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二章十五話:組織力はトップより構成員によるところが大きい

ネタバレ:唐突な新キャラ? 登場



「――この娘、譲ってくれないかな?」


 リザサは、己の耳を疑った。

 アケロマルバスは、王国の人間達にとって最も痛い記憶の町である。

 数えることおおよそ三十年前だろうか。近代における魔族と人間との戦争において、一番最初に人間たちが奪われた町の名前である。

 もともと大きな町ではなかった。魔族たちの生息域に近いわけでもなかった。だからこそ、大量の空族(ロングノース)の兵団と、それに抱えられたほかの兵士達に蹂躙されてしまったのだろう。

 当時の常識では、小競り合いという傾向こそあれど、魔族たちの部族が手を取り合って戦うなどといったことが起こりうるとすら思われていなかった。それほど種族間の仲は冷え込んでいたのだ。だがそれをくつがえして、進撃は開始された。

 この場所を筆頭とし、周囲の町を巻き込んだ攻防戦が繰り広げられたことは、もはや語る必要もないことだろう。そして現在、ここの周囲は荒れた大地が残るのみとなっている。戦渦の残るゴーストタウンの中にこの町がぽつんの残っている状態だった。

 戦争が休戦に近い扱いになっている今日び、現在この町は、人間の奴隷レンタル所となっている。

 レンタル所、というのも、既に戦争が終結しており人間の奴隷は増えることがないからだ。そこで魔族の商売人が考えたのは、奴隷同士で子供が生まれること。その子供を奴隷として育てることで、人数を拡張しようとした。結果としてもくろみは失敗せず、そこそこの稼ぎを出している。もっとも購入することも不可能ではないが、それなりの武勇や商才などを持たないと難しい話であろう。

 リザサも、そんな風にして生まれた奴隷の一人だった。

 年頃は十代前半。

 容姿は華麗というわけでもなく、そばかすが目立つ。

 現代人の価値観で言えばチャーミングと言える容姿なのだが、生憎とフォースメラ大陸においては醜いという扱いを受ける容姿をしていた。

 そんな彼女がさせられる仕事は、主に屋敷の掃除やら何やらの雑用が主。

 見てくれも良くなく、どんくさく、奴隷としての価値も大して上がらない。

 両親は奴隷商いわく、鞭打たれて殺されたらしい。

 希望もなく学もなく、何を目的に生きているかも分からない。

 そんなこと考える余裕すらないような、そんな生活を営んでいた。

 そんな彼女を買い取りたいといった者たちが現れたのだった。

「いくら~?」

『……口調』

「あ、そうだね。うん、幾ら払えば譲ってもらえる? もちろん相場価格という前提でだけど」

 その場に居たのは二人。

 半透明なメガネをかけた黒服の男と、緑色に薄く光る鎧を纏った剣士だ。

 男の方はなんとも言えない胡散臭さが漂っている。

 剣士の方は、顔から足先まで全身を覆う鎧姿が強い威圧感を与える。腰に挿した刀も、鞘越しとはいえかなりの業物であるとうかがわせる。内側から出てくる声もわずかに苛立っているような雰囲気で、それがいっそうリザサを怯えさせた。

 恰幅の良いドワーフの商人も最初、青年の姿に意地悪く口元を吊り上げたのだが、剣士の放つオーラに押し負け、相場を越えるような額をふっかける真似はしなかった。元々小さかった髭面が、さらに小さくなったように見えた。

 リザサだけではなく、他にも何人か奴隷を購入すると、首輪に刻印をかけてリザサたちは彼らに連れて行かれた。全員がまだ子供であり、中には酷く怯えた様子の子もいた。

 自分で奴隷を買ったくせに、青年はなんとも言えない顔でこういった。

「いや~、しかし奴隷商売はちょっとねぇ……」

『一定数の需要があるのは仕方ないだろう』

「とは言っても、俺としてはやっぱり、消費顧客となりうる存在を縛り付けるってのもねぇ。ゲストにもキャストにもなりうるのなら、せめてどちらかで使っていたいというのが本心かな? まあ当然強制はしないし、上から指示出すだけって立場に甘んじたりしないけど」

 リザサには二人が何を言っているか理解できなかった。他の奴隷達もどうようであるらしい。

 変われた奴隷達の中で一番年長のような少年が、リザサたちを庇うように前に出ている。その少年に青年は目を合わせて、にやりと微笑んだ。

「まあ、安心しな? 悪いようにはしないからさ。……といっても信用はされていないだろうけど、信頼されるようにこちらも努力するつもりだからさ」

『そう言う割には、まだ奴隷解放はしないんだな』

「いやそれはまあ、着いてから、着いてから。最低限の社会復帰させてからじゃないとね、そこはさぁ」

 青年の言葉に肩をすくめる鎧剣士。

 奴隷たちは、みな顔を見合わせて不思議そうな顔をしていた。


 数分後には某メイドテレポーターの導きで“りゅーおーらんど”へ直行となる運命にあるのだが、そんなことをまだ彼らは知らなかった。



※   ※    ※    ※



「ししょ~から言われてると思いますが、今日も厳しくいきますよ~」

「「「「は~い!」」」」

 わずかに一月である。

 わずかに一月であったが、奴隷の子供たちの境遇は劇的な変化をしていた。

 さてここは、半年の時間経過で様変わりした“りゅーおーらんど”である。

 “りゅーおーくん”以外のマスコットキャラクターが増えていたり、そんな彼らのお話がかかれた絵本が売られていたり、握手会やらグッズ販売やらキャラモチーフアトラクションやら、全体的にテーマパークっぽさ増し増しといった具合である。それでも相変わらずフリーフォールやらジェットコースターやらから悲鳴が上がっていたりするが、そういった部分はもはや確定事項だろう。

 なんかもう大盛況というくらいに気合の入った仕様に変化している“りゅーおーらんど”であった。開発当初は無人でガランガランだったショップやらレストランやらカフェテリアやらも、既に人が入っている。肉の串焼きやら限定パッケージのポーション販売やら、従業員側からすると色々と慌しい感じになっていた。

 そんな“りゅーおーらんど”には、かつてなかった施設が出来上がっていた。

 “りゅーおーくん”の頭を模したデザインの建物、お土産屋さんである。

「すみません、これください!」

「は~い、“きゅーたん”のグローブですね! リザサさ~ん!」

「は、はい!」

 ちびっこの鬼族(ゴブリン)が嬉しそうにブカブカのグローブを差し出すの受け取ったケティが、嬉々としてリザサに指示を出していた。

 リザサもまだまだ未熟な営業スマイルであるが、それに応じる。だがその微妙な表情であっても、ちびっこの目からすれば好印象に映ったらしい。割合外見で人を判断する子供から嫌わないくらいには、今のリザサの表情は明るいものになっていた。

 棚の中から羽根のついた赤ら顔なキャラクターが描かれているグローブを取り出す。デザインは空族(ロングノース)の少女をデフォルメしたような感じだが、これがかつての「竜王四天王」で最も悪行を働いた人物をモチーフにしたキャラクターだとは、ちびっこの親含めて気付いて居ない。

 リザサも魔族の事情に明るいわけでもないので、当然のように知らないのだが。

 彼女は軽く包装し、お土産をちびっこの手に持たせてあげた。

 それにしても、クリーム色な店内にあるキャラクターグッズは、なんとも無駄に凝った作りになっていた。材質に一部、ダンジョンで取れる物質が使用されていたりするのだが、そのことについては言及することもあるまい。

 そして驚くべきことに。

「はい、こちらお釣り銅貨十枚です! またのご利用、お待ちしております!」

「悪いわねぇ。ほら、帰るわよ?」

「うん! おねーちゃん、ありがとう!」

 ゴブリンの親子が、何の抵抗もなくリザサに――人間に頭を下げていたのだ。

 この光景がいかに異常か。語るには簡単で、なおかつ難しい。端的に言えば、たとえ表面を取り繕うということであっても、一般人と一般魔族との間では成立し得ないということである。お互いがお互いに禍根を持ち、それなりに憎しみを向けている種族間戦争において、停戦状態とはいえ、このやりとりはかなり異常だ。だというのに、まるで普通のお店でモノを売買した時のように、ごくごく当たり前にこういったやりとりが成立しているのである。

 王都の某大臣なんかが見たら、泡吐いて発狂しそうな光景だった。

 他の売り子達の姿を見ながら、ケティは感慨深げに頷いた。

「これも魔王様たちの努力……? のたまものですかね~。まあ実際、私達の頑張りだと思うけど」

 彼女の言葉は、リザサをはじめとした元奴隷たちには今一理解されてはいないようだった。

 大型化した組織というのは、どうあがいても二種類の役割を分担されることになる。頭の部分と、体の部分だ。そしてこの両者が上手に連携できないと、組織としてきちんと回っていても、不健全な運営だと言える。

 そういう意味では、りゅーおーらんどは比較的健全に運営されている場所といえた。

 かつての自分の労働環境と比較してか、ケティは何度も頷いていた。もっとも彼女とて現在の職場に不満がないわけではないだろうが、かつての職場ほどではないということで納得しているらしかった。

 そんな彼女が、ふと、部屋にとりつけられた時計をみやる。

「あ、いけない。そろそろ魔王様たち呼ばないと……。ヒーローショーはじまっちゃう」

 レジの置くの隅の棚の上に乗っているベルを何度か鳴らすケティ。

 どど~ん、と、“りゅーおーくん”が現れた。

「しばらく私出るんで、後お願いします! 流石にまだリザサだと心もとないんで!」

『お k』

 フリップに表示される文字の、なんと場違いなことだろう。

 ネットスラングにも流暢でないと、今時マスコットはやっていられないのだろうか。

 しかしケティには通じるのが、なんとも現代語彙慣れしてるというか。

 後を任せて、ケティは店の外に出る。そのまま走りスタッフオンリーなお城の扉を開け、中にあった橙色の扉を何度かノックした。

「ししょ~! 魔王様~! お時間ですよ~!」

 反応はなかったが、彼女のししょ~が仕事をミスすることはないだろう。

 ケティはとりあえず、監視ルームに足を運ぶことにした。

 眼下で働く男性オペレーターや女性オペレーターを見つつ、思わず一言呟く。


「しかし制服として、女性全員メイド服はやりすぎでしょ……」


 その密かなツッコミは幸いなことに、彼女のメイドししょ~に聞かれることはなかった。



ケティ「ししょー、これやりすぎでしょ・・・」メイドな制服を見ながら

エミリー「従業員は従者。いいでございます?」

ケティ「ア、ハイ」


次も一週間以内投稿できると・・・その・・・はい。

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