二章二十四話: とちころころ(前)
長らくお待たせいたしました、約十話ぶりに教会関連のお話です。
といっても次回も三日更新とはなりませんが・・・
この作品はフィクションです。実在の人物、団体、遊園地および土地転がしなどとは関係ありません。
王国の交易都市、オルバルの隅に聖女教会の支部は存在する。
王国全体の教会を管理する支部が、わざわざ国はずれの国境近辺にあるのだ。
これはもともと、聖女教が王国からして外来の宗教であることに由来するが、今となってはそんな事実は過去の話。王都に引っ越さない理由が、一般視点からは見当たらない。
それに対して、王国支部の現司祭たる男、デュオニソスはこう答える。
「聖女エスメラにいわく『節度を弁えよ』。私達はあくまで良き隣人でありたい。同胞とならないからこそ、出来る助けも多くあるのです」
この言葉を聞いた信者は、だからこそ彼らの教えを受ける。
より良き隣人であり、よき知識人である相手へ敬意を払うのだ。
だがしかし、貴族社会に照らし合わせるとまた違った意味を持つ言葉でもある。
要するに「てめぇらと一蓮托生になんざなりたくねぇよ、本心で言えば勝手にしろや、ハンッ」という意味に解釈もできるということだ。
事実上、一部の国を除いて経済封鎖されていたり、宗教問題もはらんで居たりする王国である。自分の手を極力汚さず、それでいて宗教家として最大限の利益を出そうとするそのやり口は、当然のように歓迎されるものでもない。
それでもなお、王国が教会を受け入れるにも理由がある。
王国の国教が聖女教、エスメラ教であるからだ。
そもそも何故今の国の教えが聖女教なのかという部分については、マグノリア現王妃とセラスト現国王がクーデターを起して現在の政権を勝ち取ったという経緯から、うっすらと察することが出来る。というかうっすらどころではない。
早い話、前国王の時代の王国は酷い有様だったのだ。
そこから建て直しを図る際、様々な条件を勘案した結果採用した宗教がエスメラ教であったということだ。
このエスメラ教、わりと俗っぽい。
例えば神 (この場合は運命の女神)を無条件に信奉することを、強要したりしない。
エスメラ聖書の内容の一部だが、現代語訳すれば「神? そんなもんクソ喰らえ。人民が困ってる時に飯だね一つ提供しない超越者なんぞ、崇拝を強要される言われはない」だの「もし心のより所がなく、どうしようもなく責任や決断を自分だけで処理しきれないなら、超越者を探して擦り付けなさい。例えば神とか」だのとのたまう訳である。
宗教書というにはあまりにも不敬だが、しかしそれでも聖女エスメラは、女神に一定の敬意を払っていたりする。なんだかんだで口は悪いが、バランス感覚に優れた宗教なのだ。
だからこそ、前国王が洗脳し疲弊させた大地を、民を呼び覚まし、力強く復興させるには必要な宗教でもあった。国王がゆがめた宗教観を正すため、聖教国から正しい教えを引き連れてくる必要があった。
そうであるがゆえに、貴族にも土地を統べるものとして、一定の振る舞いが強要される。もちろん全てがすべて上手くいってるとは言いがたいが、それでも以前の王国貴族に比べれば雲泥の差であることは間違いない。
また同時に、国教たるエスメラ教は思想と信教の自由を保障している。
宗教として明らかに異常なように見えるが、それでも国家運営に際して国教として、問題が発生しないレベルで構築されているそれは、果たしてこの宗教がどこまで見越して作られていたのかということについて、うならざるを得ないものだ。
ともかく、以上の二点――国教であるということと、信教の自由を保障していることの二つが、聖女教会を無下にできない理由である。
国家が主導する教えを広める施設を、何ゆえわざわざ潰す必要があるというのだろうか。
また、国家がその主導する教えを弾圧するとは何事か、気でも振れたのだろうか。
色々情報を俯瞰できないと、そういう風に解釈されてしまうわけである。
さらに、もし国内で問題が起これば、その情報がたちどころに諸外国へと広がる――少なくとも交易都市に身を置いているのだ、そういうことを容易に行えるという顕示にもなっている。
そうであるがゆえに、少なくとも王国としては、友好的に接しているのだった。
そして実際、まともに接すれば相手側もまともに返しはするのである。
極端に腐ってでもいれば、セラスト国王も切り捨ては簡単だったろう。
だがしかし、司祭デュオニソスは一筋縄ではいかない人物である。
これは別に、セラスト単体がデュオニソスを嫌っているという訳ではない。
相手が本当はどういったことをやっているのかということを、明確に理解しているからなのだ。
ただもっとも、議会君主制である王国において、対教会関連におけるセラストの発言力は大きくない。だからこそ、問題は今日まで回復していない。
それが良いことなのか悪いことなのかは、一概に言うこともできないから性質が悪いとも言えるのだった。
※ ※ ※ ※
「司祭様、こちらの方の土地は――」
「んー、オルコッパンね。確かに“新たなる勇者”によって守られた土地、ということでネームバリューも高くつくし、今後の高騰も見込めるかもしれない。でも、まだまだ怨嗟がこびりついているからリスクは高いよ? 次ね」
はてさて、ここはそんな教会の王国支部。
朝方のこの時間帯は、どの場所もいそいそと朝食に励んでいる。
教会の中と言えどそれは変わらず、傘下の組織が運営している孤児院から、子供達の声が教会の中にも響く。
そんな教会の施設、とある建物にて男は部下の言葉を却下した。
年のころが伺いにくい容姿である。青年のようであり、老人のようでもある眼差しをしていた。長い髪は腰まで垂れており、顔立ちも皺一つなくどこか女性的。しかし首も太く、修道服の上からなので詳細はつかめないが、体もそれなりにたくましいように見える。そんな彼の声は低く、どこか甘い声であった。
この青年と、その助手のような修道女が何を話しているか。
決まっている。
土地ころがしである。
宗教法人 (という言い方をこの国ではしないが、システムが近いためそのまま語を流用する)にかかる税率負担は、王国においては一応存在する。だが一般の商人や、商会連合などが払わなければならない額に比べれば、パーセンテージは微々たるものだ。
そもそも宗教というのは、金儲けの類につながらないという建前が有る。
それは多かれ少なかれ王国においても近い考え方がされていた。
ただし、それでも寄付金の一部上納を確約せざるを得ない当り、国庫も微妙に切迫しつつあるのだろう。
しかし、結果的にマージンが残るということは、本来組織維持にかかるコスト以上の余剰分が発生するということである。
その余った金を何に使うか。
単に貯蓄せず、増やすほうに回るわけである。
正規の土地買収だの、信者の生前贈与だの、建前なら幾らでも有る
そうして得た土地を、その場所を必要とする相手が欲する最大のタイミングにおいて、そのタイミングにおける適正価格より若干上乗せして売買する。
それがデュオニソスのやり口であった。
まるで穴を埋めるように教義が構築されているため、色々と悪いことが出来ないようにつくられているエスメラ教である。
だがしかし、清廉潔白とは程遠い実情を持つのがテンプレ教会関連のお話。えてして悪徳な宗教家というのは、宗教の本願や組織の継続以上に、強くカネを欲するものである。法律というのも例外があり、その例外をくまなく利用するものは、利用して己が利を上げる。
この場合は、宗教が悪いのではない。
悪用なんぞする、宗教家が悪いのだ。
ただ、単に悪い奴と一言で切り捨てられないからややこしい。
助手 (と変換しようとして高確率で女子となるが、まぁ間違いではない)の修道女が、苦笑いとも微笑ともつかない曖昧な笑みを浮かべる。
「では、ラニアールの売却の件ですが――」
「うん、そっちはそっちで上手くいったよね。ただとりあえず、半分残した土地あるでしょ? そっちに学術施設として製鉄関連のでも立てればよくなると思うから、そうなるよう手配しておいて」
「……了解しました」
この男は、案外自分の上げた収益を還元するのである。
わけのわからない施設を建てるわけでもなく、一応それなりに土地や情勢に見合った施設の出資をしたり、新進気鋭のビジネスに投資して技術革新を促したり、食べ物の足りない土地に何割か融通してあげたりなどといったことだ。
だからこそ、露骨に遊ばせておく土地を教会関連で入手していたりしても、教会内では強くは問われないのであった。
そうしてこの男は、カネと同時に違う力も蓄え続けている。
影響力。
カネからはじまるコネクション、そこから築いた信用関係を用いた影響力の強化である。
最終的にそれで、この青年が何をするのか誰にも分からない。
だが既に、彼がなにもせずとも国内で動きがあれば、情報が彼の手に回ってくるほどのコネクションが形成されているのだった。
そう――例えそれが、どこぞのメイドテレポーターが自身の配下部隊を用いて隠蔽している情報であっても。
まぁ要するに“りゅーおーらんど”関連だが。
「じゃあ、そうだね。この間言ってた“特殊なダンジョン”について、情報教えてくれるとありがたいかな。そんな変な施設、眉唾かと思ってたけど動きでもあったみたいだし」
そんなこんなで、後半へ続く。
といっても後編までまた少し時間あきます
次回も一週間以内に投稿を目指します




