表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/116

三章八話: 手打ちにできませんか

たまにはあるさ連日更新。ただし、毎日続くとは限らない

 

 

 マーチの接近に対して、アスターは魔法を展開する。

 肉体強化――今回彼が使ったものは、強度を強化するものだ。

 橙ともこげ茶色ともつかない光が間接部に巻き付き、アスターはエイトラインを構える。

 激突。

 アスターの身体が、わずかばかりきしむ。

 元素と魔力で練り上げられた鎧が光り、鳴動。マーチを力技で押し返す。

 両者ともに、一定の距離で停止。

 マーチは、ふふっと微笑んだ。

「ほら、やっぱり大丈夫ではないか」

「……えっと、確かに元から魔法併用が前提ですけど、そういう問題ではないです」

 苦笑いするアスター。見れば、両足が震えている。マーチの踏み込みを受けきれず、ダメージが残ってしまっているらしい。

「万全の状態じゃないっていうのが、僕としてはえっと、かなり嫌なんですけどね」

 日和見主義のアスターだが、これはどうにも彼らしくはない。

 周囲は彼とマーチとの真剣勝負を望んでいる。もちろん度を過ぎたならそれぞれに介入するだろうが、現状は間を取ってじりじりと迫ったり離れたりしている二人に、周囲のボルテージは上がりっぱなしだ。だというのに、それに水を挿すような発言をするアスター。

 だが、実のところ、これは彼の主義に一切違反して居ない。

「えっと、マーチさんでしたっけ? もそう思いませんか?」

 アスターの言葉に、彼女の片方の眉がぴくりと動いた。

 どうやらアスターの読みは、当っているらしい。

 彼女としても、本心で戦いたいというのであれば、万全の状態が望ましいのだろう。

 それが出来ない理由を考えつつ――騎士団たちの中で観戦しているトージェンス氏をちらっと見て、アスターは肩を竦めた。

 マーチは、表情こそ変えなかったものの、押し殺したような声を出した。

「……私は、申し込んだ側。過程はどうあれ、死力を尽くして戦うのみだ」

「いえ、あの、これ一応訓れ――」

 言い終わる前に再接近するマーチ。今度は刀身に魔法をまとっている。

 会話していて緩んで居るように見えたアスターだったが、しかし彼の方とてぬかりはない。彼女のように剣身に元素をまとわせ、ぶつける。

 剣越しに視線を交わす二人。

 アスターは困ったように微笑んでいる。

 そして、マーチは目を見開いていた。

「なんで……?」

「わっしょい」

 気の抜ける一声と共に、アスターがマーチの拳を蹴り上げた! とたん剣が手から抜ける。しかしアスターの反撃を許さず、彼女はエイトラインを蹴って、上空に飛んだ。

「風属性による跳躍か……!」

 騎士団の方から上がる解説コメント。風属性の魔法をまとい、空中に跳び上がったマーチである。アスターのエイトラインをわざわざ踏みつけたのは、彼の反撃防止のためだろう。

 再び距離をとった両者。

 マーチは、信じられないといった風に、言葉を紡ぐ。

「……何故、勇者殿は帯電していない?」

「えっと、あはは……。精度が緩かったのではないかと」

「その程度のことで防がれるほど、私の実力は低くない!」

「僕もそう思います。でも、それでもセイラちゃん程ではなかったと思いますよ?」

 何をやったかの原理を説明しないアスター。これは、ある意味エースに日和った発言である。

 もともと今、アスターがやったことは、エースが時折使っていた戦闘スタイルに近い。

 自分の体に元素をまとわせて、ある種の膜、バリアのように扱う。もちろんこの膜に攻撃事態を防げるだけの強度はない。ただ、魔法であるのならば多少なりとも構成を乱し、威力を減らしたりできるというところだ。

 アスターの雷咆を弾いたのは。これを更に強化し、密度の高い膜にしたものである。

 その要領で、アスターはエイトラインの刀身を元素の膜で覆ったのだ。

 マーチの技は本来ならばその効果で、周囲に放電する仕掛けが成されていた。

 これを、エイトラインにぶち当てることで、術の構成を大きく掻き乱したのだ。

 結果として放電する量が少なくなったのである。――が、これだと半分しか正解ではない。

「伊達に精霊剣ではありませんよ、これは」

 もう一つの秘密は、エイトラインにある。

 精霊剣は『使い手の腕に合わせて』何でも切断する能力の他にもう一つ、それぞれに固有の特殊能力がある。例えば聖女教会が保有している精霊剣「アグー」の場合、魔法の発動速度を幾分早める効果がある。黒の勇者パーティーで言うならカノンの持っている精霊剣「イナヅキ」だと、切断能力自体を別なものに、概念的に付与することが出来るといった具合だ。

 そこをいけば、アスターの持つこのエイトライン。

 これが持つ能力は、魔法そのものの強化補正である。

「ピッチ・フリド」

「っ!」

 エイトラインを差し向けるアスター。先端に風の元素が球状に集り、射出される。

 妖精剣で受け流すマーチであったが、大体1ルラ半 (約一メートル五十センチ)ほど後退させられる。

「マーチがかわせない……?」

 ドリドフが頭を捻る。彼の鍛錬の際、ことごとく打ち出す魔術を目前回避し軽く伸してくるマーチらしくない動きに彼の目には映った。

 だが、実態は当然別である。

 その元素球――本来なら只の元素の塊を素早く打ち出す程度の術であるはずだが、その動き、回転速度が、明らかに速かったのだ。

 それこそ初級も初級、即興で撃てる魔術の中でも相当に簡単な術であるにも関わらず。

 中級並の威力を打ち出したそれに、彼女は驚きつつも、構えなおした。

 再度接近。

 地面を斬るアスター。土埃が舞う。

「ミースト・ソリド」

 アスターの言葉一つで、彼と彼女との視界全体が土に覆われる。

 中の様子は見えないものの、ぶつかる剣撃音に騎士団は湧く。

「ミースト・フリド」

「エンチャ・ソリド」

 土埃を払うため、風を周囲に拡散させるマーチ。その際に発生する爆風に乗って、アスターに切りかかる。

 アスターもそれを予想した上で身体全体の強度強化をし、彼女の一撃を受けた。

 だが、マーチのそれは一撃ではなく連撃であった。

 二度、三度と打ち込まれるたび、次第にアスターの膝が震えていく。

「えっと……ビルディ・ソリド」

 それでも耐えられなかったらしく、背後に土の壁を作ってようやくマーチをはじくことが出来た。

 なかなか巧みに魔法を使い分けているアスターに、副団長らが唸る。ドリドフは思案顔で何度も頷く。彼の父親は、周囲に聞こえないよう小さく舌打。

 マーチは、口角が吊りあがった。

「……やはり、手負いといえど勇者殿は勇者か」

 妖精剣を握る両手が震えている。わずかばかりだが全身に伝播しており、気持ち頬が紅潮。武者震いのようだ。しかし、そんな気合充分な彼女に、

「う~ん……えっと、すみません、止めませんか?」

 アスターは一切躊躇せず言った。

「……何故、この段階で再びそれを言う?」

「いえ、今打ちあって分かりました。僕、やっぱりまだ病み上がりです」

 困ったように微笑むアスター。一目で、その言葉が真実だと理解させる。そんな説得力を持つ顔である。アスターの雰囲気のせいか、マーチにはそれが空々しいものに聞こえなかった。

「どうせこのままいけば、あと一、二回撃ちあったらたぶんストップがかかると思います。それ以上やったら、流石にみんな立場的に拙いですよね?」

「……」

 ちらりとトージェンスに視線を向けるマーチ。雇い主たる男は、あごをしゃくるようにして、ぐいぐいとアスターの方を指し示した。

「……しかし、このまま終わらせると言うことはできないぞ。少なくとも決闘として初めてしまったのだから」

「いえ、えっと、決闘としてふっかけたのはそちらじゃ――」

「これでも“カトリノ家”とて古い貴族だ。そうそう出来るわけじゃない。そして、今がどうであっても、私の意志で自由に振舞うことは難しい」

 立場的に、中断や引き分けを承諾で気内というメッセージであろう。

 だが、アスターもこれくらいは予想していた。

 ゆえに、目を細めながらこう提案する。

「最後に一回だけ、せーので打ち合いましょう。それで手打ちにできませんか?」

 そう言ったアスターは、流し目でトージェンスの方を見て、更に微笑む。

 その時の彼は、朝日が城壁に反射して、なんとなく後光が挿しているようにも見えた。

 

 



アスターのがナードよりよっぽど魔法剣士している件


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ