四話
ツインベアとの命懸けの死闘後、二人は直接ギルドに赴き、報酬を受け取りに来ていた。
「あ、クエストを達成したんで報酬をいただけますか?」
来栖は受付にそう言うと、依頼書と討伐部位である爪をしてカウンターに置く。
「はい、少々お待ちください」
受付はすぐに爪の鑑定に入り、暇になった来栖は近くの三人組の会話を盗み聞きする。
「おい、聞いたか? あのガキどものリーダー、Fランクになったらしいぜ」
ガキどものリーダー‥‥っ、不動峰か。
「それに今だにパーティーを一人も欠けずにいるらしい。そんな話、信じられるか?」
ヘェ〜、あの人数を守ってるのはすげえな。
「しかし、ここ最近は若いのが優秀だな〜」
まぁな。
「ん? 何の事だ?」
「お前、知らないのかよ。Eランククエストの討伐系を難なく達成した少女だよ」
クラスメイトの、誰か?
「ほら、来たぜ。例のガキだ」
思わず気になった来栖がギルドの入り口を見ると、そこにはクラスメイトの五十嵐 氷華がいた。その背中には長身の氷華よりも大きな大弓を背負っている。
あいつ、ソロでやってんのか。それにしても、単独でEランクは凄いな。
来栖に気づいた氷華はその冷たい目つきで来栖を睨みつける。
怖っ!! 何だよ、睨む事ないだろ。ったく。
やがて興味を失った氷華はその長い髪をなびかせクエストボードに向かう。
「こちらは確認できましたが買い取りをなさいますか?」
鑑定の終わった受付は爪を二人に返却する。
買い取り? あー、これは使わなそうだしな〜。売ってもいいか。
「売ってもいいよな?」
一応ライには確認とっとかないと怖いし。
「爪、か。装備にはなりそうにない。売ろう」
「了解〜。じゃあ、そういう事で買い取りお願いできます?」
「はい、それではギルドカードを貸していただけますか?」
あぁ、出すの忘れてたな。
来栖と頼葉がギルドカードを二枚、受付に渡すとペンの様な物で魔力を込められる。
「はい、記入は終わりましたのでギルドカードをお返しします」
真風 来栖
ランク・・・・F
SSランク・・・・0回
Sランク・・・・0回
Aランク・・・・0回
Bランク・・・・0回
Cランク・・・・1回
Dランク・・・・0回
Eランク・・・・0回
Fランク・・・・1回
Gランク・・・・5回
何かランク上がっとるし。まぁ、Cランククエストクリアしたから妥当かな。
「これが報酬の10,000ペターで、こちらがツインベアの爪の買い取り額の2,000ペターになります」
あの厳しい採取クエストの報酬がゴミに見えてきた‥‥
「クルス、これは半分ずつにするから」
そう言った頼葉は渡された硬貨を半分ずつに分け始める。
「ってか、この後どうする? パーティーでもやっちゃう?」
こんだけ金があるんだし、少しくらいパーっとやってもいいよな。
「そうだな‥‥七時まで別行動にしよう。七時になったら宿屋前に集合な」
別行動か。そうだな‥‥色々試してみたい事もあるしちょうどいいか。
と、来栖がそうこう悩んでいる内に頼葉がお金の分配を終え、来栖に背を向ける。
「じゃーな」
「後でな」
その場に残った来栖はカウンターに残った金を袋にしまうと、ギルドを後にした。
ギルドを出た来栖が向かった先は、来栖がミスリルナイフを買った武器屋だった。
「はい、いらっしゃい‥‥って、あんちゃんか」
「どうも」
相変わらず人少ねえな。
「で、今日は何の用だ? まさか、あのミスリルナイフがもうダメになったとか言うんじゃないだろうな?」
「いや、今日は投擲用ナイフを買いに来ただけだ」
そう、新しいスキルの投げナイフを試したいのだが、手持ちが一本しかないからな。今回の報酬で充実させてみようと思ったんだが‥‥
「投擲用ナイフ? どうせ大した金はないんだろ?」
そっか、ミスリルナイフ買ってからまだ二日か。あん時は100ペターしかなかったからな。少し、おどかしてみるか。
来栖は袋に手を突っ込むと手探りに硬貨を掴む。
「あぁ、これっぽっちしかない」
そう言って親父の前に差し出した手から1,000ペター程地面に落とす。
「あんちゃん、これ‥‥盗んだのか?」
‥‥そうか。俺の職業が盗賊って言っちまったからな、勘違いしてやがる。
「な訳ねえだろ。Cランククエストの報酬の一部だよ。わかったら、さっさとナイフ売ってくれ」
「Cランク‥‥だと?」
何か面倒くさくなってきた。
説明するのが面倒に感じた来栖は展示されている武器の中からナイフを扱っている所を探す。
〜短剣、ナイフ類〜
ここか。
目当ての場所を見つけた来栖は展示されていたナイフの中から自分の財布に見合った物を選び、並べて見る。
ブロンズナイフ・・・・150ペター
銅製のナイフ。切れ味はかなり低い。
ミスリルナイフ・・・・500ペター
ミスリルで作られたナイフ。鉄よりは丈夫。
ダガー・・・・1,000
刀身が細長く、鋭い。そのため殺傷能力は高いが耐久性がやや低め。
うーん、まだ投げナイフはやった事もないしどれがいいかいまいちわかんないんだよな。ここは無難に一番安いのでいいか。
来栖はブロンズナイフを八本手に取ると、親父の元まで持って行く。去り際に、展示されていた物をもう一度見る。
ソードブレイカーとか、かっこいいんだけどな。予算的に、きついか。
「これでいくらだ?」
来栖は抱えていたナイフを全て机の上に並べると、親父との交渉に入る。親父が悩んでいる間、来栖はかっこつけてばら撒いた硬貨を集めていた。
いいとこ1,000ペターってとこか。
「1,000‥‥いや、900ペターでどうだ?」
予想より安くなりやがった。それなら、まぁ、これでいいか。
「よし、買った」
来栖は拾い集めた硬貨の中から五百ペター玉を一枚と百ペター玉を四枚渡し、机の上のナイフを袋の中にしまい込む。
八本はさすがに重すぎたか。まっ、そのうち使うだろ。
「にしても、近頃はガキばっかだな、ったく」
ガキ‥‥クラスメイトの誰かか? って、事はここで武器を買ったのか。知っといて損はないか。
「おっさん、それって俺くらいの歳の奴が来たって事?」
「あぁ、何組も来たぜ。十人くらいの集団とか、でっけえ弓を買っていた女とか、不人気のナイフを買った奴とかな」
チッ、あいつらかよ。
「そうだ、もう一人いたな。えらく暗い奴でな、話しかけたんだが、無視された」
暗い奴‥‥いじめられっ子のあいつか?
「そいつは何を見ていた?」
「それならよく覚えてるぜ。ひ弱そうな体つきなのにも関わらず、長物の鎌とか斧とかを見てたんだよ。結局は買わなかったがな」
鎌に斧、なら狂戦士とか屍術士か。いや、狩人もありだな。いずれにしても、クラスメイトと戦うつもりはないし、気にしなくていい‥‥かな。
長考しているところを親父が不審な目で見ているのに気付き、すぐに思考を打ち切る。
「そっか、ありがとうな。おっさん。また来るわ」
軽く礼を言うと、武器屋を後にする。
この後、どうすっかな〜。今、何時だろう?
来栖は街の中で一際高く建てられている教会を見る。教会は国によって運営されており、朝夜六時に鐘を鳴らし、時間の経過を知らせている。その上端には時計の様な物があり、今は五時半を指していた。
一時間半、か。少し短いが、しょうがないな。
来栖は鼻歌交じりに郊外へと足を向ける。
時刻は七時五分、汗だくになった来栖が呆れ顔の頼葉の前にたどり着く。
「悪い、遅れた」
いやー、街の外からだと教会が見えなかったんだよ。しょがないよね?
「いつもの事だ。気にしてない」
元の世界にいた頃、来栖が頼葉との約束の時間を守った試しがなかった。それゆえ、頼葉は本を片手に気長に来栖を待つ、それが二人の間のお約束である。
「さっ、行こうか」
頼葉は読んでいた本に手早くしおりを挟むと、来栖そっちのけで歩き出す。
「ちょ、まだどこ行くか決めてないだろ」
「もう下調べはしてある」
おー、流石やな。
「どこ行くんだ?」
「クラック領の伝統料理を扱う店だ」
来栖らが来たこの世界は五つの大陸から形成されている。人間内で最大規模の国で、北に位置するアイザック王国が支配するレギオンス大陸。その南西には軍事国家のバルト帝国のスレイブ大陸。そしてバルト帝国と海を挟んで東側にはクラック領がある。クラック領には国と言う概念がなく、小規模の街や村が数多く存在する。そして、南にある二つの大陸は現在、魔族が支配している。
クラック領、個性豊かな文化があるって書いてたけど‥‥どんな料理か、楽しみだな。
歩くこと数十分後、二人はクラック料理店『クラックス』に着く。
ここか。店の名前そのままだな。
頼葉がドアノブに触れようとした時、後ろから声をかけられる。不動峰とその仲間の男達がニヤニヤしながら立っていた。どうやら今日は女子と別行動のようだ。
「よっ、来栖。それに頼葉。お前ら、元気にやってるか? 来栖弱っちいからクエスト達成すんのも大変だろ?」
うわ〜、露骨な雑魚キャラ感がやばいな。ってか、俺はこれに負けたのか。情けねえ。
心の中で深く反省する来栖を不動峰は無視しているように捉えたのか、いきなり来栖の胸ぐらを掴み、顔を近づける。
「お前さ、これ以上、里穂にちょっかいかけたら、承知しねえからな」
全然怖くないな。怖くなさすぎて、逆に怖くなってきた。
不動峰は荒々しく来栖の服を手放すと、仲間と共に歩いて行く。頼葉はようやく終わったか、と言いたげな顔をすると、店の中に入ろうとする。
何か、癪だな。
「頼葉、俺の分適当に頼んどいて」
「ん? わかった」
頼葉はそれだけ言うと店の中に消える。
さて、と。
「不動峰!!」
来栖はかなり遠くまで行った不動峰の名を大声で叫ぶ。彼が振り返るのを確認するとゆっくりと歩み寄る。彼らの距離が十分に詰まると、不動峰が口を開く。
「なんだよ」
戦闘をするのは流石にだるい。つまり、言葉のみでいく。
「お前さ、浅野さんが好きなんだろ? それで何? ちょっと、俺と仲良いからってヤキモチ焼いてんの? 馬鹿みてえだな」
最後の来栖の嘲笑で切れた不動峰は来栖の顔面に力強いパンチを打ち込む。が、圧倒的なステータスを手に入れた来栖は首を曲げて難なく拳を躱す。
すげえー。パンチがめっちゃ遅く感じる。これもレベルアップの恩恵‥‥いや、ライとの研究成果か。
「てめぇ‥‥」
不動峰は拳を震わせ、来栖を睨みつける。
「一つ、聞きたいんだけどさ。今、何レベなの?」
今の自分の強さの縮尺がいまいち掴めてないからな。こいつと比べてみるか。
「はっ? 何言ってんだよ、お前。自分より高かったら逃げようってか?」
あ、面倒くさい。やめた。
「お前に聞いた俺が馬鹿だった。浅野さんが好きなのはわかるけどもう俺につっかかるなよ」
言う事を言い切った来栖は来た道を戻ると、クラックスに入店し、店内にいる頼葉を探す。
いた。って、もう食い始めてるし。
頼葉の座っているテーブル席にはすでに料理が並び、頼葉はそれを黙々と食していた。来栖は頼葉の正面に座ると、料理に目を通す。
麻婆豆腐的なものに、回鍋肉みたいなもの? それにエビチリもどきか。えーと、これは中華料理なのか?
来栖は目の前に並ぶ料理があまりに元の世界のものと酷似していたことに驚く。
「バイオレットピックと野菜の甘辛炒め。アイアンロブスターのチリソース、それと豆腐とひき肉の炒め物だ」
「えーと、要するに?」
「回鍋肉とエビチリと麻婆豆腐だ」
あぁ、やっぱり。
来栖は大皿に盛り付けられていた料理を小皿を取ると、回鍋肉もどきから食べ始める。
おぉ、結構うまいぞ。肉は柔らかいし、野菜がどうも香草っぽいが悪くないな。全体的に辛めな仕上がりだけど味としてはよくまとまってる。
この世界の料理に感心した来栖は続いて、でかいエビの入ったエビチリの皿を取る。
これは‥‥エビの味がいいな。なんていうか、肉厚があってうまい。チリソースはまんまチリソースだから特に感動はないな。
「クルス、明日からの事なんだが一つ、行きたい所があるんだ」
忙しく動いていた来栖の箸が止まる。
「どこ?」
「レイラック村、武術を極める場」
「武術? 随分急だな」
てっきり、このままレベル上げをするもんだと思ってんだが。
「クルスは俺のステータスプレート見ただろ?」
「ん? ああ、それがどうかした?」
確か、魔力が高くて他は普通くらいだったか。
「俺の今のステータスは完全に魔法職のものだ。もう少し他のステータスも伸ばそうと思う」
いまいち、内容が掴めないぞ。
「どうやって伸ばす気?」
ステータスの比率は先天性のものじゃないのか?
「ステータスは鍛え方によってかなり変わってくる。魔法の修行をしなければ魔力は下がりだろうし、筋トレばっかしてたら力が上がるだろうな」
なるほどね。それでもう少し接近戦を強化しようと思ったわけか。俺のナイフ術もちゃんとしたものじゃないし‥‥ちょうどいいな。
「いいぜ、明日からレイラック村に行こう」
「わがまま言って悪い」
‥‥ライが礼を言うなんて、珍しいな。ステータスを気にしてんのかな?
「気にすんなって。二人でこの世界を駆け上がっていくぞ」
「ああ」
頼葉は嬉しそうに笑ういながら返事をする。




