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三章五話:醜態をさらした

全盛期のラインハルトとカノンとがやりあえばカノンがカノンが負けますが、現時点では僅差でカノンが勝ってます。一応成長したということでひとつ。

 

 

 無論彼女の実力も伴った話しであるが、アスターが「あ、これ絶対勝てないです」と確信した部分はそこではない。

「師匠贔屓だからということではなく、事実としてそうだと僕は思います。えっと、なにより、精神性が大事かと」

 アスターの言葉に、老人二人は頭を傾げた。

 それもそのはずである。アスターは回想した映像を、そのまま口に出すのが憚られた。詳細を語らずこの一言。当然の反応である。

 その時の情景は、一見して恐怖、又聞きでドン引きされかねないエースとカノンとのやりとりであった。多少なりとも英雄的なものに抱いている幻想があるなら、わざわざ砕く必要もあるまい。幼くして状況を俯瞰し、適切に日和るアスターである。

 ちなみにこの場合、どちらとも違う選択肢を出して、かつ双方から理解を得られないというのが正解。

 結果として目的は果たしたものの、しかし両者ともにそれはそれで興味を引いたらしい。バンチが、アスターに質問した。

「能力については、どうなのでしょう?」

「えっと、僕が直接見た範囲だと……、エースさんに襲い掛かった魔族、一部隊くらいでしたか? 軽くみんな、()()()()してました」

 何故アスターがそんな光景を見ているのかという部分についてはさらっと流す。「マッドデーモンも、僕が五体討伐するのに一月ほどでしたけど、エースさんと二人一緒だったとはいえ、半日もかからず解体したと、“魔弾の狙撃手”からは伺いました」

「そ、そこまでですか?」

 首肯するアスター。その他にも散々な話しを聞き及んでいる。エースが凱旋する一月ほど前、セイラとニアリーが先に帰ってきていたのだが、それに曰く。最終的に竜王と戦っていたのも、エースとカノンの二人であると。エースの窮地をカノンが救い、ともに最後の最後、竜王の変じた姿と庇いあいながら戦ったと。その上で勝利を収めたのはエースであるが、カノンが居なければ決してそこに到達はしなかったろうといわれている。

 それほどまでに、カノンはエースと一緒に居る。

 というか、ある意味彼の生活に食い込んでいる。

 出会った当初は普通の冒険者仲間といった感じだったらしいことを踏まえると、二年半と数ヶ月で一体何があったという話であった。

 カノンの執着が、底無しになっていたのをアスターは間近で理解させられている。

 ただそれでも表面上の振る舞いをある程度調整できるあたり、クレバーなヤンデレであった。

「……何が怖いかというと、その話を聞いた段階が既に一年近く前だってところですかね」

「い、一年……」

「確かラインハルトさんと訓練してたのが二年ほど前でしたっけ?」

「そ、そうですな」トージェンスが冷や汗をかいている。「その時は、かの剣士の技は将軍に見切られ、物理的に叩き潰されていましたか。とすると、更に成長したと考えても良いやもしれませぬ」

「底が知れませんな……」

 項垂れる老人二人に、アスターは苦笑いを禁じえない。

 なぜならば、

「まあ、本人いわく『私は剣士として強いわけじゃないし』とのことなので、そう気落ちしなくても良いと思います」

 その言葉を切欠に、再び元気を取り戻した老人二人であった。

 再び始まる両者の平和的対決(?)を見つつ、マーチがアスターに聞く。

「剣士として強いわけではない、とは?」

「本人曰く、正式には『武装殺し』とのことです」

「武装?」

「僕もよく分かりませんが、確か――」

 と、アスターが続けようとしたタイミングで。


「久しぶりじゃないか! アスター・リックス」


 彼の背後から、妙に明るい声が掛けられた。



※   ※    ※    ※



 プレスサンド。

 エースが見たら、間違いなくそう形容するだろう。

 そんな具合に、その貴族の少年は、色々とアレだった。

 最低限失礼にならない表現を用いるなら、大変お育ちが良く。

 皮肉を織り交ぜて言うのなら、服という枷に己の可能性をぱんぱんに膨らました。

「いや、半年ぶりか、アスター・リックス」

 にこにこと笑う貴族の少年は、なんというか、こう、ボリューム満点であった。

 年の頃は十代後半だろうか。父親のそれに比べればまだやせている方ではあるものの、こちらの場合は少し事情が違う。若さゆえのみずみずしい肌。未だ垂れ下がることのない肉の鎧は、彼の身体に球体のごとくまとわれている。触ったら、むしろ硬そうな感じだ。

 その色んな意味でインパクトデラックスな少年であったが、アスターは彼を見て、頭をかしげる。

「申し訳ありませんが、どなた様ですか?」

「おま……っ! お、覚えていないのかこの僕を!?」

 愕然とする少年。

 アスターは、何かを思い出そうとするように目を閉じる。

「……あっ」

「お、思い出したか?」

「その服、えっと、うちの領地からのオーダーメイドですよね?」

「違う! 思い出すところとして近いには近いか、そこではない! もっとあるだろう!」

 ぎゃんぎゃんと吼える少年。声変わりしているため、裏返っている。

 その姿を見て、ようやく合点がいったらしいアスター。今度こそ、納得したように頷いた。

「試練突破の時に、えっと、話しましたっけ?」

「ようやく思い出したか……」

 ぜーはーと肩で息をする少年。

 はっはっはと笑いながら、トージェンスは立ち上がり、少年の肩を叩いた。

「国王様への面会、粗相はなかったな?」

「はっ。委細、問題なく」

「ならばよし。……いや、どうも。申し送れましたがこちら、私の息子でございます、トリドフ・トージェンスです」

「是非、ドリドフと及びください」

 全体に頭を下げると、彼はアスターの対面、マーチの隣に腰を下ろした。

「こうして対面するのは二度目だな」

「えっと、申し訳ありません。僕、記憶ちょっと曖昧で……」

「いや、気にするほどではない。僕も、あの時は醜態をさらした……」

 何があったのかについては次話に回すが、まあ、一章十六話~十七話の間で色々あったのだ。

 項垂れる少年二人。

 ちなみに、ドリドフのもとにはクラムチャウダー(山菜多め)がちゃっかり運ばれてきていた。見た目の重量さに比べて少食である。

 その皿を見て、頭をかしげるアレリア。

 座りなおした父親が、彼の頭をなでた。

「いやはや。今、ドリドフも修行中の身でして。魔術の訓練を主においているのだが、運用する自分がこれでは話にならないと、本人からの希望で、ダイエット中でございます」

「それはそれは」

 無表情のアレリア。納得と同時に、興味を失ったようである。

 アスターは逆にへえ、と思った。

「立派な心がけだと思います」

 日和りまくり取り繕いまくりなアスターなので省略されているが、本心を言えば、貴族の子供にしてはというニュアンスが含まれる。名誉遺族や一般貴族含め、子供のうち何割かは一定数、我侭な子供が居る。甘やかされまくって育ったか、親が政務にかまけて愛情を感じられず困らせる形でしか接触をはかれない子供に多い。

 そういった子供が、鍛錬という意味でダイエットを己にかすのだ。何らかの目的意識があるということだろう。加えて、以前の彼に比べて多少癪が落ち着いているようにも見えた。これは、何らかの変化が彼の中に起こったということだろう。アスターにも覚えがある。

 もっともアスターのパラダイムシフトには、幾許かのトラウマが伴う事件ではあったが、それは置いておいて。

 と、そんなことを考えて言ったアスターであるが、これは別に蔑んでいるわけではない。

 むしろ、同じような経緯を辿った一人として、素直に賞賛したのだ。

 文字通り、言葉通りにである。

 ゆえにアスターのその様は一切のかげりも愛想もなく、誠実な言葉として相手の胸には届いた。

「……賛辞は、受け取っておこう」

 少々照れるドリドフ。なんとなく仕草が可愛い。鼻の高さや骨格も悪くはなく、痩せたら結構イケメソになりそうなのに、勿体ない。

 と、そんなドリドフが、アスターに頭を下げた。


「折り入ってアスター・リックス。君に頼みごとがある」

 

 

本文中の例でいうなら、アスターは後者です。それがどうして日和見主義と化したか……。

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