第10話 火の玉妖怪ヒダルマと柿五郎くん(4)
「柿五郎くん、ヒダルマは坂道をそのまま通り過ぎたよ」
「よかった……。ここから降りてもいいかな?」
「ヒダルマがここへ戻るかもしれないから、もうちょっと待ったほうがいいよ」
ヒダルマが上り坂を転がりながら通過しても、柿五郎が大きな木から降りると再び戻ってくる可能性は十分にあり得ます。座敷童子も、さっきと同じような判断ミスを繰り返すわけにはいきません。
柿五郎は、左右にある大きな枝の付け根を両手で持ちながら、大きな幹に両足をしがみついている状態が続いています。短時間ならともかく、長時間にわたって同じ姿勢だと手足がしびれてそのまま落下してしまいます。
柿五郎は大きな木から落下しないように、お腹に力を入れながらそのまましがみ続けています。しかし、お腹に力を入れすぎたのか、柿五郎はお尻から元気な音を響かせました。
「プウウッ! ププウウウウウウ~ッ! ププウウウウウウ~ッ!」
「あっ、柿五郎くんったら、でっかくて元気なおならが出ちゃったね」
「えへへ、お腹に力を入れちゃっておならがいっぱい出ちゃった」
柿五郎が元気なおならが出るのは、普段から好き嫌いなく何でも食べているおかげです。おならがいっぱい出ちゃっても、柿五郎は照れた顔つきで満面の笑顔を見せています。
そのとき、ある羽音が柿五郎の耳元にかすかに聞こえてきました。それは、聞き覚えのある鳴き声とともに次第に柿五郎に近づいてきました。
「うわああっ! うわわああっ! こっちにこないでよ! こないでよ!」
柿五郎に襲ってきたのは、この大きな木を縄張りとするカラスの大群です。柿五郎はカラスを手で払いのけようとしますが、あまりの大群にどうすることもできません。
「わわわっ! あっ、わわわああっ!」
柿五郎はカラスたちに突かれると、そのはずみで手足を離してしまいました。そして、柿五郎はそのまま地面に落下しました。
「いてててて……。わわわっ、こないでよ! こないでよ!」
地面に落下した柿五郎は上半身を起こそうとすると、大きな木の真上からカラスの大群が次々と飛び掛かりました。




