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二章二十八話:信仰と狂信の境目

少し真面目にふれはじめます・・・ まぁ最終的にはコメディ時空に帰ってきますが



 ちなみに、エースの正体暴露はさらっと流された。

「かつての“黒の勇者”の仲間の一人に、獣人が居たというのは知っているでございます? つまり、魔王様――エース様は、魔族に対して何ら忌避感はないのでございます」

「いや、あの、色々おかしいです」

「事実でございます」

「ししょーが言うんだからそうなんでしょうけど、でも……」

「実際、自分の目で見てきてどうだったでございます?」

「……」

 珍しく、ケティも真面目な顔で黙ってしまった。

 黙らざるを得なかった。エミリーの言ったとおりである。

 エースが“黒の勇者”であると気付かなかった理由は、なにも顔を知っていなかったり、武器を持っていなかったりという事情だけではあるまい。趣味に暴走している気配はあったものの、それでも何より竜王の求めた「笑って暮らせる」世界のため、魔族のために奔走していたからだ。

 実際のところ、それはなにも魔族のためだけという行動ではなかったのだが、しかしその動きについて一貫性があることはよく知っている。エミリーについで間近でこの半年間、彼に付き添ってきたのだ。

 いくら鈍感であっても、何か含みの有る行動には気付くことができる。

 つまるところ、魔王さまが“黒の勇者”であること以外は何ら今までと変わっていない、とこうことだ。

 だがしかし、ケティは思わず脱力する。

「……私、オエリ――」

「エミリーでございます」

「わかってますよ。まったく。……エミリー様が魔王さまに従っていたのは、てっきり勇者とその仲間達を皆殺しにでもするつもりだと思ってたんですけどねぇ……」

「噂は噂でございます。……もし私が何かを憎んでるとすれば、お父様が死ななければならなかった社会の流れそのものでございます」

「ははぁ」

「なればこそ、そこに変革を齎すエース様を補佐するのは、ある意味私なりの復讐ともいえる出ございます」

「頭のいい人の考えることは、よくわからないです」

 実際は頭が良いというより、いろいろ遭って当り散らす場所がなくなってしまったというだけなのだが。それでも自制心で押さえて動けるあたり、確かにケティよりは大人であり、頭は良いのかもしれない。

 ちなみに、自制心で押さえられず暴走して周囲ごと自爆しかねないのは、本作の人間側ヒロインである。

「要するに、今までどおりということでございます」

「まぁ、一応納得しておきます。……でも、どの部族でもないとは思ってましたけど、まさか人間だったとは予想だにしてませんでした」

「魔角や魔角紋、魔角晶がない段階で気付け、でございます」

 ちなみにこんな会話を交わしている横では、妙にテンションの上がったリザサがエースに泣きながらしがみつきそうになったり、それをディアが持ち上げてよしよししてあげたりしているというシュールな絵面が展開されていたが、エース本人が無視しているのでここでは対して取り上げない。

「あー、というか君が俺の暗殺実行犯だったのか……」

『……』

「で、ディア殿も抑えてください……」

 さて、エースとT・T・Tである。

 まず彼からカミングアウトされた一言で、エースは眉間のあたりを摘んだ。

「しかしまさか、ハボックさんとかラインハルトさんまでとはなぁ……。何か俺、恨まれるようなことってしたっけ。う~ん……」

 T・T・Tが本日、エースのもとにはせ参じたのは他でもない。

 エースの暗殺を意図した八人を突き止めたためだ。

 もともと会議の場においても、各々の相手に対して知識がほとんどなかったT・T・Tである。辛うじてラインハルト軍務大臣のことだけは見知っていたものの、そんなに交流があったわけでもないのだ。

 まぁ、主に教育大臣なあの人が「魔族と会食なんぞ、汚らわしいッ!」とか叫んだのが大体悪い。

 結果として全員の氏素姓を洗うまで、半年近くかかったわけだ。

 何故それを実行犯たるこの男が伝えに来ているのかと言えば、それはひとえにエースとエミリーの采配の結果である。

 T・T・Tは、深々と頭を下げる。

「あの日より、私の身はオエ――「エミリーでございます」――ア様の元に従属する――「エミリーと呼べって言ってるでございます」――身でございますが、生憎とその予想はできません。人間はあいも、理解が難しい……。ヒュー」

 まぁつまるところ、あの日である。エミリーがT・T・Tからエースの死体を奪ったあの日 (一章八話)以来、この蛇人間は“黒の勇者”への復讐者ではなく、“竜王の娘”直轄となったのだ。それ以来、エミリーが影に日向に一人で情報収集しているのを見て、彼女の変わりにそれを代行することを買って出たのだ。なんだかんだで現在、そちらの部隊も“りゅーおーらんど”ほどではないが、そこそこな人数が居たりする。その代表に納まり本日この場で仇だったはずのエースと対面しているのだから、なんともまぁ数奇な縁だ。

 というよりも、己が種族が抱えていた憎悪を、一度殺したといえ水に流してしまうあたり、この男もかなり危なっかしい存在なのかもしれない。紙一重の忠誠心であるが、一歩間違えればただの狂信にもなりかねない。

 そこのところを良しとしない支配人は己がメイドテレポーターに視線を送るが、彼女は無言で見つめ返すだけであった。心配されるようなことはない、もし何かあったら自分で始末をつける――おそらく、そういう風に言いたいのだろう。

 とりあえず、エースは色々と面倒なことを後回しにすることにした。色々言ってやりたいけど、と前置きした後に、肩をすくめて問いかけた。

「まず、どうやって城に入れたんだ? そもそも王城に君みたいなのが入ったら、問題ありそうだと思うんだけど」

「教会から回された労働奴隷に混じって入りました……。ヒュー」

「あー、となると計画犯の中には……」

「いえ、あえて何も聞いていないようでした……。ヒュー」

「まぁ、確かにそうだろうね。それくらいアレじゃないと、王様も嫌ってないだろうし」

 無論、どこぞの司祭のことである。

 もっとも、そちらの情報についてエースもさほど詳しくはない。せいぜいリリートリッヒ(デュオに仕える秘書のような少女。エースに対するかつてのメッセンジャー役)を介して面識があったくらいだ。正直なところ、エースもあまり好きではなかった。ほぼ直感であるが、それが余計なフラグをばんばんへし折る彼の性質に由来したものであることは間違いないだろう。

「そういえば、何か少し慌てていたように感じますが、何かありましたか……? ヒュー」

「あー、うん。バルドスキーにも話したけど、もう一回ね――」

 説明は省略するが、まぁ簡単に書くと「教会がガンドレイ近辺の土地権利を買い取ったよ~」という話である。正直、土地近辺と言えど“りゅーおーらんど”ガンドレイのある場所は国有の土地であり、環境保全の名目で一切ヒトの手が入らないようにされている場所だ。伊達にゲート設置場所を選ぶのに苦労はしていない。

 それゆえに、わざわざその権利書を持っている旨を、王国側に隠している“りゅーおーらんど”に通知する必要性が全く理解できない。

 何かたくらんでいるのだろう、というのはエースにも理解できるが、しかし何をたくらんでる釜では思考が及んでいない。バルドスキーにしても「知識不足が否めません」と返されており、エースは眉間をつまむ。

 そんな彼らに、T・T・Tはこう言った。

「デュオニソス――現・王国の教会の司祭ですが」

「何かあるの?」

「いえ、しかし何か以前にも、似たような話をどこかで見た覚えがあったような――」

 彼の言葉が言い終わらないうちに突如、竜王城に“りゅーおーらんど”のアナウンスが響き渡る。


『==エマージェンシー! エマージェンシー! カースモンスター、推定三級以上のカースモンスターが“ストーンワイズの王宮”に出現! 繰り返します、エマージェンシー! エマージェンシー!――』


 エミリーやディアをはじめ、室内全員がその放送の事態の重さに、何事かと警戒を強める。

 そんな中エースは、完全無欠な無表情でふと一言。


「――、(まずい)いな。やられたかもしれない」


 奇しくも彼の頭の中に一瞬浮かんでいたのは、以前T・T・Tから買い取った「王子珍道中」のとある巻の話だった。



次回も一週間以内を目指すでございます

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