二章二十二話: 旗回収の手早いことで
プロット見直したらラスボス化フラグ立ってたので、唐突ですが折りに逝きます。
「……一体何がしたいでございます?」
「まーまー。せっかくみんなに無理言って、頑張ってもらったんだからさ」
「いえ、そんなことではなくて……」
当惑するエミリーに、エースは楽しそうに笑っていた。だいぶ久々に髪を下ろした姿である。エミリーとしては、その容姿を見て一瞬顔をしかめたが、すぐさま無表情に戻った。
場所は、“りゅーおーらんど”ガンドレイ。古い時代の遺跡「ストーンワイズの王宮」があるこの観光地のすみに、ひっそりと出来上がっていた“りゅーおーらんど”である。
石材にやたら縁のあるこの土地で、あえて水を沢山取り入れたアトラクションが多いこの場所。基本的に一般開放しているため人間たちも入れるのだが、別段宣伝しているわけでもなく、アーチも目立たないところにひっそりとあるので、まだそんなに人間の流入は少ない。もっともシャルパンにおいてさえ、人間は王国人ではなく異国人が圧倒的な比率を誇っているので、そう考えれば王室と仲良くなるまで、もうしばらくこの状態が続くだろう。
潜水艦のようなコースターが水の中にダイブし、歓声が上がる。落下後は高速移動せず、逆にゆっくりと水の中を鑑賞させるような作りをしている。海の生き物も多く居る光景は、これはこれで幻想的なものであったが、時たまスタッフが溺れたり、それを助けるため人魚メイドがどぼんしたりするので、完璧とは言えないかもしれない。
「……何がしたいのか、さっぱりでございます」
さて、ちなみに現在時刻は夜。“りゅーおーらんど”の空は、天候を除いて外の空間の時間が反映される。外がミッドナイトならば、当然暗闇に閉ざされているが、今の時間帯、こちらで言うところの夜十時くらいならば、まだこのようにヒトビトで賑わっている“りゅーおーらんど”であった。
もっともこの時間帯となると、来場者は大人が大半であり、“りゅーおーらんど”自体もアルコール類解禁である。エースのサイケデリック系モンスターの一体に無尽蔵に酒を出すものが居ることが発覚して以来、ディナータイムになるとレストランの賑わい方も様変わりしていた。
VIP席に座るエースとエミリーの目にも、その光景はありありと映る。
見下ろすエミリーは、無表情ながら困惑していた。
「……苦手、でございます」
つぶやいたエミリーに、エースも首肯を返した。
「同意ではあるけど、あれは仕方ないかな……? でも、竜って結構お酒好きなイメージあるけど、エミリーはそこのところどうなの?」
「私は正規の竜ではない、でございます」
「それは一体――」
ちなみに何故エースとエミリーがこんな会食をしているのかといえば。
色々と面倒なことになる前に、エミリーと話をつけてしまえば良い、というディアからの提案に従ったまでだ。それに考えてもみれば、エースはエミリーのことをよく知らない。世話されたり仕事任せたり監督されたり朝起こされたり食事提供されたりの半年間において、お互いそういった面以外の個人の付き合い方が皆無だったことも理由である。
勇者時代のエースからすれば、それこそ仲間と本の話題だの劇見たりだの買物したりだの遊んだりだの全くせずにここまで来た、ということ事態おかしいのであるが、なんだかんだで忙しかった半年間。タイミングこそずれてしまったが、結果的に今は少し余裕が出来たのだ。
だからこそこうして、個人同士の話し合いの場を考えたわけである。
何の因果で夜景を楽しみながらディナーとなっているかは、永遠の謎であろう。
ちなみにケティが「デートですか? デートなんですか!」と叫び、一瞬固まったエミリーがから直後にチョップが飛んだことは、考えるまでもない。何故かその一撃にディアも参加していたりしたが、事情を知らないケティは頭を傾げるばかりであった。
ともかく、色々と雑談である。
「私自身は、お父様に拾われっ子だといった覚えがある、でございます」
「それは聞いた覚えがあるけど、それで?」
「拾われた当時、私はある村落の、人間の孤児だったでございます。その私が、邪神の祠に生贄として放逐されていたのを拾ったのが、お父様でございます」
「じゃ、邪神ねぇ……」
色々と邪神という存在について、いい印象を持っていないエースは苦笑い。
主にその理由は、どこぞのきゅんきゅんが関わってくる話なのであるが、当時のエース周囲にはカノン一人だけであり詳細を知る人間も少ないので、彼の口から語れることはないだろう。
「拾われた後、衰弱していた私を一度“眷属化”し、その上で自身の“血脈”を与えたのでございます。だからこそ、今の私はドラゴンでございます」
「……“眷属化”?」
「半精霊が、自身の能力の一部を他者に付与することを言う、でございます」
眷属化とは要するに、半精霊の加護ということである。
攻撃力付与とか魔力上昇とか精霊の加護とは色々違い、例えば半精霊が己の親族や伴侶などに与えるものであり、これにより自身の寿命と相手の寿命を合わせる(結果的には半不死身にする)などの効果がある。
竜王が何か言うでもなく、死にかけていたエミリーにその処置をしたのは単なる気まぐれか、はたまた別な理由があったかは、彼女にもわからない。
ちなみに種族変化については“血脈の付与”が関係してくるのだが、本編ではあまり関係ないと本能的に察知してるのか、そっちの追及をエースはしなかった。
「なるほどねぇ……。娘という割に色々違う感じがするのも、その辺りが原因かな?」
「似ていないでございます?」
「似てはいるけど、それはゴーイングマイウェイな性格面かな……。ぶっちゃけると、竜王の方がもっと万能だったというか、色々出来ていたというかね」
「そういうことにございます」
「昔の家族とかは聞いても?」
「気が付いたら村長の家に預けられていた、でございます」
おそらく何らかの理由で死んでいたか、捨て子だったか。いまいち無表情から感情を読めず、エースは話題の矛先を見失ってしまう。
それをみてか、エミリーが逆に話しの主導権を握った。
「魔王様……、いえ、エース様は――」地味に距離を詰めた「――どうなのでございます」
「ん?」
「勇者、というからには、何かしら高貴な家の出だったでございます?」
「いや、そうでもないかなぁ……。そもそも俺は、別世か――」
ど~ん。
外で花火が上がる音がして、エースの続く台詞は遮られた。
「……まあ、普通に農民だったよ」
「左様にございますか」
「普通といっても、結構恵まれていた方だったかな? 農作物は、普通に王都とかでも流通していたし。故郷の村だと、根野菜だったり花だったりの栽培もやったりねぇ。年度収支とか見ても、悪くないほうだったと思うよ。飢えては居なかったしね」
そうは言っているエースであるが、勇者時代の彼の頬は結構げっそりしていたことをカノンあたりが居れば突っ込んでいるだろう。飢えはしなかったが、裕福というほどでもなかったのだ。
ただまぁ、当時は精神的ショックでガオってしまった際のダメージも大きい。ちなみに現在は多少ふっくらしており、現代人感覚でいうと普通に健康そうである。
「そもそも聖女教の定義で言うと、勇者ってのは聖武器に選ばれた相手ってことだしねぇ。その説でいうなら、俺は今勇者じゃないわけだけど。ぶんどられたまんまってのもアレだから、そのうち取り戻すつもりではあるけどな」
恵よ、あれ。
エミリーの前で呟くエースだったが、手元には何ら変化は訪れない。光と共に現れるはずの聖剣と精霊盾は、彼の言葉を聞き入れてはくれないらしい。
そんな有様を見て、エミリーが質問する。
「……では、仮に今のエース様が、勇者に返り咲いた場合、どうなるでございます」
「……ん?」
「本来、破壊神の加護と聖剣は相容れないもののはずでございます。しかし今のシステムの貴方様の場合、どうなるでございます?」
考えてみれば当然の疑問だったか。しかしその謎について、エースはあっさりと予想する。
「ん~、どうかな。その場合、新しい勇者が選ばれるか、また誰も選ばず放置プレイされるか」
「軽いでございます」
「昔だったらいざ知らず、今はそこまで執着ないからねぇ。でももし選ばれた奴が居たら、お気の毒だけどねぇ」
「?」
「だいぶ精神壊すよ、あの武器は」
思わせぶりなことを言うものの、とくに説明しないあたりこの主人公、大概面倒くさがりである。エミリーもさほど興味はなかったのか、言うだけで軽く流した。
「となると、勇者だったとなるとエース様も、色々問題があったのでございます?」
「何について聞いてるんですかねぇ」
「婚姻関係でございま――」
「カノン居るし、一人で充分かなぁ……」
魔族側ヒロインの言葉を、真顔で遮る主人公であった。
すぐさま所帯を持つ気はないと言っておきながら、ずいぶん堂々とした物言いである。
全く迷うこともなく即答したエースに、エミリーは驚かされた。
「英雄、色を好むと聞くでございます」
「勇者だったかもしれないけど、別にこだわりとかないからな。小市民的に生きたいかな……。本とか絵とか、娯楽は欲しいけど」
ちなみに何故こんなことを言うかといえば、多少なりとも女性関係にトラウマがあるためである。
これが例えばセラストの一人息子、エリザベートの兄マウリッドあたりであれば話は違ってくるかもしれないが。
元の性格も真面目っぽい小学五年生なので、そういうことに興味があっても、ごくごく自然体で一夫一妻という考え方をとっていた。あとカノンでさえ彼から「結婚してもいい」と言われるまでに二年弱かかったのだ。存外、彼にとってそういった類の敷居は高いのかもしれない。
実際問題としては、人を信頼することが苦手だというのが一番大きな理由だ。あるボーダーライン以上の部分には、決して接触させることのない彼である。カノンが二年でそこに至れたというのが、むしろ僥倖と言うべきだろう。
そう思ったとき、何故エースは自分がエミリーについてぽんぽんこんな話をしているか疑問に思った。信用、信頼の話で言えば、カノン以上に付き合いの短い少女である。
が、すぐに結論に思い至った。なんのことはない、彼女は竜王の娘であり、彼の意思を継ぐと言っているのだ。実際その言葉通り、エミリーがエースを裏切ったことは今のところない。
つまるところ、彼女に対する信頼は竜王に対する信頼からの派生なのである。
「竜王も奥さん居なかったみたいだし、案外俺みたいに信頼とかは難しかったのかなぁ?」
ぼそりとつぶやくエースに、エミリーは頭をかしげた。
とくに、その点の話を続ける気はない。今の彼は、心から愛してくれている女性が居ることを知っている。自分を裏切らず、忠義を尽くしてくれる少女が居ることを知っている。心のそこから自分に同情と親愛を寄せてくれた偉大な王が居たことを知っている。
だから、彼の口からそれは自然体に漏れ出た。
「今のエミリーから見て、俺は一体どんな存在?」
口説くわけじゃねぇです。
次も一週間以内を目指します。
あと現在、次の番外編もいじってるんで多少遅れるかもです・・・。




