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三章四話:一番落ち着けし

ヤンデレ全盛期から、多少回復した頃のカノンさんが出ます。


10万pv企画どうしましょホント・・・来週までには決めますが、何かあれば感想or活動報告の方にお願いします(スタッカート土下座)

 

 

 それは、アスターがエースとカノンにトレーニングを受けていた頃。

 たまの休日、エースたちが王都にいる時限定で、父親の目を掻い潜り教えを請いに行っていたアスター。自身の想い人が恋慕を馳せる相手であったが、いろいろ合ってアスター自身そのわだかまりは皆無であった。

 場所は、冒険者ギルドの地下訓練場。現在ソーネシャマルド合衆国 (通称ステイツ)において「冒険者専門の育成機関をつくるか」という議題があがっているものの、大陸的に見ればごくごく少数。かつてのエースは一切利用しなかったが、こうして先達の冒険者が、後進を育てるために訓練所に入るのは、まま見られる光景であった。

 さて、そんな王都の冒険者ギルド。地上も他の町に比べて大きな建物であるが、地下もかなり広い。かつての大規模ギルド「彩雲の雨弓」がこしらえたこの地下施設は、ギルド解体後の現在においてもその威厳を保っていた。

 さて。

 この場所で戦う十数人のヒトビトのうち、二人。

 少年と、前髪の鬱陶しいオーバーオールの青年。

 言わずもがな、アスター・リックスとエース・バイナリーである。

 アスターは軽装鎧に身を包み、エースは一切の装備をしていない。

雷咆(らいほう)!」

 アスターの放つその一撃は、カノンが彼に仕込んだ技である。

 瞬間的に周囲の元素を身体に集め、自分の動作する方向と逆に噴射する。これにより己の運動速度を上昇させ、この状態で更に、眼前に存在している四大元素をぶち飛ばす。何を言ってるか分からないと思うが、実際カノンはこの説明しかせず、更にその通りのことを目の前で披露した。

 要するに、ものすごい速度で動いて、目の前にものすごい衝撃波を放つというような技である。

 元来は妖精剣を併用することを前提としたものであるが、しかし訓練用の木剣であっても、ある程度はダメージが通る。

 直撃すれば壁の端まで飛ばされて、昏倒間違いなしだろう。

 しかし、エースはその動作をただ見つめる。

「……」

 恐ろしいまでの無表情である。目元が見え難いが、三白眼なのが普段の彼らしくなくて、こわい。

 エースの右手にも、木で作られた短剣が握られている。どちらもさほど強度がなく、過激な訓練で壊れるように出来てはいるが。

 しかしエースからは、間違いなくそれを使って相手を殺すだろうというくらいの、凄みが漂っていた。

 そんな彼は、左手を眼前に出す。

 掌を軽く開き、まるで、魔法でも使うかのようだ。当然、エースは体に魔法石

(魔法使用の際に普通必要になる道具)をつけていない。もともと魔法を使うのが極端に苦手なためであるが、であるならば、何をするというのだろうか。

「!」

 次の瞬間、エースはアスターに向かって駆け出していた。

 アスターの剣は切り上げ途中。大体彼の胸のあたりの位置で、エースは走り出した。


 そしてアスターが振り切った瞬間――勝負は決した。


「……降参です」

 仰向けに倒れたアスターの、鼻先に木短剣がつきつけられていた。

 いや、というか接触し、少し鼻先を押しつぶしていた。

 馬乗りになっていたエースは、彼の言葉を聞くと「あはは、悪い悪い」と笑った。いつもの調子に戻った。思わず、アスターも安堵の息が漏れる。

 手を差し伸べるエース。立ち上がるアスター。

「とりあえず、何をやられたかは理解した?」

 エースの確認に、アスターは曖昧な笑顔を浮かべる。

「えっと、攻撃をかわされたというのは分かりました」

 以前ならばそれすら把握できなかったということを踏まえて、エースは彼の頭をぐしゃぐしゃと撫ぜる。

 アスターが剣を振り切る直前、エースは彼の放った衝撃波の側面に『左手を当てて』、いなしたのだ。実際、彼らの足元にはその衝撃波跡と見られる小さなクレーターが生じている。

「単なる空気圧なら流石に無理だが、元素の塊なら元素をぶつけることも出来るからな」

 言いつつ、エースは左手を見せる。

 彼の手の表面には、四つの元素がテキトーな配分で集められていた。

「本来の予想だと、その衝撃波を元に俺回転して突撃するつもりだったんだけど、それどころでなく一撃自体が反れてしまったんだよな。つまり、まだアスターが使うには早いと」

「えっと……、精進します」

 頭を下げつつ、アスターは疑問を尋ねる。

「でも、その後は全然ですね。……」

「んー、まあ、脚部の裏からひっかけて、ぐるっとまわして押し倒してってところだ」

 この説明だけだと何を言ってるか分からないが、エースの身振りを見ればそれが「小内刈り」の要領で行われているといことを理解できる。開いた足の内側に自分の足を入れ、まるで鉈で狩るような動きで相手の重心を崩す。

 ましてやアスターは、未だ己の動きに振り回されている身。こういった技には、重量的な側面からみても滅法弱かった。

「でも、腹殴ったのを防御したのは流石と言っておこうか? 成長したじゃん」

 倒れたアスターの腹に一撃を入れようとした際、すぐさまそれを見て左腕を入れガントレットで防御しようとしたアスター。鎧と鎧の隙間を縫って確実に殴ってくるエースの考えにも対応できる柔軟性を素直に褒めたのだが、

「いえ、えっと、それがダメと分かった瞬間顔面に振りかぶったエースさんが怖いです……」

 結局、確実に殺しに来る相手には対応が難しいのだった。

 しかも何が恐ろしいって、腹は柄で殴ろうとしたくせに、顔面にはごく自然な動作で逆手もちし、直前で止めたとはいえ一切ためらわず、無感情に振り下ろした点を踏まえてである。この効率的殺戮手段、伊達に修羅場をくぐっては居ない。

 ちなみに、アスターの言葉に対して「そうかな?」と頭をかしげるエース。本気で理解していないようである。

 数ヶ月前の稽古の際はここまでシビアでなかったんじゃと思うアスター。もっとも、それが彼の技能が向上してるからこそ、反射的に動いてしまうようになったのだということを理解はしている。カノンにもそんなことを言われたのだが、しかし、

「少しは手加減して欲しいです」

 当事者からすりゃ、たまったもんじゃねーのだ。

 エースは苦笑い。「以後気をつけるよ」

 どうかな、とアスターは半信半疑である。

 本や歌劇、吟遊や音楽、歴史分野などの娯楽的なことには目がないエースだが、人物的にはそれなりに信頼がおけるとアスターも思っている。律儀だし、約束は滅多に破らないし、気の使いどころは時々おかしいが、基本は深謀遠慮な人柄である。

 問題は、そんな彼がつい反射的に動いた時の、暴力に躊躇が一切ないことだ。もう一人の師匠いわく「過去の経験が重なった結果だ。病気のようなものだな……」とのことだが、それゆえ、手加減されてるとはいえど恐怖心煽られまくりだった。

 と、そんなところで声を掛けられる。

「“無形の盾”まで使っておいて、何を言う」

 階段を下りてきて呆れたような笑みを浮かべる美女。いや、現代日本の感覚で言えば、まだ美少女というべきか。体のラインが強調されるインナー(へそだし)の上から、動きやすさ優先の丈の短い服を着ている。長髪はまとめず解いており、普段の彼女よりも女性らしさが垣間見える。その額には放射状に分かれたような古い傷跡があるものの、それで彼女の顔が損なわれるようなことはない。

「やあ、カノン。査定は終わった?」

「ああ、上々だ。ジョーグキングの顎なんて、滅多にとれないって言ってた」

 竜王討伐後とだいぶ印象が異なるが、彼女はカノン。

 アスターのもう一人の師匠にして、エース・バイナリーを地獄の果てまで追っていくような彼の相棒である。

 カノンの言葉に、エースは「ははは……」と苦笑い。

「だって、近接戦ならやっぱり必要じゃないか?」

「そんなもの使うのは、君と騎士団長と“鎖塵”くらいなものではないか? 全然訓練というか、対策にならないだろう」

「いや、でも何が弱点なのかということは分かるし、それにそもそも――」

 エースとカノンが話し合っているのを、アスターは横目で観察する。

 ……話しながら、なんだかいそいそとエースの右手に自分の左手をからめていた。そういうのを気にしないのか、はたまた気にしないほどなれているのか、無視しているのか、エースは特に気にも留めずに話をすすめる。

「……」

 カノンの左手に巻かれた包帯、その隙間から見える無数の切り傷が痛々しい。横一直線に切られたそれは、どういう戦い方をすればそんな傷が付くというのだろう。アスターは一度聞いたことがあったが、カノンは苦笑い、エースはばつが悪そうに顔を背けていた。

 そんな傷跡を、話しつつもエースは右手でさすっていた。短刀を腰のベルトにひっかけて、ごくごく自然な動作でだ。両者ともに、それには気も止めていない。本当にナチュラルな行動であるらしい。

「……いいな、なんか」

 アスターのその小さな呟きを、カノンは耳聡く聴きつけた。

「あら? 嬉しいこと言ってくれるじゃない。エース、やっぱりそう見えるのよ、私達」

「カノン、口調崩れてる。……んー、まあ難しいところだな。まだまだ」

 困ったように笑うエースに、カノンは顔をぐいぐい寄せる。のけぞるエース。それを開いている右の手で後ろからささえ、更に近づけるカノン。

 さすがに見ていられないので、アスターがエースの背後に回って支えに入った。

「カノン、近いから。超近いから。あと背中痛いから。アスター助かる」

「えっと、僕は大丈夫です……」

 しばらくその無理な姿勢でいたのだが、カノンはそっと呟いた。

「……まだ、私も信頼できないか?」

 アスターは、エースの肩口からその表情を見た。

 どきり、とした。

 普段のカノンは、女だてらに冒険者や賞金稼ぎをやっているだけあって、男のようなぶっきら棒さを併せ持っている。行動や配慮に女性的な部分は当然あるが、それでも口調を含め、印象としてはそちらが強い。

 だというのに、今のカノンの顔はどうだ? まるで、飼い主に捨てられた子犬のようなそれではないか。潤んだ瞳、ふるえる唇。女性にしてはやや高めな身長すら忘れるほどに小さく見えるほどである。不安そうな、今にも泣き出しそうな彼女は、それはそれは破壊力満点だった。

 そんな彼女の頭を、エースは右手でぽんぽん撫でる。

「少なくとも、今、一番信用しているのはカノンだ」

 その言葉に、彼女は、ほっと息をついて、控え目に微笑んだ。

「……ん、ありがと」

 更なる破壊力投入である。

 エリザベート王女のことが好きなアスターでさえ、ぽかんと見蕩れるくらいに、普段の彼女からは想像もつかない表情だった。これが、これが恋する乙女のパワーだというのか。これ以上の描写は筆者が鬱屈してくるので控えさせてもらうが、ともかく、女子高生と恋愛力学使用中の女子は地上最強であるらしい。

 身体を起すと、カノンはエースに抱きついた(!)。周囲の、他の冒険者たちの視線が痛い。

 日和る先がどこにもなく、アスター的にも大変ストレスである。

 だが、続くカノンの台詞を聞いた瞬間、全てが吹き飛んだ。

「大丈夫、私が君を守るから」

 ここまでは普通だった。

「何があっても守るから――」

 エースの胸に頭を埋める彼女。

「君が殺されそうになったら、みんな殺すから――」

 その発言が、段々と。

「君の尊厳が傷つけられたら、みんなくびり殺すから――」

 段々と、こう。

「君を貶める奴が居たら、みんなみんな、首はねて胴体真っ二つにするから――」

 段々と、過激に。そして病的に。

「――それくらい、愛するから。だから落ち着いて?」


「「「「「……」」」」」


 声には出さなかったが、若手も見習いも熟練も、たった今階段を下りてきたギルドの受付少女でさえ、そろって同じ感想を抱いたことだろう。

 愛が、重い。

 そして恐ろしいことに。今言った宣言を実現させるだけの実力を、そう、絶対に実現させるだけの実力を持っていることを、彼らも充分に理解していた。

 周囲を見回し、エースは申し訳なさそうに頭を下げてから言った。

「カノンが一番落ち着けし。カノンに何かあったら、俺、ひとりぼっちになるんだぞ?」

「うん」

 顔を上げたカノンの表情は、おそろしく可愛らしい。見るもの全てを恋に落としそうなほど可憐な笑顔であったが――そこに内包されている狂気に対して、誰もが背筋に寒さを覚えた。

 そしてアスターはと言うと。

「……これが最強ですね。どうにか出来る気がしませんもの」

 一つ、この世の真理を体得していた。

 

 

無形の盾の正体は大した話ではありませんが、それゆえ逆に難しいものです。原理や修得方法は違いますがイメージは天馬、といって伝わる人は同じコロコロ世代ですゴールデンボーイズとコロシアムの続きを待ちましょう(あれ?)


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