二章二十九話:ダレカの掌の上
そろそろ巻きで行きたいのですが、イベント多過ぎィ!
聖騎士とは。
聖女教や勇聖教などの、教会や神殿に所属する騎士たちのことである。
己で志願するものや、教会によって幼少期から育てられているもの、あるいは他国から引き抜かれているものなどもいる。
一律共通しているのは幾つか有る。
熱心な宗教の信者であること。
ある程度の実力を持ち、単体でかなり戦えること。
様々な試験を突破して、それぞれの団体直轄となるのだ。ある意味、当たり前なことだろう。
だとすれば、彼らの仕事は何であろうか。
一つに、“呪われた化物”たちの討伐が有る。
カースモンスターとは。
とある高位精霊の加護を暴走させたモンスターたちは、本来存在するモンスターの何倍も醜悪で、またある共通項を持つ。
――血と、怨嗟を己の糧とするのだ。
例えばマッドゴブリンというモンスターがいる。
このモンスターは、スモールゴブリン(角の生えた小さなヒトガタモンスター。猿などがベース)よりも大型のヒトガタ生物が元になっているカースモンスターである。
このマッドゴブリンは、血と怨嗟を喰らい、その姿を悪魔的に変質させる。
マッドデーモンと呼ばれるモンスターとなるのだ。
巨大な翼と大きな二本角。
マッドゴブリンの時代からは考えられない知性を持つ固体も多い。
“黒の勇者”エース・バイナリーにしても、彼と騎士団長ダグナが共に戦って辛勝した相手であり、彼にとって一番最初に戦った相手でもある。また、マッドゴブリンは彼と女剣士カノンとが対峙したモンスターであり、その後のパーティー結成の切欠にもなっている。
主に初期のエピソードだけでも、これである。なにかと我等が主人公に、縁深かったりするのだ。
そして、そんな彼だからこそ。
カースモンスターの恐ろしさ、対処の面倒さについては理解している。
それであるが故に、エースがまず最初にしたことは、
「周辺の被害状況は」
即断即決での、情報確認であった。
普段全く見せることのない、完全な無表情にケティは密かに違和感を抱いた。
「し、ししょー、魔王さま……?」
「私も見るのは初めて、でございます」
エミリーも無表情ながら、何故か拳を胸元で握っていた。
勇者時代、エースが敵と戦う際はこんな感じに無表情であったことが多いと、エミリーは聞いていた。それを彼女につい最近教えた相手曰く、
『あれは、自分の意識を戦闘に集中させるために行っていることだ。早い話、余計な思考を後回しにしているということだ。私なんかがやるのとはレベルが違う。もっと深いところまで斬り捨てているんだろう。痛覚すら時に凌駕していたからな。
……まぁだから、終わった後に後悔も多くて、大体落ち込んでいたんだがな。エースは……』
とのことである。
普段のハイテンションやらジェットコースターやら何やらの思考を一切合切捨てて、ただただ目的の事柄を処理するのに特化した精神状態。感情論をほぼ放棄して、意思の力で生理現象すらねじ伏せる。
黒騎士と戦ったとき、ついぞ発揮されることのなかった「戦闘モード」のエースである。
そんな彼の鬼気迫った声に、城内のアナウンスは可愛らしく答えた。
『==う~ん、とりあえず今は問題ありませ~ん。ただ、被害が今のところ出ていないってだけで、そんなに長くは持たないですよう~==』
「避難状況は?」
『==マニュアル通り、周辺住民も避難させてますですよ~。ナード君とかが率先して==』
「そう」
一言だけ言って眉間をつまむエースの姿に、ケティは驚愕を露にした。
基本ボケ倒しのエースであるが、ある種確信犯めいてやっているのではと推察しているケティである。周囲がボケれば、普通にツッコミを入れるエースなのだ。だからこそ、ナードが率先しての辺りで普段なら突っ込みを入れてるだろうと思うわけである。
それがまさか、一言だけで流されるとは。
以前一度、カースモンスター退治にエースとエミリーと三人で出たことがあったのだが、その時とは非にならないほどのシリアス具合である。
今更ながらではあるが、彼女も事態の深刻さを理解した。
「……出現したモンスターについて続報は?」
『==う~ん、首が長いかな? あと大きい==』
『……ツイスタージラフか』
そう答えるのは、既に準備万端といった風のディアである。
先ほどより、所々鎧のパーツ数が多いことにケティは気付いた。どうやらアレでも少し軽装していたらしい。具体的には間接部の装備が、先ほどまでより分厚かった。
そんな剣士にあやされていたリザサは、感情の処理が追いつかなくなったのか気絶して眠っていた。エースの座っていた椅子に座らせて、ディアはエースに一歩近寄る。
ケティが、そんなディアに質問する。
「ツイスタージラフって……、『魔術殺し』ですか?」
『……進化したものだな。ツイスターの段階ではそこまでではない』
ツイスタージラフ。
名前からしてキリンっぽいが、確かにキリンである。妙に筋肉ムキムキだったり、脱色したように真っ白な全身をしていたり、かと思えば所々絵の具を混ぜたような気味の悪い斑点があったり、首だの足だの胴体だのがネジくれ曲がっているというネクロモーフ一歩手前な外見さえのぞけば、まあキリンさんみたいな外見はしている。
重力と念力を使うモンスターであり、マッドゴブリンと同じく「三級」であっても、こちらの方が能力は高い。
エースはエミリーにいくつか指示を出した後、ディアに向かってこう言った。
「ジラフから進化させるわけにはいかないし、行くぞ」
『……ああ』
「バルドスキーはマダラさん起せ。あと、T・T・Tたちもここで残ってろ。片付けてから、色々次の指示を出す」
「「はっ」」
魔王などと呼ばれているのに全くそういった威厳のなかったエースが、何故だろう。状況が変わっただけで、あまりにもそれらしすぎる動きをしていないだろうか。
エミリーも少し戸惑っており、ケティに至っては頭が真っ白になってしまったようだ。
そんなケティを軽くぺちっと叩いて、エミリーが彼女にメモ書きを渡す。
「……何ですか? これ。ししょー」
そんなケティの疑問も無視して、エミリーは何やら話し合っているエースとディアの前に立つ。
「邪魔」
「私が一緒に転移していった方が、早いでございます」
「処理能力はお前の方が上だ。後始末も含めて、今出る必要はない。後方に居ろ」
「時間は有限、でございます」
「……わかった」
あまりにも言葉少なな会話であったため、両者の思惑やら考えやらが全く読めない会話である。
ただディアはそれでも何かを理解したのか、両者の手をとってこう言った。
『……最短で、どれくらい早い?』
「ストーンワイズの王宮でしたら、“りゅーおーらんど”経由で八回でございます」
『八回…………。まぁ、我慢しよう』
「魔王様――」
「かまうか。行くぞ」
即答で断言。
普段の転送酔いなど知ったことかとばかりに、エースのそれは堂々とした物言いであった。
あんまりにも堂々としすぎていたので、ついうっかりケティは惚れてしまいそうになったのはナイショである。
そして、彼らは一瞬で転送されていった。
その先に何があるのか、ケティはまだ知る良しもないが。
「……何か、大変なことになりそうですよね~」
そう呟きながら、混乱で目を回したリザサの介抱に向かった。
しかし、バトルシーンはしばらくお預け。
バトルモードだと即断即決な主人公でした、とさ。
次回も一週間以内を目指すでございます




