二章二十五話: とちころころ(後)
見敵必殺は生存条件。
「まず、商会連の間者からの情報です」
「んー、協力者って言おうか? あくまでも、向こうは善意でやってくれてるってことになってるんだし」
「その発言は色々と台無しだと思います」
助手の言葉に、デュオニソス……、打ち込みが面倒なので、以下デュオと表記するが、デュオはそれに肩をすくめた。
「魔族の交易都市――シャルパンを中心に、現時点で二箇所確認されております。“ストーンワイズの王宮”近辺にあるとのことです」
「二箇所ねぇ。……で、片方は魔族側で、もう片方が人間側に近いと。ふ~ん。ちなみに情報元は?」
「他国経由です」
「ああ、オルバルからか」
これは、エースたちの戦略の抜け道である。
もともと“りゅーおーらんど”の情報戦略は、対国内向けに限定されたものだ。
りゅーおーらんど入場のルールに「支配人の許可が出るまで、“りゅーおーらんど”の情報を王国内で公表してはならない」といったものがある。そして初回入場時に入場パスを手渡され、ルール違反を犯した場合はブラックリストに載り、以降締め出されるという形式になっている。
だが、エースたちは他国にまでその制限をかけているわけではなかった。
国外に出ればその縛りはないということだ。
王国内の対応が完璧でこそないものの、それでもエースは「魔族と人間とがキャスト、クライアントとしてやりとり出来る下地」を作ることに執心していた。要するに、双方入り乱れる必要があるのである。
だからこそ、どちらの“りゅーおーらんど”にも人間が入っていたのである。
国内の、ごくごく一部の人間だけに限らず、諸外国からの人の流入があったのだ。
ちなみにだがそれ以外にも、既に一部の外国商人は、“りゅーおーらんど”のダンジョンから手に入るアイテムを市場に流したりしていたりするのは余談である。
「まー、国によってはこっちと違って、魔族に対して拒否感がないところも少なくないからねー。“岩盤の巨人”のところとかは……まぁ、政治的にはともかく、多少はね」
「魔王の中にも、友好的なものはいますしね」
ストーンエンジニアとは、この世界に何人か存在する魔王の一人である。“岩盤の巨人”というその呼び名は、まぁ二つ名といったところだ。本編には登場予定はないものの、マダラあたりからすれば“ストーンワイズの王宮”と浅からぬ縁のある魔王であると知っているだろう。
ちなみに何故デュオがその名前を知っているのかというと、以前一度、別な国に滞在していたときに土地関係でやらかしたことがあったからだ。どちらもそこそこに強欲であったので、利益率の妥協点の模索に双方とも疲弊したのだとか何とか。
デュオは、紅茶を一口含んだ。
「では、これはやっぱり色々騒がれている“竜王の後継者”というか、まあ子供か。それがやらが何かやらかしたことだって、思う?」
この質問の仕方の時点で、助手はデュオが何を考えているか察してる。
「結論の分かったことを聞くのは、性格が悪いかと」
「今更かな。まー、僕ぁそんなに拘りないから言うけど、たぶん竜王の子供とかじゃないだろうね。明らかにやり口が手馴れていない」
現時点において、王国内の誰よりもかつての竜王が「どのような手段を用いて魔族を統率していたか」を、誰より熟知しているのがこの男である。エミリーがかつてエースに講義していた「竜王ドクトリン」――食糧事情の解決による一時的衝突の回避など、そういった数百年分の手馴れた手法を見て、軽く感心していたくらいだ。
作り上げたコネクションは人間亜人問わず、表向きにされていないものまで含めれば一部の魔族とも繋がっていた。というか、蛇人間である。エース暗殺の際に、それとなく情報を小出しにして流れを誘導し、彼らと接触を持たせたのがデュオであった。
表に出て来ないものの、こういった裏方作業にかけては天才的な手腕である。
王国に赴任してきたのが十数年前と考えても、異常なほどの手回しだといえた。
もっともそういった手腕がなくては、この国で土地転がしなんぞ、命がいくつあっても足りないのだろうが。
デュオの言葉に、助手は頭をかしげる。
「そう考えると、色々と辻褄が合わないような気がしますが……」
「たぶん、竜王の子供というのとは別に、もう一人くらい居るんじゃないかな? あくまで推測だけど。そう考えれば、竜王の子供の情報がなかなか出て来ないこととかにも合点がいくと思うけど」
「……?」
「情報がないんじゃなくて、明らかに秘匿されてるってこと。秘匿されている情報があるってことは、秘匿している誰かが居るってこと。あるいは秘匿を願っている誰かが居るってことじゃない? そう考えると、それくらいの強制力を持っている存在は誰かと言えば、竜王の子供くらいだと思うわけよ」
「それが、何故もう一人居ると?」
「もしも仮にだね」
デュオは紅茶のお替りを催促しつつ、話を続ける。「今までずーっと鎖国を続けていた国があった時、その国が部分的とはいえ、表向きに商売を始めたとしよう。何か裏があるって疑うのは、普通じゃない?」
「それは、まぁ……」
「ところが、色々聞き及んだ情報を勘案すると、どうも違うらしい。というより、下手打てば『人間と魔族との共存空間』こそが、相手側の目的かもしれない、と思うわけよ。だってね」
奇しくも、エースの主目的を見抜いているデュオである。「このルールってのを見れば、一目瞭然でしょ。だから、それはたぶん今までの魔族側の動きからだいぶ外れるそれだから。どう考えても、竜王の後継者として子供が即位しても、そうは動かないでしょうってこと」
「なるほど……。つまり司祭様は、その状態が宜しくない、と?」
「いんや別に?」
「へ?」
助手の少女が、ぽかんとした声を上げる。
デュオは、にまにまと続けた。
「聖騎士の召還条件って覚えてるかな?」
「……何を言ってるのです?」
「エスメラ様も言ってるじゃないか。『機を見て利を得るには、共存を図るべし』とかね」
「つまり、放置しておくと?」
「いやいや。それじゃこっちに利益あんまり入らないじゃないか」
いまいち助手は、彼の意図を読み取れない。
エスメラ聖書から引用されたその言葉が指し示すのは、徹底的な外敵でさえないのなら、『多少腹の中にわだかまっているものくらい、収める努力をして共存を図りなさい』ということだ。
もっとも実際の書かれている文章を現代語翻訳すると……。女神「敵か。よし駆逐しよう」エスメラ「待ちなさいよっ、明らかに駄目でしょう。元はと言えばこちらにも問題があるんだし、控えなさいよっ」女神「だって面倒だし、共存とか」エスメラ「共存しているからこそ得られる利益もあるのだから、もっと機を見なさいよ長期的にッ! あと、多少は腹の虫をおさめておきなさいっ」という惨憺たるものであるのだが、改定された説法では、もうちょっと有りがたがれるような書かれ方がされている。
これを今持ち出すということは、何らかの利益を得られる算段がデュオの中にあるということでもある。あるのだろうが、残念なことに少女の頭では予想がつかなかった。
悩める彼女に、デュオは意地の悪い笑みを向ける。
「これから多少忙しくなるから、頑張るようにね。とりあえず土地の方に追加して、ダンジョンの情報収集と、蛇人間の方とかからも――」
「これ以上、何を仕事追加しようとしてるんですが……。土地買収の段階で既に重圧が半端ないんですよ胃に穴が開きます」
「エリクサーもどきで修復してあげるから、無問題だね☆」
「いつかイッペン、エスメラ様のチョップでも浴びればよいと思います」
聖書に書かれている女神を痛がらせるほどの一撃である。どれほどの威力かは押して知るべし。
悪態をつきながら退出する彼女を見つつ、デュオは両耳の耳たぶを引っ張る。珍妙なポーズだが、これが彼のシンキングスタイルだ。
窓の外を見つつ、彼はふと呟いた。
「しかし、仮にも魔族の新たなる指導者ならば――、どういった人物なのでしょうかねぇ」
幸運なことに、いまだシハイニンの正体はばれていない。
多少主人公補正こそあるかもしれないが、そこだけは多少、エミリー的には救いであるかもしれなかった。
まぁ実際のところは、エースの素顔の知名度があんまり高くないというオチなのだが。
番外編の進みが悪いですが、まぁそのうち投稿します。
あと予想以上に、二章の話数が伸びていますです・・・。ど、どうしてこうなった
orz
次回より、ちょっとずつ教会の動きが影響をしだします。
本作本編史上初(?)となる、真面目なエースが動き出すイベントのスタートです。




