入れました。
柿五郎とお母さんが暮らしているのは、山奥でぽつんと存在する稲わら屋根で土壁で作られた小さい農家です。この農家の周りには何も建物がなく、他の人間もここに入った形跡は見当たりません。
この家で食べる野菜や魚も、洗濯や料理に使う水や薪も、必要なものはほぼ全て自給自足でまかなっています。柿五郎はどんなに家が貧しくても、いつもやさしいお母さんがいることが何よりも幸せなのです。