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間章その4:バルドスキーの陳情

竜王『シオ、どうしてそんなに自室に引篭もる。我輩、理由を知りたい』

オラトリシオ『だって、お部屋の中なら敵はいないから』

竜王『……少し鍛えよう』

オラトリシオ『良いよ別に。もうこっちの方がなれたから』


※こちらは後編になりますので、お読みでない方は先に前話をお読みください。

 

 

 竜王に実子はいない。

 オルバニア王国に“竜王”と呼ばれる存在が現れた頃、ほどなくしてその娘のような存在が観測された、と歴史書には一応記されている。一応というのは、情報の精度が百年単位でずれる可能性があるからだ。建国時の記録が散漫に散らばり、初代国王の名前すら欠損してしまっている時点でそれは窺い知れる。

 おおよそ百年ちょっと前くらいに編纂された歴史書でさえ記述にあやふやなところが多々あるため、やはり正確な歴史を知るのは難しい。

 当事者たるエミリーをしても、そこは微妙なところだろう。

 さてそんな竜王だが、実子はいないといったものの、子供はいたにはいた。

 ご存知我等がメイドテレポーター、エミリーこと本名、オエリシア。

 そしてもう片方が、この男オラトリシオである。

「二週間ぶり。今日は本体なんだ。で、何か用? “間断”」

 目の前に現れたバルドスキーの目の前で、ごろごろと転がる少年。青空のように澄み切った青い髪と、同様に透明感のある瞳。金色の角はエミリーのものより後ろに傾いており、少し竜王のそれに近いと言える。

 そんな彼が、ベッド(ふかふか低反撥)の上をごろごろとしているのだ。特に何かしているわけでもなく、こじんまりとした部屋の中で、そんな有様である。眠そうに見上げる表情からは、日ごろの自堕落さがうかがえた。

 予想していたとはいえ、あまりの惨状にバルドスキーは唸った。

「……おおかた迷宮部分に創造可能面積の大部分を食われたのでしょうが、それでももっとまともな部屋があったでしょうに」

「いやだよ。だって俺、別にそんな真面目じゃないし。お父様みたいに凝る気もその手の才能や感性もないし。磨くのも面倒だし。いいよ、寝泊りできてヒトが入ってこなければ」

 そう言いながら、ベッドの中に再度潜るオラトリシオ。目元だけバルドスキーを鬱陶しそうに見ているその様は、まあ学ばず、働かず、訓練せずを地でいく生活スタイルであるようだ。

 なまじっかそこいらの竜より能力が高いため、完全な自給自足が出来てしまうのも問題だろう。妙に殺風景なこの部屋には、ウッドマン(木製ゴーレム)の使用人たちが、部屋の隅で育てられている小麦や野菜や豆を切り、調理して運んできていた。

 バルドスキーはその豆スープをいただきつつ、やはり唸る。竜王の私生活、数少ない失敗の一つである彼を見て、しかしため息をこらえていた。

「……本日は、お願いがあってまいりました」

「何? お姉様にまた何か言われたの?」

 ちなみにオラトリシオは、ベッドで横になりながらウッドマンにあーんしてもらっている。

「……端的に言いましょう。貴方に、“竜王”になっていただきたい」

「部族長になれってことでしょ。前も解答したよね、何でそんな分かりきった質問をしてくるかな」

「周囲の竜族たちと話し合うと、どうにもそこに落ち着くのです」

「止めて欲しいんだよね、そういう世襲制って。俺は今、最高に人生を謳歌してるんだし」

「私の目には、四六時中昼寝しているようにしか見えないのですが……。逆に体調を崩されないのでしょうか?」

「生まれてこの方虫歯にもなったことないし、そもそも竜は自浄作用があるから、体質的にもこういう生活が苦にならないし。毒系の術だって一発で殺されなければ、ねぇ」

 竜が封印されていても、長生きする理由の一端である。

 その健康化に加え、究極的には、周囲の元素を直接取り込んで生活という荒業も可能なのだ。

 それは流石に面倒なのか、オラトリシオも実行はしない。こうして自給自足をしてるのも、そんな理由からだ。

 彼は、面倒そうに、バルドスキーを見ていた。「大体、そういうのならお姉様がやればいいじゃん。何でやらないの、反抗期?」

「いえいえ、あれは反抗期に見せかけたやんちゃ小娘でございます。もっとも今は表面上取り繕っておりますが」「とりつくろえているの!?」「無表情なのも手伝ってか、表面上はそう見えるようですね」「ないな」「ええ、五十年も付き合えば自ずと理解させられます。あれはおきゃんだと」

 本人が居ないのを良いことに、バルドスキーたちは言いたい放題である。「それに、オエリシア様は今、自身が仕える身ですゆえ。彼女が“竜王”となると、後々問題が生じるでしょう」

「ふぅん? ということは、“魔王”が見つかったってこと? お父様の選んだ」

 このオラトリシオは、エミリーより後に拾われた純正の竜である。

 それゆえにか、彼女よりも空間制御魔法の理解には長けた存在であり、竜種にしてはやや低いその魔力を補ってあまりある能力をもつ少年(?)だ。竜王も次代の竜王――己が何かあった時の部族長に、という考え方で育てていたくらい、実力はある。当然、エミリーとは教育の方向性も、質も、内容もおおいに違っていた。ゆえにこその、魔王という知識である。

 だが、この男はその重圧が嫌で家を飛び出した。

 バイクもなく十五でもなかったが、それでも夜に走り出して叫んだりしたのだ。

 王国の“竜巣の谷”が封印されるよりはるか以前から既にこの辺りにおり、エースたちとは面識の欠片もないという驚くべき事実もある。

 だからだろうか、バルドスキーが竜王の後継者に、そのエースをすえたというのを聞いて、顔をしかめた。

「何で自分を殺した相手に、加護を授けるのかねぇ……」

「オエリシア様いわく、両者は友人同士であったそうで」

「お父様もお姉様も、よくわからないなぁ。別に骨抜きにされたりはしてないんでしょ?」

「あのお方がメロメロになるお姿など、天変地異の前触れに違いありますまい。……竜王様は気に入っていらっしゃるようでしたが」

「ふぅん? でも、文句いわずにお姉様が仕えている相手ねぇ……」

 上体を起し、何かを思案するようなオラトリシオ。ちなみに服装は竜王のものと同様、ちょっと和風である。ただ寝巻きということなのか、白無地の一色ものしかまとっていなかった。

「“間断”の目から見て、そいつってどうなの?」

「魔王様ですか。ふむ……」バルドスキーは、顎鬚をなぜながら思案した。

「……半精霊級の思考回路だと思います」

「いや、どういうことだ」

「スケールの大きな視野をお持ちのお方、ということです」

「す、すけ……?」

「規模が大きいという意味です。面積単位でも、種族単位でも、部族単位でも、文化単位でも、そして歴史単位でも。なにせ考えている計画の見通す先が、竜王様以上ですからな……?」

 感慨深そうに、それでいてバルドスキー本人は、自分で言いながらも頭をかしげていた。

 その様子の理由を聞くオラトリシオだったが、返答には心底困った。

「計画の規模は、最大で千年先を想定していらっしゃるそうです」

「いや、ほとんどみんな死んでるじゃん」

 ここにきて、オラトリシオはずっこけた。座ったままの姿勢であるが、コントのような転び方である。喜劇舞台のようなその仕草に、バルドスキーは肩をすくめながら続ける。

「なにせ、最悪計画の失敗時のことも考えていらっしゃるようですしな」

「失敗時?」

「現状、魔王様は人間との融和を打ち出しております」

「無理じゃない?」

「普通に考えればそうでしょう。こういったものは、なによりもヒトビトがそれを受け入れるか否かというところに関わってきます。ゆえに、それは文化に依存するものであり教育に依存するものであり、なにより感情と生活に依存するものです。

 魔王様もそこを理解した上で、行動していらっしゃる」

 バルドスキーから話された、“りゅーおーらんど”設置の文化的目的。エース本人が楽しむため、という以外の理由付けについて聞きながら、オラトリシオは目を開け、口をあんぐりとした。

「……いや、馬鹿でしょ。何度も言うけど馬鹿でしょ、その男」

「本人いわく『時間の解決する問題っていうのは、最悪風化した後でどうにかなる』ということです。その段階まで色々と準備をなさっているのですが――」

「いや、はっきり言う。馬鹿だ、その男。でも――」

 おもしろいな。

 オラトリシオは立ち上がり、どこからともなく服を身にまとった。

 青地に白い炎のような模様があしらわれた和服。背中には妖精剣をさした姿は、ステイツに伝わる伝説の剣士「SA☆MU☆RA☆I」然としたものである。

「元人間でその発想は、ちょっとおかしいと思う。うん、そういう意味だと、お父様が気に入ったのは案外そこら辺かな?」

 ベッドから降りて、オラトリシオはバルドスキーの肩をつか……もうとして手が届かず、腕をつかんだ。

「うん、竜王になるとか、ならないは兎も角として、久々に実家へ帰るのも良いかもね」

 じゃあ、と言って、バルドスキーは強制的に入り口へ返された。

 バルドスキーも乗り物酔いはしない方なので、転送酔いも同様にノーダメージ。

 しかし、何ら成果も得られず入り口へ返された彼の心中は騒然である。

 そんな彼をみこしてか、オラトリシオの声が洞窟から届いた。


『近いうちに一回帰るから、面倒な話はその時にしてって、お姉様に言っておいて』


 果たしてこれが吉と出るか凶と出るか。

 どちらにせよバルドスキーは、己の対引篭もりスキルの低さに少し落ち込んだ。

 この後、帰った後でナードあたりから散々馬鹿にされるのは、また別な話である。

 

 

エミリーが変装時に青髪になるのは、このオラトリシオの色が原因です。彼女なりに弟に対して思うところがあるのでしょう。ただシオが引篭もった原因の一端であった自覚はない模様


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