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二章三十二話:天命を待つ前にまず人事を尽くす

耳に痛ぇサブタイです。



「――聖騎士?」

 エースの疑問に、バルドスキーが答える。

「ええ、そうでしょう。“勇者”が活動できない国において、三級以上のカースモンスターが出たのなら、派遣される可能性があります」

 夕食終了後、遊園地の修繕などの仕事をマダラに任せて、エースとエミリーはバルドスキーたちと話し合うことにしたのだ。書斎にて話し合う彼らであったが、現時点ではバルドスキーが自分の意見を語っているわけである。

 そんなわけで、バルドスキーの言葉は続く。

「長く見積もっても一月ほど後になりましょうが、その時のため“りゅーおーらんど”ならびに我々の方での、迎撃部隊の結成を打診いたします」

「迎撃部隊、でございます?」

「はい。カースモンスター自体の情報は王国側に回らないよう、魔王様が“ストーンワイズの王宮”一帯を一時的にダンジョン化したことで事なきを得たでしょうが、教会の方は見て聞いての情報で出現を感知しておりません」

 聖女教会においては、聖騎士を派遣することに際してかなり慎重である。

 数人で出撃すれば、一国の軍隊を易々とそぎ落とすことすら可能なのである。聖武器を持っていなくてもそれだけの攻撃力なのだから、かの俗物的な方法論で平和を模索してるんじゃないかと言うエスメラの教えが、軽々しく扱っているわけはない。

 だからこそ、聖騎士の派遣にかかる条件は案外と多い。

 カースモンスターについてもその一つ。例えば一国がモンスターの発生をいつわって騎士を派遣したとしよう。その際、その国が戦争状態に巻き込まれたら? 聖騎士は、守護義務によりその国をしばらく守らなければいけない。たとえカースモンスター出現の報が嘘であっても、そうなってしまう。そういった事態を回避するために、非公開であるが彼らは特殊な方法で出現を感知しているのだった。

 まぁもっとも、どこぞの吟遊詩人幼女が生きていれば「あんなの、加護の発生条件を“死霊”属性使って感知してるだけじゃない」とか軽がると結論を導き出しかねないのだが、幸か不幸か幼女はこの場に居ることはできないのだった。

「故に、確実に派遣されることでしょう。ただ現状、こちらのダンジョンについて情報が王国に出回っていないとなると――」

「その情報も隠される、と。すると、アレかな? 最悪なパターンとして、未知のダンジョン扱いになって襲撃とかされる可能性があると?」

「左様です」

「それに合わせて、教会の情報収集部隊の増強を……。ヒュー」

 エースは思案する。

 予想は、確かにありえそうである。

 現状のことから鑑みて、教会が何もアクションを起さないとは考えがたい。マッドジラフの出現が偶発的なものであったにせよ(マッドジラフの出現条件については未だ解明されていない)、それを使って何か仕掛けてくるだろうことは明白である。

 だがしかし。

 相手はデュオニソスである。

 あの、セラスト国王でさえ辟易するほどのタヌキである。

 エースの知る中で(本のことを除けば)三本指に入るほどの切れ者をして、疲弊させられるだけの相手なのだ。

 確かにバルドスキーの予想も打診も妥当な線をいっているのだが、ただ単純な手として静観してよいものかというと、それはまた違ったものだろう。そう、何かピースが欠けているような――言い知れぬ感覚が、エースを過ぎる。

 奇しくもそんな主人公補正の影響を受けてか、ディアが室内に入ってきた。

『……きな臭い』

 どこぞの女剣士みたいな台詞を吐いている。

 ディアの登場に少なからずT・T・Tは驚かされたが、しかし問われた言葉には正確に答える。

『一つ聞く。カースモンスターを召還魔術で送り込むことは可能か?』

「召還となると“死霊”属性ですね……。ヒュー。不可能ではございませんが、どこからモンスターを調達するかという話になるでしょう……。ヒュー」

 召還魔術、死霊属性については予定通りなら第三章にて本格登場であるため説明は省くが、どちらにせよそこには一つのルールがある。

 召還する対象を明確に指定できない限り、呼び出すことができないということだ。

 いくら魔術が物理法則をちょろまかして色々やる技術だといえど、もっと根本的な部分――質量保存の法則だの、四大元素でカバーされてきっていない部分については無視することが出来ない。

 ダンジョン生成やらダンジョンモンスターやらについてもそれは同様であり、亜空間だの無限に湧いて出てくるように見えるモンスターたちにも、一応材料となるためのスペースやら動物やらが存在して使われているのだ。

 だからこそ、転送に近い技術である召還においても、それは同義であるということだ。

 だが、これにディアは一言物申す。

『あるじゃないか。カースモンスターについての研究機関が』

「確かにありますが――」

『エミリー。カースモンスターの研究を一番熱心に取り組んでいるところはどこだ?』

「……教会、でございます」

『国際法上、カースモンスターの召還は違法とされているが――運搬などの際はまた違っていたはずだ。そして、その運搬許可を自由に取れる相手は、教会しかいない。違うか?』

「「「「「……」」」」」

 周囲は、押し黙った。

 被害妄想、と言えば都合がいいかもしれない。

 無論、読者側に開示されている情報からすれば、デュオたちによるマッチポンプを疑ってかかるべきであるが、少なくとも当事者たちにおいてはまた違った意味合いになる。圧倒的に情報不足である彼らが、下手にそんなことを考えるのは被害妄想と一周されかねない事柄だ。

 ディアの言葉も確かに筋は通っていそうである。だが証拠もない。確証もない。推察しか出来ない事柄に対しては、疑わしきは罰せずである。

 下手に警戒して攻撃でもしかけてみようものなら、今度こそ大きく均衡状態が崩れて戦争になってしまうだろう。

 だからこそディアのこの言葉は、あくまで一つの意見として片付けられる案件だったろう。

 この場を取り仕切っている男が、エースでなければ。

「……バルドスキー、今すぐに戦える奴を選抜しておいて。最低でも五十人くらいは。こっちも色々準備することが出来たかみたいだから」

「ま、魔王さま? 一体何を――」

 突如立ち上がった我等が主人公に、驚きを隠せないバルドスキー。エースの表情はいつもと大して変わらないが、目で、緊急を要するというのを訴えていた。

 肩を竦めて、エースは続ける。

「聖騎士たちについてだけどさ。エミリー、一つ確認したいんだけど……。アスターと獣王の戦いの時に教会が『支援』として派遣要請していた、聖騎士団ってもう帰った?」

「……! いえ、まだ到着していないでございます」

 聖騎士団、といっても聖騎士たちで構成された騎士団という意味ではない。一人の聖騎士と、その部下の騎士たちによって構成される団体という意味だ。

 奇しくもそれは、獣人の砦侵攻の際に、教会側が呼んでいた騎士たちだった。

 実際の戦闘がほとんど無傷で終了してしまったため救援の必要もないのだが、既に出立している以上、一度オルバルあたりに寄ってから帰らないと格好がつかないのだろう。

「そして、一度オルバルによるってことは、一度はこの国の教会の傘下に入って命令を待つということになるんじゃないかな? もし仮にそこで、“人間至上主義”派閥とかの騎士が派遣でもされていたりしたら――」

「……否定できない、でございます」

 まだ被害妄想の域を出ないが、しかし、先ほどのディアの意見だけよりは説得力を帯びたものになっている。

 少なくとも、警戒して対峙することを早急に準備するだけの理由にはなるかもしれない。そこにいたって、バルドスキーは、エースに意見を言う。

「しかし、制度上はカースモンスター関連についても、一度“聖教国”にある教会本部に打診してからということになるのでは――」

「教会も、別に一枚岩じゃないからね。単純な話、国を手助けするために宗教家やってるのもいれば、逆もまたしかりってこと。まぁ本当に最悪、裏で取引して許可だけ貰ってる可能性もあるし」

 これには、バルドスキーも目を回した。

 無論、そういった手段を予想していなかったというわけではない。ただバルドスキー自身、竜王存命時代には他国の教会関係者と話し合いをしたことなどがあるのだ。その時応対した相手が、多少政治家的な腹黒さを持ち合わせていても、起立を遵守する信徒であったことに違いはなかった。

 だからこそ故に、エスメラ教の信徒だろうからこそ故に、その事実はバルドスキーの想定を超えたものだった。

「対策は、出来る時にしておかないとね」

「……かしこまりました」

 しかしすぐさま切り替えて仕事に取り掛かれる当り、バルドスキーはやはり有能の部類である。


 こうして、“りゅーおーらんど”側は教会に対する警戒度を上げたのだが――果たしてそれがどれほど功を奏するかは、彼らは未だ知るよしもない。


 だがしかし。

「そういえばシャルパンのお客がここ数日減ってるけど、どうしたのかな……?」

 面倒なイベントごとというのは立て続けに迫りくるということを――この時のエースはまだ自覚していなかった。



そろそろ巻こうかと思いますが、さて二章は何話になることやら・・・。

次回も一週間以内を目指したいです(震え声)

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