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二章四十六話:メッセージフォー・フューチャーホープ

超スピード!? でそろそろ二章もエンディング。

 

 

 ヴアルにとって、己が人生とは種族のための人生である。

 幼い頃、ゾートという白虎の獣人の少年――異母兄弟だという彼と面会してから、彼はそう心に誓った。両者のうち、どちからが将来の“獣王”になる、と聞かされて以降、彼の価値観はなによりそこに重きをおくような生き方をしてきた。

 誇り高き部族長の血が流れているからか。

 はたまた、もしかしたらそれは獅子の獣人だからかもしれない。

 何にしても、彼の行き方と部族とは切っても切り離せるものではなかった。

 ゾートが“獣王”に選ばれた後も、嫉妬の心すら覚えず素直に賞賛し、彼を一番近くで手助けできるよう、秘書に志願した。最終的に頭の良し悪しで近衛になったものの、今でもゾートへの信頼は厚い。また、ゾートからの信頼も厚かった。

 そんな彼だからこそ、“獣王”を殺そうとした“黒の勇者”を許すことなど、とうていできるものではなかった。仮にゾート本人がもう終わったことだと言っていたとしても、彼の感情として許せるものではなかった。

 ヴアルがシハイニンの正体を知ったのは、今より半年前。リリアンが“りゅーおーらんど”従業員募集に行った際の、送り迎えでのことだ。

 この時、エースと目が合って確信した。

 あの微妙な苦笑いは、間違いなく“黒の勇者”に違いないと。

 そんな場所に、スパイとしてもぐりこんだはずのリリアンが、逆に懐柔(?)されてしまった時に、彼は心に誓った。かならずやかの、統率者にしてはならぬと。

 一度でも己が部族に弓を引いたなら、そのものは部族の敵である。

 部族長たちの後継者には大体そういった古い教育がなされていく。ゾートとてそれは同様であったが、彼自身難しいことを考える頭でなかったことと、それを言い出していたらきりがないということにあるタイミングで気付いていた。

 だからこそ、そこがゾートとヴアルとの違いでもあり。

 すなわち、ヴアルの恐怖はそこにある。

「あ……、あ……、」

 今現在、彼の目の前に広がる光景。

 辺り一面、切り開かれた皮が並んでいた。

 綺麗に縫製された動物の皮。所々に魔角紋の跡が刻まれている。

「あ……、あ――」

 それが意味するのは、すなわち――。

「あああああああああああああああああああああああ!」

 ヴアルの意識は、ショックで彼岸の彼方に追いやられた。



※   ※    ※    ※



「とりあえず、これで残りは二名か。やっぱりレベル8はやばかったかー」

『……』

 周囲一帯の部族長たちは、言葉も出ずエースの目の前を見つめていた。

 ヒトが折り重なり、山のように積まれているその光景。

 一人は虚ろな目でうふふふと微笑み、又一人は両手で耳を押さえて蹲っている。

 たった今空中から降ってきた“獣王”の近衛にいたっては、白目むいて気絶すらしていた。

「……し、支配人殿、これは……」

「さっき言わなかったっけ。ホラーハウスだよ」

 ホラーハウス、一般的にお化け屋敷とは、様々な型こそあれど基本的に怪物や幽霊などに対する恐怖を疑似体験させる場である。

 “りゅーおーらんど”が保有するホラーハウスも一般にはそういったものであるが、ある特定の日付のときのみ、その内容が一変する。

 普段のお化け屋敷状態がレベル4。

 その時に解放されるお化け屋敷がレベル6。

 レベル4までのものが展示だったのに対して、レベル6は実際に怪物やら何やらが襲い掛かってくるというような代物である。流石に死ぬようなことはないが、かすり傷だらけになるヒトも居るには居る。その日ばかりはちびっこのみで来場させるわけにもいかず、必ず保護者同伴で子供は入ってくださいと案内されるくらいだ。

 そして、一般に公開されていないレベル8とは――。

「レベル8だったら、本人が無意識に抱えている『最悪』の出来事あたりが出てくるんじゃないかな? 正直、俺も入ったことはないけど。ディアは入ったことあったよね」

『……』

「あ、なんかごめん」

 恐怖とは、想像力である。

 そしてイマジネーションは、いつだって人間に希望と、絶望を与える代物だ。プロメテウスのように役立つ力にもなれば、死に至る病のごとく精神を崩壊させかねない。ある程度、ヒトには生物的なセーフティーこそついているものの、それによる避難とは一時的なものであり。

 恒常的に、それこそ三十分も自分が一番起きて欲しくない出来事でも見せられ続ければ、SAN値直葬である。

 ちなみにこれで最大レベルが9なので、まったくもって恐ろしいところだ。まだあと一段階の変身を残す、“りゅーおーらんど”ホラーハウスの今後に期待あれ。

 ただ、それでもこの場に集められている者たちは、そんな種族の中でも上位のものなのだろう。

 魔力の高さは、必然的に精神力の強さに比例する。

 いくら“りゅーおーくん”が限界と判断してから外に出されたといっても、時間経過で多少正気度を取り戻すくらいはやってのけるわけだ。

 ヴアルは意識を取り戻した後、かわいた唇を湿らせつつエースを睨んだ。

「何だ、さっきのあの光景は……」

「君が一番、起きて欲しくない事柄だと思うけど。何が見えた?」

「…………我らが部族が、人間に壊滅させられる様だ」

 直接表現を避けて筆者のSAN値を下げないあたり、この獣人は話しの判る男である。

 しかし、彼の見た光景はまさしく地獄に相応しいだろう。目の前で仲間の死体から皮が剥がれ、女は死してなお蹂躙され、生きる未来の希望たる子供は角を折られ頭を飛ばされる。わずかにでもその光景が、自分たちが戦争に負けた際の姿だと理解して、ヴアルは戦慄したのだった。

 だからこそ――今のヴアルは、先ほどまでの彼とは違う。

「……本当に、お前ならば戦争を止めることが出来るのか?」

「ん? いつ鞍替えしたし」

「変えては居ない。己の信条は部族の誇りだ。……ただ、それを守るために払う犠牲が、大きすぎては話にならない」

「あー、はいはい、なるほど。どんな光景見たのかなんとなく理解した」

 エースは、逆さまになっている彼の顔を覗き込んだ。

「今、貴方が見たその光景を忘れるな。貴方、子供はいるかい?」

「……息子と娘が、一人ずつ」

「そんな彼らが、決して羅刹の道に進まないように。そのことを覚えておけば、とりあえず少しはマシになるから。こういうのってさ、結局は多数の力なんだよ、本質的に。声高に武勇を主張するものたちは、さもそれが貴いことであるかのように喧伝して戦争に駆り立てる。

 別にそれが悪いってことじゃないけどさ、でも、そういう風なやからに限って、たいていは限度というものを知らない。

 貴方が見たその光景が、魔族側だけのものではないことを忘れるな。

 人間とて、その光景を見たものが必ず居るんだ」

 竜王四天王が一人、“探求”ミリリガンによるマッドゴブリン部隊。生きた人間を材料にモンスターへと改造するその所業により、彼は結局街一つを救うことが出来なかった。当時エース、カノン、セイラに騎士団長の四人のみがその場におり、出来る限り避難をさせても生き残りは一体どれほどであろう。結局その場所は、未だに草一つ生えていない。

 戦後に生まれた彼でさえ、その光景を知っているのである。

 戦前生まれのヒトビトならば、一体どれほどの地獄を見てきたか――あるいは生み出してきたか。

 目の前の近衛とて、その地獄の渦中に居たはずなのである。

 自覚がなかったでは、決して済まされるものではない。

「子供達がそのことを理解して大きくなれれば――少なからず、希望の芽があるでしょ」

 だからこそ、エースは彼だけではなく全体を見渡して、言う。

「この世の終わりのような、地獄のような光景をもう二度とこの世に作り出さない――流石に理想として高すぎるところではあるが、それを目指して進まなければ、結局竜王の二の舞だ」

 だから、俺はここに誓おう。


「調和と和平のためなら――身も心を粉にして、何としても前進すると」


 気が付けば、“森姫”が手を叩いていた。

 後に続く形で“幽鬼官”、“鬼長”と続き、全体がエースの言葉を拍手で迎える。

 その光景を見ながら、ディアはエミリーに一言こう言った。

『あれが、エースの根っこだ』

「……わかっている、でございます」

 エミリーは、やや俯き加減。目元の見えないその表情は、一体何を思っているのだろう。

「……それくらい、もう、わかっているから」

 ディアは、何も言わずに彼女から目をそらし、エースの方を見た。


 背後で、どさどさとホラーハウスで粘っていた二人が敗北した音が鳴った。

 

 

やっぱりどこかしまらないのが本作でございます。

続きはなんと本日お昼頃予定。なん・・・だと?

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