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十六話

 外壁を乗り越えた朱龍が街の上を飛び回り、ブレスで街を燃やし始める。その姿を見た街人は逃げる足を早めた。


 おいおい、流石にやばくねえか? 本気でやればぎり勝てるか?


 来栖は新たに手に入れたナイフを抜くと朱龍の降り立った方角へ足を向ける。すると、ルークに後ろから肩を掴まれ、引き止められた。


「待て。どこへ行くつもりだ?」


「はぁ? あの朱龍を倒しに行くんだよ。駄目か?」


 倒せるかどうかはともかく、戦力にはなるだろう。


「駄目だ。我々はエミリアを守りながら一度、後退する」


 そっか、護衛中だったか。くっ、朱龍と戦ってみたいけど‥‥護衛対象を放置はできないか。


「‥‥わかった」


 来栖の簡素な返事の後三人は人波に紛れながら走り始める。来栖とルークの二人はエミリアの速度に合わせながら背後に気を配った。しばらく走ると、大きな人の塊が見える。


「あれって、ぜんぶ街人かよ?」


 一見して二百以上。所々に武器を持った人もいて、辺りを警戒していた。来栖は周りにいた人の話し声に耳を傾ける。


 全方位‥‥囲まれてるのか。逃げ場ないじゃん。


「そうだろうな‥‥エミリア、大丈夫か?」


 ルークが息切れをしているエミリアに声をかける。


「はぃ‥‥だい、じょうぶです」


 呼吸が荒いし、汗もかなりでている。どう見たって限界だろうな。


「で、ルーク。こっからどうすんの? このまま隠れてるの?」


 ルークはあくまでもエミリアを守りたいらしいからな、隠れるのがベストだ。


「いや‥‥クルス、少しの間エミリアを頼んだ」


「ん? あぁ」


 ルークはそのまま人混みに紛れてどこかへ行ってしまう。エミリアを任された来栖は万が一を考えて、ギリギリまでエミリアに接近しておく。


「エミリア、ルークが何をしようとしているかわかるか?」


 どうにもルークの考えが読めないんだよな。


「いえ‥‥わかりません」


「‥‥そっか」


 二人の間でしばし続く沈黙。


 エミリアってあれだな。会話を続けにくいタイプだな。なんつーか、話題の切れ率がかなり高い。かなり気まずいよ、これ。


 ふと来栖が高台にいるルークを見つける。


 あんな所に立って、何をする気だ?


「静粛に!!」


 案の定、ルークの大声がざわめいていた人々を静める。その場にいた全ての人の視線が集まったルークは全く物怖じする事なく続けた。


「私は、一介の剣士であるルークだ。一つ、頼みがあってこの場に立っている」


 頼み‥‥協力者を求めるのか? でもそうすると、魔物の群れと戦う事になるな。


「私達はこれより、魔物の群れを突破し、他の街へと援軍を求めようと思う。もし、戦う意思のある者がいるのなら、力を貸して欲しい。以上だ」


 ルークはそのまま高台から飛び降りると、人の少ない方へと歩いていく。


 ここにいる手練れ達が本気を出せば余裕だろうな。まぁ、とりあえずはついて行くか〜


 ルークの後について行った者は来栖とエミリアを入れて二十人。その場にいた人々の約10%がついててきた事になる。ルークは一般市民から十分に距離を取った所で立ち止まった。


「二十人、か。なら、五チームに分かれて行動する。それと極力知り合いとチームを組むようにしてくれ」


「ちょっと待ってくれ。バラけたら危険じゃないか?」


 大弓を携えた狩り人らしき人物がルークに食ってかかる。


「いや、一つに集めたら全滅した際に救援を呼ぶ者がいなくなる。だが別れたら、例え一つが全滅しようとも他に託す事が出来る。他に何かあるか?」


 魔道士は渋々下がっていく。他の人も不安そうな表情をしつつも、何も言わなかった。


 ‥‥表向きは連携がとれやすいように。だけど実際は、エミリアと同じチームになるための口実だな。まぁ、俺には関係ないか。黙って仕事をこなすとしますか〜


 来栖は近くにいたエミリアと共にルークの元に行く。周りを見渡すとすでに他四チームができていた。


「うむ、どうやら三人で問題なさ──」


「ちょっと待った。僕も君達のチームに加えてくれないか?」


 三人の視線が声の主に集まる。


 こいつは‥‥


 真っ赤な髪に燃えるような目。ブリュッセル門前でルークと戦っていた魔導師だった。


「貴様は‥‥」


 ルークの手が腰に差してある剣へとのびる。


「落ち着きたまえ。僕は君達と争いに来ているわけじゃない。わかったらその右手を柄から離したまえ」


「‥‥っ」


 ルークは小さく声を漏らすと剣を握る手を離した。


 こいつはかなり強い。多分、ルーク以上。下手したら俺より上かもしれない‥‥だけど、こいつが味方になれば‥‥


「名乗るのが遅れたね。僕の名はフレイ、炎の魔導師さ」


 フレイは笑顔で手を差し出してくるが、ルークはその手を取ろうとはしなかった。すると、来栖が横からフレイの手を握る。


「俺はクルスだ。よろしく」


 後衛職が一人いれば火力もかなり上がる。ここは、我慢だ。


「君は、あの時の‥‥?」


「あぁ、そうだ。あの時は邪魔して悪かったな」


「あのくらい気にしていないさ。それに僕の方に非はあったからね。で、僕はこのチームでいいの?」


 来栖はルークの拳が震えている事に気がつく。


「フレイ‥‥すまない。力を、貸して欲しい」


「もちろんだよ。三人で力を合わせて頑張ろう」


 ルークはグループの中の代表者が集まる様に指示する。来栖らのグループからは当然、ルークが行った。ルークがいなくなると、フレイに怯えていたエミリアがスッと来栖の後ろに隠れる。


 おいおい、猫かよ。


「エミリア、そんなに怖がらなくても大丈夫だ‥‥多分な」


 来栖は少し遅れてから一言付け足した。それでもエミリアはフレイへの警戒を解かず、来栖にくっつく。


「でも、あの時‥‥先に攻撃したのは、フレイ、さんです」


 あ、やっぱりか。ルークから仕掛けるのは性格的にありえないからな。


「へぇー。フレイ、何か弁明してみたら?」


 仮にもこいつには背中を預けなきゃなんねえからな。敵対はしたくない。


「でも僕の事を先にバカにしてきたのはあそこにいる剣士だろ? 僕は誇りを傷つけられて黙っているほど優しくはないよ」


 来栖の服を握るエミリアの手の力が強くなる。と、そこに話し合いを終えたルークが戻って来た。


「我々は東にあるムラージュを目指す事になった。二十分後に行動開始だ。それまでに準備を整えておいてくれ」


 来栖、ルーク、フレイはすぐに分かれて物資を集め始める。来栖は近くにあった肉屋から干し肉を取ると代わりに百ペター程置いていく。


 ムラージュ‥‥確か、商人の町とか呼ばれていたか。距離は歩いて一週間以内には着く、だとすると食料はこれで十分。後はナイフの調達かな。




 話し合いが終わってからちょうど二十分後、装備を整えた四人は集合する。ルークは食料を多めに持ち、フレイは魔石を手にしていた。


「準備はいいな。では、行くぞ!!」


 四人は東に向かって一斉に走り出す。来栖の予想を裏切り、エミリアも魔力操作を使い脚力を強化する事で、他の三人についていった。


 意外だな。エミリアが魔力操作を使えるとは予想もしてなかった。ルークが背負って行くもんだと思っていたけど、少しは戦闘も楽になりそうだ。


 町道を駆ける四人の前に無数の魔物が姿を見せる。一体一体のレベルはかなり低いもののその数は百近くいた。


 あんまり雑魚と戦いたくないんだけどな〜。そうも言ってられない‥‥?


 並走していたフレイが突然スピードを上げると、テニスボール程の赤い魔石を三つ、魔物達のど真ん中に投げ込む。


「右手に宿すは全てを燃やし尽くし紅き炎、左手に宿すは全てを浄化せし蒼き炎、相反する二つの道が一つなりし時、大いなる力となる‥‥紅蒼クロスフレイム


 フレイの両手から放たれた炎は魔物を燃やし尽くしながら投擲した魔石に当たった。炎が魔石に触れるや否や激しい爆音と共に魔物達を巻き込んだ大爆発がおきる。


「むっ‥‥」


「すごい‥‥」


「こりゃあ、火力高過ぎだろ」


 俺がこんなもん喰らったら一発で死んじまうな。


 燃え上がった赤青の炎がその場にいた魔物を消し炭に変えると、鎮火する。


「さぁ、先を急ごっか?」


 笑顔のフレイを先頭にして一行は足を早める。先ほどの攻撃で東側にいた魔物をほとんど倒したのか、特に魔物の群れと出会う事はなく、会っても二、三体と少数のみだった。


 おかしいな‥‥確かにフレイの魔法でかなり倒したけど、あれで終わりとは思えない。多分、まだどこかに伏兵がいる。


 そう考えていた来栖の思考とは裏腹に東門を抜けても高レベルの魔物に遭遇する事はなく、四人は平野を走っていた。


「敵だね。後ろから一体‥‥結構強そうだけどどうする? 僕が本気でやれば倒せそうだけど」


 今のペースはエミリアの足に合わせてる。これ以上は上げられない。なら‥‥


「迎撃するぞ」


 すぐに方向転換すると、来栖が前に立ち、その後ろにルーク、フレイ、エミリアと並ぶ。ブリュッセルの方に小さな黒い影が見えた。


 流石にルークもフレイにエミリアは任せられないか。フレイが後衛をやってくれるなら心強い事この上ないけどな。


 次第に大きくなる黒い影は止まることなく来栖へ向かって来る。


 あー、ありゃ‥‥ヤバイな。余力残すとか、無理そうだな。


 来栖はククリナイフを右手に持つと、魔力をナイフへと集中させる。


刀剣現化ブレイド


 魔力でかたどられた三日月を手に黒い人影に向かって走り出す。


 あれは‥‥全身が黒の装束に、両手に‥‥クナイ? 俺の知らない魔物だな。


 クナイは忍者が使う武器の一種で独特の形状をした両刃ナイフ。近接戦の他に投擲用としても使われている。


 あれじゃあ、まるで忍者だ。


 互いに走っていたため一瞬で距離は詰まり衝突する。来栖はリーチの差を鑑みて、先手を打つ。だが、忍者は曲刀独特の攻撃を完全に見切り、片手に持ったクナイで受け止めると、もう一方の手のクナイで来栖の心臓を狙う。


「あっ、ぶね」


 来栖は間一髪のところで体を半身にして避けると、相手の反応に警戒して一旦引いた。


 今、俺の攻撃に普通に反応しやがった‥‥この状態の速さについてこれるって事は敏捷は四百くらいか? って、胸元軽く切り裂かれてたし。


 来栖は三日月で相手を牽制しながら、左手で軽い止血をする。止血中、不意に忍者がクナイを投げ出す。クナイを三日月で明後日の方向に弾き飛ばすと空中でクナイが霧散する。


 まさか、あれも魔力で作った武器か。


散炎弾ファイヤーリード


 フレイの手から生み出された十発の火弾が忍者に飛ぶ。忍者が回避行動を取っている間に来栖はフレイの所まで後退する。


「あいつは何だ? 人‥‥ではないよな?」


「知らないのか? あれは魔王の眷属、闇忍だ。忠実に魔族の命令を果たすらしいよ」


 やっぱり忍者かよ。


 と、雑談していると闇忍が二人に向かって来る。


「話している暇はない。クルス、闇忍の動きを止めてくれ。僕が仕留める」


 動きを止めろ、ってそれが難しいんだよ!!


 来栖は心の中で愚痴りながら闇忍と武器をまじ合わせる。手数は圧倒的に闇忍の方が多いものの、若干速い来栖はどうにか回避していた。


 クッソ、こいつ‥‥俺から離れねぇ。フレイが狙ってる事に、気づいてやがるな。だけど、こっちもいつまでも戦ってるわけにはいかないだよ。


 覚悟を決めた来栖は三日月を捨てて、両手それぞれで闇忍が持っていたクナイの刀身を掴む。剥き出しの刃が来栖の手を切り裂き、血が溢れ出す。


「フレイ!! 今だ」


「ナイスだ、クルス。爆炎槍ブラストランス


 フレイは溜めていた魔力で槍を作ると、それで闇忍を貫く。貫いたのを確認した後で来栖は両手を離して後ろに逃げる。


「弾けろ」


 フレイの言葉に反応して闇忍を貫いた槍が爆発する。来栖はすぐにナイフを取り出し、倒れた闇忍を警戒すると動き出す様子はなかった。


「‥‥死んだか?」


「もちろんさ。闇忍はそこまで生命力が強いわけではない。胴体がやられた時点で死んでいるよ」


「そうか」


 両手を切っちまったか。まぁ、回復薬を飲めばすぐに治るからどうでもいっか。


 腰袋から出した回復薬を一気飲みすると、途中で捨てたククリナイフを拾う。


「いつまでもここにいたら危ない、早く移動しよう」


「あぁ、わかった」


 来栖はククリナイフをしまうと、フレイの後を追ってルークらのいる場所へと走り出す。


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