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間章その5:“黒の勇者”と“最強の魔王”



 聖騎士カイネたちの騎士団数十名。

 部族長会議が終わって数日間、竜王城の牢獄でそこそこ快適な生活を続けた数十名。うち何人かは傷の治療とかも終え、リハビリ中である。副官アルシルトなどの一部回復の早かったものたちは、“りゅーおーらんど”で職業体験という名のタダバタラキをさせられたり、まあまあ安定した生活を送ったりしたものの。

 問題は、やはり聖騎士なのである。

 デュオニソスとの密約により、彼らを出来るだけ早期に帰すことが決定されてはいたが、肝心の当人たちがまだ若干歩けない状態のものたちもいる。こと外交問題としては、早く返すべきだが無傷で返さないと問題があるということもあり、全体としての扱いが難しいところだった。

 既にいくらか、出来損ないのエリクサーを融通してもらいはしたが、こちらにも上限というものがあり。結果として、ある程度回復した騎士に飲ませ、最後の仕上げ程度に状態を改善させるという方向で話がまとまっていた。

 本来ならばそんなアイテムを教会が提供なんぞしないものの、この場合、責任は派遣を裏から仕切ったデュオニソスだと大司祭に見破られかねないので、相手もちょっと必死であった。

 そんなリリートリッヒな話をエミリーから聞いたエースは、「あの司祭が必死になる姿とかマジで何それ状態だわ」とか愚痴を言ったりしたそうな。

 はてさて。

「……何でしょうかねぇ? この情景は。お嬢」

 包帯に巻かれたカラス天狗じみたその容貌は、かつての軍団指揮官たるセィーブに他ならない。そんな彼の言葉に、エミリーは肩をすくめた。

 竜王城の廊下を歩く両者。セィーブは本日、エースとちょっとした会談があるために召還されたのだが、その彼とエミリーの目の前で繰り広げられる光景は、なんとも微妙なものだった。

 無駄に露出度の多い人間の少女。

 ひざをついて涙を流す彼女は、聖騎士カイネ。

 かのナードにからまれて「うぜぇ」の一言も言わなかった、将来有望なつわもの(?)である。

 その背中をさすっているのは、ご存知我等が魔王様つき護衛、鎧剣士ディアである。セィーブとの面識は彼が“りゅーおーらんど”に保護されてからであり、エース以上に長くない。

 さて、一見して接点の全く見えない両者のその姿に、セィーブは呆気にとられた。

「……ディア様、通行の邪魔でございます」

 しかし、そんな状態を全く気にしないのが我等がメイドテレポーター。本日はいつもと違い、ちょっとメイド服の襟元など、所々が和風である。

 エミリーの言葉にディアは顔を上げ、少し戸惑ったような声で返答した。

『……どうすれば良い?』

「いたいけな少女を泣かせるような真似をするなら、普通なら必罰でございますが、ディア様は……、でございますし」

『いや、こちらの話ではなくてだなぁ……』

 微妙にかみ合っていないディアとエミリーの会話である。

 結局、ディアはカイネの頭をなでるしか出来なかった。セィーブはそんな三人を、不思議そうに眺めている。

 やがて泣き止んだカイネが、ディアを見上げて言う。

「……おいちゃんも、頑張った?」

『ああ。精一杯頑張ったと思う』

「わかった。なら……私も、前を向いて精一杯生きないと。おいちゃんに怒られる。約束も守る」

 ディアの鎧顔を見ながら、くすくすと笑うカイネ。滅多に見られない、年相応の可愛らしい顔だ。アルシルトなんかが見たら劇写 (写生)ものであるが、幸運なことにこの場に変態騎士は居なかったようだ。

 それを警戒してかディアは周囲を見回していたが、居ないことをきちんと確認して、カイネの手をとり立ち上がらせた。

 丁度その時である。見た目だけは好青年なおにーちゃんがやってきたのは。

「これはこれは。ディア殿、エミリー殿、揃って一体我が主人に何用ですか?」

『私は話を』

「たまたま道すがら、でございます」

「とっとと地下いきますよー、アルシルトさん気が付くとすぐどっかいっちゃうんですから」

 その後他愛ない世間話の後、カイネとアルシルトは、一緒にやって来たケティによって地下牢に連れて行かれる。かなり程度の緩い軟禁状態なのは、彼らが利益主義派に所属するヒトビトであるからだろうが、そのテキトーすぎる扱いに、セィーブは言葉も出なかった。

「……ところで立ち去り際、聖騎士が何やら『約束はまもる』と言っていましたが、何を約束したでございます?」

『服の露出度を多少減らせと言った』

 どうやら聖教国に帰ってから、アルシルトには修羅場が発生するらしかった。



※   ※    ※    ※



 聖騎士たちをエミリーが転送で送る日。カイネはディアに抱きつき大泣きし(!?)、アルシルトをはじめ騎士団一同が目をひんむいて絶句するというような光景こそあったものの、おおむね作業としては、特にかわった事態は起こらなかった。

 その日まで強いて変わったことといえば、セィーブがディア共々エースの護衛についたことくらいだろう。もっともそれは、ディアの能力不足やセィーブの希望などではなく、ごくごく政治的な理由からだ。元々義勇軍を指揮していた彼を目立つ形で取り込み、なおかつきちんと従属させているということを知らしめるためである。

 要するに、義勇軍の派閥もこちらに取り入れてしまおうという作戦だ。セィーブ自身も以前とさして変わりないため、色々な意味で効果抜群の配役である。

 元々中、遠距離攻撃を主とする魔術師でもあるため、剣士ディアとの相性も悪くはなく、この役職とあいなった。

 本日はエミリーも居ない竜王城にて、ある意味万全の護衛体制といえたかもしれない。


 はてさてそんな二人だが。

 現在広間にて、両者ともに地に膝をついていた。


「でぃ、ディアの旦那ぁ……」

『その呼び方はもう止めろ。……くっ』

 彼らの目の前には、珍妙な男が一人居た。

 格好は奇抜そのもの。金と黒のメッシュが入った白金頭に赤い目。水色の被り物に、これまた水色のコート状の服。両方の瞳は宇宙のような暗闇と、銀河のような輝きを持っていた。

 しかし、何と形容すべきか――記憶に残りづらい、そんな顔をしている。

 格好をふまえてなお、そんな印象しかのこらないくらいだ。

 男は突然現れた。

 騎士たちをエミリーが帰しに言っている今。エースやらケティやら、それぞれが所定の仕事をはじめたころに、唐突に広間に現れたのだ。

 ディアとセィーブは一瞬驚き動けなかったが、しかし容赦のよの字もなく攻撃を繰り出され、以下、戦闘のはじまりである。

 戦況は、現在の彼らの状態をみて察することができた。

 男は、ディアたちを見下ろして頭をかしげる。

「何ぞ、大丈夫か? こんなんだと“審判の魔王”が来たら、まずかったろうなぁ。全然、俺たちみたいなのとの戦い方がなってねー」

『はぁ……、ああああああああああああああッ!』

 叫び声を上げて、再度立ち上がるディア。所々のアーマーにヒビが入り、右目の部分が少し露出している。その部分に注目しながら、男は鼻で笑った。

「まつげ長いな」

 指摘するポイントが色々とおかしい。

 しかし、そんな言葉も耳に入って居ないだろうディアは、精霊剣の刀を頭上でぶんぶん振り回す。

『セィーブ、余波に注意しろ』

「いや、無理ですってばアンタさん――」

 次の瞬間、ディアと男との間がつまる。

 ディアの精霊剣を、男は()()()白刃取りしていた。

『――“水噴”――』

 ディアの言葉に応じ、周囲に波紋が広がっていく。波紋は相手の体内の元素を乱し、一種の酩酊状態に陥れるものだ。正攻法の攻撃が効き辛かったため、戦法を変えたのだろう。

 それを見て、男は「おお」と感嘆した。

「俺がティッカとトスカに教えたやつっぽいが――ん?」

 そんなことを言いながら、男は受け止めている手と反対の手で指を弾く。すると、どうだろう。すぐさまその指先から、ディアの放った波紋と同等のものが放たれ――。

『なっ――』

 波紋同士が接触した瞬間、それらは対消滅するかのように、消失した。

「色々いじってるみたいだが、基本が同じ以上は返し技もあるってことだな。ほれ」

『がッ!』

 そのまま男は、白羽取りした状態でディアの腹を蹴飛ばした。本来なら打撃でダメージを負うはずのないディアであるが、その鎧にはヒビが入り、下にあるヒトの肌が少し見えた。

「鎧に入ってるせいか、日焼けは全然してなさそうだなぁ。君」

『こ……、のぉ……』

「だ、旦那!」

 立ち上がろうとしても立ち上がれないディア。それに近づく男。セィーブはなけなしの魔力で、カマイタチのような術を構成し打ち出した。

 が。

「ほれ、調和しろ調和」

 そんなテキトー極まりない言葉と共に、空中で術が分解される。

 否応にでもツイスターアビスを前にした状態――魔術が全く使えなくなる、文字通り、魔術師にとって地獄のような光景を思いおこさせるものだった。

 かつかつと歩き、男はディアを見下ろす立ち居地に。

 と、そんな時である。


「うちの護衛をいじめるの、止めてくれないですかねぇ?」


 広間の奥、階段から下りてくるエースを男は見た。

 といっても普段と大きく違う。何故かその背丈は小さな子供のもので、しかし服装だけはスーツっぽい何かであった。半ズボン姿がなんとなく微笑ましいが、中身は成人男性である。

 そんな事実を知ってか知らずか、エースを見て彼は肩をすくめた。

「いやいや、本気のほの字も出してないぞ。俺は。これが本気だとしたら、この大陸の神は手抜きをしすぎだ。頑張ってるんだから、そりゃ酷ってもんだろ」

「ええ? いや、えー、それでもですよ。というか、いくら客人でもいきなり襲い掛かったら、普段ならウチのスパルタメイドテレポーターからの鉄拳が飛ぶと思っておいてください」

「何ぞ、オエリまだ生きてるのか。いや懐かしいなぁ……。この後帰ってくるのか?」

 事情が飲み込めない護衛二人は、エースと男とのやりとりに頭をかしげる。

 そんな二人に、エースは説明をする。

「ほら、前に言ってたでしょ? 他の魔王にお伺いをたてなきゃいけないって。魔王になるってのは、最終的に周囲の魔王にも認められる必要もあるから。それで――」

「ああ。俺がメッセンジャーだ。本当なら“竜神――”……、あー、審判の魔王が来るはずだったんだが、色々あってこれなくて俺がメッセンジャーだ」

「色々?」

「結婚記念日なんだと」

「それはそれは……。とすると、では、貴方は?」

 男は、エースに対して胸を張って応えた。


「“三界の覇者(マスターシード)”だ。“最強の魔王”なんて呼ぶやつもいる」


 その名乗りに、エースはグラサンを外して瞬きをし、二度見するほど驚愕させられた。



とりあえず最強の魔王登場。

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