十五話
で、この後どうしよう? 助けたはいいけど、この後の事なんも考えてなかった。
「なぁ、一緒にいた剣士はどうしたの?」
見た感じ、エミリアの護衛とかだと思ったんだけど。
「この街に入ってすぐにお金を盗まれたのでそれを取り返しに行っている間に‥‥」
連れ去られた、っと。
「あー、そりゃあ、その金を盗んだ奴もグルだわ。エミリアが一人になるのを狙ってたんだろうよ」
エミリアの表情が強張る。
やばっ、怖がらせちゃった。
「大丈夫、大丈夫。俺が守るからさ、安心しなって」
俺、何かかっこいい事言ってるな。ってか、エミリア、普通に美人だな。なんて言うか‥‥品がある。
「‥‥うん」
エミリアは小さな声で返事をする。
「じゃあ、いつまでもここにいるわけにもいかないし、適当に歩くか」
周りには気絶したゴロツキどもがいるため、来栖はここにあまり長居したくなかったのだ。エミリアは黙って来栖について来るのだが、来栖も辺りに細心の注意を払い警戒していた。
以外とあの剣士も見つからんし、怠いな。そう言えば、もう七時過ぎてるのか。‥‥宿に連れて帰るか?
来栖が一人、葛藤しているとエミリアが突然足を止め、露店で行われている取引を見ていた。
「どうかしたのか?」
特に珍しいものではないと思うが。
エミリアは返事もせずに見ているので、来栖も取引中の会話を聞いてみる。
「この三つがセットで70ペター!! 普通に買うより、お得だよ!!」
商人が商品を並べる。
「これが25ペター、こっちが20ペターで一番右が20ペターだよ」
おいおい、どう見てもバラで買ったほうが得じゃねーかよ。
「よし、それなら買うよ。70ペターだな?」
マジかよ、足し算もできな‥‥もしかして、これがこの世界での水準なのか? だとしたら、低すぎねえか。
来栖の横にいたエミリアも興味がなくなったのか下を向いている。
「おい、そこの人。その取引は止めた方がいいよ」
あからさまに商人の目つきが変わる。
「何だ、お前?」
「まぁ、まぁ。でも、そのセット、バラで買ったら65ペターで済むからそっちの方が得だと思うよ」
小さく商人が舌打ちをする。
やっぱり騙す気だったのか。まっ、どうでもいいや。あの剣士を探さなきゃ。
来栖が再び歩き出すと、その横にエミリアが並ぶ。
「あなたは計算が出来るの?」
「そりゃー、出来るけど。それがどうかしたか?」
エミリアは何かを言いたげに口を開くが、何も言わなかった。
あー、これって多分──
「計算を教えて欲しいのか?」
なんとなくだけど、多分そうだと思う。
「‥‥うん」
エミリアは小さな声で呟く。それを聞いた来栖は頭を悩ませる。
別に教えるのはいいんだけどなぁ〜。この世界の基準がわかんねえし‥‥っても四則計算くらいでいいか。
「計算くらいなら教えるよ」
エミリアの顔がパッと明るくなる。
「本当!?」
おぉ、そんなに驚くことか?
「あぁ、本当だ」
エミリアはさっきまでと違い、嬉々とした表情でいる。
剣士はどうすっかな〜。まぁ、あっちから見つけてくれるか。
「エミリア、腹減ったから適当な所で食事摂らないか?」
「えっ‥‥でも、お金が」
ない感じ? 憶測だけどあの剣士が管理してるっぽいな。
「あー、いいよ。俺が払うから気にしないで。それより、どんな店に行きたい?」
エミリアは少し考えてから口を開く。
「できれば、なんですけど‥‥クラック領の料理が食べたいです」
クラック領? 随分と遠い所だな。なんとなく訳ありだとは思ったけど、当たってたか。
「探してみるか」
朝日の光を浴びた来栖が目を覚ます。来栖はすぐに身支度を整えると、隣にあるエミリアの部屋まで行きドアをノックする。するとまるでずっとドアの前で待っていたかの様に即座にドアが開く。
「おはよ」
「おはようございます」
微妙な沈黙に耐えれなかった来栖が切り出す。
「俺は下で待ってるから準備出来たら降りてきて」
「もう、出来てます」
あ、そう。俺の心遣いは必要なかったと。
「じゃあ、剣士を探しに行くぞ」
「‥‥はい」
しかし、どうやって探すかなぁ。普通にあっちから来ると思ってたんだが‥‥
来栖達は宿屋の扉を開けて外に出る。と、そこには門前であった剣士がいた。
「無事でしたか!!」
剣士は来栖には目もくれずにエミリアの元に駆け寄る。
なんかよくわかんねえけど、これで解決かな?
感動の再会、という訳ではなさそうだが二人は来栖をそっちのけで話し込んでいる。そんな時、来栖のスマホが音を鳴らす。
ん? メールか。相手はもちろん‥‥ライか。内容は、っと、えーと少し用事が出来たから勝手にやってろ。えっ? いくら何でも雑すぎじゃね?
来栖は深いため息をつくと、視線を二人に戻す。
「貴方がエミリアを守ってくれたのですね。感謝します」
剣士はそう言って頭を深く下げる。
「私の名はルークと申します。現在、とある事情によりエミリアの護衛をしております」
「へぇー」
やっぱりこいつ強いな。なんつーかな、身のこなしに隙がない。
「それで、クルス殿の強さを見込んで一つ頼みが在るのですが」
あっ、これイベントフラグだ。
「クルスでいいよ。で、頼みって何?」
この手のイベントの先にはレアアイテムがあるはず!!
「はい‥‥エミリアの護衛をクルスにお願いしたいのですが」
護衛? また、意外なのが来たな。まぁ、別にいいけど。
「エミリアは何かに狙われているのか?」
昨日の連中は‥‥ないか。
「それについては、言いかねます」
ルークは申し訳なさそうに頭をさらに下げる。
やっぱり訳ありか〜。どうすっかなー。しばらく暇だし、ついて行くのも悪くはないな。
「まぁ、いいよ。エミリア一人の護衛くらい大した事じゃない。で、肝心の報酬は?」
これがメインだけどな。
「報酬‥‥ですか。一日あたり‥‥300ペター程で、どうでしょうか?」
安っす!! それくらいクエスト受ければ一瞬で稼げるわ。
「あー、金はいらないから他に何かないか?」
来栖はチラッとルークの装備を見る。
剣に胸当て、ブーツと‥‥おっ、良さげなナイフ持ってる。
物欲しげな目で見ているとルークが視線に気づく。
「まさか、このナイフが欲しいのか?」
柄の部分に装飾が入ってるな。かなりの高級品じゃないか?
「今ちょうどナイフが足りてないんだ」
「むぅ‥‥だがこれは、王から授かった物で‥‥いや、エミリアの命には変えられない。いいだろう。このナイフをくれてやる。代わりに、絶対にエミリアを守ってくれ」
ルークはナイフを鞘ごと抜き取ると来栖に差し出す。
「あぁ、わかった。命に代えても守るよ」
この台詞、ちょっと言ってみたかっただよな〜
来栖はナイフを受け取るとすぐに懐へと入れ、代わりにククリナイフを取り出す。
「じゃあ、早速だが仕事をするとしようかな」
来栖は振り向きざまにナイフを投げると僅かにカーブして路地裏に入り込む。すると、鈍い音を立てた後に痛っ、と誰かの叫び声が聞こえる。
「おおかた、人攫いの連中の一人だろうな」
来栖が路地裏まで歩くと、そこには足にナイフの刺さった男が倒れていた。来栖はすぐに男の胸ぐらを掴むと、壁に叩きつける。
「お前は誰の命令で動いてる?」
「ひぃ‥‥止めろ、止めてくれ!!」
チィ、うるせえな。
男の服を握る力を強める。
「早くアジトの場所込みで言えって。そうしたらどうでもいいから」
「本当か?」
「あぁ」
来栖はうんざりとした顔で答える。
「東にある酒場だ。そこにほとんどのメンバーがいるはず」
あ、聞いてもわかんねえや。
荒々しく足に刺さったナイフを抜く。
「痛え!!」
「ほら、せっかくだからそこまで案内して」
「クッ‥‥わかったよ!!」
足に最低限の処置をさせると酒場に向けて歩かせる。すると後ろからルークとエミリアがついてきていた。
「ルーク? お前らも来んのか?」
護衛対象のエミリアを連れて行くのは賛成できないんだがな。
「我々の側にいるのが一番安全だろう。それにクルスの強さも見たいしな」
「あんまり期待すんなよ」
来栖が男を小突くと再び歩き出す。
歩く事十五分程、来栖らは小さな酒場の前に来ていた。外装からしてボロボロで、普通の人が寄りつく様には見えない。
「ここです」
ここが、アジトね。そこまで大きい組織じゃなかったな‥‥いや、別に残念とかいう訳じゃないんだけどね。
「ご苦労さん。もう帰っていいよ」
来栖は男を解放すると酒場の扉の前まで移動する。
「ルークも入るのか?」
こいつの前で一度、刀剣現化を使ってるからな〜。護衛をするならいつかは見せる事になるだろうけど、今回は必要ないか。
「もちろんだ」
「エミリアは怖くないのか?」
流石に自分を誘拐した組織のアジトに行くのは怖くないか?
「ルークと‥‥クルスが守ってくるので、平気です」
わぁ〜、信頼されるよ。
「そうか。じゃあ、行きますか」
来栖は勢いよく酒場の扉を蹴り破ると、中に転がり込む様に侵入する。中にいた数人の男達が来栖を囲む。
「何だお前!!」
「ここがどこかわかってんのか?」
うわっ、怖え〜。大体‥‥三十ってとこか? まぁ、何人いたってこのレベルなら余裕だけどな。
「おじゃしまーす。ここは人攫いのアジトで間違いないよな?」
来栖はその状況でも挑発を続け、相手を怒らせる。
「てめぇ、ガキだからって手加減すると思うなよ」
おいおい、質問には答えろっつうの。もういいや、ぶちのめそう。
ククリナイフを思いっきり振り切り、周りにいた男達を一瞬で切り裂く。あまりの速さに反応できなかった男達は小さなうめき声を上げながら倒れる。
腹をちょっと切った程度だ。死にはしないだろ。
来栖は酒場の中を全力で駆けながら、通り過ぎざまに腕や肩を切りつける。
「くっそぉ、当たらねえ。おい、誰か魔法を使え!!」
リーダーらしき人物が叫ぶと三人が詠唱を開始する。
させるかよ!!
昨日買ったばかりのナイフを三本、正確に魔法使いの腹に命中させる。余裕ができた来栖が入り口に目をやると、ルークが剣技で数人を制圧していた。
おぉ、凄え。やっぱり強いな。
と、敵の一人がルークの戦いに見惚れている来栖を背後から剣で襲おうとする。しかし、来栖はそれを跳躍して躱し、逆に相手の背後に着地した。
「殺気を出し過ぎ」
首を絞めて意識を刈り取る。
これでほとんどは倒したかな? 後は‥‥
来栖は酒場の真ん中にいるリーダーの真ん前まで跳ぶ。リーダーは二メートル程ある巨漢で、重そうな大剣を背負っていた。
「あんたがリーダーか?」
「お前、何者だ?」
「何者? そうだな‥‥しいていうなら旅人かな」
「ふざけやがって‥‥死ね!!」
振り下ろされた大剣をナイフで受け止める。
「な‥‥に?」
「力弱くないか? その程度でよく大剣を使おうとか思ったな。あ、言い忘れてた。今度、エミリアに手を出したら殺すから、以上」
無防備な腹に蹴りを三発撃ちこむと、リーダーはそのまま意識を失った。
「やはり、強いな」
後ろからルークが声をかける。
「この程度ならルークでも出来んだろ。さてと、宿屋に戻るとしますか」
来栖らは酒場を後にする。
宿屋に戻るために表通りに来た三人だったが、周りにいる人は一目散に一方向へと走っていた。
「何だこれ。何が起きてんだ?」
「まさか、これは‥‥」
‥‥まさか? 何か知っているのか?
突如、爆音が響き渡る。来栖は走っている人の肩を掴み、引き止める。
「おい、何があったんだ?」
「お前ら、知らないのかよ。北門が魔物の群れに破られたんだよ。もうすぐここにも魔物が押し寄せてくるぜ」
マジ、かよ。強制イベントとか、そこらへんか?
その時、外壁を超えて一体の魔物が街の中へと入ってくる。真っ赤に染まった鱗の鎧。何よりも大きいその体。全てを切り裂く鋭い爪。それらを兼ね備えた、朱龍がブリュッセルへと降り立つ。




