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二章三十話:情報は握っている奴が一番強い

ただし物理的にではない。

 

 

「……無事、鎮圧されたようです」

「そ。それは何よりだね。ヒトが死ななかったっていうのは、素晴らしいことじゃないか」

 さて、ここはオルバルのとある料理屋。

 交易都市というだけあって、色々な国の料理屋とかもあるこの街である。

 結果としていわゆる「ゲテモノ」な料理も多くあり、本日のデュオニソスたちも、それを食べに来ていた。

「……何です、あれは? 灰色の麺……?」

「ソバとか言ったかな。まぁ頼みましょう」

 座敷に座って、メニュー表を見ながら周囲のお客さんの器の中をうかがう二人であった。

 ちなみに両者とも、服装が普段と大分違う。デュオは質素な格好で、肩から簡易バッグを提げていた。ぱっと見、見た目の若々しさも相まって若手の商人のような風貌である。

 対する助手の少女はと言えば、こちらもこちらで良いところのお嬢さん風な格好であった。スカートでないのは、機能性重視傾向にある商人の家の出でも装うためか。

 結果として両者とも上客扱いされているので、作戦は成功しているのだろう。

 大きな家の商人の口コミには、それだけの価値があるのだ。

 しかし結局二人は、夕食なのに「掛けそば」を注文した。

 助手の少女も最初は何かきちんと選ぼうと思っていたのだが、デュオが「一応、節約生活が基本だから」と教会の司祭らしい(こういう時ばかりそれらしい)ことを言ったので、結局頼むに頼めなかったということである。彼女も流石に、そこまで面の皮は厚くなかった。

 運ばれていく天ぷらそばをじっと眺めつつ、彼女はデュオに一言いった。

「で、わざわざ座敷ってことは何か聞かれるとまずいことですね。例の()()()()

「そそ。別に監視はついちゃいないけど、表向き()()()でこういう話するのもねぇ。まだ情報開示していないんだし」

 地味に隠語を使って会話している二人であるが、当然周囲に聞かれることをある程度前提としている。その上で自分の身分を勘違いさせて隠語を使うのだ。二重の意味で暗号化されているようなものであり、事情を知らない第三者の邪推も大きく影響しないレベルである。

 そういった考えの元であるからこそ、二人も多少気楽に会話できるのである。

「まぁ、それでも普通こういうところでもやらないけどね。微妙な情報部隊というか、そういうところはやっぱオルバニアは、中途半端なんだよねー。国自体も君主国家らしくないというか」

「王国内でそういうのは言わないほうが宜しいかと」

 あ、おいこらこの司祭野郎ども。

 何勝手に国の名前明かしてるんだゴラッ。

 残念なことに筆者の言葉は彼らに届かない。

 結果として静止すら出来ず、ここに王国の正式名称が曝されることとなってしまった。


 オルバニア王国。


 登場人物紹介とかを見ていた方は、なんとなく察していたかもしれないが、本作の舞台はオルバニア王国である。

 ちなみに国旗は、竜と剣を重ね合わせたような紋章で、建国伝説のそれに由来する国旗だ。普通に格好良いものであり、幼少期のエースもだいぶ中二心 (?)くすぐられたデザインであった。

「で、まぁ分かったでしょ? 前に言ってたことが」

 デュオの言葉に、少女は手を組んで唸った。

「わかりませんが、何かしたというのは分かりました」

「んー、じゃあ順を追って確認していこうか。まず、一番最初から」

「“土地権利書”ですね」

「そそ。それを相手に通告するわけよ。ぶっちゃけまー、あの扉がある場所は近いってだけであんまり関係なかったんだけどさ」

 それが第一前提、と言いながらデュオは指を立てる。

「次にキリンさんだけど、幸運なことに出てきてくれたから、こちらが手を煩わすまでもなかったんだよね」

「煩わすまで?」

「本当は、別な条件で呼ぼうと思っていたから」

 何を呼ぼうとしていたかと言えば、当然聖騎士である。

「当初の計画としては、ただ脅すだけでよかったんだよね。そしたら話し合いとかも出来るし」

 要するに、彼が計画していたのはこうだ。

 単純な話、「こっちはお前等のことを知っているぞ!」「力強い味方もいるんだからな!」ということを相手にまず知らしめる。

 その上で、武力を圧力として「交渉ごと」に持ち込もうとしていたわけである。

「……目的は何だったんですか?」

「無論、利潤さ。当然向こうにもメリットはあるよ?」

 利潤とか言ってるが、つまりはピンはねのことである。

 デュオが意図していた戦略は、「教会がバックについてやるから、ダンジョン増やせるならもっと増やしなさい!」「こちらがバックについているとなれば、人間たちも警戒心を下げて入ってくるよ!」「その代わり、出た利潤いくらか寄越しなさいね」ということである。

 ざっくりとした知識と理解ではあるが、彼は“りゅーおーらんど”の発展性に目をつけたのだ。

 だからこそ、これから伸びるビジネスには手を出しておいて損はない。

 仮に相手が失敗したとしても、人間ではなく魔族ならば切り捨てるのは(この国では)そう難しくない。

 さらには、自分たちの立場を上にした状態で交渉に臨むための聖騎士派遣である。

「向こうにも分かるようにやったから、たぶん察知してるのが居るんじゃないかな?」

 ある程度相手の能力も予想した上での作戦ではあるのだが、今のところは上手くいっているようだ。……筆者からすれば穴だらけ極まりない作戦ではあるものの、結局は聖騎士を呼んでしまえば、後は力押しみたいなものである。

 だからこそ今回は、達成目標をざっくり設定しているともいえるのだった。

「実際、政治的問題もクリアで呼べるしね」

「はぁ……」

「いやでも、まさかキリンさんが出てくるとはな~。僕もそれは予想してなかったよ~。でも、これで特に問題なく条件も満たしたし、万事解決ってことで」

 その言葉を聞いて、少女がデュオをじっと見る。


司祭(パパ)。――貴方は、まだ私に言っていないことがありますね」


 その言葉を受けて、デュオが固まる。

「ん、どうしてだい?」

「いくら簡単な作戦が有効だからといって、穴が大きすぎます。……召還される方が、私達のお仕事を手伝ってくれるとは限りません」

「ちなみに上には、一応計画は通達済みだよ?」

「それでも司祭長様(ビッグボス)には話しが回っていないでしょう。下手に見つかると大目玉では済みません。そう考えれば、導き出される結論は――裏で取引しましたね、司祭」

 デュオは、半笑いで固まった。

 引きつった笑いをしつつ、視線をそらす。

「……やれやれ。全く妙に頭の回る娘に育ったなぁ」

「貴方が私の育ての親でなければ、普通にぶっ飛ばしているところですが、あえて言いましょう。最低です」

「いや、別に教義に反したことはしていないよ?」

「拡大解釈とネジ曲げを横行させた上で、でしょう」

 少女の言った言葉が、つまりそのまま真相である。

 教会は基本的に「人間」「亜人」「魔族」を区別しないものの、実はそれぞれにも派閥が存在する。

 今回デュオは、そのうちの一派に少~しコネを使ったのだ。

「そう考えれば、こちらにこれから回されてくる方もおそらく人選されてるでしょうし……。というよりも、最初は下手すれば条件を満たさなくても国に招き入れて、たまたま周囲で討伐した後に急速も兼ねて寄ったとか言わせて使おうとしていましたね?」

「はっははは……。君が敵じゃなくて良かったよ」

「本当、育ての親じゃなければぶっ飛ばしてるのに」

 思わず舌打ちをした彼女に、しかしそれでもデュオは微笑を絶やさない。

 彼からすれば、娘の成長を見ている感覚が強いのだろう。見た目はかなり若々しいが、実年齢は国王とタメか少し下くらいである。なんだかんだ言って、父性の一つくらいあるのかもしれない。

 この場合、人間性うんぬんとそこは大きく関係はないのだ。

「ただ、今回のことでこちらも一つ確信で来たことがあるからね」

「?」

「対応を見て、まずもってこっちの予想が外れて居なさそうだったってことさ」

 そして、新に問題を出して娘を困らせるあたり、この父親は大概である。

 しかし、娘はその反応から、一つの仮説を類推する。

「……まさか、商会連の()()にでも、情報を流しました?」

「鬼が出るか蛇が出るか。どうも城ではやんごとなき方々が変な計画を練っているみたいだから、少し噛ませてもらおうかとね」

「……何で私を拾ったのが、貴方のような人間だったのでしょうか」

「ははは」

 やがて運ばれてきた蕎麦にちびちび手をつけながら、二人のやり取りは深夜まで続く運びとなったのだった。

 

 

「おそば、美味しいです」

「同意するよ。異文化が流れ着いてるというのは良いことだねぇ」


というわけで、王国の名前はオルバニアです。本当は番外編でやろうかと思っていたのですが、諸事情あって流れたのでここにて開示です。まぁ今後も王国表記は多いですが・・・


次回も一週間以内を目指します


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