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二話

 閉館ギリギリまで図書館にこもった来栖と頼葉はお互いに成果を話し合うために、宿屋の部屋で向かい合わせに座る。


 六時間で全部を調べきれたわけじゃないが、それなりの情報ではあるだろ。


「どっちから話す?」


「クルスからでいいよ。俺、少し自信のない部分あるし」


 俺はステータス関係と職業。ライはスキルと称号について調べた。


「そうか。最初っから不確定なのなんだが、ステータスの上がり方に個人差があるのは知ってるか?」


 そう、魔王を倒した勇者とそこいらの剣士じゃ、レベルアップで上昇するステータスが明らかな差がある。


「それは知ってるけど、職業による補正じゃないの?」


「その可能性も考えたんだけど、どうやら違うみたいだ。同じ職業の二人のステータスの上がり方を比べて見たんだが、圧倒的な差が生まれてた」


 つまり、職業による補正だけではない。


「それで? 結論は?」


「あぁ、レベルが高いほどステータスの上がりが高いんだ。それで思ったんだが、経験値にもレベルがあるんじゃないか?」


 そう、これが俺の経験値レベル説。


「レベル?」


「そう、高いレベルの相手の経験値を得るほどステータスが高く上がる。これが俺の仮説だ」


「へぇー、面白そうだね。レベル1からその方法を試したら、勇者も超えられるんじゃないかな?」


「その可能性も十分あり得る」


 それ相応のリスクはあるが、それに見合った結果は出そうだった。来栖の成果はこれだけではなく、もう一つあった。


「もう一つ。職業についてだが、上級職ってあるけど、これ多分縛りプレイすればレア職がゲット出来ると思うんだよ」


 上級職はレベルが上がった時、ランダムで転職するとされているが、実際は強い人ほど強職になっている。


「縛りプレイ‥‥こっちも似た様なの見つけたよ。称号について何だけど、例えば低レベルでドラゴンを倒したとか、大怪我した状態で強敵を倒すとかしたら手に入っているんだよね」


「って事は?」


「うん、縛りプレイやってみよう」


 来栖と頼葉は笑顔でハイタッチすると、すぐに縛りの内容についての会議を始める。




 一時間半にも及ぶ会議の結果、来栖はナイフのみで盗賊系スキル禁止。頼葉は魔法職にも関わらず、素手オンリーでの戦闘と定める。


「こんなもんかな」


「ライは少しキツ過ぎないか?」


 ライの力はかなり低く、まともに殴ってもダメージは期待できない。


「でも、上級職の魔拳士マジックファイターになるためにはこれが一番さ」


 死んだら元も子もねぇがな。


「そう言うクルスだって盗む使わなかったら、盗賊の意味なくない?」


「俺は義賊ハイドゥク狙いだ。そうだ、ライ。スキルについて何かわかった?」


 俺としては当分は使わないから関係ないけど知識としては知っておきたいからな。


「スキルは熟練度に応じて応用が利くようになるみたい。練習次第では二つ同時に使えるんだって」


「へぇー、以外と融通が利くな」


「そうだ、忘れてた。武器は鍛錬して熟練度を上げておけばスキルも強いの覚えるんだって」


「それを早く言えよ」


 来栖は頼葉を軽く蹴っ飛ばすと、そのままベットに横になる。


「もう寝るの?」


「明日は早いからな」


「そっか、おやすみー」


「おやすみ」


 熟練度か‥‥。明日からは徹夜で練習かな。


 来栖は幸せそうな顔をしながら深く息を吐き、そのまま意識を闇に沈めていく。




「おい、おっさん。百ペターで買えるナイフの中から一番良い物をくれ」


 翌朝、来栖と頼葉は別行動取り、来栖はこれからのクエストのための得物を調達しに、武器屋まで来ていた。


 来てみたはいいんだが、こんなに数があるとは思わなかった。正直、どのナイフが上物かなんてまったくわかんねぇ。


「おいおい、お前みたいな若造がナイフなんて何に使うんだ? ん?」


 ガタイのいい親父は手を顎に当て、来栖を見定める。


「これからクエスト行くんだよ。それで武器を買いに来ただけ」


 まず使わないと思うから、本当はどうでもいいんだけどな。まっ、せっかくだ、良い物を買おうじゃねぇか

 。


「なるほど、ギルドで一旗揚げよってか。それにしても珍しいね、あんちゃん。若いもんは大概、剣だの、槍だのを選ぶもんだがね。どうしてナイフなんだい?」


 確かにナイフは優秀な武器とは言えないよな。優れてるとこと言えば携帯性、くらいか? まぁ、いい。


「おっさん、それを言ったらまけてくれるか?」


 来栖はテーブルに手をかけ、親父の目を真っ直ぐと見る。


「ふん、理由次第だな」


 よし、来た。


「俺の職業、なんだと思う?」


「顔からして、闘士辺りか?」


 闘士ってどんな顔だよ。


「残念。盗賊だ」


 来栖はドヤ顔を決めて言ってみるが、大した事を言ってないな、と感じ途端に恥ずかしくなる。だが、親父は来栖の想像以上に驚いていた。


「ほぉー、そりゃ難儀なもんだ。盗みでもやったのか?」


 そういや、職業って開示オープンを始めて使った時までの生き方で決まるとか何かに書いてたな。って、俺、人の物盗んだりしてねぇぞ。


「さぁ? 全く心当たりがなくてな」


「それで、どうしてナイフなんだ?」


 実を言うと大した理由はないんだけどな。まぁ、ゲームでよく使うってのが一番のの理由か。


「俺は速さだけが取り柄なんだよ。盗賊の主な使用武器はナイフ、片手剣、弓、片手斧、短槍。この中から速さが活かせるのはナイフ、ってのが理由だ。どうだ、まけるのか?」


 親父はニッと笑うと、店の奥に引っ込んで行く。


 おっ、これは家宝とか出てくるパターンじゃね? この世界チョロいな。


 しばらくしてから、奥から親父が戻ってくる。その手には一本のナイフがあった。


「これはミスリルナイフ。本来なら五百ペター程するが中古品だ、特別に百ペターにしてやる」


 チッ‥‥まぁ、悪くないか。


 心の中で舌打ちをする来栖だが、それでも大儲けした事に変わりはないのですぐに立ち直る。


「そりゃあ、どうも」


 来栖はナイフに手を伸ばすが親父は手に持ったナイフを引っ込める。


「その前に一つ。またうちの店に来る、これがこのナイフを売るための条件だ」


 ったく、異世界でも悪徳商法かよ。


「次に来た時に金を巻き上げる気か?」


 親父はキョトンと目を丸くすると、すぐに腹を抱えて笑い出す。


「安心しろ、そんな事考えちゃいねぇよ。あんちゃん、ギルド初心者の死亡率知ってるか?」


 初心者‥‥Gランクには大した依頼はないと思うが。せいぜい最下級魔物の討伐くらいか。


「一割か二割辺りが妥当だと思うが」


「六割だよ」


 えっ!? まじか。そんなにいるんのかよ。


 来栖は背中に寒気が走り、身震いする。


「いいか、あんちゃん。ギルドってのはそんなに甘いもんじゃないんだ。今ならまだ間に合う。故郷に帰んな」


 あぁ、おっさんは俺の心配をしてくれてたのか。だがな、俺らには帰る所がねぇんだよ。


 来栖は親父に近寄ると手を差し出す。


「おっさん、必ず帰ってくるからさ、そのナイフ、売ってくれ」


「そうか、それがあんちゃんの決断か。なら、文句はない。お代はいい。持っていけ」


 親父は鞘に収められたナイフを来栖に投げ渡すと、奥に部屋に入って行く。


「じゃあな、おっさん。また、来るぜ」


 来栖はミスリルナイフを片手に武器屋から出て行く。


 さて、武器も手に入れた事だし、ギルドに行ってみますか。




 ここが、ギルドか。


 来栖が武器屋を出てから五分程歩いた所にある巨大な木造建築の前で立ち止まる。その建物にはでかでかと【ギルド】と書かれた看板が貼られていた。


 かなりでかいけど、びびっていてもしょうがねぇ。行くか。


 来栖は勢いよくギルドの扉を開けて中に入ると、中にいた人達からの目線が一気に集まる。来栖は一通り見通すと、受付らしきところに向かって歩き出す。


 流石にどいつもこいつも強そうだな。やっぱり俺と同年代はほとんどいないか。内装的には酒場ってのがイメージに合うな。普通に飲食してるし。


 来栖の前に一人の男が立ちはだかる。男は鎧などは一切着ておらず、腰に引っさげた片手剣のみの武装だった。


「おい、お前」


 くそっ、こんなとこまでテンプレなのかよ。今の俺の実力で勝てるか? いや、厳しすぎしいな。


「なんですか?」


 いざこざを起こしたくない来栖は下手に出る事で話を穏便に進めようとする。


「あそこにいる奴らの仲間か?」


 あいつらは‥‥不動峰のグループか。バレないように気をつけよう。


「いえ、違いますが‥‥それが?」


 来栖の言葉を聞いた男は明らかに怪訝そうな顔をする。


 あいつら、この男に何かしたな。こいつが多少強くても十人以上とは戦えねぇだろう。まさに、数の暴力ってやつか。


「何でもねぇよ」


 男は捨て台詞を吐いてギルドの外へ出て行く。


 さっさと登録して、クエストに行くか。





「すいません、ギルド登録をしたいんですけど」


 来栖は三人いる受付係の中から最も若く優しそうなお姉さんの元に行く。


「ギルド登録ですか、かしこまりました。それでは失礼ですが、確認のためにステータスプレートを見せていただけますか?」


 確認‥‥? あぁ、そういやステプレの中にギルドランクの表記があったな。あれを見る事で重複を防いでるのか。‥‥待てよ。ここでステプレを出したら称号で異世界人ってバレないか?


「あのー、どうかされましたか?」


 やばい、どうしよう。今さら止めますってのもおかしいよな。何か言い訳を考えないと‥‥


 来栖は全身から汗が噴き出し、動揺していた。


「あれ、来栖‥‥?」


 来栖は自分の名前が呼ばれた事に対し、反射で振り向いてしまう。


「あ、浅野‥‥さん」


 里穂は数人の女子と共にクエストボードに向かっている途中に来栖と鉢合わせた。


 昨日の事もあるし、一番会いたくなかったのに‥‥まぁ、ぼやいていてもしょうがないか。


 来栖は里穂達の目の前まで走って移動する。


「お前らどうやってギルド登録したの?」


 ステプレを見せるわけにもいかないし、方法が見つからん。だが、こいつらはもう登録済みっぽいし。


「どうやって? 普通に受付でやってもらったよね」


「何言ってんの、こいつ」


 里穂といた二人は軽蔑した目で来栖を見ていた。


「普通に、って‥‥見せたら異世界人だってことバレちまうだろ」


 来栖は周りに聞こえないように声のトーンを下げる。


「それくらい、知られても問題ないわよ」


 里穂は何て事もない態度で答えるが、来栖はかなりの衝撃を受けていた。


 そうか‥‥異世界=正体を隠すってイメージがついてたな。冷静になって考えてみれば、バレても何の問題もないか。


「そっか、ありがとう。じゃあな」


 来栖はギルド登録をすべく、受付に戻る。その後ろ姿を眺めている里穂。その里穂を二人の女子が首を傾げて見る。


「里穂ちゃん、来栖のどこがいいんだろうね」


「全く、わからないわ」




「すいません、ちょっと知り合いがいたので席を外してしまいました」


「えぇ、全然問題ないですよ。それではステータスプレートの開示をお願いします」


開示オープン


 来栖が自身のステータスプレートを見せると、受付のお姉さんは軽く驚くが、すぐに仕事に戻った。お姉さんはブロンズのカードを来栖に渡してくる。


 これが、ギルドカードか。‥‥って、何も書いてないし。


「これがギルドカードです。これに魔力を込めいただけますか?」


 魔力‥‥オープンの要領でやればいいはず。


 来栖はカードを手に取ると、カードに意識を集中させる。魔力を込めて始めて五秒程経つと、薄っすらとだがカードに文字が浮かぶ。




 真風 来栖


 ランク・・・・G


 SSランク・・・・0回

 Sランク・・・・0回

 Aランク・・・・0回

 Bランク・・・・0回

 Cランク・・・・0回

 Dランク・・・・0回

 Eランク・・・・0回

 Fランク・・・・0回

 Gランク・・・・0回




 おぉー、すげえ。ステプレ出した時もそうだが、こう言うファンタジー要素見るとテンション上がるよな。


 来栖は浮かび上がってきた文字に感動ながら、カードを弄って遊ぶ。


「あちらのクエストボードにて依頼を選んでいただき、受付まで持ってきてくだされば、依頼を受ける事が出来ます。あとランクについてなんですが、Bランクのクエストまでは基本的に誰でも受諾可能ですが、Aランク以降のクエストは自分のランクと同じものまでしか受ける事が出来ません」


 まぁ、普通だな。


「依頼の一定量の達成に応じてランクは上がっていきます。目安としては同ランクのクエストを三十回程です」


 三十か‥‥多いな。まぁ、高ランクのクエストを受け続ければ問題ないか。


「もし、期限内に依頼を達成出来なかったら、違約金として依頼料の半額を支払っていただきます。何か、質問はありますか?」


 半額か。高ランクを失敗するのはリスクが高いな。


「いいえ、ないです。ありがとうございました」


 受ける登録を終えた来栖はクエストを探すためにG〜Eランク用クエストボードへと歩き出す。


 違約金があるのか。なら、今からやろうとしてる事、結構危ないよなぁ。かと言って、ライとも約束しちまったし‥‥やるかな‥‥。あー、萎えるわ〜。


 クエストボードの前で来栖のクラスメイトどのクエストを受けるかで騒いでいた。


「あれ、来栖か? お前もクエスト受けに来たのかよ」


 こいつは‥‥確か、いっつも不動峰に引っ付いてるチャラ男か。


 チャラ男の発言でその場にいたクラスメイトの視線が一気に来栖に集中する。


「あぁ、そうだ」


 こんな奴らとは関わらないに越した事はないな。さっさと終わらせよう。


 そう決意した来栖は人と人との間を上手く通り抜け、クエストボードの前まで行く。その時には、クラスメイトの関心は来栖から逸れ、それぞれ話していた。


 うーんと‥‥結構あるな。ここにあるG〜Eランクの間でも五十くらいか。まずは、条件に合うものから探してみるかな。


「ねぇ、来栖」


 里穂はクエストボードの前で悩む来栖の横に並ぶ。


「‥‥浅野さんか。さっきは助かった」


 条件に合うのが五つか。この中から選べばいいかな。


 来栖は里穂に一切構う事なく依頼書に集中する。


「昨日、観光をするって言ってたよね」


「あぁ」


 来栖は三枚の依頼書を手に取り、その内容を熟読し始める。


「それで、私もこの異世界について色々興味あるからさ‥‥」


 そこで里穂の言葉が途切れる。


 えっ、だから何? それでお終いなの? 意味がわからん。


 来栖はその場を去ろうと里穂に背を向けると、目の前にはクラスで見慣れた男が立っていた。


「どうした、不動峰。俺に何か用か?」


 不動峰は敵意をむき出しにしている事に気付いた周りのメンバーが来栖と里穂、そして不動峰から少し距離を取る。


 はぁ? 何が始まるんだよ。


「おい、里穂。お前、本当にこいつを入れた方がいいって思うのか?」


 不動峰は来栖を無視し、奥にいる里穂に尋ねる。


「そうよ。来栖は結構強い‥‥はずよ」


 詳細がいまいち掴めねぇが、流れはわかった。多分、これは俺と不動峰が戦うやつだ。結局はテンプレ様の言う通りって事だな。


 来栖はとりあえず、腰のミスリルナイフに手をかけ、不動峰の動きに注意を払う。


「だってさ。里穂がお前を推してるから期待してたけど、元の世界と大して変わってねぇじゃねぇか。今レベルなんぼだ?」


「‥‥1だ」


 来栖の発言を聞き、来栖と里穂以外のほぼ全員が多かれ少なかれ笑い出す。その中でも不動峰は腹を抱えて笑い、来栖に喧嘩を売っていた。


 チッ、こいつらうぜぇな。穏便に済ませようと思ったけど、それじゃあ俺の気が収まらねえ。


「ちょ、お前それで里穂に強いとか言ってんのかよ。ただの雑魚じゃねぇーか」


「そんな、別に来栖が強いって言ったわけじゃないわよ」


 来栖は懸命に弁明しようとする里穂に対し、手を横に出し、静止をかける。


 多少のレベル差なんて関係ない。ぶっ倒してやる。


「おい、不動峰。俺に喧嘩売ってるよな? なら、言葉じゃなくて拳で来いよ」


 来栖は腰のミスリルナイフを見せびらかすかの様に抜き、不動峰に突きつける。


「えっ、ちょっと、来栖!! 何やってんの!!」


「おもしれえ。里穂があんだけ推してんだ、その実力試してやるよ」


 不動峰もゆっくりと鞘からショートソードを抜く。もはや里穂は二人を止めれず、ただ見ている事しか出来なかった。


 間合いも実力も経験もあっちの方が上。普通にやって、勝てるか? 上手く不意をつければ‥‥。


 来栖が辺りに目を走らせていると、不動峰が剣を片手に来栖に飛び込んで来る。思考に意識が向いていた来栖は不意を突かれた形になり、否応なくナイフで剣を受け止めた。


「おいおい、どうした。喧嘩ふっかけた割には随分とおとなしいじゃねぇか」


 鍔迫り合いになった二人は至近距離で互いを睨みつけ合う。レベル差の影響か、ナイフが少しづつだが押され始める。


 鍔迫り合いは不利だと判断した来栖はナイフを持っていない手で拳を作り、無防備な不動峰の腹を殴りつける。


 くそっ、直前で腹筋固められて威力を殺された。流石にこの大グループのリーダーなだけはあるな。だが!!


 来栖は不動峰に突撃する、と見せかけて間合いに入る寸前で右に曲がり、椅子を一つ掴むと不動峰の顔面目掛けて全力で投げ飛ばす。それをショートソードを駆使して弾き返す不動峰だが、その視界にはすでに来栖はいなかった。


「後ろが、がら空きだ!!」


 上手く回り込んだ来栖は渾身の蹴りを不動峰の背中に打ち込む。


 よし、効いてる。


「雑魚が、調子乗り過ぎだ。攻撃強化アタックライズ


 詠唱と共に不動峰の体を赤い光が包み込む。


「鋼夜、やり過ぎよ!!」


 里穂の声は二人には届かず、不動峰が来栖に仕掛ける。


 バフスキルか。攻撃強化、力が上がってんなら次は防げねえぞ。


 来栖は不動峰の斬撃を紙一重で避け続ける。が、次第に追い詰められていき、来栖の劣勢は誰の目にも明らかだった。


 くっ、攻撃する暇がねぇ。


 不意に来栖は足を滑らせ、バランスを崩す。


「やばっ!!」


 回避を諦めた来栖はナイフで斬撃を受けようとするが、ナイフごと体を吹き飛ばされる。来栖はすぐに立とうとするが目の前に剣を突きつけられると、ナイフを捨て両手を上げる。


 負けちまった‥‥


 不動峰は無言のまましばらく来栖を見つめていると、そのままその場を離れる。


「来栖、大丈夫?」


 もはや、来栖の耳には里穂の声など届いていなかった。


 次は、勝つ。


 そう決意した来栖は床に落ちたナイフを拾うと、黙って受付に向かう。

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