第4話 あばら家とおねしょ幽霊(9)
とにもかくにも、柿五郎はおしっこが出てすっきりしたので、再び板の間へ上がるとおねしょしたお布団とは別の布団に入ろうとしました。
すると、寝間から何やらガタガタと音が聞こえてきました。柿五郎は、まだお化けがいるかもしれないと震えています。
「もう絶対にお化けが出ませんように……」
柿五郎は妖怪が出てこないことを祈りながら、寝間の引戸に手をかけました。すると、柿五郎の前で寝間の引戸が自然と開くと、そこにはおしずらしき姿が現れました。
「夜中に騒いでごめんなさい!」
柿五郎はおねしょ幽霊に捕まったときに大声で叫んだので、おしずを起こしたと思ったそうです。柿五郎は、おしずの目の前で頭を下げて謝りました。
「柿五郎くん、そんなに頭を下げて謝らなくても大丈夫だよ」
おしずのやさしい声を聞いて、柿五郎は安心して顔を再び上げました。しかし、柿五郎がおしずらしき姿を見たそのときです。
「うわああっ! わわわわっ! のっぺらぼうだ!」
柿五郎がおしずの顔を見ると、その顔には目も鼻も口も全く無いのっぺらぼうになっていました。そして、のっぺらぼうの周囲には人魂が2つも現れました。これを見た柿五郎は、すぐに板の間のお布団の中に潜り込みました。
柿五郎は潜り込んだお布団の中で、次々と現れた幽霊や妖怪に震えながらそのまま眠りにつきました。
次の日の朝になりました。森の中にあるあばら家にも、太陽の光が入ってきました。
「柿五郎くん、柿五郎くん、朝になりましたよ」
「……その声は、もしかしてのっぺらぼう?」
おしずは、布団の中に潜ったまま寝ている柿五郎を起こしにやってきました。しかし、柿五郎はおしずの声が聞こえても、夜中に見たのっぺらぼうの顔を思い出しただけで恐がっています。
布団に潜り込んだまま出ようとしない柿五郎を起こすために、おしずは掛け布団を強くめくりました。そこには、妖怪が恐くて丸くなっている柿五郎の姿がありました。
「のっぺらぼうじゃないんだ。よかった……」
柿五郎は、自分を起こすためにやってきたおしずの顔を見て、のっぺらぼうではないことに気づいてホッとしました。これには、おしずも戸惑っている様子です。
「柿五郎くん、私の顔を見るなりどうしたの?」
「だって、夜中にのっぺらぼうが出てきたんだもん……」
「もしかして、柿五郎くんは今日もお化けの夢を見てしまったのかな?」
柿五郎は夜中にのっぺらぼうが出たとモジモジしながら言いました。すると、おしずはすぐに柿五郎が恐い夢を見たときにのっぺらぼうに遭遇したのではと感じました。
そして、柿五郎が恐い夢を見てしまった立派な証拠をおしずが見つけました。
「ふふふ、柿五郎くんはおねしょを夜中に2連発してしまったね」
「えへへ、夢の中で人魂とおねしょ幽霊におしっこを命中させちゃった」
おしずは、柿五郎のお布団と腹掛けにでっかいおねしょをしているのを見つけました。さらに、もう1つのお布団にもでっかいおねしょが描かれています。柿五郎は毎日のようにおねしょをやってしまいますが、今日は久しぶりに夜中におねしょを2回続けて大失敗してしまいました。




