表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/116

三章七話:そういうのよくないと思います

えっちいのはいけないとおもいます



 王国が現在の形にまとまるまで、年代記など紛失物も多いが、しかし逸話は多く残っている。

 例えば、現王妃マグノリアの曾祖母にあたるはずのマグノリア一世と、初代国王の話である。

 王が執り行った処刑の報復とばかりに、王妃をさらおうとした賊がいたらしい。

 その賊に対して、国王は鞘付きのまま剣を賊に突きつけた。

 そして、決闘が行われたという。

 勝敗については地域によって結末が異なるが、これが「どうしてもゆずれないものをかけて決闘をする」際の作法の一つとして、現代でも残っているのだった。ただ封建社会とはいえ、若干古臭い扱いを受けている風習でもあった。そもそも今時は決闘するより領地ごとに経済戦争ふっかけた方が実利になる、という風潮の時代である(少なくとも領主間においては)。最終的な分配作業を王城の方で執り行うにしても、直接貴族が相手に剣を突きつけること自体稀である。

 そうであるがゆえに、マーチ・カトリノのその行動は、ある種の重みを伴ったものであった。

「……えっと、どういう流れで勇者を辞退という話に?」

 マーチによって申し込まれた決闘に、当然のごとくアスターは戸惑った。

 さて、この決闘だが、基本的に命のやりとりはしない。ただ、己と相手が納得するものを一つかける、ということになっている。

 ここで、マーチはアスターに勇者の称号を――早い話、精霊剣エイトラインをかけろと言って来ているのだ。日和見主義の彼からすれば、一体何があったというところだろう。特に恨まれるでもなく生きてきた自覚があるアスターだ。当然、マーチが自分に向けるヘイトの正体がつかめない。

 しかし、マーチは続ける。「“黒の勇者”亡き後、貴方が勇者を継いだというのが、どうしても納得がいかない。少なくとも、私以外にも一定数居るはずです」

 それは、そうだろうとアスターも納得する。

 少なからず、自分が勇者になってしまった後、周囲からの諸々に父親が対応してくれていたことは知っている。自分で対処したものもあったし、レオウルの知り合いのツテを辿った時もあった。時に“商会連”の会長に相談したこともあったし、またエリザベートが一喝して騒動を鎮静化させたこともあった。

 なんにしても、アスターが勇者になった際。大半の国民はともかく、貴族間――特にアスター同様、試練を受けに行った人間たちの間では、彼の評判はあまりよくない。

 ひとえに、「貴族らしくない」という一点で。

 カネや権力で屈するよりも、取り入り、いなし、なりあがるその手腕をみて。

 それも出自やエリザベート告白前後のエピソード、エースに対するわだかまりを完全消滅させた歴史的後悔(トラウマ)を考えれば当然であるが、その話しをしてるとページ数がいくつあっても足りないのでさておき。

「えっと、僕にそれをかけろということは、貴女は貴女で何か掛けられるだけのものがあるということですか?」

「操を賭けよう」

 思わず、アスターはスプーンを彼女の胸元に投げつけた。

 鎧にぶつかり跳ね返る。金属音が響き、マーチは不思議そうに胸元に目を落とした。

「どうしたのです? 生娘は嫌だとか――」

 割と爆弾発言である。

「い、いや、そんなこと、別にきいちゃ、い、い、いな――」

 アスターの顔は、それこそ、火が出るほどに真っ赤だった。

 口がぱくぱく動いて、口から出掛かっている言葉一切がシャットアウトされているようである。

 しばらくそんな状態を続けた後アレリアに背中を摩ってもらったりして落ち着き、困ったように言った。

「――ええ、え、え、ええっと……、そういうのよくないと思います」

 十四歳の、ちょうど思春期の少年特有の恥ずかしがり。

 確かに、マーチは相当美人である。顔はカノンよりもややキツく、胸元もそれなりに自己主張が強い。それらに対する興味の有無は彼個人の品性と自制心とに基づく部分であるため、筆者による言及はあえて避けよう。しかし、彼自身の感性として、想い人がいる人間がそういうことを考えるのは、よくないのだ。

 ちなみに筆者の感性で言えば、そんなもん賭けるんじゃねぇ。

 しかし、マーチは気にしていないらしい。相当自分の腕に自身があるのか、あるいは感情を表面に出さないのが得意なのか。

 困ったアスターは、周囲に助けを求める。

 バンチをはじめアレリア以外の騎士団は、マーチが決闘の姿勢を示してから一切の意志表示をやめていた。決闘、受けましょう! 的な空気が漂っている。無責任な。

 トージェンス親子はといえば、父親は何故か嫌な感じにニヤニヤ笑い、ドリドフはどうすれば良いか考えあぐねているようである。彼の今の感じからして、もし自分に命令権があるのならマーチの決闘を取りやめさせることもできるのだろう。しかしその挙動から、命令権を誰が持っているのかを薄々察したアスターである。

 後ろ、というか横を振り返る。

「……お耳を」

 アレリアは、相変わらずの無表情。

 しかし、耳打ちされた内容を聞き、アスターは半笑いで肩をすくめ。

「……だったら、まあ、良いです。えっと………………、宜しくお願いします」

 そして、諦めたようにそう言った。



※   ※    ※    ※



 最終的に、ルールは次のようなものになった。


1.アスター・リックスとマーチ・カトリノとの決闘。

2.戦闘は、マーチ・カトリノは妖精剣、アスター・リックスは精霊剣の使用が認められる。

3.魔法の使用は、殺傷力の程度で判定。

4.マーチ・カトリノが勝利した場合、アスター・リックスは一度精霊剣を王に返却し、再度勇者の選定を行うよう申し立てる。

5.アスター・リックスが勝利した場合、マーチ・カトリノの命令権をドリドフ・トージェンスに委ねる


 流石に色々と問題があった部分は、アレリアと相談しながら調整した。その結果がこれである。ある程度は打倒な形になったのでは、とアスターは考えていた。

 アスターが負けた場合にすることは、最終的な判断が国王に委ねられる。その場合、わざわざあの国王がアスターから剣を取り上げるとは考えにくいというところだ。驚くべきことに、マーチ・カトリノもこれには異を唱えなかった。どうやら、一度そういうことをする、という程度でも、決闘を受けるなら構わないということなのかもしれない。どういう思惑があるのか、いまいち相手の考えが読めない。

 対するマーチの扱いについても、委ねられる部分は似たようなものである。おそらく今回の決闘、最終的な裁量は現時点で父親が握っていることになっているのだろう。ドリドフは自分の護衛である彼女に、あまり強く発言できていない。もしかすると、監視の意味もあるのかもしれない。その指令権を移せれば、また違った展開が出てくるかもしれない、というのがアスターの予想だった。

 しかし、どちらにしても最終的な部分は読めない。

 当事者たちは、せいぜい踊って踊らされてというところである。

 さて。食堂を出た総数三十名弱ほど? の一団は、再び訓練場へ。

 ところが、訓練場につくころには、ちょっと人数が十名前後膨れ上がっていた。

「少し増えてる……?」

 頭をかしげるアスター。と、騎士団の何人かが周囲に結界を張り始めた。

 魔力やら術やらが城にダメージを与えないようにという配慮だろう。そして、それが出来る彼らは朝の訓練に参加していなかった人々。騎士団の後方、魔法をメインとして戦う騎士たちだろう。

「ささ、これで存分に戦えますぞ! アスター殿」

「えっと、あはは……」

 バンチ副団長が、アスターの肩をばしっと叩く。対するアスターは、なんともいえない笑顔を浮かべるほかなかった。

 アレリアの姿はない。

 トージェンス親子は、息子が父親に抗議をしているようだが、どこふく風といった様子。マーチは真剣な面持ちで、自分の主とアスターとを見比べている。

 セノでもいれば、魔力の状態から彼女の様子がどこかおかしいということに気づくことが出来ただろうが、アスターには残念ながらその手の能力はない。

 だがしかし、そこは日和見主義者。何か違和感は感じ取っているのか、彼女を見て頭を傾げる。

 両者は、訓練場で向かい合う。

 マーチが腰から抜刀。

「えっと、曲剣とは珍しいですね」

「私もそう思う」

 騎士然とした雰囲気から、予想外の武器にアスターも一瞬戸惑う。

 しかし、彼もズボンのポケットから、道具を取り出した。

 一つは、刃のない剣のようなもの。黄金色した、かなり豪華そうな一品だ。

 他には黒い木ナイフが二つ。それら二つは、両方のポケットにしまいなおした。どうも、どれを出したらよいか分かり難かったらしい。


「――輝け」


 アスターの言葉に合わせて、柄から七色の光が迸る。

 それらが融合し、純白の剣に。そして剣は徐々に光を失い、黄金色へと本来の姿を現した。

 その出現に驚く周囲。騎士団たちは、アスターが剣を顕現させた状態のエイトラインで乱入してきたためその現象を知らず、父親の方のトージェンスは知識としてあったのか、関心するようにアスターの手元を見ていた。

 無言で、真剣に佇むマーチ。

 アスターは、頬をかるく引っ掻く。

「決着は、一太刀浴びせたら、ですよね?」

「致命傷にならない程度に、だな」

「その上で、僕はあまり動けないと言うハンデ付きなんですけどね……」

「私とて、連撃を封じられているから難しいな」

 自重気味に微笑む。「では――参る!」

 その言葉と同時に、突進を開始するマーチ。

 アスターはそんな彼女を見て、少し肩を竦めた。

「……やっぱり少し、カノンさんぽいですよね。表情とかも」

 そして、訓練場に火花が散る――。

 

 

ちなみにエースが勇者になった際には、ダグナがスケープゴートになった+多くの情報が隠蔽されていたという事情から、一部例外を除いてほとんどありませんでした。


次回、なんだか普通にバトル回。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ