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二章二十六話:マッチポンプ 、ただし油

番外編ェ・・・



 予期せぬ事態というのは、大概予期しない段階で来るものである。

 それはある日、いつもの様にエースがディアとエミリーと三人でお昼をとっていたときのこと。

 “りゅーおーらんど”運営陣は、みんながみんな必ずしも昼時の時間で一緒に食べられるわけではないのだが、この三人に関しては別である。

 エースは総監督であり、ディアはそのボディーガード。エミリーは城全般の作業(たまにケティと交代で“りゅーおーらんど”入り)と、各々の仕事がそこまで緊急性を要さないのだ。昼時にゆっくりとできるわけである。

 ちなみにマダラはここ最近昼夜逆転気味で、バルドスキーはそもそも、真っ昼時は棺桶の中である(よほどのことがなければ出て来ない)。必然、高い確率でこの三人がそろうという訳だ。

「本日の昼食は、松露のロースト・炎蟹(フレイムキャンサー)ソース添え、でございます」

「野菜がないねぇ」

「……肉」

「そちらはお夕食に回る、でございます」

 テーブルの上に置かれている品目は、ライスとオニオンスープがそれぞれ一皿ずつ、メインである某キノコの蟹餡かけ添えである。生憎と本作はコメディなので、料理について深くコメントすることはない。ないのだが、日ごろから彼女の料理を食べている両者に、この料理の味を疑うという発想はなかった。端的に言って、味覚のセンスは良いのだ。

 それぞれが席について、両手を合わせる。いただきますの際、以前のエースはら「運命の女神」に今日の豊穣を感謝する言葉を述べているところだったが、生憎と今のその身は「破壊神」のものである。別に言ったところで何か不都合があるわけではないのだが、彼は郷に従っていた。

「……香りが強いな」

「ソースをつけると、また変わるでございます」

 ふぅんと言いながら、ソースをナイフですくって松露に乗せるディア。ちなみに本日も鎧は口元以外脱いでいない。いい加減暑苦しい格好なのだが、そろそろ冬場に入りそうな王国においては、むしろ適度に温かい格好なのかもしれない。ちなみにエースも礼服の上着は脱いでいるし、バルドスキーやらマダラやらケティやらは半袖仕様だ。いつも通りなのは、メイドテレポーターと剣士くらいだった。

「どうでもいいことだけど、ディアも本当脱がないよねぇ。別にいいんじゃない? 誰も見ていないんだし」

「……駁目(まだらめ)氏がいつ起きてくるかも分からない」

「そりゃそうだけど、そんなこと言ってたらいつまで経っても――」

「こちらが好き好んでやっていることだ。それに、いつ何に君が襲撃されるか分かったものではないのだから、用心に越したことはない」

 エースが何とも言えない表情をしても、ディアは引かない。引こうともしない。この剣士にも剣士なりに、鎧を脱がないだけの理由があるのだった。

「――もう二度と、失敗はしたくない。守れたはずのものを、守りそこなうというのは」

「ん~~~~、まぁそっちがそれで良いなら、とやかくは言わないけどさ。でも今は俺の指揮下ってことなんだし、いつかは脱いでもらいたいかな」

「そういう時が来れば、な」

 眉間をつまんでう~んと唸るエースと、無言でそれを見つめるディア。なんとも言えない沈黙が漂う。エミリーが咳払いでそれをぶち壊し、両者はようやく食事に戻る。

「そういえば、ディア様から食事の感想を頂いたことがない、でございます」

「……許せ」

「?」

「あー、ディアはちょっと特殊だからねぇ……。具体的には言えないけど、育ち的にあんまり味覚が良くないのよ」

「左様でございますか。……ふむ、ではバリエーションを増やすでございます。色々な味を体験してみると、なおよしでございます」

「一応感謝しておく……?」

 エミリーなりの気遣いだったが、ディアにはいまいち理解されなかったらしい。ただそれでも、相手が気遣ってくれているのを理解してるので感謝の言葉を返した。

 なおそんな二人の様子を見て、エースは肩をすくめた。

 と、そんなときである。


「し~~~~~しょ~~~~~~~~、ってあいたッ!」


 絶叫しながら食事の間まで走ってきたケティの額に、空間転移でデコピンの威力だけをぶつけたエミリーである。「何事でございますか」

「いや、あの、地味に威力ましましにするのやめてください……。って、そういうことじゃないんですよ、これです、これ!」

 よく見れば服装は、屋敷で着用しているメイド服ではなく“りゅーおーらんど”用のものである。デザインの違いは殆どないが、強いて言うとちょっと強度が強い。そして、そんな着替える余裕もなく走ってきたとなると、緊急の案件であることは間違いない。

「ん~、何々?」

「なんかリザサとかが、いつの間にかアンケートボックスに投函されていたって」

 “りゅーおーらんど”には、お客様のご意見を参考にとアンケート用紙とボックスが備え付けられている。ちなみに投函ポストは、イメージキャラクターの一体「まかげー」(鳥人間のような中性的な子供)を象ったものであり、地味に子供達に人気でもあった。

「なんでも、判断を上に仰ぎたいからって。一度開封して、変な呪いとかがないのは把握してるんですけど」

「ふむ、何々……? 土地権利書、書き写し?」

 書かれている内容は、簡単な土地の権利書。“りゅーおーらんど”二号地のある、ガンドレイの土地に関することが書かれていた。まぁ色々と長ったらしい文章が書かれているのだが面倒なので、ここは我等がメイドテレポーターに要約してもらおう。

「『遺跡“ストーンワイズの王宮”とその近辺の土地は、研究目的と地域反映の名のものとに、ガンドレイ領地の主から権限が聖女教会に委託されている。土地一切に関する商業規定は商会連合もしくは教会を経由するものとする』、にございます」

「……投函されていたのって、本当にこれだけ?」

 エースの言葉に、ケティは何度も頷く。彼女にしてみれば「店番楽でいいなー」とか思っていたところに、想定外の仕事が舞い込んできたわけである。いくら“りゅーおーらんど”内のスタッフルームから城まで転移できる扉があるのだとしても、仕事は素早くこなさねば、エミリーに楽していたことがバレてしまうので、速やかにきたわけだ。

 ちなみに既にバレているので、頷いている彼女は地面に横倒しである。両頬を押さえている様は、半年前のエースを彷彿とさせるものがあった。

 倒れている彼女にディアがフォークにさした松露を向けて、それにかぶりつき「何これ美味しいです!」と叫んだりという一幕はあるものの、それを尻目にエースは思案する。

「……封筒は、商会連経由じゃなく教会の印が押してあるからなぁ」

「王国側に、完全に気付かれたでございます?」

「いや、もしそうならエミリーの情報収集部隊の方に、少しは引っかかってるでしょ。そうでもないんだったら、これは違うとみていいと思う。けど、そうか、教会かぁ……」

 “りゅーおーらんど”運営陣が出したルールには、王国内での“りゅーおーらんど”情報拡散の防止目的に「支配人から許可があるまで他言禁止」という術がかけられている。

 が、もっともその作用範囲を、エースは王国内に限定していた。国外に出れば、いずれその情報は回りまわって王国に来るだろう予想は立てていた。ただ、“りゅーおーらんど”に来ている商人たちも、この場所の現状をあえて変える必要を、さほど感じてはいない。

 経済封鎖気味の王国においては、なんだかんだで外からのモノは売れるのである。それは魔族側も似たようなものなので、率先して情報公開をしたりしないだろう見積もりを立てていた。バルドスキー曰く、短くとも一年半は情報隠蔽できるだろうとのことであった。

 しかし、現状はどうだろうか。 教会が情報を掴む、ということはイコールで他国側からの情報が教会へ回ったということだろう。それが他の教会経由で、オルバルの聖女教会王国本部まで至ったのだ。エースたちが想定していた以上に、世界の動きは素早かった。

 これは、単に彼らが甘く見積もっていたということではない。

 想定以上に、アミューズメントダンジョンそのものが注目されるようになっていたということだ。

 しかし、腑に落ちない。エースは眉間を軽くつまむ。

「……何で情報流さないんだ?」

 アミューズダンジョンの存在は、王国の人間側からしたらこうである。「魔族が何か訳の分からないことを始めていて、怖い」。

 恐怖とは、想像力である。そしていつだって、想像力で補えない類の情報は、真実を確かめられない側からすれば恐怖以外の何ものでもない。ならばこそ、次の動きとして存在するのは「不干渉」か「徹底攻撃」の二種であろう。

 エースの知る「あんちくしょう」ことダグナ騎士団長や、セラスト国王ならば様子見として使者を派遣したりするかもしれない。それは、例えば新たなる勇者アスターのパーティーであるかもしれないし(ちなみにエースは、アスターが自分の後釜に収まったことを数日前に瓦版で確認して知った。遅すぎである)、ダグナなどの騎士団や大臣の部下たち文官かもしれない。

 あるいは軍務大臣ことラインハルトであったり、教育大臣リックスなどであれば、即刻挙兵を進言したかもしれない。

 まぁどちらにせよ、何らかの動きがあるだろうということだ。

 それすらなく、現状が続いているというのは、つまり情報が出回っていないということ。

 “りゅーおーらんど”の情報が、教会によって意図的に封殺されていることを意味する。

「ん~、でもこういうの、俺は考えるの苦手なんだけどなぁ……。ディアは?」

『……こちらにそれを聞くのか?』

「エミリーもこういうのは、そこまで得意という訳でもないし、ケティは駄目だし」

「ちょっと何検討すらせず人のこと貶めてるんですか!?」

「その場のノリで応答するその性格を直せ、でございます。出来るでございますか?」

「……」

「ま、まぁとりあえず、これはバルドスキー起きてから考えよう。とりあえず食事だけ先に済ませちゃおうか。今日は客人もあることだし」

「?」

 頭をくてん、と傾げるケティに、エースは軽く答えた。


「今日は、蛇人間の一派から使者がやってくる予定なんだよ」


 どうやら、また何やら変な動きがありそうなイベントであった。



フラグ「呼ばれたと聞いて」

???「お呼びじゃないわよッ」


次回も一週間以内を目指す出ございます

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