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三章三話:今でも仲間だ

オルバニアの名産品は南瓜です


リリートリッヒ「今日一日の豊穣を、生命を、大地の恵を、命の雫を――齎してくれた世界の全てに、我等が女神への惜しみない賛美をここにささげん。我等が女神に、今一度」

信者「「「今一度!」」」

 

 

 大衆食堂のようなフレンドリーさこそないものの、王城にある食堂は、他国のそれにくらべてさほど硬くはない。元々、宮廷料理人などという呼び名ですらない。強いて言えば専門の栄養士やら、最も職歴の長い料理長やらが居たりするが、感覚としてはやはりどこか、城の調理場という印象とは趣が違った。

 例えるなら、そう、高級宿屋の食堂だ。

 オルバニア自体が質素倹約に努める国風となっていることもあってか、王城における贅沢といってもせいぜいそれくらいである。無駄に凝った料理が運ばれてくることもなければ、料理人側も一度の失敗がそのまま料理人生の破滅につながるようなことも(全くないとは言えないが)少ない。ただ客のニーズには柔軟に対応してくれ、料理の質も腕もそれなりに上々。他国と比べればまだまだ上はあるものの、やはりそこは王城であるといえた。

 さて、そんな中で。

 騎士団やらアスターやら貴族やらを含めて三十名弱といったところか。朝の訓練後、魔法やら何やらを使って徹底的に汗臭さを解消してきているため、特に嫌がられることもなく席に着く。そんな彼らの来訪に戸惑うこともなく、てきぱきと料理を処理する厨房は、やはりプロである。

 出されたものは、鴨の揚げ物、牛ひき肉入りオムレツ、大豆のスープにスパゲッティのチーズ和え。プレートに盛られたそれらは、全体的に味が強く、なおかつ量的にがっつりだった。

 決して少食というわけではないものの、病み上がりのアスターは騎士たちの持っているプレートを見て絶句していた。

 もっとも空気を読んでか、彼の前には塩味の薄いリゾットが配膳された。豆スープ同様ベースはトマトだが、どちらかとえいば具材も含め、野菜コンソメの方が強い。またバジルの香りが病みあがり胃袋のドラを鳴らしてくれるため、なくなりかけた食欲が綺麗に舞い戻ってきた。

 こういう何を言わずとも空気を読んでくれるあたり、圧倒的な慧眼である。

 料理長に心の中で敬服するアスターであった。

「今日の豊穣を、我等が女神様に」

「「「「我等が女神に」」」」

 食事の合図とともに、上品にがっつき始める。「上品」と「がっつく」という言葉を併用できるのかを筆者は知らないが、それでも音を立てず、跳ね飛ばさず、しかしせかせか忙しくスプーンとフォークを動かす騎士たちの面々である。

「いや、しかし相変わらずの指導力だ」

「いやはや、お恥ずかしい……」

 オルバニア郷土料理たるパンプヴェル(南瓜とワカメの炒め物)を食べるトージェンスとバンチ副団長。ちなみに双方とも、それに加えて他の騎士団たちのプレートの倍は盛られている。

 少食というわけではないが、多少は食料事情について頭をめぐらすアスター。ある意味彼の想像も出来ない世界に生きている彼らを見つつ、肩身狭そうにスプーンを口に運んでいた。

「アスター様、大丈夫ですか?」

「えっと、別に大したことはないです」

 何故自分の対面に誰も居ないのか疑問に思いつつも、彼は右隣の彼女に肩をすくめた。

 ちなみにアレリアも、ベーコンエッグにパン一枚と少ない。

 なんとなくこういった部分で、それまでの人生が出ているような気がするアスターであった。

「……そういえば、ダグナさんは今どちらに?」

「昨晩から図書室に篭りっきりです、『やることがあるわん♪』と言って」

「やることですか……?」

「んぎぎ……。調べなければならない記録があるとか、どうやら、はい」

「そうですか……」

 見た目の清楚さに反して、かなりワイルドにベーコンを噛み千切るアレリア。

 ダグナのそれを思い出させる食べっぷりに苦笑しながら、アスターは無音で米を喉に流した。

 と、ふと見れば、老齢二人が何故かヒートアップしている。二人はそろってアスターの方を向いて、ハイテンションに詰め寄った。

「「アスター殿!!」」

「え、えっと、どしました? 二人とも」

 つばが飛ぶのを自分の体で防御しつつ、アスターは困惑。

 なおも熱気の衰えない二人。

「国の歴史で最強の剣士は誰か、という話なのですが――」

「そんなもの、将軍ジャン・クェイルに決まっているだろ! 何を馬鹿なことを言っている!」

 ジャン・ラインハルト現軍務大臣のことである。

「いや、歴史を紐解けば! この国における最強は、おそらく“邪悪なる竜”を討伐したという、初代国王こそが! 違いますかトージェンス殿!」

「眉唾ではないか、そんな話は!」

「いいえ、例えば、かの剣士は伝承が正しければ、竜の分身を己が元に従えたと。それも、己の剣が力で屈服させたというのですよ! 邪悪な野生とて技術で敬服させたというのですから!」

「それを言うなら、かの魔族最高峰とうたわれた“鎖塵”に対し、軍の殿を務めながら追い払い、あまつさえ深手を負わせたというではないか! これこそ武勇! これこそ人間の能力の粋!」

 ちなみに言葉は言い争っているように見えるが、実際二人はなんともいえない笑みを浮かべながら話あっているところである。感覚としては、ひいきのスポーツ選手について自慢しあっている感じだ。お互いがお互いに糾弾したり貶めたりしないあたり、マナーを弁えている。

「さあ、アスター殿も――のぉ!?」

 いい加減顔面からパンプキン臭がするんじゃないかってくらい息をかけられていたアスター。更に迫り来るトージェンスの三段顎に、軽くチョップが叩き込まれた。

「な、何をするカトリノ!」

「失礼を。しかし当主様、こらえて下さい。()()様が大層困惑しておいでです」

 自分とトージェンスとの間に掌を入れた女性。左側に頭をふり、アスターは見上げた。

 エリザベートを金細工に例えるなら、こちらは山吹を思わせるブロンドの髪。引き締まった顔は凛々しく、また生真面目さが伺える。格好は、町娘が着る服よりも上質そうな縁取りがしてある辺り、彼女もそれなりの身分の出なのだろう。なんとなく雰囲気的にカノンさんっぽいなーと思うアスターであったが、そんなことは置いておいてとりあえず頭を下げる。「ありがとうございます」

「いえ、申し訳ありません。非礼を働いたのは我が主ゆえ」

 ぴしりと、まるで鋼のように固い姿勢で頭を下げる女性。

 なんとなく律儀な人だな、とアスターは思った。

「えっと、こちらは……」

「おお、紹介が遅れました。マーチ・カトリノといいます。我が家で息子付きの護衛をしておりますな。息子は現在、教育大臣殿へと挨拶へ行っておりますが、私についてた護衛をあちらにつけて、こちらに回しました」

「なんでまた?」

「本人が、騎士たちの訓練を見たいと言ったからですな」

「騎士団長には世話になりました故。みなさまもご健勝そうで何よりです」

 トージェンスの言葉に、しかしきりっと表情を崩さないマーチ・カトリノ。騎士たちに頭を下げると、騎士たちからは妙にフレンドリーな囃し立てが上がった。

「なんだか人物関係が増えすぎて、忘れたりしたら、えっと、すみません」

 そして、謝罪をするアスターである。まだまだ十四歳の少年に、いきなり二十数人の顔を覚えるというのは酷なことには違いない。周囲は対して気にしていないようだったが、やはりアスターは肩身が狭かった。

「ああ、では先ほどの続きです。アスター殿は、誰を推しますかな?」

「最強の剣士ですよね?」

 頷く両者。そして何故か、騎士やアレリア、マーチからの視線も集る。何故にこんなに注目されているのかと内心あせりながらも、アスターは何ということもないように振る舞い、言った。

「えっと、僕は――カノンさんを押します」

「カノン、というと、“黒の勇者”の仲間だった?」

「今でも仲間だ、と、言ったら返されそうですね……」

 あははと笑いながらも、アスターの脳裏にはある光景が展開されていた。

 

 

次話にいくらか吸い取られましたので、ちょっと短め。なので、次は少し早めに投稿できると思います。

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