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間章その3:王妃の到着・サイド騎士団長の読み

超絶久々なキャラその2。

 

 

「あんら~、ラインさん。久方ぶり~」

「……っ、ひ、久しぶり」

 自分より高所の位置から、すらっとしたイケオネェにニッコリされ、流石に軍務大臣、ジャン・ラインハルトは頬を引きつらせた。ナイスバルク、ナイスカットなバランスのとれた筋肉を持ち、戦場に出れば一騎当千。カノンすら力技で叩き伏せるその実力者とて、なんとなく苦手な相手の一人や二人いるに決まっていた。

 しかしそれでも受け答えできるという程度には、両者の付き合いは長かった。

 王城の通路。会議室から出てきた彼は、騎士団長たるダグナを見て、なんとも言えない顔をした。

「あら、ずいぶんな歓迎じゃなぁい。何かあったのかしら?」

「知ってるだろ。お前に迷惑かけられたことは、一度や二度じゃねぇぞ」

「護衛の引継ぎ? あー、でもあれ、あんまり迷惑かけたくないから――」

「その話じゃねぇよ」

 二章二十一話にて、セラストが「不憫な」と言ったような事柄は、そのまま何らひねりもなく現実のものと化していた。

 ただ移動中のダグナの格好が、潜伏を前提としたものであったため、ぴっちり張り付いた帷子も顔面も迷彩仕様に色塗られており、暗視のための術を使った関係で目元がぎらぎら輝いていて、色々とやばい風体だったことは付け加えておこう。

 発見した兵士達がそろって失禁するくらいに、その時のダグナは、色々こわかった。

 だが、そんなこと軍務大臣とて織り込み済みである。

 ダグナとて、わかった上でやってるわけである。それが疲労困憊な彼の神経を逆なでするとわかった上で実行するのだから、やっぱり良い性格している。おまけとばかりに身体をうねらせ、しなをつくりながら「いや~ん、ご・め・ん・ね?」とか言うものだから、怒る呆れるを通り越して、大臣の口からは深いため息が零れた。

「ん~、その反応だと、軍事費関係まだ揉めているってところかしら?」

「よく分かるな」

「伊達に騎士団長じゃありませんもの。騎士は貴族の名誉の剣。兵士は民衆の生命の剣。憲兵は内政の治安の剣、と言ったのはどこの法務大臣だかは覚えてませんけど」

「誰だか言ってるじゃないか」

「知らないのは本当よ? ただ、あの王様の性格を貴族向けに仲介できる人が居るとしたら、マグノリア様よりは法務大臣の方が得意そうってところかしらね」

「……本当に、お前があと二十年早く生まれていたら、俺たちは勝っていたんだろうなぁ」

「あん。褒めても何も出ないわよ?」

「あとはそれさえなけりゃなぁ……」

 名探偵、とまでは言わないまでも、ダグナの推理と観察力にラインハルトは唸った。

 実際、彼の予想は正しい。セラストは王に就任した際「予算の無駄」と言って、騎士の種類をかなり減らした。

 現在も残っているのは、当時で言う護国騎士と官憲騎士くらいなものである。

 現王国の騎士団と憲兵団の中心になっているのは、かつてのこれらだというのは言うまでもない。

「伊達にアスター坊やが、自分の名乗り上げに流用してはいないですものね。実際、当時の人たちはそれで黙ったんでしょ?」

「まあな。だが……ある意味、そのお陰で今の俺らの面倒があるわけだが」

「私みたいなのって、そう何人も居るわけないというのにねぇ」

 現在王国内に存在する貴族は、新に平民からのし上がった家と先王の時代から続く家の二種類に分類される。そのどちらもに微妙に腐った家があり、同時に平和ボケ以上に危機感を失しているところが多いのだ。

 さて、ここで問題。自分たちの安全が続いている場合、目に見えて必要なさそうに見えるものは何であるか。

「軍縮、するにしても今の時期じゃ拙いだろうに」

「こればっかりは、実際に自分が戦ってみないとわかりっこないのよねぇ」

 エースが竜王を殺した、というのが、第一の転機。その後にエース帰還までの約一月の間で、王国の予算会議はちゃくちゃくと、その方向にすすめられていた。

 王国の大半の人間にとって、竜王とは、魔族の象徴のようなものである。

 ゆえにそれが打倒されたということは、魔族の力の衰えと、人間たちの優勢を物語っていると錯覚したわけだ。

 実際に戦場で戦ったラインハルトだから分かる。監獄に囚われている魔族たちの実力を、実の姉から情報を回されるダグナだから分かる。両者に共通した見解として、そんな幻想クソ喰らえ、というのが本音なわけだ。

「停戦時においても軍事費を下げられまくってたし、こっちも色々限界だ。商会連からいくら融通されていても、元手自体の圧迫がそろそろやばい」

「でも財務大臣ちゃんも、かなり悲鳴を上げてたわよねぇ。『騎士団にも軍にも、これ以上の出資は不可能であります! もう止めてよ! ぼくもいい加減睡眠不足なんだよ! これ以上夜会で交渉させないでよ! もう限界だよ! 流石に十周はしたよ!』」

「よく覚えているな……」

「それはもう、ダリア姉に搾ってもらったことありましたし」

「後であいつに酒持って行ってやろう」

 ちなみにダリアというのは、ダグナの姉であり、監獄の看守であり、ダグナ以上の身体能力を持つ化け物である。ただダグナより魔法が苦手な分、まだ救いがあるというべきか。もっとも対人での拷問にかけては、その限りではなし。

 ちなみにそのダリアをして「えげつない拷問をしやがる」と言わしめた人物が、我等が主人公、エース・バイナリーである。

「で、今回はどういう話し合いだったのん?」

「何のことはないさ。竜王の後継者現る、軍事費必要予算よこせ、もっと無駄を省けるだろって流れだ」

「あ、でも言う前に却下とかは言われないようになったのね」

「最初は俺の発言の信憑性すら疑われていたが、最近捕まえた魔族たち何人かが、口々に言うもので、信じるほかなくなったようだ」

「ふぅん……。どこから捕まえてきたのかしら?」

 ダグナの言葉に、ラインハルトが一瞬つまる。

「そりゃ……。色々だよ」

「色々ってことはないんじゃない? 普通に考えて、接触鎮圧した後は間違いなく憲兵からダリア姉に回されるし、そうなったら私にもその話が回ってきてもおかしくないし。となると……。

 さては、ラインさん。アナタたち、アスターちゃんたちと戦った時に居た軍隊から、何人かしょっ引いてきたわね? 表向きの報告に入れずに」

「……」

「そんな面倒なことを指示するのは、法務大臣かしら」

 黙秘するラインハルト。

 露骨なカマかけに乗らないのを確認してから、しかし確信をもってダグナはため息をついた。

「あ・の・ねぇ……。ラインさんなら言わずもがなだと思うけど、戦時以外での捕虜の扱いについて、王国の公式見解はどうなってましたっけ?」

「扱い上は捕虜ではないらしいからな」

「なおのこと問題じゃありませんの。下手に火種をばら撒かないで下さいよぉ」

 肩を落すダグナ。ラインハルトは、自嘲気味に笑った。「俺もだいぶ汚れたかな?」

「血では汚れてるじゃありませんの」

「そういうことじゃなくてだなぁ……」

「じゃあ、例えば――“黒の勇者”暗殺、とか?」

 ラインハルトは、一瞬、思考が停止した。

 ダグナは、それには何も言わずにただ微笑んだ。

「……何で知りたがる?」

「興味本位と、あとはやっぱり、友達だったからかしら?」

「竜王――精霊のごとき埒外でなければ問題ないと言っていたか、法務大臣は言っていた」

「それは、たいして関係ないわね。まあ貴方相手に言うなら、おきてしまったことは今更どうこうは言わないし、今報告したら問題あるから別に言わないけど、貴方――いえ、貴方たちかしら? きっと、ロクな死に方しないわよ?」

「……んなもの、とっくの昔に知ってるさ」

 ラインハルトは、ダグナの目を見ながら言う。

 己がまだ、貴族の駄目な息子だったころを思い出しつつ、初めて語った。

「俺が“将軍”とか呼ばれるようになったのが、戦時の後半も後半だってのは知っているな?」

「ええ」

「その時の作戦で、俺は、間違いなく多くの無辜の魔族たちを虐殺している」

 当時の軍隊は、今の軍隊の数十倍は危険な職場だった。気がつけば四肢一つが飛んでいる、そう先王に――腐っていたことで有名な先王にすらそう言われるほどに、荒んだ環境であった。

 そんな軍隊が、目的のために手段を選ぶかと言われれば、否だろう。

「俺らが陽動に村々を斬っていってな。で、そっちに軍隊が集中したら、魔法騎士団の連中が一網打尽にって寸法だ。その時の指揮を担当していたのが俺だ」

「……」

「それでまぁ嫌になって、すぐ抜けて、色々他の道も模索したけどな。でも、どうしても思い出す。もう二、三十何年も前の話になるが――今でも、くっきりと思い出せる。

 手が、動かないんだよ。

 握った手が返り血でぐちゃぐちゃとしてさ。それが固まって、剣から手を離せないんだ。

 まるで殺された奴等が、今更剣を置くことなど許しはしないって言ってるみたいにな」

 軍務に対するラインハルトの原体験は、おそらくはそれであろう。

 でなければ、荒れていた軍の中において、ひたすらに普通の感性を保持し続けられはしまい。

 ゆえに、彼は復讐を否定しない。復讐されるだけのことを自分がやったのだから、いつ殺されたとしても、文句は言えないという考え方だ。

「まあ、だからといって簡単に殺されはしないがな。同じくらい、今生きてる奴等の命も預かっている身だ。せいぜい死後、破壊神に嬲られ続けるさ」

「んー、その覚悟があるなら、カノンちゃんの暴走は逆に止められないわね」

 対するダグナの考え方は、もっとシビアなものである。

 直接の復讐対象を確実に突き止め、法的社会的にきっちりオトシマエつけさせるという考え方だ。

 今回のカマかけも、ラインハルト個人を疑っていたという部分が大きいものの、相手に対してどういう形で制裁をするのが打倒か、というのを考えるに置いて聞いた部分が大きい。

 そういう意味では、復讐されたがり、ともいえそうなラインハルトの考えに、ダグナは微笑むばかりであった。

 彼は、ラインハルトにこう言った。

「エースが昔、復讐について語っていたのよ」

「……何の話だ?」

「ちょっと不器用というか、価値基準が変なエースだけれど、もともとはたぶんまともだったのよね。でも本人にほとんど非はなかったのに、故郷を追われて、誰も助けてもらえなくて、家族すら手を差し伸べなくて。その後に私たちと知り合ったんだけど、その話を聞いたとき、『復讐したいと思ったりはしなかったのかしら?』と聞いたことがあって。その時、彼、何と言ってたと思います?」

「いまいち何を言いたいか読めないんだが――」

 ダグナは、戦闘モードのエースの真似をするかのごとく、無感情にこう言った。


「『そういうのは、尊厳を守る行為だ。だから――尊厳を保障してくれる、自分の全てを信じて任せられるような誰かが居ない限り、終わった後に帰る場所なんてない』」


 ラインハルトは、言葉を失った。

 少なからず、彼の知ってるエースは決して言うことのなさそうな台詞である。多かれ少なかれ自分と同じような感性を持っていると彼は考えていた。

 しかし逆に、ダグナの言葉でも決してないことをラインハルトはこの場で確信できた。理屈ではない。強いて言えば、ダグナの表情ゆえである。だからこそ、彼は一層、エースがその言葉を言ったという事実に、驚きを隠せなかった。

「他にも、まあ、いろいろやられたけどやっぱりみんな嫌いじゃないってのも、理由だったみたいよ。曰く、その一点さえなければ、俺と彼らの関係は変わらないから、と。

 だから、エースは『信頼』できなくなったみたいですよ? カノンちゃんでさえ、まあ、あそこまで執着するようになって一年近くかけて、はじめてってところでしたから」

「……」

「で、これと似たような言葉を私、騎士団長就任時にどこかの“将軍”さんから聞いた覚えがあるのよねぇ。もっともポジティブな言葉だったけれど。だから、帰る場所を多く作っておけみたいな言葉だったと思うけれど」

「……ちょっと来い。少しばかし、込み入った話になる」

「あらん、なら私、彼女連れてきて良いかしら?」

「彼女じゃないだろ、アレ。まあ……良いか。役には立つだろう。今から三刻ほど後になったら来い」

 きびすを返して、ラインハルトは自室へ向かった。

 その背中を見つつ、ダグナは天井を――その先に居るだろう、とある女性に向かって、こう言った。

「どうやら予想通り、一つ陥落したみたいですよ? 貴婦人(マドモアゼル)?」

 その先に居る女性が今何を話しているのか。たぶんいちゃついてるだろうくらいの予想をしつつ、ダグナは足を速めた。

 

 

情報収集をダグナに任せるあたり、この王妃、人選スキルが高い。

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