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二章十六話:現状確認には普通に時間がかかります



「いむむむむ……」

 龍王城。

 パステルカラーのポップが建てられた、とある広間。

 部屋には製図用の机などが置かれており、そこに紙粘土やら、魔編紙(魔力で印字する紙)の書類やら、ワイングラスやら、本やらが雑多に散らばっている。奥には錬金術などで使うフラスコが置かれていたり、部屋の使用者たちの個性がそれぞれ出ているといえた。

 そんな場所の中央で、エースはダンジョンスイッチを構えていた。

「う~ん……」

 目を閉じ、眉間に皺を寄せ、いつもの胡散臭げな微笑をなくして真剣な表情で唸っている。いや、正確には力を込めている。握っているダンジョンスイッチに、強く魔力が集っていた。

 それを見守るものは二人。

 どちらも、外見はオッサンだ。

 片方はダンディな髭を持つ、もう一見して「伯爵」とか言われそうな男だ。シャツから覗く鎖骨と、着衣の上から見たよりも案外分厚い胸板が、一部の女性層に受けそうである。その微笑みは、眼前の青年に期待を込めていることが伺えた。

 もう片方は、上下繋がった作業着をまとっていた。眉間に皺さえ寄ってなければ、温和そうな顔立ちをした男である。黒髪には所々白髪が混じっていたり、顔の皺も微笑みより苦悶の形が強く刻まれている。一見するだけで、これまでの人生が大変だったろうと理解させてくる雰囲気を持っていた。そんな彼のエースを見る目もまた、どこか期待がある。

 そんな二人に注目されつつ、エースはダンジョンスイッチを操作する。

「んぬううう――、ていッ!」

 ぽむんっ。

 そんな音とともに――青色の、軟体生物が彼らの目の前に現れた。

 球体だったそれは、地面につくと重力にしたがって楕円形になる。窓から差し込む光を反射する光沢を持つ、その姿はフォースメラ大陸で生きる人間なら、必ず何度も目にする生き物のように見えた。

 おそるおそる、エースがそれに触る。

 ぐに、という感触。

 と同時に、表面から微妙に分泌されていた粘液が彼のてについた。

「……や、」

 それを見て、エースは。

「やったあああああぁぁぁッ! ついに出来たどーッ!」

 高らかな大声を上げて、その場で小躍りをした。


 それに微笑みやら半笑いやら拍手を送る、オッサン二名。

 更にそれを、部屋の入り口からなんとも言えない目で見ているメイドが一人。

 右手の甲を額に当てて、彼女はつぶやいた。

「ようやくといえど、まだまだスライムでございます……」

 筆者としては、彼女の苦労を鑑みると同情せざるを得ない言葉だった。



※   ※    ※    ※



「いや~、長かった! 本当に長かった! お疲れ様、俺! お疲れ様、“りゅーおーくん”!」

 ハイテンションに何やらわめくエースと、そのエース同様ちょっと激しく動いている(踊っている?)“りゅーおーくん”。何故か息ぴったりな二人の動作に、周囲はなんとも言えないようだった。

 辛うじてツナギ姿の男――マダラ・メイクトはこう言った。

「まあ、良かったんじゃないのか? スライムできたら、ポーションちゃんと作れるし」

 なんとも錬金術師らしい回答でもあったが、また同時にどこかズレた一言でもあった。

 バルドスキーも、しみじみと渋い声を上げる。「そうですねぇ。いい加減、粗悪品のポーションだとクレームが大変だとナード組も言っておりましたし、良い機会なのではないでしょうか」

「ナード組って、あれか? 闘技場のか?」

「ええ。……ああ、そう言えばマダラ殿、『転移結晶』の改良はいかほどで?」

「あー、まあ難しくはないか? ほとんど完成済みみたいな道具だったし、あとはバランス調整で、そこの()()の要望は満たせるんじゃねぇか?」

「しいいぃぃっと! 支配人と呼べって、し・は・い・に・ん!」

「なんにしたところでエース・バイナリーに変わりないでしょうよ、支配人さんも」

 半笑いのマダラだったが、それでもなお支配人呼びを強要しそうな雇い主のことだ。これ以上の言及は無駄なカロリー消費だろうと諦めて肩をすくめた。なんだかんだで子供の扱いには慣れている。たとえ成人していたとしても、相手の挙動でそこはお察しであった。

 いや、まあ我等が主人公の精神年齢は、基本ベースが小学五年生固定であるため、いまいち、成長していないというオチもあるのだが。普通に加齢して、三十代成人男性の思考回路となっていなかったりする。

 そこのところは、今後明かされるか明かされないか。

 おそらくは気分と話数次第だろう。

 閑話休題。

「つまり、ようやくモンスターがちゃんと作れるようになったでございます?」

「うわッ! エミリー、いきなり声かけるの止めようか」

 と、そんなはしゃいでいるエースの背後にまわり、エミリーが声をかけた。手元にはモップ(モップ?)のような何かを装備し片手にはバケツを持っていることから、おそらく廊下の水がけでもしていたのだろう。ただしモップからは水が滴っておらず、バケツの水もまるで氷のように微動だにしないあたり、今日も今日とて空間制御魔法の通常運行であった。

 エミリーは、ついさっき出来たスライムをじっと見る。

「……通常より、ちょっとサイズが大きいでございます?」

「ああ、分かる? どうも正規の方法で作っていないからか、出来が微妙でねぇ」

「どちらにせよ、あの楽器めいた名状しがたい何かよりマシでございます」

「コアもないのに目とかあるし、五月蝿いですからなぁ……」

 一章十四話あたりで作ったスライムもどきのことを言及するエミリー。マダラもそれを見せられていたのか半笑いである。バルドスキーはどうなのかと見てみれば、自分の体の一部をコウモリ化させ、ぶよぶよする半透明なスライムと遊ばせていた。

 さて、これは一体どういう状況か。

 一章から継続してお読みいただければ、エースのダンジョン製作に関わるいくつかの問題点があるのを、記憶していただけているだろう。

 その問題が二章で徐々に解消されていたのだが、ここにきて、ようやくまともにダンジョンでモンスター製作が出来るようになったということだ。もっともまだスライム程度なのだが、かれこれ半年の間、ケティやエミリーの痛い視線を受けつつ、“りゅーおーくん”と共に頑張った日々を回想すれば、エースの小躍りは頷けるものであった。

 その回想すべき日々を本編で丸まるカットしてあるのは、ご愛嬌である。

 本作は、軽く読めるくらいの文量とノリを目指しています。

「って、そういえばスライムってダンジョンモンスターなんですかね? 普通に外で見とかに居ると思うんだが……」

「条件さえそろえば湧くのでございます。故に、仮想ダンジョンの設定次第では発生させられるのでございます」

「さいですか」

 眉間を指でつまみ、考えながら感心しているらしいマダラ・メイクト。

 彼についても、言及せねばなるまい。本作の一桁台話数あたりでちらっと名前が挙がっていた、錬金術師のオッチャンである。もっともオッチャンといえど年齢は初老にさしかかるかどうかというくらいであり、全体的に苦労人っぽい雰囲気が見て取れた。

 ちなみに彼がバルドスキーに敬語を使わないのは、エースに雇われた順で言えば彼の方が先だからである。二章十話あたりでちらっと言われていた「もう一人のスタッフ」こそが彼である。現代文明の知識を持つ以上、彼による口出しで監視ルームの穴が埋まるのは、ある意味必然といえた。

 そして、どうも“りゅーおーらんど”の社内での敬語などについては、「先に入った方には年齢とわず敬語を遣うベシ」ということになっているらしい。まあ指令系統が違ったりすれば、多少そこのルールから逸脱するものもあるのだが、基本的にはそんなルールで動いている。もっとも、ナードなどに対するバルドスキーの口調が「丁寧語であるにも関わらず皮肉めいている」というのをみれば、強制される部分が口調のみに従事していることは想像だに難くない。

 とりあえず本職場、思想の自由については保証されているらしかった。

 そしてその上で、バルドスキーが全く含みを持たせてこないあたりは、マダラの実力と人徳と言える。口調はともかく、彼も他人に信用させるだけの人柄ではあるのだった。

 そして実力方面については。

「エミリーさん、とりあえずこれ、試作品の『再生結晶』です」

「了解、でございます」

 竜王が作っていた「転移結晶」、否、試作品の「再生結晶」を改良できるくらいには高かった。

 再生結晶自体については、後の章まで説明をお預けとさせていただく。

 さて、玉虫色した水晶の破片を渡され、エミリーはそれを丁寧に受け取る。手にもった瞬間、何処かへと転送されているのは、流石に結晶を持ちながら掃除ができないからか。

「屋敷周りを片付けた後、『闘技場』へ運ぶでございます」

「実験は構わないでしょうが、イニにナードをちゃんと止めるように言っておいてください」

 どうせ「戦闘馬鹿には何言ったって無駄」とゴブリンの剣士が頭を抱えることになる運命だが、それでもマダラは仕事を放棄することはない。この後、闘技場では「実験だ」の一言とともに血みどろスレスレの大乱闘が繰り広げられることだろう。もし実験が成功すれば、そんな悲惨な光景にはならないだろうが、なにぶんまだ実験中である。下手なことして失敗すれば、フィードバックは全て自分達へ帰ってくるのだ。

 そこのところを理解できないのが、残念なイケメンの残念なイケメンたる所以である。

 つくづく、友人の胃に穴が開かないか心配であった。

「あー、そういえばエミリー。ちょろっと“りゅーおーらんど”見て回りたいんだけど、大丈夫?」

 そして唐突に変なことを言い出すのが、我等が主人公でもあった。

 一瞬びくっと震えると、彼女は手元にメモを取り出して確認する。

「いきなりすぎでございます。……スケジュールを詰めても、一日中には難しいでございます」

「あ、そう……。んー、まあそれならそれで、ディアと一緒に出てくるよ」

 そう言うと、エースはスライムを放置したまま、部屋をとっとと飛び出していった。

「……で、我々はこれをどうしたら?」

「子供じゃあるまいし、片付けくらいしておけやって……」

 実際中身がほとんど子供なのを分かっているためか、エミリーは黙秘を貫いた。

 


そんなわけで、エースとマダラとバルドスキーで回していく”りゅーおーらんど”首脳陣です。他にも何人かいますが、あんまり本編に関わってこないという罠・・・。


次回も一週間以内投稿を目指したいところです。

セノ「きゅんきゅんの出番マダーきゅん☆?」

筆者「まだまだ(予定では番外編6の方が先)」

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