第9話 妖怪トウマワリ再び現わる(6)
「えいっ! えいっ! えいっ!」
「いててててっ、いててててててっ……」
トウマワリは、自らの鋭い爪がそのまま柿五郎によって押さえつけられるたびに、ガマンできないほどの強烈な痛みが次々と襲ってきました。
そのとき、トウマワリがいきなり光に包まれるとそのまま体が次第に小さくなってきました。
「うわっ! トウマワリが本当に赤ちゃんになっちゃったぞ」
柿五郎の目の前には、赤ちゃんになって仰向けになっているトウマワリの姿がありました。トウマワリは赤ちゃん姿になったこともあり、自分の意思を柿五郎に向かって言葉で伝えることができません。
「うええええええ~んっ! うええええええええ~んっ! うえええええええええ~んっ!」
トウマワリは、柿五郎に対して大声を出して激しく泣き叫びました。それは、柿五郎に対する恨みつらみを激しい泣き声という形で伝えようとしている雰囲気がそこにありました。
「柿五郎くん、見事にトウマワリをやっつけることができたね」
「えへへ、おしっこやうんちの大失敗をしないでやっつけたのはこれが初めてだよ」
柿五郎がこれまで妖怪や幽霊をやっつけたときには、必ずといっていいほどおしっこやうんちの大失敗をしていました。でも、今回はそのような大失敗をしないでも初めてやっつけました。
これで、柿五郎もこれだけの力があれば、妖怪をやっつけることに自信がつくはずです。しかし、最後の最後で柿五郎は急に腹掛けの下を押さえ始めました。
「お、おしっこが、おしっこがガマンできない……」
「柿五郎くん、少し行ったところに大きな木があるからそこへ行ったほうがいいよ」
柿五郎はおしっこがもれそうになったので、急いでおしっこをする場所を探しています。すると、座敷童子はおしっこをするのにぴったりの大きな木を見つけたと柿五郎に伝えました。
「もうガマンできない、ガマンできない……」
柿五郎は大きな木を見つけると、腹掛けの下を押さえたままでその場所へ行きました。ところが、そこには柿五郎やトウマワリに襲いかかったあの黒い鳥が待ち構えています。
そして、柿五郎が大きな木のところでおしっこをしようとしたときのことです。
「カァ~! カァ~! バサバサバサッ!」「カァ~! カァ~! カァ~! バサバサバサッ!」
「わわっ! わわわっ! やめて、やめて! ぼくはおしっこをしようと……」
カラスの大群は、おしっこをする寸前だった柿五郎に次々と襲ってきました。カラスによる襲撃に、柿五郎はあわてて大きな木から逃げ出しました。しかし、カラスから逃げようとする途中で、柿五郎はついにおしっこのガマンができなくなってしまいました。
「ジョジョジョ~ッ、ジョパジョパッ、ジョジョジョ~ッ、ジョジョジョ~ッ」
「カァ~! カァ~! カァ~! カァ~! バサバサバサバサッ! バサバサバサバサッ!」
「頼むからこないで! お、おしっこをもらしてしまったよ~」
柿五郎は、押さえ続けている腹掛けの下からおしっこをもらしてしまいました。その間にも、カラスの大群が柿五郎に襲いかかってきます。柿五郎はおしっこをもらしながら、カラスの大群から逃げ続けるように魔の山の坂道への合流点へ向かって戻っていきました。
そして、柿五郎が通った山道には、柿五郎が進んだ道に沿っておもらしをしちゃった跡がくっきりと残っていました。それは、柿五郎が最後の最後で大失敗してしまった立派な証拠といえるものです。




