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二章終話・異:流されるもの、招かれざるもの

二章最終話は前話となりますので、そちらを閲覧してからこちらを読むことをおすすめします。まぁ直接の関わりはないので、どっち先でも大丈夫ですが・・・。


セノ「きゅんきゅんの時代がきたああああああああきゅん☆!」

 

 

 アスターが目を覚ますと、見覚えのある天井だった。

 石材で出来た屋内。西日の差し込む窓。周囲を見回すと壁際に花が生けてあり、その隣にはレオウル直伝のトレーニングメニュー(ダンベル)が置かれていた。

 はは、と何とも言えない笑顔を浮かべ、起き上がろうとするアスター。しかし全身に上手く力が入らず、脱力した。

「あ、お目覚めきゅん☆?」

 ふと見れば、自分の右側でセノがリンゴの皮をむいていた。……素手で向いていた。魔法か何かをつかっているのかアスターにはわからなかったものの、まずもって一般人がやるような芸当ではない。セイラが居たらひねりの効いたツッコミの一つでも入れてくれそうなところだが、アスターはきょとんとするばかりだ。

 そんな彼の反応に「つまらないきゅん☆」とか言うこともなく、セノは丸のまま、リンゴを皿の上に置いた。

「セノが、えっと、僕の看病してくれていたの?」

「違うきゅん☆ ほら、」

 彼女の指差すほうには――エリザベートが居た。アスターのベッド、その足側。ベッドに上半身を預ける形で、この国の王女は小さな寝息を立てていた。

「……レオウルさんは?」

「おおかた、騎士たちと肉体的に戯れてるはずだきゅん☆ みんな心に深い傷を負わないことを祈るきゅん☆」

「……別にそんなことはないと思うけど……」

「アスターちんはまだ、むくつけき筋肉が織り成す恐怖というものを理解できていないのかきゅん☆ そういえば、アスターちんは、覚えてるきゅん☆? 倒れる直前まで何があったかきゅん☆」

「……エリクサーの出来損ない、だったっけ?」

「そうきゅん☆」

 慣れとは恐ろしいもので、既にアスターはセノの口調に突っ込みすらしない。

 しかし、そんな調子であっても交わされている会話の内容は割りと真面目だ。

 “獣王”との戦いで瀕死の重傷を負ったアスター。彼を救ったのは、騎士団長が届けた、聖女教会からの贈り物。教会が研究しているエリクサー、その失敗作の一つであった。

 セノは、彼女にしては珍しく苦笑いで肩をすくめた。

「流石に出来損ない。回復するときに体内の元素ほとんど動因して回帰に使うとか、正直ないと思ったきゅん☆ きゅんきゅん的には、死ななかっただけ御の字きゅん☆」

「……えっと、僕って倒れてからどれくらい経ちます?」

「まる一週間と五日きゅん☆」

「結構倒れてましたね……」

「起き上がる筋力すらないのも、たぶんそのせいきゅん☆」

 丁度そのタイミングにおいて、“りゅーおーらんど”が教会から襲撃を受けていたり、エースが魔王として選出されたりといったイベントが魔族側ではあったものの、人間側はアスターがこんな調子なのでいまいちイベントが進んでいない。もしアスターの起きるタイミングがあと四日早ければ、第二章はまた別な形に様変わりしていたかもしれない。

 アスターは、すーすー寝息を立てるエリザベートを見やる。

「……やっぱり、僕は勇者じゃないよな。これじゃ。それに……、かなり心配かけてしまいました」

「んー、王女たまは王女たまで結構エースちんが居なくなったので傷ついているというのもあるから、今のこの子は代償行動に走ってるところきゅん☆ アスターちんは、ある意味この子のストッパー代わりになってるきゅん☆」

 わずかに十三歳――もうじき十四歳になるこの王女。見た目以上にその心が華奢であり、傷つきやすいことをアスターは身を持って知っていた。

 セノが少女のプラチナブロンドを撫ぜる。さらさらとした髪は西日を通しているように輝き、煌びやかに見えた。

 と、セノが急にアスターの顔を覗き込む。

 至近距離でオリエンタルな美人に見つめられるアスター。赤面して困惑するが、セノはいたって真面目にこう言った。


「これだけは言っておくきゅん☆ ――勇者なんて、なりたくてなるようなものではないわ」


 出会ってから初の、きゅん☆ という語尾を言わなかったセノに、アスターは驚愕をあらわにした。それに反応せず、彼女は続ける。

「少なくとも勇者になったエースくんが幸せかどうか、というのについては、セノにはわからない。確かに今、アスターくんが求めているような力を、エースくんは持ってると思うわ。でも、それを持っていたエースくんは誰より傷つくような運命に身を置いてたし――カノンちゃんは、そんなエースくんのために壊れちゃったから。正直、あの二人は完全に共依存。お互いに何かあったら、文字通り暴走して爆発して、何も残らないわ。そんな人間たちを生み出す運命(ほし)が、少なからず勇者という言葉には付きまとうの」

「……だけれど――」

「それで愛する人を笑顔にできるなら、と? 甘ったれたこと言ってるんじゃないきゅん☆」

 どうやら、きゅん☆ を押さえる限界が来たらしい。ふっと笑ってから、セノはいつもの調子で続けた。


「万人の心に光を灯せなくても、今のアスターちんは、王女たまの光なんだきゅん☆ だからこそ、その生き方を選んだのなら、無茶は止めるきゅん☆ 別に今回、“獣王”と決闘する必要が、必ずしもあったわけではないきゅん☆」


「……」

 あの日。“獣王”と決闘して、魔族の義勇軍と騎士団との交戦を中断させた時。

 確かに、アスターには別の選択肢もあった。

 騎士たちと共に戦い、相手を倒すという選択肢が。

 決闘という手段を選んだとき、“獣王”は「若いな」と言った。

 また、「“黒の勇者”以上に無茶をやる。自分の命の値段を軽く見積もりすぎだ」とも。

 だが、アスターにそれ以外選べなかった。

 貴族として民の心を理解するため、多くの他者の感情を理解すべし。そう幼き日に心に刻んだ彼にとって、たとえ敵であっても、その心を理解しようと考えるわけだ。結果として、彼にとって“双方に義のある”戦いを、継続させるわけにはいかなかったのだ。

 根底にそれがあるからこそ、彼はどう足掻いても日和見主義から抜け出せない。

 セノもそこを理解しているので、それ以上はやり方に関しては言わない。

 ただ、最後にこう言った。


「少しは自分の身も、大事にしなさいってこときゅん☆ 主体性のない選択を続けていたら――それこそ、昔のエースちんの二の舞きゅん☆」


 アスターは、返す言葉を思いつかなかった。

 丁度そんな時、扉が叩かれた。

「開いてるきゅん☆」

「……失礼」

 しゃがれた老人の声である。聞き覚えのない声に、アスターはあれっと頭をかしげた。

 やがて扉の向こうから現れたのは――。

「……レオウルちん、いや、ないきゅーん☆ うっわ、引くきゅーん☆……」

「おい、俺だって好きでやってるわけじゃないっての……。というかむしろ、誰かこのジイサンに言ってやってくれ」

 銀色の鎖で拘束された、上半身裸のレオウルの姿であった。両手両足胴体をがんじがらめにされ、あまつさえ筒のようなかこいかたのため肉の食い込み方が、色々とやばい。ある種の趣味の持ち主には、色々とたまらない光景だろうが、アスターには全く理解できず、そういう趣味が実在するということを理解できるセノに関しては素で引いていた。

 そして、彼を引きずる男が一人。

 ローブ姿の老人。顔はやや険しいものの、目元は優しげである。

 誰だろう、とアスターが不思議そうにしていると、セノがきゅきゅんっ☆ とわらった。

「久しぶりきゅん☆ 坊や。またずいぶんと、皺がふえたきゅん☆ 昔はあんなにつるつるで、ちんちくりんで、愛らしかったのにきゅん☆」

 セノの実年齢が伺える台詞である。

「貴女は相変わらず変わりませんね。……外見の年も、服の露出度も、口調のうざったさも」

「こ、これ別にきゅんきゅんの責任じゃないきゅん☆」

 エルフは上位種への種族変更の際、精霊の加護を得ることとなるのだが、その代償としてほとんどのエルフたちは、このように妙な口調を本能に刷り込まれ、強制される。もはや強迫観念に等しいレベルで、彼女はきゅん☆ と言っているわけだ。

 一体全体どうしてこうなったと言えなくもないが、伝承によれば「とあるエルフが精霊たちを馬鹿にした報い」だとのことなので、どうしようもない。

 セノやら現“森姫”やらは、大変に苦労させられたことだろう。特に後者は、公的な場所できゅん☆ きゅん☆ いう訳にもいかない。理解のない相手には巫山戯るなと叫ばれるだろうし、理解のある相手でもなんとも言えない微笑ましい、生暖かい目で見られること必至である。

「で、坊やは一帯何の用事きゅん☆」

「いや、“ドラレンセブン”とやらの出来が良いと他国で聞いたものでな。最初はそれを実際に確かめに来たのだだが、その後にちょっとな」

「「「?」」」

 三人には言葉の意味が通じていない。当然“りゅーおーらんど”関係の情報統制は、王国政府に対してほぼカンペキである。また情報漏れに関しても、他国の人間であってもある種の呪いで制限がかかるため、簡単に口走ったりは出来ないはずだ。

 だからこそ、これはおかしい。

 その話を軽々とするこの老人――二章十九話にほんのちょっとだけ出てきたこの老人は、明らかにエースの作り出したダンジョンのシステムを超えた存在だった。

 ふと、うとうとしていたエリザベートが意識を取り戻す。アスターが意識を取り戻したことに歓喜する彼女であったが、すぐにその視線がある人物を見つめていることに気付き、そちらに彼女も向く。

 そして、驚いた。

「ば、縛鎖の勇者様!? どうしてこちらに……」

 その言葉に、今度は別な意味で目を見開くアスター。

 レオウルは「早いところ鎖といてくれ」と言っているが無視され、セノは興味なさそうにまた別なリンゴの皮をむき始めている。

 微妙に約二名が空気読まないこの空間で、老人は、ふっと微笑んだ。


「お初にお目にかかる。アスター。リックス。私はエリーク――“聖鎖”の使い手であり、勇者の一人だ」


 それは、セラスト国王が呼んだ一つの大型爆弾に相違なかった。

 

 

以上で、第二章終了となります。

いや長かった……。第一章が一月弱で終わったと言うことを考えると、いや長かった……。その間にいつの間にやらお気に入りブックマーク100突破してたりしましたが、真にご愛顧、ありがとうございます。今後とも精進して参りますので、どうぞ宜しくお願いします。


次章予告は本日の夜~深夜帯あたりだと思います。

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