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〈エピローグ〉~二人で見る未来~

〈エピローグ〉~二人で見る未来~


「おはよう、矢神君」

 朝起きると、矢神の眼前にはまりやの小さな顔が迫っていた。

 あまりの近さにこれは夢なんじゃないかと矢神は疑うが、残念ながらそんなことはない。

「おはよう、次萩」

 ジリジリと体をずらし少し離れたとこで矢神は体を起こす。

 事件も収束し、普段の生活リズムを取り戻そうとしたところで、この起こし方だ。健全な高校生である矢神としてはいやでも心臓の鼓動が早くなってしまう。

 そんな矢神の気持ちなどいざ知らず、まりやはプクッと頬を膨らませ、口を尖らせている。

 なんだかずいぶん感情の機微が明確になってきた

「なんだよ、なにか不満でもあるのか?」

 休みの日とはいえ少し長く寝すぎたのだろうか。ぼんやりとした意識の中で枕の脇に置いてあるスマホを手に取り、時間を確認する。

「十一時半……まぁ確かに寝すぎかもな」

 二人は互いに三メートル以上離れることが出来ない。一人が寝ていると、もう一人は待つしかないのだ。

「悪かったよ、すぐ飯作るから、少し待っててくれ」

 大きな欠伸をしながら、矢神は部屋を出る。そしてその後ろをまりやがついていく。

 矢神は冷蔵庫から材料を取り出し、調理を開始する。

 元々それほど凝った料理を作るつもりはないし、まりやの手伝いもあったので、朝食という名の昼食はすぐに出来上がった。

「ねぇ矢神君、相談があるんだけど」

 矢神がぼんやりと味噌汁を啜っていると、まりやがおずおずと口を開いた。

「どうしたよ? 次は何をすればいいんだ?」

 皮剥人と同調者という性質上、片方が勝手に動く事は出来ない。二人は何をするにも一緒じゃなければいけないのだ。

「私のお母さんなら、あの懐中時計に似た物、つまりあれと同じタイプのアイテムを造れると思うんだ」

「でもお前の母親って今何処にいるのか分からないんだろ……えっと、つまり」

「うん、私と一緒に、お母さんを探してほしいの」

「手掛かりは?」

 矢神の質問にまりやはフルフルと首を振った。

 矢神は箸を置き、片手で頭を抱える。

「いつまでも矢神君に甘えるわけにもいかないから。お願い」

 次萩まりやはやるといったら出来るまでやる女だ。約一ヶ月の付き合いで矢神はそれが痛いほど身に染みた。

 悲しいかな、矢神には拒否権など存在しなかった。

「分かったよ。協力する。お前のため、そして僕のためだ。やろうじゃないか。綱渡りの日常も今となっては悪くないけど、そこから脱却するのも、悪くないだろ」

「ありがとう、嬉しい」

 出会った時には想像も出来なかった自然な笑顔を見せる。

 そして矢神はその笑顔を見て、思わず目を逸らす。

『表情豊かになったのはいいことだけど、これはこれで困るな』

 気恥ずかしく思いながらも、矢神は急いで食事を終わらせた。

「そういえば、矢神君」

 さっそく母親の情報を集めるため、出掛ける準備をしていると、先に準備を終えたまりやが矢神を見下ろしながら声をかけてきた。

「私は別に、矢神君が寝過ごしたから怒ってるわけじゃないよ」

 急に話を蒸し返され、矢神は首を傾げる。

「じゃあ、なんであんな膨れてたんだよ」

 準備を終え、家を出て鍵をかける。

「それはねぇ」

 まりやは紫が混じった瞳を輝かせながら、金と黒の髪をたなびかせる。

「矢神君が、あの時以来、一度も私のことをまりやって呼んでくれないからだよ」

 矢神の横を歩く次萩まりやは、単純な事で機嫌を損ねる、あまりにも普通で、幸福な少女だった。

                                     了


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