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二章三十六話: 奇景俯瞰

色々と勇気の足りなかったサブタイでした。


 

 

 まぁ、騎士団たちに選択の余地はなかった。

 イニに言われたとおり色々脱出のために手を尽くしてはみたものの、複数人で行う上級魔術以外の全ての術がダンジョンによって無効化されており(!)、疲弊する他なかった。しかもご丁寧に彼らが動けなくなると、従業員たちが回復薬やら何やらを持って来て介抱してくれるという始末。従業員に攻撃したり人質にとったりという発想に至らないだけまだ彼らも冷静であり、開始直前の五分間の投票タイムが終了する段階で、既に彼らも腹をくくるに至っていた。

 そうこうして最初の大乱戦である。

 ケティからマイクを奪って絶叫まがいのナレーションを読み上げたりするという残念なイケメンの醜態があったりしたものの、おおむね騎士団が半分よりちょっと下くらいの人数まで残った。

 これは当然、人間の兵士としてはかなり優秀な部類である。今回のトーナメントに参加しているものは、凄腕冒険者やら普段からサイケタワーに挑戦している冒険者やら何やらが大半であり、七体三の割合で過半数弱残ったというのは、かなり凄いことである。

 まぁもっとも、それを見越してる男も当然いるわけで。

「ふむふむ……。やはり妖精武器の練度がモノをいうか」

 バルドスキーは、マイクを切った状態でふと呟いた。

 休憩時間、というか一回戦の大乱闘終了後の実況席。無論カメラは回っていない。簡素なテーブルと椅子、適当に作られた感バリバリのこの仕事は、とても凝り性のマダラのものではあるまい。おそらくエースとエミリーが適当やって作ったものに違いないだろう。エミリーもエミリーで、自分の職務外の事に関しては結構ズボラなので(字の上手い下手同様)、その可能性が濃厚である。

 そんなバルドスキーに、ケティは肩をすくめながら呟く。

「いえいえ、足止めのためとはいえ……敵全体を、新しくダンジョン呼び出して封殺するなんて発想するバルドスキー様もバルドスキー様ですけど、それを観戦型にして映像を各“りゅーおーらんど”に配信するとか、クイズ形式にして正解者にはグッズプレゼントとかいう発想になる魔王さまが一番わけわかめですよ。武器の練度がどうのこうのじゃなくて。賭け事もしてるくさいですし。

 正直、オエリシア様に雇われてから今日ほど頭が痛くなった日はありません」

「その割には楽しそうだが?」

「まぁ、ポップコーンも美味しいですしね。マルマルさんも良い仕事します」

 こちらもマイクを切ったケティである。

 実況席の上に置いてあるナードのポップコーンを一つまみして、上に放り投げる。天井スレスレで落下してきたそれをがぶりと喰らい、眼下の観客席を見下ろした。

「いやでも、大判狂わせでしたねー。ドラレンの中の人たちは、一人しか残ってないし」

「テノンは君のお気に入りなんだから、良かったではないか」

「べ、別に、そんなことないですもん。あとですねぇ、ししょーの地獄耳も届かないでしょうから今言いますけど、そもそも私たちが助けた後にマダラさんへ治療薬作って貰ってくれたのには感謝ですけど、その金額を一切減額せず肉体労働で返せっていうバルドスキー様は大概ですよっ」

「人気もある、リハビリにもなる、当面の生活資金が稼げる上に健康診断から三食つき。どこに待遇面の不満があるのだ?」

「もっと別な仕事もあったでしょうってば! 私の部下とか私の配下とか私の後輩とかッ!」

「君も君で大概だな、邪念が……」

「リザサもイニさんのお手伝い行っちゃうし……。というか、剣術でこの前負けましたし。天才ですよ、天才。あれ本当」

「ほほう。それは……、興味深いな」

 含み笑いをするバルドスキーの頭の中には、また何やらよからぬ(?)たくらみが巡っていることだろう。今回の作戦終了後に魔王へ打診してみようと考えた後、彼もケティにならいポップコーンを一つつまんだ。


 今回の作戦は、足止めである。

 誰がどう見ても、今回のバルドスキーが計画したこれは足止めに他ならない。

 バルドスキーがエースに提案したのは「ダンジョンの中に騎士たちを隔離する」ということである。そこで何らかのモンスターと戦わせたり、迷宮攻略に挑戦させたりして足止めさせ、その上で疲弊させてしまおうという作戦だった。

 そして、その作戦を提案された時のエースの一言がこれである。

「無理、そういうのない」

 無表情状態での即決であった。

 大半の読者諸兄が察している通り、本作の主人公は今まで、ダンジョンらしいダンジョン、まともなダンジョンを作ったことがない。そういうのは竜王が作った既存のもので事足りており、時折バージョンアップ(!?)したりして仕様変更したりといった程度で対応できてしまっていたのだ。

 それが、あろうことか今回の作戦において足かせとなった。

 かに思われた。

 そこで、エースは無表情状態からいつもの胡散臭い笑みに表情を変えた。

「……そういえば、ナード組から何か闘技大会みたいなの開けってリクエストがあったような……」

 まぁ要するに、最終的には大体我等が主人公のせいである。


「あ、そういえば今回はキリンさんのときと違って、能力補正はかからない仕様らしいですね」

 そしてさらっと語られる、ダンジョンの機能の一つであった。

 以前ケティが言っていた「ツイスタージラフが弱いのかみんなが強いのかわからない」と言った部分の回答がここにある。要するに、戦っていたメンバー全員の自力をダンジョンの能力で底上げしていたのだ。

 しかし、今回はそれを使っていないらしい。

「まぁ、そうだな。ただエンターテイメント性を高めるのなら、身体能力補正くらいかけておいても良いと思うのだが……」

「それではいかん」

 年上に敬語を使うこともなく、イニと打ち合わせを終えたナードが実況席へと帰って来た。

「戦いとは、神性なものだ。特に“勝つ”ことではなく“戦う”ことそのものを目的としたものの場合、なおさらなのだ」

「よくわからない理屈ですねぇ……」

「戦いを魅せる、というならばズルはなしということだ。……ところで、私のポップコーンが半分くらい激減してる気がするが、二人とも何か知らないか?」

 犯人たちは、そろいも揃って顔を背けた。

 ナードもそこまで執着があったわけでもないので、軽くため息をつくだけに留めておいた。

 対戦表に目を落すナード。

 そんな彼を尻目に、ケティたちは会話する。

「ししょーも魔王さまも、大丈夫ですかねー」

「さあ、どうだろう。魔王様は死ぬことは絶対ないだろうが、主目的が果たせるかどうか……」

 足止めをしている以上、エースたちは当然何か別な作戦の下に動いている。その作戦目標の達成状況によって、ケティたちがこの後どう動くかも大きく変わっている。ただ、間違いなく言えるのはエースに失敗が許されないということである。

 勇者時代にもそういった、絶対にミスの許されない作戦をこなしたことのある彼であったが、勇者でなくなった今の彼は、そんなに乗り気ではなかった。ただ無言をつらぬくエミリーからの信頼に応えるためか、ディアが何も言わずそっと肩をぽんと叩いためか、諦め半分で作戦の実行を決定したことは余談である。

 と、そんな話をしていると。

 不意に、ナードが会話に爆弾を投下してきた。


「まぁ、“黒の勇者”ならば大丈夫なのだろう」

「「……ファ!?」」


 ケティも、バルドスキーも、揃って同じリアクションをした。

 そんな二人に、ナードは不思議そうな顔を向ける。「何か?」

「へ? いや、だってですね……」

「ああ、気付いているのは私だけだ。イニはああ見えて、案外目の付け所が悪い」

「いや、ナードさんにだけは何があっても言われたくないと思いますけど」

 相変わらずな調子の会話であったが、バルドスキーは真剣な眼差しを向ける。その視線は、疑惑と不審に満ち溢れたものであった。

 本能でそれを察してか、あとほんの一瞬遅れたら消し炭にされていたかもというタイミングで、ナードは口を開いた。


「実は、かつて見ていたのだ。今は亡き王国の魔族の英雄“鎖塵”と、かの勇者との決闘を」


 “鎖塵(さじん)”とは、竜王四天王が一人にして魔族の英雄である。

 そして、エースと一対一で決闘し、ズタボロ同士になりながらも敗れ去った男であった。

「あれは素晴らしかった。……しのぎを削る戦いとは、まさにアレを言うのだろう」

 回想するナードの顔は、どこか晴れやかなものがある。それはバルドスキーが時折、エースを見ている時のような顔であったとケティは思った。

「イニも私も、“鎖塵”に憧れて剣を振るっていた。そして間違いなく、あの最後の決闘こそが我らの目指す、行き着くべき場所なのであろう」

 ナードの言葉からは、とても脅迫や敵対とは無縁の感情が読み取れる。

 それは――一種の憧れであった。

 エースと“鎖塵”トスカーレとの、まさに生命を削りあう戦いを。

 痛々しさとも、悲しさとも、焦燥感とも、プレシャーとも、ただ何一つない晴れやかな戦いを。

「……だからこそ、“鎖塵”殿が亡くなられたのは、本当に残念であったがな」

「……?」

 いまいち何をナードが言いたいのか分かっていないケティである。バルドスキーの語りもたまーに聞いているので、こういった昔話には何らかの意図があるのではと思うようにしているケティであるが、彼の話からは「素晴らしい戦いへの憧憬」以外何一つ読み取れなかった。

 大正解である。

 残念なイケメンは、当然のように何も考えずに話していた。

 そんなんだからバルドスキーからも敬意を払われないのだが……だがしかし、バルドスキーは、ナードが敵対しているわけではないということだけを、最低限理解する。

「……その話、時期がくるまでは決して広めるなよ?」

「あい、わかった。首にかけて誓おう。私とイニの」

「いや、あの何勝手に巻き込んでるんですか?」

 そしてこの場に当事者が居たら、間違いなく鉄拳制裁が飛ぶようなことを言うぽんこつであった。

 ちなみに、さっきナードが話していた決闘こそが、彼のバトル馬鹿に拍車を掛けた切欠に違いない。まぁ要するに、色々と原因は我等が主人公ということであった。

 

 

”間断”バルドスキー、”隕牙”テオブラム、”鎖塵”トスカーレ、”探求”ミリリガンの四人で竜王四天王です。


次回も一週間以内を目指しますよ~!

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