二章三十九話:いろいろあって骨を断つ
ちなみに”鎖塵”トスカーレは、ダークエルフです。今章終わった後に種族説明が入ると思いますが・・・。
『烈空斬』
その技こそ、今のカイネにとって致命傷に他ならない。
さて、二章三十一話をご参照の読者諸兄ならば、これから何が起こるのかなんとなく想像がつくのではなかろうか。
烈空斬。
字面から空間だとか空気だとかに関係する必殺技のように思われるが、この技の命名者いわく『斬撃の軌跡が、一瞬だけ激しく虚無のようになるな……でぃん☆』とのこと。実際、某キリンさんたちに対してディアが使ったこの技は、一撃の際に同様の効果を発揮している。とにもかくにも、「激しく空虚な斬撃」という認識でおkである。
ともかく、ディアは烈空斬を十文字斬りにして使った。何故十文字なのかということについての説明は省く。説明するにしても蛇足にしかならないが、一応理由があって十文字斬りにしたということだけは確実だ。
その一撃が何もない空間を切ったように見えたとき――周囲一帯の魔法が、その十文字に吸い取られたようにカイネには感じられた。
「ふぇ?」
呆気にとられながらも、肉体強化の術をかけたまま走るカイネであった。
あったが、それが致命傷である。この場を覆っていた結界と同様に――カイネの体に駆けられていた強化術も、全て雲散霧消したのだ。
体の制御が突然利かなくなったカイネ。空間識別能力やら認識能力、反射神経運動神経やら諸々が年相応の少女のものになってしまった(といっても多少訓練された少女のものであるが)。そのままいけば、高速移動する身体は大砲に射出された人間よろしく何かにぶつかるか、転倒するかして大ダメージを受けてしまうことだろう。
だが、勢い余って足を転ばしてしまうようならば、彼女はとうてい聖騎士の一人にはなれなかったはずだ。
「アグー」を用いて自分の足元を切り裂き、ディアがしたものと同様自分の体にかかる運動エネルギーを切り裂いた。
「――っ」
しかし、腕はディアほど良くはない。
実力に合わない無理な精霊剣の行使は、魔力を蝕み、精神に強烈な痛みを与える。
だがそれでも、彼女は叫び声一つ上げずに踏みとどまった。」
多少肩で息をしながら、ディアを不可思議そうに見る。
「……今のは、一体……?」
『呆けているところ悪いが、もう終わりだ』
ディアのその一言と同時に――十字が、鈍く輝いた。
「なっ――」
幼少期から戦い続けてきた経験値からか、はたまた本能的な恐怖からか、カイネはその輝きを警戒して距離を開ける。
魔力を精霊剣に蝕まれたため、少しの間魔術を使うことができない。しかしそうであっても、バク宙くらい出来る身体能力の持ち主だ。当然ディアから距離を開けるために、それなりにアクロバットな動きをしようとするが。
何の前触れもなく、カイネの身体は動かなくなった。
「――なん、で、」
縦切りの一つが輝くと、どんどん体の力が抜けていく。しまいには、彼女はその場で膝をついてしまった。
なおも輝き続ける縦一文字。
それに続き、横の一文字も輝く。
「――あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああッ!」
弱った体に、強化術式が強制的にかけられた。
体力そのものが抜けてしまっている現状、その強化術を生かすすべはない。
どころか、感覚器官が発達している現状、それは更に悪い方向に作用する。
『例えば、自分のどんな行動一つに対しても極端に敏感になってしまったら、一体何が起きるだろうな。特にそれが――疲労困憊の肉体であるならば』
力の抜けている肉体の、一つ一つの挙措が、本来彼女がかけていた以上のレベルで強化術が発動している現在、全て苦痛にしか感じられず――。
カイネは、その場で撃沈した。
※ ※ ※ ※
カイネは戦争孤児だった。
記憶にあるのは、荒れた大地と荒んだ街並み、濁った瞳の子供達の姿。
その中に自分も混じっていることが、彼女にはたまらなく苦痛であった。
カイネは、王国の生まれではない。大陸には、オルバニア王国と違い魔族とある程度仲の良い国も存在しているが、どうように未だ対立の止まない国もある。かつてデュオニソスが土地関係でもめた魔王「岩盤の巨人」も、かの魔王が属する国において、政府とは「休戦」であっても「停戦」しているわけではない。交流は続いているが、一定の緊張状態にあるに違いなかった。
そんな魔王あいてにのほほんとした調子で土地転がしを挑んだかの司祭もだいぶアレだが、それをして国とか教会とかから首を飛ばされなかったというのもまたアレである。実際有能なのだから、色々面倒である。
さておき、そんなある日――彼女は、とある亜人の男に拾われた。
『私か? 私は……、「運命の鎖を粉微塵に砕く者」とか呼ぶアホ竜も居たりするが、それはアホ竜の妄言だ。トスカとでも呼べ……ギッ』
何故か時折、ばしっと自分の顔を叩いていた彼。
妙に男前な口調だったと、カイネは記憶している。トスカは痩せ型だったが、健康的な肉付きをした男だった。浅黒い肌に、腰に挿す刀はある種独特の雰囲気を漂わせるものであった。
それらを踏まえて、カイネにとってトスカは父親も同然の存在となっていった。
ある程度のサバイバルを教え、戦い方を教え、戦勘を鍛え。
据えた目をした戦後でも、強く生きていける力を身に付けさせた。
ある時、どうして自分の面倒を見てくれるのかと尋ねたことがあった。
トスカは、肩をすくめて答えた。
『純粋であれ、信じた道を往け、というのが俺の主義だ。あの時、唯一俺に目を向けた子供達の中で、お前だけが何かを請う目をしていなかった。だから助けた、それだけだ。生きる力がないというのなら、俺はせいぜいそれを目覚めさせてやる程度だギン★ ……あ、しまった』
その日以来、彼が自分の顔を叩く回数が増えた気がした。
そんなある日、トスカは居なくなった。
トスカに拾われてから三年目の、秋も終わりの頃であった。
トスカの置き手紙には、カイネとの日々が綴られていた。彼が、「呪いを切り裂ける剣士」を目指していることも、精霊剣を手に入れることを目的としていたことも。彼自身がどうしようもない事柄であっても、それを克服するために抗っていたことを。
カイネにとってトスカは英雄であった。
幼馴染(?)のアルシルトと再会したり、紆余曲折あって聖騎士に上り詰めた後に、トスカことトスカーレが、とある国の魔王もどきの元で臣下として名を轟かせていたということを知っても――その考えは、変わることはなかった。
※ ※ ※ ※
「……おい、ちゃん?」
『気が付いたか……、ん、何か言ったか?』
倒れたカイネの顔を、ディアが覗き込んでいた。
高所から見下ろされるその感覚は、今見た夢のせいではないだろうが、腰に刀を挿したシルエットも含め、どこか自分に武術を仕込んでいた時のトスカを思わせるものであった。転がされて大層悔しがっていた彼女に、本気で意味が分からないという顔をしていたように思う。
そして、カイネはとある考えに思い至った。
トスカーレは、呪いを斬ることを求めていた。
自分は、逆に呪いの技術を鍛えた。
彼が“黒の勇者”に殺されたことは知っていた。
だが、この鎧姿はかつて彼が使えていた者の後釜に使えるものだ。
そして、この、精霊剣の刀を持った剣士は、つい先ほど呪いの結界を――。
「トスカ、おい、ちゃん?」
『……………………、違う、絶対違うからな?』
涙ぐみながら確認をとるカイネに、ディアは、何故か少し慌てて答えた。『ただ、知り合いといえば知り合いだ。たぶん。トスカ、なんて愛称はこの国ではトスカーレくらいだろうな……。彼は、たいそうこちらを羨ましがっていたよ』
ディアの言葉が、嗚咽を上げて泣きはらすカイネに届いたかは定かではない。肩をすくめて、ディアはカイネの持っていたアグーを地面に突き刺した。
竜王城の方を見ながら、剣士は呟く。
『頑張ってくれよ? エース』
そう言うディアの表情は、鎧姿でわからないものの――どこか弾んだ声であったことは、間違いようがなかった。
というわけで、正解はびんかんサラリーマン(瀕死)でした(アレ?
トスカーレ関連の話は、エースの今の素っ頓狂な感じの性格形成に関わる部分なのですが、たぶん丸々カットの予定です(これ以上、二章の話数増やしてなるものか)
次も一週間以内投稿をめざします。




