七話
この世界に来てから、もう四週間か。短いもんだな。
来栖が振り返ると、レイラック村の顔馴染みが手を振っていた。この村に来てから三週間もの間お世話になった仲で、来栖を寂しさを感じながらも頼葉と共に歩き出す。
「当初の目的は果たせたけど、これからどうする?」
目的、と言っても来栖はナイフ術、頼葉は体術を会得するために来たため特に決まった終わりはないが、二人は一区切りついたので旅を再開する。
「そう、だな。特には考えていないが、一度王都に戻って情報を集めないか?」
王都か。人が多いと情報も自然と集まってくるし、適所だな。
「いいよ。ところで今はどこに向かってんの?」
なんとなくライについて行ってるから、行き先を知らねえ。
「ん? 知らなかったのか、王都だ」
結局、最初っから王都に行くつもりだったんですね、はい。
会話が途切れた二人はしばらくの間、黙々と歩き続ける。そんな折、来栖がある事を思い出す。
「なぁ、ライ。忘れてたけど、俺ら、お互いのステータス確認してなくね?」
俺はどのくらいライが成長したのかがわからない。俺より上なのか下なのか。いや、根本的なステータスからして俺の方が上だから負けている事はないと思うんだけどな。
「‥‥そうだな。開示」
頼葉は右手を前に出し、ステータスプレートを来栖に見えやすいように出す。余談だが、来栖と頼葉はレイラック村滞在中に修行の合間を縫って閲覧と拒否の練度を高めていた。
橘 頼葉
年齢・・・・・・18歳
ギルドランク・・・・F
職業・・・・・・魔法使い
レベル27
力・・・・64
耐久・・・88
魔力・・・243
精神力・・・135
敏捷・・・98
スキル 炎弾
称号 異世界からの来訪者、無謀者
「相当上がったな。力の伸びはイマイチだけど、敏捷と耐久はかなりいいな」
これなら普通に前衛やれるな。
「そう言う来栖はどうなんだ?」
あ、やっぱりそうなる? しょうがないな〜
「開示」
真風 来栖
年齢・・・・・・17歳
ギルドランク・・・・F
職業・・・・・・盗賊
レベル29
力・・・・176
耐久・・・111
魔力・・・46
精神力・・・59
敏捷・・・287
スキル 盗む、ナイフ投げ
称号 異世界からの来訪者、無謀者
「相変わらず敏捷が異様に高いな。力、耐久、敏捷がバランスよく伸びてるんじゃないか。魔力と精神力がネックだな」
随分と的確な指摘だな。
「魔力とか低くても問題なくね?」
俺は物理攻撃のみ。魔法なんて使えない。
「いや、後々魔力が必要なスキルが出てくると思うが‥‥」
あー、その可能性は高いな。かと言って‥‥
「どうやって上げればいいんだ?」
力なら筋トレ、敏捷なら走り込みの様に鍛える方法が明確なら来栖も上げる余地があるのだが、魔力の鍛え方は来栖にはとても想像がつかなかった。
「魔力‥‥魔法を使えばいいんじゃないか」
魔法‥‥あぁ、ファンタジーを感じる。異世界に来てわざわざ武術のみとか虚し過ぎだろ。
「でも、俺、魔法使えないからな〜」
「そうでもない。さっきの開示だって、拒否だって魔法の一種だ。まぁ、俗に言う後天性スキルってやつだがな」
スキルには二種類ある。先天性スキルと後天性スキル。文字通り、先天性スキルはレベルが上がるなどした際に得るもので、人によって差はあるが職業ごとにある程度得るスキルは決まっている。対して、後天性スキルは修練によってのみ得る事ができ、誰でも習得する事が出来る。この二つの大きな違いは先天性はステータスプレートに載るが、後天性は載らない事だろう。
「そうだな〜、せっかくだし、落ち着いたら魔法でも覚えようかな」
空とか飛んでみたいし、今度やるだけやってみようかな。
「それは厳しいと思うぞ。後天性スキルは補正がかからないからその分効果も低い。ただでさえ高位の浮遊魔法は難易度が高すぎだ」
えっ? 何それ、知らなかった。
「そうかもな〜。でもさぁ、ロマン的なものは大切にしときたいじゃん」
来栖はあたかも知っていたかの様に振る舞い、頼葉を誤魔化す。
「‥‥なぁ」
来栖の横を歩いていた頼葉が突然、足を止める。
「どうした?」
来栖は頼葉の表情から深刻な事であると察し、腰にあるミスリルナイフに手をかける。
敵‥‥か?
来栖は一望するが、草原が広がるのみだった。
「クルス、遠くで誰かが戦ってる」
頼葉はそう言うとある一方向に視線を送る。
「なんでわかった?」
見える限り人影は見えず、とてもじゃないが戦闘の気配は感じられなかった。
「魔力を感じた」
あぁ、魔力の扱いに長けた者は魔力を検知出来るらしいな。
「それがどうかしたのか? 魔法を使った戦闘なんて変な事じゃないだろ」
少なくともライは他人を助ける、 とかで動くタイプじゃないし、気にする事ないだろ。
来栖は動かない頼葉を放置して歩き出す。
「いや‥‥かなりの強い魔物がいる。多分、レベルも五十以上はあると思う」
来栖の動きがぴたっと止まる。
「そう言う事はさっさと言えよ。よし、さっさと行くぞ」
頼葉は来栖を先導しながら魔力を感じた場所へと向かう。来栖は頼葉の後ろを走りながらも、自分の装備を確認する。
今の所持数は確か‥‥リュックに二十本。腰袋に十本だったか。この様子だとリュックからナイフを出す暇はなさそうだし、十本でどうにかするしかなさそうだな。
「クルス!!」
頼葉の一声で思考を切り替えた来栖は前方に視線を向ける。そこには人が一人、十匹近くの狼に襲われていた。
「チィ」
来栖は足に込める力を強めると、頼葉を置いて襲われている人に向かう。近づくにつれてわかってきたが、襲われている人は弓を持ち狼達とどうにか渡り合っていた。
持ちこたえてはいるが、結構やばそうだ。距離は五十メートルってとこか。
来栖は走りながら、腰袋から両手に一本ずつナイフを出す。三秒程走ると、狼達に後ろからナイフを投げる。狼達は来栖が乱入して来た事に意識が向いている間に、二体の狼にナイフが突き刺さった。
来栖は走る速度を緩めず、狼達の間を突っ切ると襲われている人をかばう様、前に立ちナイフを構える。
ここはライが来るまでは守りに徹するか。
「大丈夫か?」
来栖は助けた相手に一瞥もくれる事はなく訊く。しかし、返ってきた言葉は来栖の想像とはかけ離れた言葉だった。
「‥‥来栖?」
「えっ?」
いきなり名前を呼ばれた来栖は思わず振り向き、相手の顔を見てしまう。狼が背中を見せた来栖を襲わないわけがなく、一体の狼が飛びかかる。
「しまっ‥‥」
来栖が反応するより速く、後ろから飛んできた氷の矢が狼の命を奪う。態勢を立て直した来栖は続く狼達を素早い蹴りで追い払った。
「なんで、お前がいるんだよ‥‥氷華」
来栖の後ろには大弓を構えた氷華が立っていた。氷華は相変わらず鋭い目つきで狼達を睨む。
「まずはこの野狼を仕留めましょう。話はそれからよ」
氷華は無機質な声で淡々と言う。
氷華ってすげえー美人なのに、性格が冷淡すぎて誰も手を出せないんだよなぁ。
来栖はそんなふざけた事を考えながら腰袋からナイフ三本取り出す。
「はいはい、わかりました‥‥よ!!」
言い切ると同時に三本のナイフを三体のワイルドウルフに投擲するが、一体は足に刺さったものの二体には躱されてしまう。
片手の三本投げ。かっこいいんだけど以外と精度下がるから嫌なんだよな。
来栖は心の中で愚痴りながらも、襲って来たワイルドウルフを切りつける。横目で氷華を見ると、魔法? で作り出した氷の矢で一体ずつ確実に減らしていた。
氷魔法。氷華の職業は弓使いじゃなかったのか? いや‥‥魔法職に弓は適正装備じゃない。もしかして‥‥上級職か?
そうこう考えているうちに動けるワイルドウルフはいなくなっていた。全てが終わった頃を見計らったかの様に頼葉が来栖に追いつく。
こいつ、戦うのめんどかっただけじゃね? まぁ、そんな事はどうでもいい。それより、氷華だ。
来栖は再び氷華を見ると、その鋭い目と目があった。
怖え。けど、やっぱり美人だな。ってか、身体中怪我してねえか?
氷華は全身に切り傷があり、血が固まっていた。本人はそれをなんともなさげにしていたが、かなり深い傷もあり、耐えているのがわかった。
「氷華。お前、回復薬持ってないのか?」
普通は持ち歩く物なんだが、ぱっと見荷物がないしな。持ってる物っつたら大弓くらいか。矢もないが、それは魔法で代用してるっぽいな。
「ええ。途中で捨てたわ」
捨てたって、あれ結構高級品だぞ。そんだけ、切羽詰まってた、って事か。
来栖も流石に氷華の怪我を見て見ぬ振りは出来ず、リュックから回復薬を取り出すと荒っぽく投げ渡す。
「いいの?」
氷華は受け取った回復薬を使わず、来栖に許可を求めた。来栖は投げたナイフを回収しながら答える。
「ああ、さっさと飲め」
「ありがとう」
氷華は簡素な礼を述べると回復薬を一気飲みする。
ありゃ‥‥五本投げたはずなのに、三本しかねえ。体に刺さったまま逃げられたか。
来栖が予想外の損失にため息をついていると、頼葉がおもむろに氷華の前に立つ。
「お前、ここで何と戦っていた?」
何と? あぁ、そういや強い魔力を感じたんだっけ。
「クエストをこなしてただけよ。薬の事は礼を言うけど、これ以上は関わらないで」
氷華は二人に背を向け歩き始める。
けっ、せっかく助けてやったのに感じ悪いな。
「待て」
頼葉が声を張り上げると、氷華は歩みを止める。
「何?」
「どうせまだ討伐は終わってないんだろ? なら、手を貸したやるぞ」
えっ、ライが人助け? 不吉な予感がする。
「私、一人で十分よ」
氷華は鋭い眼光を頼葉に向ける。頼葉は少し考え込んでから口を開く。
「人型のスピードタイプで直接攻撃がメイン。基本的には爪を使った引っ掻きを使う。対して、お前は中、遠距離を得意とし、接近戦は向いていない」
‥‥怪我の様子から判断したのか。言われてみれば納得だが、よく気づいたな。
「それで?」
少しでも興味を持ったのか氷華の体の向きが頼葉の方を向く。
「俺とクルスは接近戦が主体の前衛だ。ここまで言えばわかるだろ?」
俺とライで抑えてる間に、氷華が仕留めるってか。まぁ、理にはかなってるな。問題は、氷華が了承するかどうか‥‥
「‥‥わかったわ。少し手を貸して」
へぇー、氷華なら断ると思ったんだが、そうでもなかったみたいだな。
「なら、さっそくクエスト内容を教えてもらおうか」
頼葉はその場に座り込むと、氷華にも座るように促す。
テスト期間につき、6月11日までは不定期更新になります。申し訳ない(−_−;)
終わったら頑張る!! と、思う(^◇^;) ので今後もよろしくお願いします。




