十一話
今回は視点が変わります。
《不動峰 鋼夜》
俺らがこの世界に来てからここまでの遠出は始めてだ。だが、今回は比較的簡単なクエストだ、問題ない。大事なのは‥‥
鋼夜は後ろを歩いている里穂の姿を盗み見る。里穂は慣れない森の中を進む事に必死だった。
あぁ、里穂。やっぱり可愛いな。
鋼夜が里穂に見惚れていると、隣にいた蓮が鋼夜に耳打ちする。
「鋼夜、このクエストが終わったら近くの村で一泊するじゃん? その時に里穂をやっちゃったらどう? 多分、里穂も拒みはしないぜ」
「そうだな。そろそろ頃合いか」
このグループのリーダーは俺だ。俺に逆らえる奴はいない。今までずっと里穂を狙ってきたんだ。もう手を出していい頃だ。
鋼夜は妄想を膨らませると、自然と汗が出てきた。
俺が、里穂と‥‥
唾を飲み込み呼吸を整える。その時、仲間の一人が声を上げる。
「魔物だ!!」
鋼夜は慌てて片手剣を抜くと、剣を片手に辺りを見渡す。どうやら後ろの方で接触があった様で、前の方に魔物が出る気配はない。
「蓮、銀賀。俺は後ろの援護に行くから正面の警戒を頼む」
ったく、雑魚どもと遊んでいる場合じゃねえんだよ。
鋼夜が後ろに回ると、六人の仲間が魔物と戦っていた。
魔物は、アルラウネが三体。雑魚が、調子に乗りやがって。
アルラウネは別の名でマンドラゴラとも呼ばれている植物系の魔物である。見た目は三メートルくらいの高さの木とほぼ同じ。
「攻撃強化!! お前ら、どいてろ」
鋼夜は自分に付与魔法をかけると、近くにいたアルラウネとの距離を一気に詰め、薙ぎはらう。普通の木とは硬さが違うアルラウネは力が強化された鋼夜の一撃で両断される。
「おぉ、すげえ。さすが鋼夜!!」
ふん、やっぱり俺は‥‥
鋼夜は自分に群がって来たアルラウネを一気に斬り伏せる。
「強いな」
周りに敵が残っていない事を確認すると、手に持っていた剣を鞘に収める。
「やっぱり鋼夜は強いんだね。あたし、尊敬しちゃうわ」
「朱莉か。これくらい、なんて事ねえよ」
石塚 朱莉。鋼夜のグループにいる女子の一人で、ムードメーカーをやっている。セミロングの茶髪と持ち前の明るさで女子をまとめている一人だ。
朱莉は里穂と仲がいいからな。仲良くして損はない。
「そぉ、随分と張り切ってたなぁ〜、って思ったんだけど何かあったの?」
「別に何もねえし」
前列の方から蓮が歩いて来る。
「おい、鋼夜。何人かが一回休もうとか言ってんだけどどうする?」
休憩か。かなり歩いたが、もうそろそろ目標が出て来るはず。早く終わらせたいし、一気に行くか。
「いや、休憩は無しだ。このまま行くぞ」
鋼夜は列の先頭に立ち、他の人達を先導する。
他の奴らもついてきてるし、問題ないな。
と、鋼夜が考えていると横に里穂が並んで歩く。いきなり出て来て驚く鋼夜だったが、あくまで平静を装う。
「ねぇ、鋼夜。さっきの判断、考えて直す気ないの?」
「休憩をしない事か? 特に問題は無いと思うが?」
里穂は呆れた顔で鋼夜を見る。
「あなた達みたいに体力のある人達はでしょ? 見てよ、疲れてる人が何人もいるじゃん」
‥‥確かに。魔法系職業は辛そうにしてる。くっ、ここは素直に‥‥
悩んでいる鋼夜は目の前の木影で何かが蠢くを感じる。
「何だよ? また魔物か?」
「突然どうしたの?」
「あぁ、すぐそこで何かが動いた。多分、魔物じゃないか」
鋼夜は剣を抜刀すると影の隠れた場所へと慎重に歩み寄る。鋼夜が里穂らから離れたのを見計らったかの様に四方八方から音が聞こえた。
「まずい、囲まれてるぞ!! お前ら、武器を構えろ!!」
鋼夜は剣を構えながら全方向に気を配る。里穂達からはすでに十メートル程離れているため、一人で360度を警戒をしなければならなかった。
「チィ、魔物ごときが頭使いやがって。ぶっ殺してやる」
ガサガサガサ
鋼夜が最初に向かっていた木影から一際大きな音を立てて、一体のガイコツが出て来る。それは鋼夜らが受けた討伐クエストの対象である、スケルトンだった。
スケルトン、アンデッド族に類する魔物で一番の特徴は人間の骨からできている体である。骨が歩く姿はとても不気味で大概の人は恐怖を感じ、体が強張ってしまう程だ。武器は人から奪った剣や槍を使い、一体一体がそれなりの強さで単独でもDランクに入る。
「これはラッキーだぜ。さっさと終わらせてやるよ」
浮き足立った鋼夜はスケルトンに急接近すると即座に真一文字に斬撃を繰り出す。しかし、スケルトンはそれを手に持っていた盾で受けると、もう片方の手に持っていた剣で突きを放つ。
「クッ」
鋼夜が素早くバックステップをして距離を取ると、辺りに隠れていたスケルトンも顔を出し始める。
「嘘、だろ?」
今回、鋼夜達が受けたクエストにあったスケルトンの数は三体。だが、今、この場にいるスケルトンはゆうに十は超えている。これはすでにBランクに匹敵するクエストで鋼夜達には明らかに達成不可能だった。
「クソが!! 攻撃爆進、守備爆進、敏捷爆進」
鋼夜は限界まで自分を強化すると、里穂達がいる方向に走り出す。が、その道を阻もうと三体のスケルトンが立ち並ぶ。
「どけぇぇぇ!!」
鋼夜は技術など何もない、ただ全力で剣を振った。それをスケルトンは槍で防ごうとるするが鋼夜の剣は槍ごとその体を押し倒す。
「ははは、軽すぎんだよ」
残った二体が剣を振り下ろし攻撃してくるが、それをギリギリのところで躱し、攻撃に転じる。もう一体を転ばせる事に成功するも、最初に倒したスケルトンが起き上がり鋼夜に向かって来た。後ろからも次第にスケルトンが迫り始め、鋼夜は少しずつ追い込まれていく。
「ちくしょうが、群がりやがって」
Dランクの魔物を一度に二桁を相手にしていた鋼夜はみるみる傷を増やし、疲労していった。重く感じ始めた剣を無理矢理振って、無表情で襲いかかるスケルトンを薙ぎはらう。
「ちきしょう、ちくしょう。こんなところで‥‥」
死を感じていた鋼夜の体が自然と震え始める。
「暴風!!」
蓮の叫び声がその場に響く共に鋼夜の前にいたスケルトンが一気に吹き飛ばされる。鋼夜はすぐに仲間の元に走ると、里穂がすぐに手当てを始め他のメンバーは鋼夜を庇う様にスケルトンと相対した。
「鋼夜、大丈夫?」
里穂が心配そうな顔つきで鋼夜の様子を伺う。鋼夜は戦いの緊張感が解けず、里穂の言葉がまともに耳に入ってはいなかった。
駄目だ‥‥こいつらには勝てねえ。
鋼夜はクッと歯をくいしばる。
「逃げるぞ」
「えっ?」
鋼夜は声を張り上げ、前線で戦っている仲間にも聞こえる様に叫ぶ。
「お前ら、逃げるぞ!! この数には勝てねえ!!」
戦っていた仲間たちに動揺が走る。確かに戦況は圧倒的に不利で、前線のメンバーも着実にダメージを蓄積していた。
「でも‥‥」
不意に誰かが不満の声を漏らす。
「下の村まで引いて立て直すぞ。殿は俺が務める、全員後退しろ!!」
鋼夜は治療中の里穂の手を振り解く。
「待って。まだ治療が終わってないのよ」
「もう十分だ、里穂は危ないから下がっててくれ」
鋼夜は無理な笑顔で里穂に笑いかけるとスケルトンの群れに立ち向かって行く。
《浅野 里穂》
どうしよう、残って戦うなんて無茶じゃない。何か‥‥ないかな? あ、あれって!!
鋼夜と数人を除くメンバーは目指していた村に辿り着く。村の入り口をくぐった所で全員が立ち止まり、顔を見合わせる。
「鋼夜達、どうするのよ?」
「戻って助けに行くか?」
「それじゃあ、逃げた意味ないだろ。ここで待ってるのが最適だって」
その発言を聞いたグループ内の一人の男子が胸ぐらを掴む。
「お前、ふざけてんのか!? あいつらは今、命懸けで戦ってんだぞ? それなのに俺らはここでジッとしてんのかよ?」
異世界で強化された肉体の力で、片手で軽々と持ち上げられていた。
「じゃあ、お前は鋼夜達の所に行って、戦力になれるのか? 結局、まともに戦えるのは今戦ってる奴らだけなんだよ。ここにいる俺らにはどうしようも出来ない」
掴まれていた男子もそう言うと、掴んでいた手を引き剥がす。
「でも!! 何か‥‥出来る事があるはずよ」
「ふん、何も出来ないよ」
その発言っきり誰も話せなくなり、しばらくの間無言が続く。
鋼夜達、無事かな? さすがに今回はやばいよ。
静寂を打ち破り、山の奥から何かが駆け下りて来るのが見えた。
「鋼夜!! それに蓮達もいる」
懸命に走っている四人。その後ろには、武器を持ったスケルトン達が何十匹と追いかけていた。
「あいつら、逃げ切れなかったのかよ」
「でも、このままじゃ、村に侵入されちゃうよ?」
村の入り口まで走って来た四人は膝に手を当てて、呼吸を整える。
すぐに対応しなきゃ。
「何があったの?」
里穂は鋼夜に事情を聞こうとする。
「今は話している暇はねえよ。速く逃げるぞ!!」
焦っている鋼夜はしきりに後ろを振り返りながら叫ぶ。
えっ? そんな事したら‥‥
「そーんなことしちゃったら、ここの村が壊滅するわよ?」
朱莉は里穂の気持ちを代弁するかの様に鋼夜に問う。
そうよ、いくら何でも関係ないこの村の人を巻き込むなんて無理よね。
「どうでもいいんだよ!! お前ら、あいつらが村に気を取られてる間に逃げんぞ」
鋼夜は傷口を押さえながら、フラフラとした歩調で村の中に入ろうとする。
もし私達が、この村を見捨てたら‥‥
里穂は仮定の未来を想像すると、どうしようもない罪悪感が込み上げてきた。その場にいたほとんどが鋼夜の言葉に渋々従い、村の中へと足を向ける。里穂は覚悟を決めると、鋼夜の目の前に立つ。
「私は‥‥逃げないから。今回の原因となったのは私達よ? それなのに何で逃げるのよ? おかしくない? だから、私は戦う。たとえ、死んだとしても」
里穂はそれだけ言うと鋼夜の横を通り過ぎ、スケルトンの方へ歩き出す。その言葉を聞いた鋼夜は足を止め、その場で硬直する。
ここで、死ぬのかな? こんなに早く、死んじゃうなんて‥‥嫌だな。たくさんやりたい事があったのに。もっと皆んなと一緒にいたかったな。それと‥‥来栖とも、もっと仲良く、したかったな。
里穂は瞳から大粒の涙を流す。自分を殺そうとしている骸骨達を見ながら、ゆっくりとナイフを抜く。里穂は治療に特化した職業で、本来は戦う様な職業ではない。
「りーほ。あたしもあんたに付き合ってあげるよ」
里穂の隣に満面の笑みを浮かべた朱莉が並ぶ。
「朱莉‥‥」
「いーの、いーの。りほを置いて、行ける訳ないじゃないの」
村の中へと逃げ込んでいたメンバーの足が少しずつ止まり始める。
「里穂!! 頼む、戻って来い!! そんな‥‥そんな自殺行為は止めてくれ!!」
鋼夜の心からの叫びだろうか、その声は村の中にまで響き渡り、その苦痛さを感じさせた。それでも、里穂は振り返る事なく、襲いかかってくるスケルトンの方を見続ける。一体のスケルトンが里穂と朱莉のすぐ目の前まで来ていた。
「来栖‥‥」
最初に無理を言ってでも、ついていけば‥‥よかったなぁ〜
里穂はスケルトンと刺し違えるのを覚悟で向かって走り、ナイフを突き立てる。しかし、ナイフの間合いの短さが災いし、里穂はナイフが届く前にスケルトンが持っていた棍棒で頭を殴られ、その場に倒れ込む。
あれ‥‥体に力が‥‥入らない
軽い脳震盪を起こしていた里穂はぼやけた視界で迫り来るスケルトンが朱莉をなぎ倒す姿を見ていた。そして、里穂の目の前に立ったスケルトンが、棍棒を振り上げる。
死に、たく‥‥ないよ‥‥
スケルトンは冷徹にも棍棒を振り下ろす。里穂は目を瞑り、痛みに備えるが予想していた痛みはこなかった。恐る恐る、目を開けるとそこには‥‥片手で棍棒を受け止めている来栖がいた。
「里穂‥‥大丈夫か?」
真剣な表情の来栖は意識朦朧としている里穂の心配をする。
「‥‥うん」
里穂の返事を聞いた来栖は優しい笑顔で里穂を見る。
「そっか。よかった、よかった。じゃあ‥‥」
スケルトンが必死で来栖から棍棒を取り返そうと引っ張るがびくともせずにいた。来栖はククリナイフを取り出すと、一振りでスケルトンの首を跳ねる。
「戦りますか〜」
来栖は首の骨をポキポキと鳴らしながら、スケルトンの方へと体を向ける。




