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間章その4:バルドスキーの受難

オラトリシオ『お姉様、どうしてお姉様はそんなに無表情なの?』

オエリシア『城の外周三十周しなさい、シオ』

オラトリシオ『ひ、ひぃ! エリー姉さま!?』

 

 

 その場所がどこにあるか。語るには難しく、同時に語る意味がない。

 オルバニアから北北東に長い距離を飛ぶと、ふと見えてくる巨大な山脈。

 その直下の森に、その場所はある。

 木々が生茂り、先行きの全く見えない森。旅人を喰らうべくして生まれたような、そんな道。

 バルドスキーはその日、そんな森の中に居た。吸血鬼の彼からすれば辛いだろう日中であるが、それでも、彼はその森の中を何度も何度も行ったり来たりしていた。

「嗚呼、ようやく見つかった……」

 色気を纏う渋い顔も、汗みずくで普段より青い。もともと顔色が良くない吸血鬼であっても、なおのことである。よほど日中の活動がこたえるのか、むしろ全身が少し氷のように(!?)溶けていた。

 そんな彼がようやく立ち止まる。

 目の前には、木が一つ。

 そこにバルドスキーは、金属片のようなものを取り出した。「偽聖剣の欠片」である。偽聖剣と同様の性質を持つ金属片(厳密には金属のような物質というのが正解)であり、これを使うことで、術を一部無効化できる。

 これを木の幹にそわせて、まるでジッパーでも開くかのように、上から下に動かした。

 その動作に合わせて、木をはじめとして、周囲一帯の森が姿を変える。


 そこに現れたのは、一つの洞窟だった。


 先の見えない洞窟は、迎えるもの全てを噛み砕く獣の顎ような、そんな威圧感がある。

「……相変わらずの魔力ですな、オラトリシオ様は」

 そんな言葉を呟きながら、バルドスキーはその洞窟の中に入った。



※   ※    ※    ※



 はてさて、バルドスキーがどこに居るのかと言えば。

 無論、オルバニア国内ではない。砂漠と反対方向、王国民にとって弱点に等しいほどの寒気吹き荒れる山に連なる国々。小国同士で手を取り合っているものの、いまだ内部では争いがちょこちょこある場所である。聖武器は持っておらず、それぞれが竜族(ドラゴノイド)の力添えで独立を主張しているような場所だ。

 バルドスキーがそんな場所に来たのには、無論理由がある。

 オルバニア国内から出でた竜は、大半がこちらの方面に来ている。

 表向き、かつての彼らの居住区たる“竜巣の谷”は、エースによって壊滅させられたことになっているが、実際は大半がこちらの方に一時避難をしている。色々な事情があって、谷自体は竜王の手によって封印された。そのため帰宅かなわず、既に住まうことができない。

 現在も王国に存在する竜族といえば、エミリーや、王城の地下深くに封印されたといわれているものなど、ごくごく一部だ。

 そんな竜たちであるが、谷に未練タラタラである。

 状況さえ許せば、王国に帰りたいものたちが多い。

 そんな彼らであるため、いまだオルバニア王国内の魔族という考え方なのだ。

 ゆえにバルドスキーは、エミリーに言われてちょくちょく己の分身を送り込み、彼らとコンタクトをとっていた。部族長会議において、エミリーが竜王の代理をつとめられたのは、それが理由である。

 だが、あくまで代理は代理。

 エミリーがエース付きのメイドである以上、きちんとした“竜王”という役職の後継者が必要なのだ。

 そのため、もっともその役割に相応しい竜を尋ねたのだが――。

『面倒』

 この一言で斬り捨てられ、しかも行方をくらましてしまったときているから、さあ大変。

 一章十一話に出てきた「セイレーンの瞳」により、一応そんなに遠く離れてはいないことがわかったものの、以前詳細な行方は知れず。というか、妨害魔法をかけられて厳密には特定できなかった。精度の悪いGPSを想像してもらえば判りやすいかもしれない。

 そのため。本腰を入れて探す必要が出たため、もっともそういった作業向きのバルドスキーが派遣されることとなった。

 ちなみに当初「これでも四天王の一人ですからね。なに、三日もあれば帰ってこれるでしょう」と鼻を鳴らしてドヤ顔していたダンディであるが。

「……全く、一週間も駆りだされるとは想像だにしていなかった。これではオエリシア様にどやされる……。ケティに馬鹿にされる……。魔王様とマルマルコに遊ばれる……」

 どうやら彼の味方になってくれそうなのは、エースたちを止めるだろうディアくらいらしい。

 まあ、そういった性格含めてバルドスキーである。

 そして、その肝心の竜の住まいが、現在彼の探索中の洞窟だ。

 地味に「空間制御魔法」によって創造された、小規模なダンジョンである。

「……分身たちがまだ帰ってこないなぁ」

 道の分岐点に立たずむバルドスキーは、小さなコウモリさんたちが帰ってくるのをまだ待っているところだ。

 竜族が魔族の中で特別とされる所以の一つに、この「空間制御魔法」がある。竜族は、破壊神の加護なしにこれを扱うことができるのだ。精度としては一般的な勇者よりも上、エースよりも下というくらいだが、それでも、亜空間を作り出すくらいの力はある。

 そのため多くの竜が、自分だけのための空間を作り出し、そこに引篭もっている。

 もっとも食事などは多く作れないため、その巣を人里の上に置き、「何かあったらお前等守ってやるから献上品よこせ」というのが、一般的な竜である。王国は農産品用ダンジョンだの何だの竜王が色々頑張ったため、出不精になってしまったものが多かったようだ。

 ちなみにエミリーが加護を必要とする所以は、二章二十話あたりを参照されたし。

 しかし、はてさてこの竜の巣たるダンジョンはといえば、どうだろう。

「……ようやく帰ってきたか」

 バルドスキーは、丸一日その場で待機していた。

 探索に出した分身が、帰ってくるのにそれくらい。

 明らかに巣というより、きちんとした迷宮である。

「これほど迷わせる構造。相変わらずヒト付き合いを嫌うらしい」

 そしてまあ、端的に言って新手の篭もり“接触すらさせない系”であるらしい。帰って来たコウモリと同化し情報共有をするバルドスキーであるが、正解の道筋ですら更に複雑怪奇なことに対して、げんなりとした。頑張らないと目的をはたせず、頑張っても時間は冷酷に過ぎていく。デスマーチといわずして何というか。

 しかし、バルドスキーとてこれでも元・竜王四天王。

 軍隊と産業の連携特化なテオブラム。単騎の戦闘能力の高いトスカーレ。総合的な技術部門統括たるミリリガンなどに埋もれがちだった内政担当だが、しかしその能力は本来、酷く高い。

 なにせ四天王の中で、唯一竜王に第一形態から第二形態へと変化させたくらいだ。

 吸血鬼、というくくりで見ても、稀有な実力者の一人に違いはない。

 そんな彼が、今何をしてるかと言えば。

 両手を合わせ、普段は欠片もつかわない魔法石の埋め込まれた細剣(レイピア)を構え、それを地面に付きたてて何やらやっている。どうやら魔法陣を描いているようだ。

「――“空浸(くうしん)”――!」

 やがてそれが書き終わると、彼は術の名前を叫ぶ。

 と同時に、彼の周囲一帯が、洞窟から姿を変えていく。

 現れ出たのは、雪原。その地面には、地下へと続く巨大な穴。

「……やはり、応えるな。竜王様のものほどでは、ないが……。送ってもらうしかなさそうだ」

 マナポーションを飲み、バルドスキーはその穴へと飛び込んだ。

 暗闇の虚空で小さなコウモリたちに姿を変え、ホラー映画よろしくその奥へと降下していく。

 穴の底は、小さな通路と扉が一つ。

「しかし、まさか内側から鍵を掛けなさるとは……」

 非破壊物質で作られた扉とその鍵。『空間制御魔法』の一種“空侵”を使ったためそんな残念な事実も把握しているバルドスキー。

 だがしかし、竜王よりダンジョン製作の手ほどきを(必要ないだろうに)エミリー共々受けていた彼である。当然、そのデメリットも理解していた。

「裏を返せば、この扉以外は通常の物質というだろうな」

 エースはジェットコースターの線路や車輪などに使っているこの非破壊物質だが、当然使用には制約がある。所有している魔力量に応じて、微々たるレベルでしか創造できないのだ。それを滅茶苦茶な使い方してる段階でエースの現時点での魔力量が底無しであることが窺い知れるが、普通の竜種ならば、この大扉くらい使ってしまえば、おそらく底を尽きているだろう。

 再びレイピアをかまえ、火と水の元素を剣に集中させる。

 まるで血のように、真っ赤な液体が剣に滴り――彼は、剣を振りぬいた。

「――ケリル・レイ・リキド――」

 その呪文と共に、バルドスキーの眼前の洞窟が、扉以外全て吹き飛ぶ。

 液体が付着した箇所で、猛烈な爆発が起きたようだ。

 果たして、その爆煙の向こうからは――。


「……いや、ダンジョン侵食は流石に反則だよ。全く、俺もついていない……」


 なんとも根暗そうな声が帰って来た。

 

 

巣作り能力は本来竜が持って生まれた能力であるため、後天的な竜は基本保有していない能力でござる。


ちなみにバルドスキーが最後に使った技は、吸血鬼限定の合成魔法です。魔法については資料や番外編などをチェックです

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