六話
翌日の昼、来栖と頼葉は勇者御一行と共に木の生い茂る山道を歩く。昨夜、二人は結局、依頼を受ける事にした。理由としては二人は前々から実践的な対人戦を一度で経験したいと考えていたからだ。
依頼の内容としては勇者達の援護が主体であり、ある程度の数の山賊を引きつける事。それと基本的にはブライアンが出て来る事はないらしい。
今の俺のステータスなら、そんじょそこらの奴には負けないだろう。それより問題なのが、ライだ。あいつの事だから心配はいらないと思うが俺より縛りがきつい分、戦闘では不利になる。
「ねぇ、来栖はどんな武器を使うの?」
古部が後ろから話しかけてくる。
「俺はナイフを基本とした接近戦だけど、古部は‥‥って、見たまんまか」
古部は身長を優に超える長さの槍を持ちながら歩いており、本人はそれを何の問題もなさそうにしていた。
「それにしても、何で槍なんだ? 勇者って、聖剣とか使うもんじゃないの?」
まぁ、俺のイメージですけど。
「僕が個人的に槍が使いやすかったから使ってるんだけど、変かな?」
急に不安そうな顔になる古部。
「いいんじゃないか。槍は強くていいと思うぞ。他の奴は何使ってんだ?」
古部の仲間は三人。地味なバスケ部の木下、勉強と運動共に中途半端な池上、理科オタクの中野。言わずともわかるだろうが全員、まったくもてない。
「木下が棍棒で池上が鞭。中野は杖で魔法を使うんだ」
‥‥まぁ、近中遠全てに対応できるし、悪くないな。でも、鞭使う奴って実際にいるもんなんだ。
「きた」
唐突に頼葉がそう呟く。決して聞こえない声ではないが、その場にいた全員がギリギリ聞き取れる声量。その言葉で全員が戦闘態勢になる。
今の手持ちは、ブロンズナイフが八本にゴブリンのナイフが一本。後はメインで使ってるミスリルナイフ一本の計十本か。あわよくば、山賊から数本いただきたいんだけどな‥‥そうも言ってられないか。
周辺の木の陰から一斉にナイフが飛んでくる。その数、十五。ブライアンを除く全員が円を作ると、それぞれがナイフを叩き落とす。
いきなりゲットかよ。運いいな。
飛んでくるナイフをナイフで弾いた来栖は、宙を舞うナイフを左手で掴む。
敵の数は‥‥二十ってとこか。
「皆んな、大丈夫?」
古部は槍先を山賊達に向けたまま、仲間の安否を気遣う。
「なんとか」
「危なかった〜」
「この程度なら問題ない」
たった六人(ブライアンを除く)しかいないため、うかつに動く事が出来なかった。
このままじゃ、拉致があかねえ。行くか。
「ライ」
「わかってる」
円の反対側にいた来栖と頼葉は同時に正面に向かって飛び出す。来栖は一瞬の隙を突かれた山賊達を避け、山の奥に走る。
ついてくるのは‥‥五人か。
来栖は山の中、五人の山賊に追われる。
「どうしよう、来栖と頼葉が行っちゃった」
古部は槍の持ち手を握り直しながらも周囲を警戒する。
でも、おかげで山賊の数は減った。それなら‥‥山賊を倒して助けに行くべきかな?
古部は口の中にあった唾を飲み込む。
「よし、いくぞ!!」
古部が一歩を踏み出すと、前方から十近くのナイフが飛んでくる。古部は槍を回しナイフを弾き返すが、一本弾き逃し脇腹をかする。
「痛っ」
山賊は痛みで動きが止まった古部に向かって剣を振り上げると、ためらいなく剣は振り下ろされる。
しまっ‥‥た。
剣が古部を斬るより早く、池上の鞭が山賊の剣を奪い去る。
「油断するなって」
助かった‥‥
すぐに別の山賊が古部に飛びかかるが、古部は相手が攻撃に反応するより速く、腹を突き刺す。
「グッ‥‥アッ」
刺された山賊は口から大量の血を吐き出し、その場に倒れる。
あっ‥‥れ? 死ん、だ?
どこかゲームをするノリで戦っていた古部は人の死と言う現実を目の当たりにし、恐怖する。
「俊、後ろだ!!」
中野が声を張り上げ、古部に危険知らせるが本人はそれどころではなく、全く耳に入っていなかった。
「てめぇー!! よくも相棒を、死ねえ!!」
古部の背後に斧を振りかぶった山賊がいた。
僕が‥‥殺した?
「まだ、君達には早かったか」
突如現れたブライアンは斧を持った山賊を一瞬で両断した。
「ブライアンさん!!」
ブライアンの動きについていけなかった山賊達は引け腰になる。
「すまなかった。少し焦っていたようだ。すぐに、終わらせる」
ブライアンは優しく古部の肩を叩くと山賊達に剣を向ける。
「斬風域」
ブライアンが剣を一振りすると、無数の風の刃が山賊達を襲い斬りつける。
なんとか、山賊五人を倒して戻って来たんだが‥‥何でブライアンが前に出てるんだ? しかも、山賊を瞬殺するし。
急いで戻って来た来栖だったが、ブライアンの参戦により仕事をなくし、黙って殲滅の様子を眺めていた。
「これで、任務は完了だ。一度村に戻ろう」
ブライアンはぐったりとした来栖を抱き抱え、立ち上がる。
あれ? 古部、何であんなにボロボロなんだ?
「君もすまなかった。わざわざ手を貸してもらったのだが、これで終わりだ。報酬については‥‥」
「死ねえ!!」
木の陰から飛び出した男は叫びながらナイフをブライアンに向けて投げる。
「くっ」
古部を抱えていたブライアンは防ぐ術を持たず、その体で古部を庇おうとする。それを見ていた来栖は素早くブロンズナイフを取り出すと、ブライアンに向かって飛ぶナイフをナイフ投げで撃ち落とす。
「先に俺と遊んでもらうか」
来栖は男を睨みつけるとミスリルナイフを構える。
「ブライアン、先帰ってて。俺はこいつを倒して行く」
手持ちは五本か‥‥十分だ。
ブライアンは多少ためらいながらも古部らを連れて山道を下る。それを確認した来栖は男に意識を集中させた。
「あんたが、山賊のボスか?」
さっきの五人は楽勝すぎたからな。ほどよい強さだといいが。
「ああ、小僧も職業は盗賊だろ?」
「それがどうした?」
来栖は相手の隙を探し始めるが、一向に見つかる気配がない。
「俺の職業は首領だ。つまり小僧より格上って事、わかったら死ね」
首領は小手調べと言わんばかりにナイフを三本同時に投げる。来栖はそれを自慢の素早さで回避すると、ブロンズナイフを首領に投げる。
三本を同時に投げるのはかなりの実力者だな。気を引き締めないと。
来栖はナイフ投げの解説を思い出す。
ナイフ投げ
所持しているナイフを遠くに投げるスキル。熟練度に応じて速度や数が増える。
俺の最大投擲数は二本。すでに負けてるとか、泣けてくるわ。
首領は剣を鞘から抜き、来栖のナイフを弾き返すと逆の手でナイフを取り出し、構える。
「へぇー、変わった二刀流だね。俺も今度やってみようかな」
「小僧が、いつまで調子に乗れるかな!!」
首領は来栖に急接近すると右手の剣で斬りつける。来栖はそれをバックステップで避けると、ナイフを前に出し突き刺そうとするが、左手のナイフで逸らされた。
「チィ」
すぐに横に跳び距離をとるが、首領がその隙を見逃すわけもなく左手のナイフを投げられる。空中にいる来栖は回避出来ず、右肩にナイフが浅く刺さる。
予想より速え。敏捷は俺と同レベルか。厄介だな。
来栖は肩に刺さったナイフを抜くとそのまま左手で構える。
「はっ、小僧が。これは即席で使えるようなもんじゃねえんだよ」
「どうだか、な!!」
今度は来栖から首領に突っ込むと、両手のナイフで不規則に攻撃する。しかし、そのどれも首領に届く事はなく、いなされる。
「おい、どうした、小僧? さっきの威勢はどうした? あ?」
首領が力強く剣を振ると、危険を感じた来栖は後ろに下がる。無傷な首領に対して、幾らかカウンターを喰らっていた来栖は全身から血を流す。
やっぱり、駄目か。まぁ、いいや。ちょうどいい機会だ‥‥試してみるか。
「あんた、想像以上に強かったよ。閲覧」
来栖の不意打ちの閲覧に反応出来なかった首領は自らのレベルを来栖に知られてしまう。
五十五か。こんだけありゃ、殺しても悪いステータスにはならねえかな。
「今頃俺のレベルを知ってどうする? 逃げるのか?」
「逃げるなら今のうちだ。悪いけど、命の保証は出来ないから」
首領が言い返そうとした瞬間、来栖は両手に持っていたナイフを同時に投げる。ただし、ミスリルナイフはもう一方と比べ圧倒的に遅く、激しく回転しながら山なりに飛んでいく。
「ただの時間差攻撃か、くだらねえ」
首領は鼻で笑いながら軽々と一本目のナイフを弾く。
ここで、もう二本!!
ミスリルナイフと同じ速度で走っていた来栖はナイフを二本取り出すと、全力で投擲する。余裕こいていた首領は回避出来ず、両手の武器で受けた。それと同タイミングで来栖は空中にあるミスリルナイフをキャッチすると、首領とのすれ違い際に脇腹を裂く。
「なっ、速‥‥グハッ」
首領は大量の血を流しながら、力なく崩れ去る。来栖も緊張感から解放されたからか、その場にへたり込む。
「はぁ、はぁ、殺っちまったか? まぁ、しょうがないよな。‥‥正当防衛だし、俺は悪くないか」
呼吸が落ち着いた来栖は立ち上がると倒れた首領の元まで行き、その姿を見下ろす。
こういう場面、普通だったら罪悪感に苛まれたりすんのかな? まぁ、この世界で生きていく以上、いつかは人を殺さなきゃならないんだ。それが、今だった。それだけの事だ。
来栖は回復薬を取り出し一気飲みすると、空になった瓶を投げ捨てた。
来栖が山を降りクレイ村の宿屋に戻ると、すでに頼葉がいた。頼葉は椅子に座ったままぼんやりとしている。
「よっ、お疲れ〜」
「クルスか、ボス戦は終わったのか?」
ボス戦とか、ライらしい表現だな。
「もちろん。ヒヤッとしたけどなんとか勝てたよ」
頼葉はいつもと違い、どこか元気がなかった。
「勝てた‥‥殺したのか?」
来栖の脳裏で血みどろになった首領の姿が浮かぶ。
「あぁ、殺したよ。ライは?」
あんな奴、死んだからどうだってんだよ‥‥
「一人、勢い余って殺した。ところでクルス。その袋はなんだ?」
頼葉は来栖が手に持っていたバスケットボール程の大きさの袋を指差す。来栖はそれを聞くとあからさまに口角を吊り上げる。
「これは今回の戦利品だ」
来栖はそう言って袋の中身を机にぶちまけると、ナイフや硬貨やらが大量に出てくる。
あの戦いの後、苦労して集めたからな‥‥ぶっちゃけこっちの方が時間かかったし。
「ほとんどナイフか。興味ない」
やっぱりライの奴、なんか暗いな。
「そうか、俺は古部達の様子を見に行くけど、ライはどうする?」
「疲れたから寝てる」
そう言ってベッドに横になると、来栖とは反対を向く。来栖はそれを見てため息をつくと、机の上にあったナイフを適当に数本選びポーチに入れ、部屋を後にする。
あいつ、なんであんなにテンション低かったんだろう? 人を殺したからか? あ、そういや俺のレベルどうなったんだ?
周りに誰もいない事を確認すると、足を止め意識を集中させる。
「開示」
真風 来栖
年齢・・・・・・17歳
ギルドランク・・・・G
職業・・・・・・盗賊
レベル23
力・・・・134
耐久・・・87
魔力・・・38
精神力・・・48
敏捷・・・220
スキル 盗む、ナイフ投げ
称号 異世界からの来訪者、無謀者
‥‥あれ? 変わって、ない。よかっ‥‥よかった? なんで俺は安心してるんだ? 別にあんな奴が死のうが関係ないんじゃないのかよ。意味わかんねえ。
「む、君か。無事でなによりだ」
思考回路が停止していた来栖に突然後ろから声がかかる。
「ブライアン、か。古部は大丈夫なのか?」
今は‥‥今の事に集中しよう。
「うむ、少し精神的にまいっていたな。励ましてやってくれないか?」
「古部が? ‥‥わかった」
ブライアンに案内された部屋に入ると古部がベッドに腰掛け震えていた。周りには他の三人もいたが、誰も喋ろうとしていない。
「よっ、古部。どうしたんだ?」
励まし‥‥か。
「来栖?」
俯いていた古部が顔を上げ、来栖の顔を見る。
結構、疲れ切ってんな。
「ねぇ、どうしよう。僕、人を‥‥殺しちゃった」
古部は震える手で自らの顔を覆う。
人を殺しちゃった‥‥殺したじゃなくて、殺しちゃったか。
来栖は黙って古部の話を聞き続ける。
「僕は犯罪者だよ。いくら悪い事をしたからって、殺すなんて最悪だよ」
犯罪者? あぁ、元の世界での話か‥‥俺はそんな事にすら気づいていなかったのか。
「もう、僕は戦いたくない。誰かを殺すなんてもう出来ない」
完全に塞ぎ込んでるな。‥‥でもまぁこれが、正常か。
来栖は無言で古部の目の前まで歩くと、膝を曲げて古部と目線を合わせる。
「いいか、古部。今から言う事はこれから先、絶対に忘れるな」
来栖は古部の顔を殴り飛ばす。
「お前が勇者をやるって決めたんだ。今更、後悔したとか言ってんじゃねぇぞ? わかったら、さっさと修行でもしてろ」
古部は歯を食いしばり、涙を堪える。その言葉はどこか来栖自身の心にも刺さっていた。来栖はそれだけ言うと部屋の入り口まで歩き、足を止める。
「俺は止まらねえ。自分で、前に進むって決めたから」
来栖はそう言い残して部屋から出て行く。




