第5話 トウセン坊の挟み撃ち(2)
「うんちがしたいけど……。しばらくガマンしなくちゃ」
魔の山の坂道を上がり始めた柿五郎ですが、その表情は少し苦しそうに見えます。うんちが出るのをガマンしているのか、柿五郎は左手で自分のお尻を押さえながら歩いています。
「柿五郎くん、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だもん! かあちゃを探すためだったら、うんちぐらいガマンできるぞ!」
柿五郎は座敷童子から大丈夫かどうか聞かれても、この程度のことならガマンできると強がりながら言いました。しかし、あれだけ強がりなことを言っても、柿五郎は左手でお尻を押さえるのをやめることはありません。
坂道は深い森の中を通るので、せり出してくる木立が柿五郎たちの行く手を阻みます。しかも、森の中に現れるのは、何も妖怪や幽霊だけではありません。
「カァ~! カァ~! カァ~!」「カァ~! カァ~! カァ~! バサバサバサバサッ!」
「わわわっ! お化けが出たああっ!」
柿五郎の近くの木々からは、カラスの甲高い鳴き声や羽音が聞こえてきました。柿五郎は、そのカラスの鳴き声があまりにも不気味であり、今にもここから逃げ出したいほどの恐ろしさを感じました。
「柿五郎くん、あれはカラスという鳥だよ。妖怪じゃないから心配しなくてもいいのに」
「あの鳴き声はカラスだったんだ……。よかった……」
座敷童子がその鳴き声はカラスの鳴き声と言うと、柿五郎もこれを聞いてホッと一安心しました。
しかし、坂道を歩けば歩くほど、深い森特有の不気味さが一層増してきます。柿五郎は、いつ妖怪が現れてもおかしくない状況に再び足が震え出しました。
「お、お化けが出てきそう……。でも、ここを通らないとかあちゃに会えないし……」
「ぼくもいっしょにいるから、柿五郎くんもこの坂道を歩こうよ」
柿五郎は、足を震えながらもお母さんに早く会うために再び歩を進めることになりました。座敷童子も、柿五郎を励ましながらいっしょについて行きました。
しかし、そのときのことです。柿五郎たちの目の前に怪しい人影が現れました。
「ぐふふふふ! こんな深い森の中を通る小さい子はだれかなあ?」
「わあっ! わわあっ! 妖怪が出たああっ!」
怪しい人影の不気味な声に、柿五郎はあまりの恐さに両足を震えながら大きな叫び声を上げました。柿五郎たちの目の前には外見は人間に似ていますが、肌色は緑色で手足はカエルにそっくりの妖怪が現れました。
「わしの名前はトウセン坊と言うんじゃ。お前さんはお尻をずっと押さえているようだが、そんな格好で大丈夫なのかなあ? ぐふふふふ!」
「ギュルルル、ギュルギュルゴロゴロゴロッ~」
「うっ、うんちが……」
トウセン坊は、すぐに柿五郎が左手でお尻を押さえているのを見抜きました。どうやら、トウセン坊は柿五郎がうんちをしたがっているのではとすぐに感じました。
そして、柿五郎は目の前にいるトウセン坊の恐ろしい姿を見た途端、顔に汗を浮かべるほどの苦しい表情になりました。柿五郎はあまりの恐ろしさにお腹が痛くなるとともに、再びうんちがしたくなってきました。




