第10話 火の玉妖怪ヒダルマと柿五郎くん(1)
「柿五郎くん、ようやく魔の山への坂道に戻ることができたね」
「トウマワリによって赤ちゃん姿になったりもしたけど、元の姿に戻って本当によかったよ!」
柿五郎と座敷童子は、合流点へ戻ると再び魔の山の坂道のほうへ入りました。柿五郎は、赤ちゃん姿から元の姿に戻ったことに一安心しています。
すると、座敷童子が隣にいる柿五郎の腹掛けを見ています。柿五郎の腹掛けには、カラスの大群に追いかけられた途中でおもらしの大失敗でぬれています。
「トウマワリをやっつけたのはいいけど、カラスの大群を恐がって最後はおもらしの大失敗をしちゃったね」
「だって、いきなり襲ってくるし、おしっこがもうガマンできなかったんだもん……」
柿五郎は、自分が赤ちゃん姿だった時におついのおっぱいをたくさん飲んでいました。どうやら、それがおしっこをガマンできずにおもらしの大失敗をしてしまった原因のようです。
照れた表情でモジモジしている柿五郎ですが、おもらしでぬれちゃった腹掛けは柿五郎が元気な子供であるシンボルでもあります。
「柿五郎くんがどんなに大失敗しちゃっても、ぼくは全然気にしないからね」
「えへへ、この腹掛けもそのうち乾くからね」
柿五郎がいつも大失敗するというのは、座敷童子もすでに知っていることです。でも、子供がおねしょやおもらしの大失敗をするのは当たり前のことなので、座敷童子はいつも笑顔で柿五郎に接しています。柿五郎も、そんな座敷童子のやさしさに再び元気な笑顔を取り戻しました。
しかし、柿五郎たちがしばらく坂道を歩いていると、急に猛烈な暑さに見舞われました。深い森の中では夏のものすごい暑い時期であっても、ある程度暑さが和らぐはずです。
それにもかかわらず、柿五郎たちは歩けば歩くほど暑さが増してきます。しかも、その暑さは尋常なものではありません。
「柿五郎くん、急に暑くなってきたけどどうしてかな?」
「森の中なのに、どうしてこんなに暑いの……」
柿五郎たちは深い森の中にいるにもかかわらず、顔や体に汗がにじみ出るほどの暑さに見舞われています。すると、2人の前にまるで火に包まれた丸っこい岩石のようなものが現れました。
「も、もしかして……。こんなに暑いのはこういうことだったの……」
「ぐふふふふ! 妖怪ヒダルマがいる限り、この先は通すわけにはいかないぜ」
柿五郎は目の前にいるヒダルマの怪しげな目を見た途端、ここから逃げ出したほどの恐怖で足元が震えています。ヒダルマは、そんな柿五郎が恐がっている様子を見透かしながら、不気味な笑い声を森の中に響かせました。




