三章一話: やっぱり、どういう意味だろう
ちょっと更新頻度落ちます・・・というか、今まで以上に大変です第三章(汗)
読んでる作品間違えたかな? と思った貴方、大丈夫。これは「遊園地」第三章であってます!
道を歩いた時に、ついそこで生茂っていた木が
今日ふと見れば、花を散らしている。
それに一抹の寂しさを覚えたのなら
君はたぶん、優しい人間だよ。
※ ※ ※ ※
「……んん、」
少年は、ベッドから起き上がった。
場所はどこかの病室だろうか。しかしベッドに居るのは彼一人。誰もおらず、また魔灯の明かりも消えていた。
窓向こうからの明かりは、いまだに薄い。
手近なランプにほんの少し魔力を通わせ、彼は光源を確保した。
栗色の髪をした頭をかき、巻いてある包帯を外す。呪文を唱え、魔法で作り出した鏡で自分の顔を確認した。幼なく、やや窶れている顔。それでも最近は食事をとれているので、徐々に頬こけが解消されつつある。
額の切り傷――獣の爪で抉られたような傷跡は、ある程度治ったようだ。
「……えっと、もう外して大丈夫かな」
鏡を消滅させ、かれはすっと伸びた。
少年の名は、アスター・リックス。
新政権以降のオルバニア王国における、二人目の勇者。
定義の上では勇者ではないが、国内向けにはアスターのことをそう喧伝している。
曰く、竜王殺したる先代の勇者の後を継ぎ、竜王の後継者たる魔人を打ち倒すものなりと。
そんな重責を担う、担わされている彼の朝は、早い。
いまだに太陽昇らない時間帯。料理人や使用人たちも、未だ目覚めてはいないだろう。
彼の目覚めは誰かに強制されているわけではなく、あくまで自主的なものだ。
ベッド脇の机の中から愛用の魔法石を取り出し、軽く身体を動かす。
「カノンさん曰く、まずは機能確認と……」
腕を振り回し、足の腱を伸ばし、股関節を無理やり広げる。
拳を構え、存在しない眼前の敵を殴り、上段に回し蹴りを叩き込む。
ある程度、身体の動作を確認した後、アスターは病室を抜け出した。
石造りの壁が続く王城。
よく見れば、所々に妙な穴やでっぱりがあったりする。
それは楕円形のくぼみだったり、あるいは何か止具のようなものがつけられていた跡だったり。
「父上が昔のここを見たら、さぞ仰天するんだろうな……」
呟くアスターは、かつてのこの場所がどんな姿をしていたのか、エースより聞いている。
エース・バイナリー。
オルバニアにおける先代勇者。異名は“黒の勇者”であり、聖剣と聖盾をふるう黒衣の青年だ。
その彼が、独裁政権だったオルバニアを大きく変えた現国王と友人同士であることを、アスターは聞き及んでいた。
彼は、エースの弟子のようなものである。
だからこそ、王からエースにもたらされた話が、ある程度そのまま伝わっているのだ。
すなわち――石造りの壁全てに金が張られており、絵画や宝石が壁に多く飾られていたという、その事実も。
「父上の装飾趣味も、もう少し落ち着いてくれれば良いのに」
あくびをしながら歩くアスター。
目指す先は、調理場だ。
扉の鍵を、服に忍ばせておいた針金で開錠するアスター。素早く、音もなく、相当になれた手つきである。
鍵穴から内部を見回し、扉を僅かに開けて更に内部を見回し、誰も居ないことを確認すると。
「グロブ・フリド」
風属性魔法を放ち、パンとチーズを一つずつ手元に回収した。そして扉を閉め、再び鍵を掛けるアスター。廊下を歩きながら、固まったチーズを魔法で溶かしてパンと一緒にかじっていた。
「朝ごはん、しばらくかかるからね」
なんとなく、彼は誰かに言い訳をした。
一連のアスターの行動は、優しそう、善良そうに見えるその容姿と国民向けのイメージから、想像も出来ないほどの手際のよさだ。明らかに、何度か犯行 (?)を重ねている動きである。やってることはまだ微笑ましいものであるが、証拠隠滅もきちんとしているあたり、やや性質が悪い。
「マーフィーの法則を見事に回避していますね、アスターさん」
「マーフィ……? って、のわっ!」
だがしかし、目撃者は居たようだ。
小声で飛び退くアスター。そのまま尻餅をついたものの、くわえたパンを落さないあたり、食い意地が張っている。
そんな彼に、深い紺の髪を持つ女性は、無表情に言った。
王城の中で所謂「使われる」人間でもないのに、格好は質素である。ティアラすら頭に乗せていない。年の割には見た目が若く、凛とした雰囲気はどこか彼の想い人に似ていた。
誰がどう見ても、マグノリア・オルバニア。
この国の王妃である。
「え? えっと、あの、い、一体いつから――」
「最初から、と言いましょうか。ほら」
マグノリアは、手元に持ったお盆を見せる。
トマトとチーズに、わずかばかり米の甘さと、バジルの香りが感じられる。皿に盛られていたのは、二人分のリゾットのようだ。
「丁度私が終わった後に、入られたようですので」
「えっと、もしかしてそれ、マグノリア様が?」
「ええ。意外ですか?」
「え、えっと……」
「私もセラストも、そのくらいのことで腹は立てません。正直にお答えなさってください」
言葉は丁寧であるものの、終始それを平坦に、無表情にやられると謎の威圧感を感じさせる。
思わず竦みあがりながらも、アスターは、いつもの様に日和った。
「……確かに、えっと、意外です。マグノリア様でしたら、寝ている料理人を呼びつけても、誰も咎めないのですから」
「確かにそうですが、最近ずっと味の薄いものばかりでしたので。それに、たまには自分でつくらないと。セラストに馬鹿にされちゃいます」
どこまでが本気でどこまでが冗談なのか。
終始無表情の王妃からは、内面を読み取ることはできない。
マグノリアは、足で廊下を軽く叩いた。
次の瞬間、アスターの身体が宙に浮いた。
「うわっと――!」
「両手が塞がっていますので」
手を貸すことが出来ないから、立ち上がりやすくしようとしたらしい。
最初は空中で溺れるような動きをしていたものの、最終的にはきちんと足をつくことができた。
「あの、ありがとうございます」
「いえいえ。ウチのエリザベートが、大層世話になっているようで」
頭を下げるアスターに、マグノリアは会釈程度だが頭を傾けた(お盆を持っているので、深くお辞儀できないためらしい)。
彼女の言葉に、アスターは左頬だけ引きつった笑みを浮かべる。
「……えっと、こちらの方が、世話になっています」
「いえいえ。只でさえあの娘は、振った男に望みを与えるようなことをしているわけですから」
どうやらアスターの方とは違い、エリザベートは自分の恋愛事情 (?)など諸々を親に話しているらしい。
更に困ったような顔をするアスター。ばつの悪さと照れにより、彼は視線をそらした。
彼に顔は見えないだろうが――それでも、マグノリアは続ける。
「トーストに乗せたチーズが床に零れる確立は、床がどれだけ綺麗かに由来するそうです」
「……どういう意味ですか?」
「起こるべきものは起こるべくして起こり、またそれは印象に由来する部分も大きいということです。私から言えることは――どうか、エリザベートと仲良くしてあげてください」
それだけ言うと、王妃はアスターに背を向け、すたすたと立ち去っていった。
「……やっぱり、どういう意味だろう」
マグノリアによる謎掛けは、流石に十四歳の少年には難しかったらしい。
彼はパンを食べながら、窓枠に肘を突いた。
眼下の広場では、騎士団が訓練中のようである。
「……見学してみようかな」
威勢の良い掛け声を聞きつつ、アスターはパンを飲み込んだ。
マグノリア「セラく~ん、セラく~ん、私の作ったリゾットどう? おいしい? あ~ん♪」
セラスト「んぐ……、ぼくまだ何も感想言ってないけど――」
マグ「あ~ん♪」
セラ「……あーん」
というわけで、視点が動きました。そのうち戻りますが、それまでは王国側周辺事情をば。




