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二章三十七話: 推薦者がエースとエミリーというだけの実力

カノン「寒くなったらエースに抱きつくし(迫真)」



 月光の下を往く少女は、聖騎士カイネ。

 生茂る木々は段々と禍々しい様相を呈してきている。目的地である“竜王城”から放たれる魔力が、周囲の自然環境に強く干渉してしまうためだ。

 本来ならまだ緑が生茂っていて当然の木々は、既にあらかた枯れ木となっている。土壌もどこか活力がなく、踏みしめる土はどこか軽い。生命力、とでも言えば良いのか。そういったものが抜き取られているような錯覚をカイネは覚えた。

「……やっぱり、馬がないと面倒」

 カイネが肉体強化の魔法だけで動いているのには、一応理由がある。

 騎乗した場合……まぁ当然馬も魔術で速度が強化されているわけだが、その速度での制御を彼女が苦手としているのが一つ。普段は部下のアルシルトに任せて、自分はその背中で昼寝しているのが日課なのであった。

 二つ目は一つ目からの派生で、攻撃された時の瞬間的な判断だ。馬の手綱を握っていれば、そちらに意識がまず向かっている。そして何かトラブルがあった時、苦手な速度操作をしながら急旋回や脱出は難しいということだ。というのも、以前カースモンスター“マッドゴブリン”たちの罠にかかった際、制御をとられて馬を爆走させ周囲を大混乱させたという過去があることに由来する。

 まぁ何にしても、事情があって肉体強化だけで高速移動しているというわけだ。

「ちかれた」

 だからこそ、急いでる時でも少し休憩を必要としたりするのである。

 王国の騎士団長ダグナのように、二十四時間ぶっ続けで肉体強化してばりばり疾走したりといった暴挙は、幸か不幸か普通は真似できる芸当ではない。というか、関係者一同が口をそろえて「あ れ は お か し い」と言うくらいであるから、色々と底抜けであることは間違いない。

 魔法を使って冷水を空中につくりだし、頭から浴びる。口をあけているので水も飲んでいるのだが、どちらかと言えば頭からかぶるというイメージの方が強かった。そしてその際、肉体強化によって上昇していた体表面の『膜』温度が冷やされ、水蒸気が上がった。

 と、そんな風に休憩している時である。


「いやー……。派手派手だなぁ」


 胡散臭げな格好をした男が、彼女の前に現れた。

 木の影からひょっこり出てくる男。見た目はそこそこ若い。カイネに負けず黒っぽい服を着ており、さらには黒っぽいメガネもかけている。顔立ちだけならまだ普通かもしれないが、何故かその格好は彼の雰囲気を胡散臭げなものにしていた。

 まぁ、支配人こと我等が主人公である。その背後には、薄緑に光る鎧姿が一つ。ただ、周囲にメイド服の少女の姿はなかった。

 カイネは、エースの言葉に首を傾げる。

「……派手?」

「いや、そんなに肌出してて寒くないの? 俺の知り合いの踊り子より露出度高いけど」

「実用主義。肉体強化五重以上だと、熱すごく篭って火傷するから」

 はてさて、カイネの格好はといえば、現代知識で表現するとマントにパレオ姿である。

 パレオ姿である。もっと言えば布面積の少なめなパレオ。紐パレオとでも言うべきものである。腰にポーチだの足にブーツだのつけているものの、全体的にはそんな感じだ。

 まぁ結び目はそれぞれ強化魔術がかけられていて壊れることはないのだろうが、一見して非常に(色々な意味で)防御力の低そうな装備であった。実際は熱を逃がす機構が魔術的に備え付けられた高級装備なのだが。強度もそれなりに高いが、そんなことはさておき。

 それを十代中頃の少女が身につけているとなると、なかなかに扇情的な光景である。

 ストライクゾーンから外れているのでエースも苦笑いだが、何故か彼の脳内ではカノンがその姿で迫ってくる絵面が想起されたのはナイショだ。

「まぁ、あっちだとちょっと胸元が足りないかな……? おへそは普段の格好的に見えてたけど。そう考えるとカノンもカノンで結構派手な格好だったよなぁ……。風邪引かなかったのかな?」

『……』

「あー、はい御免なさい、邪念に囚われてないでちゃんとやるから刀首に突きつけるのやめようか」

 ちなみにカイネは、何がそんなにおかしいのか本気で分かっていないらしい。きょとんとした顔である。頭に浮かんでいるだろう疑問符に回答する奴は、彼女の周囲に誰か居なかったのだろうか。

 閑話休題。

「あなた達は誰?」

「んー、とりあえず今は、“りゅーおーらんど”の運営者やってます」

 直球であった。奇をてらわない我等が主人公である。

 その言葉に少なからず驚いた様子のカイネであったが、すぐさまポーチから、こちらの大きさでいうと大体B5サイズくらいのパピルスを取り出した。

「私、聖騎士カイネ。メッセンジャー。これ、メッセージ」

「? 驚かないんだね」

「少なからず、護衛一人しか付けずこの場に来たということは、最低限話し合いの余地があると考えられる。そして少なからず、私の部下たちが襲撃したという報告が回るより先にこの場に居たということは、あらかじめ予想してたと考えられる」

「まぁ正解かな? 半分はだけど」

 手元の紙に目を通すエースであったが、しだいに渋面となっていく。最終的にはそれを通り越して苦笑いしながら、エースはカイネに言った。

「いや、無理だろ。何これ、舐めすぎじゃない?」

 書かれていた内容は、要約すると「上前寄越せ」である。

 以前も記述した記憶があるが、あくまでも司祭デュオの目的は「儲け話にからませろ」であった。そしてエースたちのメリットは、やはりというべきか王国において教会がバックについてるダンジョンというネームバリューである。

 更に加えて相手が提示してきたのは――更なる施設の提案だった。

 魔族と人間との共存姿勢は、デュオに見事に見抜かれていた。そこを更に拡大して、司祭が提示した案は「特別自治区の制定」についてである。長い目で見れば「経済」というシステムは、市場に参加する人数が増えれば大きく動く。どんな形でも動くわけだが、それでもデュオは、エースの「共存姿勢」をおもしろいと判断し、それを後押しする側に出たのだ。

「王国そのものに対してそこまで大きな影響力があるかは別にして、近い将来それに近い施設をたてる、というのは発想としては面白いと思うよ。でもさ、流石に利益の八割はまずいでしょ」

 そして、その後押しの見返りがこれである。向こうの建前は「根回しするからそのためのお金頂戴?」であるが、幾ら何でも限度がある。“りゅーおーらんど”の半年で増えた従業員やら、非常食の備蓄やら何やらも含めても、現状で貯蓄に回ってる利益はおおよそ二割弱。

「こんなに取ったら暴動が起きるよ、ボードー」

「魔族の王なら、それくらいの荒業は許されてしかるべき?」

「何で疑問系だし。……いや、まぁ最終的にやろうと思えば出来なくはないだろうけどさ。力信奉な傾向はあるから。でも、それは出来ないよ」

「何故?」

「雇用者をないがしろにする経営者に、人は付いてこないさ」

 まぁとは言っても、実務やってるわけじゃないんだけどね。

 エースはそう言って自虐して半笑いした。

 カイネは、無表情に確認する。

「けつ、れつ?」

「決裂ね。その言い方だと何かちょっと卑わ――わかってるから刀突きつけるの止めろし」

 放置しておくと話題が脱線しかねないので、頑張るディアはまさに護衛の鑑である。

 だが、そんな茶番を前にしてもカイネの姿勢は変わらなかった。

「なら、残念。貴方達に未来はない」

「?」

「おそらく私の部下の足止めもしてるだろうけど、残念。私と部下達とがあと半刻連絡を入れなかったら――王国に、貴方たちのダンジョンの情報が回される」

「『!?』」

「帰れなければ交渉が決裂したものとみなされる。帰っても報告を入れればそれで終わり」

 ちなみに連絡は映像通信装置で行うようになっているので、さしてタイムラグは発生しないようになっている。

 が、そんなことは問題ではない。

 王国に“りゅーおーらんど”の情報が回るのは、まだ早い。

 準備の意味でも手回しの意味でも、色々と“りゅーおーらんど”側も準備が出来ていない。

 デュオニソスが聖騎士を使ってまでもってきた脅しは、割とピンポイントでエースたちの首を切り落としかねないものであった。

 そしてそれを聞いた瞬間――エースは無表情になった。

「スイッチは、空きが一つか……」

『……はぁ』

 ため息をつくと、ディアは何かを察したようにエースの横に立つ。


 次の瞬間、エースが背後に向かって疾走する。


 竜王城に向かって走り始めたエースに、カイネが先回りした。

 位置関係としてはエースより前方に居たカイネであるが、唐突に動いたはずのエースに倍以上の速度で先回りしたわけだ。当然、強化魔術を使って身体能力を底上げしているわけである。

「何処に行く?」

 可愛らしく頭をかしげているが、その両手には一本の剣が握られていた。

 精霊剣「アグー」というその直刀を、エースの目の前に振り下ろす。本来その動作は、相手がその動きを避けるために足を止めることを想定したものである。ゆえに振り下ろしに手加減はない。

 だが、エースは彼女の予想に反した動きをした。

「ん!」

 振り下ろされていく剣に真っ向から向かうエースは、左手を――そう、左手を突き出して構えた。

 右腕は脇をしめて胸元辺りにそえた、独特の構えである。そのままエースは一切怯むことなくカイネに向かって走り――素手で剣の動きを()()()()。予想以上に強い力で、地面に刀がたたきつけられる。その勢いで刺さった剣を抜けずに、カイネは足止めを喰らった。

 走り去るエースの背中を首だけ回して見て、カイネは呟いた。

「……何、今の?」

『“無形の盾”というらしい。……もっとも、知る範囲では王国の騎士団長とアレくらいしか使ってるのを見たことはないがな』

 カイネの疑問には、ディアが答えた。

 ディアもディアで、カイネの目の背後に立っていた。さっきの動きから考えて、エースがカイネの一撃をかわすことを予想した上で、カイネよりも遠くへ先回りしていたのだろう。割と物理法則どこいったな芸当であるが、この鎧剣士の出で立ちからは無言の説得力が溢れていた。

 カイネは剣を地面から抜き、ディアの方を向いて頭をかしげた。

「疑問。何故襲わない?」

『……別に、こちらは殺すつもりはないからな』

「嘘。なら何で――そんなに、殺気を隠してるの?」


 次の瞬間、ディアから放たれた威圧感を何と表現するべきだろうか。


 魔力などを伴ったものではない。生まれてから常に戦場へ身を置き続けたカイネだからこそ、その威圧感は何倍にも敏感に感じ取った。気迫、闘争心、それらよりもより純粋な、病的な殺意。

『……まぁ、否定はしない』

 だが、次の瞬間にはその威圧感もなくなる。ディアは肩をすくめた。『だが、それとこれとは別問題だ。こちらがそちらを今殺したいと思ってるのと、これからどう対応するかについてはな』

「……?」

 ディアは、刀を抜いた。


『君は()()アイツを殺そうとした。―― 一歩間違えれば死んでいた。そこに明確な意思があり、事故でなかったのなら、それは駄目なことだ。気持ちの上で、簡単に許せはしない』


 明らかに只ならぬ風格を漂わせる剣士に、カイネは一人納得したようにこう言った。

「大切? さっきの変な人」

『……否定はしない』

 それはどっちの言葉についての肯定であったか。

 ともかく、ディアによる聖騎士の足止めがはじまる。



真面目なバトルシーン。ディアさんの実力が、ちょっと明らかに。


次回も一週間以内を目指すでございます。

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