十三話
来栖は何のひねりもなく真っ直ぐ、アークスケルトンに向かって行く。当然、アークスケルトンが黙っているはずもなく、大剣を振るう。それを視認した来栖は剣を横に構え、大剣を受け止めた。大剣の圧倒的質量に来栖の体が持っていかれそうになるも、腰を落としてどうにか堪える。
「グッ‥‥」
流石に‥‥重い、な。でも、これぐらいなら‥‥
両足と右腕にありったけの力を込める事で大剣を弾き返す。その勢いでアークスケルトンも二、三歩後ずさるが、すぐに態勢を立て直した。
刀剣現化による身体能力補正、結構ありそうだな。まさか、片手で押し返せるとは思わなかった。これなら、十分に打ち合える。
来栖が剣を握り直していると、アークスケルトンが一歩踏み込み、斬りつけてくる。来栖はそれを避けずに、剣をぶつける事で軌道を逸らす。
こいつの攻撃も慣れてきたな‥‥
アークスケルトンはこれでもかと言わんばかりに来栖に剣を振るが全て流される。
そろそろ、決めるかな。
来栖が振り下ろされた大剣を僅かに横にずれて避けると、大剣は勢いよく地面に突き刺さる。
「さぁ、これで終わりにしようか」
来栖が魔力を剣に流し込むと、再び剣が光を放ち始める。
「刀剣解放」
自然と‥‥スキルに使い方が‥‥思い浮かぶ。
来栖は片手で持った剣を後ろに引くと、アークスケルトンの顔の高さまで跳躍する。
「聖光撃」
来栖がナイフに込められた魔力を一気に解放すると、アークスケルトンを飲み込むほどの光の斬撃が生まれ、その余波が地面を揺らす。
来栖の一撃により舞い上がった土煙がその姿を覆っていた。
「どう‥‥なったんだ?」
誰かが長い間続いた静寂を破る。
「来栖‥‥!!」
じっとしている事に耐えきれなくなった里穂は走り出す。
「‥‥呼んだか?」
土煙の中から何事もなかったかの様な平然とした顔つきの来栖が歩いて来る。里穂は走った勢いのまま来栖の胸に飛び込んで抱きつく。里穂の気持ちに感づいていたクラスメイト達は暖かい目で二人を見守る。
‥‥えっ?
当の本人は、今起こっている状況を一切掴めず頭が真っ白になっていた。
これは‥‥どういう事だ? いや、確かによく見る展開だけど‥‥そういう事なのか? いやいや、現実はそんなに甘くない、はずだ。まずは‥‥どうしよう?
「浅野さん? どうしたの?」
「知らないわよ‥‥」
えーと、何にもわかんねえ。
ふと、里穂を抱きしめていた来栖は朱莉と目が合う。里穂はウィンクをすると、その場にいたクラスメイトを連れ、村の中へと向かって行く。
‥‥もう、わかった。やっぱり‥‥そう言う事なのか。
とりあえず来栖は里穂を体から引き離すと、里穂の両目をしっかりと見る。
「浅野さん‥‥」
来栖の脳内は混乱しており、何を話せばいいかすら、考えつかなった。
「その浅野さんって呼び方、禁止ね」
「はっ?」
里穂は人差し指を立てて来栖に向ける。
「前々から思ってたのよ。他の人はみんな里穂って呼んでるのに、来栖は呼ばないのはおかしいでしょ? だから私の事は里穂って呼んで」
「あ、あぁ。わかった」
突然の事で呆然としたまま返事を返す来栖。里穂はそんな来栖を見て、僅かに頬を染める。
「じゃあ、私は戻るから」
そのまま里穂は来栖から逃げる様にして朱莉達の後を追う。その場に一人残った来栖は深いため息をつくと、真っ暗な空を見上げた。
「結局‥‥あやふやな感じで収まったし。俺はどうすりゃいいんだよ‥‥」
村に戻った来栖は取っていた宿屋に戻ると、部屋に置かれていたベッドに横になる。
何か‥‥無駄に疲れたなぁ〜
体を起こした来栖は装備品を机の上に並べていると、一つの事に気づく。
浅野さんから借りたナイフ、返すの忘れてた。
アークスケルトンと戦っていた時は手持ちのナイフがなかったが、投擲したククリナイフを回収した今、ナイフを借りている意味はない。
後で返すとするか‥‥
何気なく左腕を動かして見ると、普段と何ら変わりなく動いた。
どうやら回復薬も効いたみたいだし、これで問題はないな。‥‥だけど、どうも治してもらった右腕の方がしっくりとくるんだよなぁ。
両腕を動かし比べ、その差を実感する。
あ、まだ晩飯食ってなかったっけ。この宿、確か料理はつかなかったな。しょうがない、どっか食いに行くか。
来栖は机の上にあるククリナイフと銭袋を持ち、立ち上がる。扉に手をかけたところで一度、戻り里穂から借りたナイフを腰袋に投げ込む。
コンコン
誰かが部屋の扉をノックしているな。誰だろう? 浅野さんじゃね?
コンコンコン
一回‥‥増えたな。しょうがない、開けるか。
来栖は扉の前に立つとゆっくり扉を開ける。
「朱莉!?」
扉の向こう側にいたのは怒り気味の朱莉だった。
「ちょっとー、さっさと開けなさいよ〜」
「何の用だよ」
朱莉が来る理由がマジで見当たらない。
「なーんか冷たくない?」
「疲れてんだ、っつうの」
「そー、なら手短にいこーか。ちょっと付き合ってよ」
来栖は深々と息を吐き出す。
「お前、その発言、軽く矛盾してるぞ」
「え〜、そうなんだ。じゃあー、行こっか〜」
こいつ、俺の返事すら聞いてないし。まっ、いいか。どうせ出ようと思ってたんだ。ちょうどいいや。
「はいはい」
来栖は空返事を返し、朱莉の後をついて行く。
朱莉は人気のない村の中を淡々と歩いて行く。目的地に全く見当のつかなかった来栖は耐えきれずに質問する。
「朱莉、俺達はどこに向かってんだ?」
かれこれ五分近く歩いてるぞ。
「んー、適当」
「はぁ?」
朱莉は足を止め、来栖の方へ向き直る。
「あのさー、来栖」
「なんだよ」
「里穂の事なんだけどさー」
やっぱりか。まぁ、朱莉が言いそうな事はこれくらいしかないからな。
「一緒に‥‥連れて行ってあげてくれないかな?」
「連れて行く? 俺の旅にか?」
無茶だろ。あの強さで俺と旅したら‥‥普通に死にそうだな。
「そー、どうやら頼葉くんもいなくなったみたいだしね〜」
‥‥? あぁ、こいつら知らんのか。
「別にライとは一時的に分かれてるだけだから少ししたら合流するんだよ」
「えー、そうなんだ〜。それは残念だわ。でもさー、里穂の事、頼めないかな〜?」
「‥‥」
「ほら、今回の件でみんなも鋼夜についてくかどうか迷ってるみたいだし、いいチャンスなんだよねー」
そうか。まぁ、あれなら遅かれ早かれ同じ結果になってただろ。死人が出ていないだけよかったか。
「ね? 里穂を助けるつもりでさー」
助ける‥‥ね。
「悪いけど、その頼みは断るわ」
朱莉が一瞬、落胆した顔を見せる。
「そっかー。うん、時間取らせてごめんね〜。じゃあ、あたしは帰るから」
「あぁ、またな」
来栖は朱莉が宿屋へと戻って行くのを見ると、反対の方向へと歩き出す。
さーて、飯でも食いに行くか〜
と、来栖が行き先を悩んでいると後ろから朱莉が走って来る。
「ん? どうか、したのか?」
朱莉の手には小さな袋が握られており、それを無言で差し出しくる。
「ごめんね、これ渡すの忘れてた」
来栖は少し考えてから袋を受け取ると、その中身を確認した。
これは‥‥金か。でも、どうして?
袋の中にはパッと見で一万ペター以上、入っていた。
「これは?」
「うーんとね、あたし達からの謝礼と思って受け取っちゃって」
金は、貰っといて損ではない‥‥って言うか、俺は今、かなり金に困っているし、ありがたいな。
来栖は袋を自分の腰袋にしまいこむ。
「あ、やっぱり、受け取っちゃっうんだ」
「俺が断るとでも思ったか?」
「んー、思ってない」
何だよ、それ。
「まぁ、助かったわ。改めてさいならー」
「じゃあーねー」
来栖は朱莉と別れた後、すぐに見つけた酒場に入ると、カウンターに座り、適当に料理を頼む。注文を終えた来栖が周りを見渡す。すると、四つ程あった人の塊の中の一つに顔を見知りを見つける。
あれは‥‥不動峰か。一緒にいるのは、クラスメイトが三人。もしかして‥‥
会話の内容が気になった来栖は聞き耳を立てる。鋼夜と向かい合わせで座っていた三人の中の一人が真剣な表情で言う。
「俺達は‥‥もう鋼夜にはついて行けない。俺達は鋼夜や蓮ほど強いわけじゃないんだ。もう‥‥限界なのさ」
まぁ、あのグループは数人だけが特化してる感じだったし、流石にやっていけねえだろうな。
「お前らだけのやっていけると思ってんのか?」
「それはわからないよ。でも、もう‥‥あんな危ない目には会いたくなんだ。わかってくれ‥‥」
鋼夜に熱弁する少年の声は徐々に小さくなり、最後の方は消えそうな声だった。鋼夜は机を殴ると、一度気持ちを落ち着かせる。
「何で‥‥そう思った?」
「えっ‥‥?」
少年は鋼夜の質問に答えようとするが、答えが見つからずに困惑する。
まぁ、答えられる訳がないよな。大方、不動峰に守ってもらえると思ってたけど、今回の件でその信用がパーだからな。しゃーないわ。
「それは‥‥」
「嘘はつくんじゃねえぞ」
鋼夜はすごい剣幕で少年を睨みつける。
「今までは‥‥鋼夜さえいればどうにかなると思ってた。でも!! 今日、そうじゃない事がわかったんだ。確かに、鋼夜達は死なないかもしれない。けれど、僕達は弱いから死ぬんだよ。今日だって来栖がいなかったら大変な事になってた‥‥」
おっ、何か褒められた。ちょっと嬉しい。
「‥‥チィ」
鋼夜が小さく舌打ちをしたのを来栖は確かに聞き取った。
「だから、ここで終わりにする。さようなら、鋼夜」
三人はその場に立ち上がると頭を下げてから出口へと向かって歩き出す。
「待てよ!!」
鋼夜の声は店内に響き、村人達の視線が一心に集まる。そんな視線をまるでないかの様な鋼夜はどこかからか布袋を出すと、去ろうとする三人に渡す。
「餞別だ。持って行け」
マジかよ。不動峰の事、結構見直したわ。
中身を確認した三人は再度、深く頭を下げるとそのまま店を後にした。すると、村人達も興味を失い、各々の会話に戻る。
「ちき‥‥しょうが」
一人残った鋼夜は誰に言うわけでもなく、そっと呟く。
来栖は酒場で食事を済ませた後、村の外れにある森に来ていた。ククリナイフだけを取り出すと腰袋を外し、近くの大石に立てかける。
今日くらいはサボろうかもとも思ったけど‥‥毎日やれって言われちゃったからな〜
軽く深呼吸をすると、ナイフを正面に構える。最初にやる内容は基本動作の確認。来栖はククリナイフを横振り、振り下ろし、切り上げとテンポよく攻撃を繋げていく。洗礼された来栖の動作は攻撃と攻撃の間に間を感じさせず、流れる様な動きだった。
正直言って、今日のアークスケルトンはかなり苦戦した。やっぱり、もっと大技が必要か‥‥
基本動作の訓練を止めると、来栖は態勢を落とし、魔力を脚に集中させる。
よし‥‥いつもより、早くなってる。これなら‥‥
と、来栖が思い始めていると、後ろから足音が聞こえてきた。
「クッ‥‥」
誰だよ。迂闊に手の内は晒したくない‥‥
来栖は深くため息をつくと、脚に込めた魔力を解除すると、誰かを確かめるため振り返る。
「‥‥浅野さん」
来栖を見る里穂の顔はかつてないほど真剣味があり、自然と来栖の気も引き締まった。
「来栖って、こんな特訓してたんだね。‥‥まずは今日助けてくれて、ありがとう」
里穂は来栖に心から礼をする。
「まぁ、気にすんなって。たまたま、見つけただけだ」
うん、少し‥‥かなり嘘だな。まっ、言わなければ絶対にわからない、はずだ。
「でも、助けてくれた事に変わりわないわよ」
「まぁ、どうでもいいや。で、何?」
里穂の動きが一気に止まる。
「うん、少し‥‥来栖に、訊きたい事があるんだけど」
多分‥‥朱莉が言ってた事だな。もしここで聞いたら、面倒だな‥‥
「悪い、今日はもう疲れたから休んでいいか? 何か用があるなら明日で頼むわ」
「そう、じゃあ、明日の朝に来栖の部屋に行くね」
うーん。
来栖は少しの間、考えると口を開く。
「明日の朝、ここで修行してっから、その時に来てくれるか?」
来栖がそう言うと、里穂は笑顔で頷く。それを見た来栖は胸が痛み、黙ってその場を離れた。
後味、わりーな。
「また、明日ね」
里穂の明るい声が来栖の耳に残っていた。
翌日、来栖は陽が出るより早く里穂との約束の場所に来ると、その場に里穂から借りていたナイフと、里穂宛の手紙を置く。
この選択が正しかったのか、間違いだったのか。そんなもん‥‥わからんか。まぁ、俺といたら浅野さんが危ないし、これで正解だと信じよう。
用を終えた来栖はブリュッセルへと向かうため、南へ向かって歩き始める。十歩程歩くと、来栖は置いていったナイフを名残惜さそうに一瞥し、再び歩き始めた
。
更新遅れてすいませんでした(>_<)
ちょっと色々、忙しくて更新できませんでした。これからは頑張りますのでよろしくお願いします!!




