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二章十四話:悪意の有無に関わらず悪事は悪事

この中で、根本的な悪意を持つものは一人か二人。



 アスターたちが獣人の砦に殴りこみ(?)に行くより少し前。

 どこぞの貴族の邸宅……、王城から山一つまたいだ場所だ。新人冒険者誰しもが通る村トトラントを含むその領地の城にはその日、数人の男達が集っていた。

 城自体の大きさは当然王城ほど大きくない。しかし城自体の歴史は古く、改築が行われていないことが伺えるつくりだった。

 そこの大広間、晩餐会が催されているそんなところにて。

「まずは、“新たなる勇者”アスター・リックスのマッドデーモン討伐に乾杯」

 法務大臣ハボックの音頭により、男達はワイングラスを掲げた。

 まあ、一章六話の悪い面子である。蛇人間の魔術師や軍務大臣が抜けていたりしているものの、おおむね前回のメンバーが揃っていると見てよい。

 でっぷりとした教育大臣は上機嫌にグラスを傾け、真紅の液体を煽った。

「アーレス殿、このたびはご子息の活躍、さぞ鼻が高いことでしょう」

「いやいや。私ではなく、あれは我が愛息子が尽力しているからこそ。私の力は微々たるもの。だからこそ鼻は高く出来ませぬよ。胸を張るくらいなら出来ますが」

「それはそれは。今後とも、ますますのご健勝を」

 アーレスとどっこいどっこいな太り具合な貴族の男 (こちらは何故かロンゲ)は、やや汚らしい笑い方をしていた。顔の造形が汚いという意味ではなく、意地汚いとか、悪い笑みとか、そういった類のニュアンスだ。まあ要するに、相当下品な笑みである。

 ケティが居たら「笑いきめぇ!」と顔に出ていたことだろうが、周辺の女中たちはプロであると見えて、表情筋ひとつ動かしていなかった。アーレスに声を掛けた後、女中達を品定めするような目を向けられても、表面上はのっぺりしているあたり流石というべきだろう。

 そして平民相手には高慢極まりないアーレス・リックス大臣であるが、貴族相手には普通に礼節を弁えていたりするのだった。この妙なギャップに息子たるアスターはさぞ頭を傾げていたことだろう。エースが気を使っていたのも、無理からぬ話というわけだ。

「何にしても、“計画”は順調というわけですかな?」

 アーレスの言葉に、法務大臣は小さく方を竦めた。

「そこのところは、商会連の意見を聞くべきか」

「我々の崇高なる行いに、どうしても平民の力が必要になるというのは、何とも難しいところか……」

 アーレスの言葉に、顎鬚の男は密かに苦笑した。この場に居る者たちの中で、彼を含めて二人が庶民である。この会食の場においても、男の礼服は貴族連中に比べてグレードの下がるものだったことは言うまでもないだろう。只その代わり、ある種の機能性重視という部分が見受けられた。

 そんな男のまとう雰囲気は、まさに歴戦の勇士のそれである。口さえ開かなければ、見事に騙されてくれるところだろう。そんな見た目も、甲高く軽い口調によって粉々に打ち砕かれるのだが。

「ま、そう言いなさるなって! 別に俺たち商会は、金稼げればいいわけだし!」

「言葉を改めんかッ! 貴様のそれは我等高貴なる者への侮辱ぞ!」

「いいじゃねぇかよ別に。大臣さん、確か無礼講でしょ?」

 法務大臣は、再び肩を竦めた。

 どこか疲れた眼差しだったことは言うまでもない。

 この国の平民上がりでない貴族の大半がアーレスと同じような考え方であることも踏まえると、法務大臣にかかる負担はそれなりに多そうだった。

「で、えーっと何だ? まあとりあえず、貿易方面については、オルバル方面から輸入できるように調整してますよ」

「表か?」

「裏に決まってるでしょう。今、軽く経済封鎖中でっせ?」

 フォースメラ大陸にも当然、いくつかの国々が存在している。現在多くの国は戦争状態にはなく、外交が出来るくらいのバランスを保つことが出来ていた。そんな国々には、当然のごとくいくつか国家間での決まりごとがあった。

 その一つが、聖武器や精霊剣の所有数。一国が持てるそれらの数の制限である。

 亜人が作り出した妖精剣の上位に位置する武器、精霊剣。妖精たちが精霊の加護のもとに作り出すその武器は、戦術的にも戦略的にも「たかが剣一本」と無視できないほどの性能を持つ。その詳細は剣ごとに異なるものであるため、ここでは割愛させてもらおう。

 そして製法不明の特殊合金“聖銀(ミスリル)”が使われている、聖女エスメラが作り上げた聖武器である。一国最大一つ所有することが出来、これがあることによって初めて大国として名を連ねることが出来る、それだけの象徴を持つ武器でもあった。

 ちなみにこの聖武器、喪失や紛失した場合とんでもない扱いを受けることになるのは当然だろう。現在エースの喪失とともに、王国において聖剣の存在は確認されていない。そのため王妃が、愛娘との再会を放棄して諸外国を飛んで回っていたりするのだが、そのことは本筋にあんまり関わってこないのでここに明記しておく。

「こっちの国にあった“聖剣”と“聖盾”は二つで一つなのに、認めちゃくれないんですから」

 そしてエースのことを除いても、王国は現在対外的に微妙な立ち居地だった。

 読者の皆様は既に聖剣と精霊盾であることをご存知だろうが、その事実を国内で知るのはおそらくエースともう一人、普段からきゅん☆ きゅん☆ 言ってるようなアレくらいであろう。そして決まりごととして、一国に聖武器は最大でも一つとされている。その微妙な矛盾点をある国がつき始めてから、セラストの国政は多いに混乱をきたす事となった。

 国内で羊皮紙があっても、パピルスが流通していないのはそんな事情だ。

 それでさえ、羊皮紙自体も結構高額である上に数も多くないのだが。

 ちなみに王子珍道中は、輸入品であるためパピルスである。

「でもまあ、表向きそれなりの理由もないと駄目ってことでしょうさ?」

「そうでなければ、流石に国王に気付かれてしまう。私とて、無意味に動いているわけではないからな」

 商人は、大臣の言葉を軽く鼻で笑った。隣に居る自分の弟子に目配せをしたが、目を白黒させている彼は、何も言うことは出来なかった。

「まだまだ青いなぁ……。ま、仕方ないっかッ!」

「だから口を慎め! せめて場にそぐう言葉を選べ!」

「そうは言いますけど、“身奇麗”大臣さんよ。あんたさんの息子さん、結局どうなったんだい?」

「……何がだ?」

「とぼけんじゃねぇよ! こちとらネタ上がってるんだぜい? 進展とかしたのかって聞いてるンですべぃ!」

 軽薄に笑う商人の言葉に、アーレスは頭を抱えた。商人の男はそのまま続ける。「城に戻ったら、王女様べったりって話って噂ですよぃ!」

 ちなみに情報の出所は、法務大臣が雇っている女中達だったりする。王城で働いている女中のうち、六割がたは法務大臣の命令系統のもとにある。そこから出てくる情報については、商人もそれなりに信用していた。もっともそんな情報源をアーレスに明かしたりしないのだが。

「……まったくアレは、肝心なところでヘタレているというべきか。何もそこまで似ずとも良かろうに……」

 自分の過去でも思い出しているのか、アーレスは微妙に苦々しげに呟く。

 噂の内容は、簡単に言ってゴシップの類である。“黒の勇者”の消滅で憔悴した彼女を支える“新たなる勇者”、という構図だ。王城にアスターが帰ってくるたび、ちょくちょく出向いて彼と一緒にいるところを目撃されているのが原因だろう。

 そんな中で、全くモーションをかけることをしないアスターに対して、父親としてはやきもきする部分があるらしい。

 当然そう思われているのは、アスターが父親に、かつて自分がエリザベートに撃沈させられているということを言ってないのが原因なのだが。まあ子供の恋愛話だ。親にとやかく言うことでもない。無論話しても良いということだが、アスター的にはどうやら嫌な部類の話であるらしかった。基本だれにでも日和り続ける彼にしては、割と珍しい情動といえるかもしれない。

 だが、残念ながら周囲はそう見てくれなかった。

 事実、エリザベートもアスターに心を許している。

 恋人に向けるそれとはややベクトルがずれているものであっても、憎からず思っていることに違いはない。ましてや相手は貴族らしからぬ、一見善良な少年である。その行動がただただ状況に流されているだけのものだとしても、彼女自身への愛情からくる忠義は自覚しているのだ。

 そして、ここまで色の強いネタがそろっていれば、女中同士の井戸端会議で何が起こるか。

 マグネシウムを着火するより、もりに盛られたフラッシュとなるわけだ。

 必然、軍務関係で出入りのある商人の耳にもちらほら入るわけである。

 法務大臣が何一つコメントしないのも、そんな事実を知っていたりするからだ。

 ただ、アーレス・リックスにとって息子の進退にかかわるそれは、かなり重要案件であるらしい。

「……そうだ。まだあやつも、王都を立ってはいなかったか。連絡をとって、一喝でもするべきか」

「教育大臣。でしたら、我が家の書簡魔法陣をお使いなされ」

「助かります。御礼は――」

「いえいえ。でしたら、次にアスター殿が帰って来たときに懇親会でもお開き下さい」

 頭を下げて席を立つアーレス。ふとましい体を必死に動かす様は、見ていて独特の哀愁があった。


「……では、確認をしよう」


 アーレスが居なくなったのを確認してから、法務大臣は口を開いた。

「といっても、彼が帰ってくるまでの時間で、最低限現状の確認をするまでだ」

「確認ですか?」

 太った貴族の男が、法務大臣の言葉を繰り返す。

「ああ。確認が必要だ。我々の計画は、国を生かすものであるが、同時に一つでも誤りがあれば殺すものでも有る。そのことに、まずは留意せよ」

 法務大臣の言葉に、その場に居た者たちは姿勢を正す。

「まず新たなる勇者についてだが……、能力は精霊剣頼りといえる。基本的な部分は“黒の勇者”たちが教え込んだのもあるかもしれないが、所詮はまだ子供だ」

「それでは、まずいのでは? 少なくとも現状、竜王の後継者が()()()現れてしまった今となっては」

 当初の計画では、人間側の反魔族ボルテージを最高潮まで引き上げて戦争を起す算段であったため、彼らは架空の敵を設定することとした。それが、勇者を葬り去った竜王の後継者である。まさか実際に竜王の後継者なるものが現れるとは思ってもいなかったので、計画の一部修正を余儀なくされたのだった。もっとも人間側に“りゅーおーらんど”の存在が毛の先ほども伝わっていない辺り、エミリーの優秀さがうかがえた。

「確かに心もとない。だが、同時に彼は御しやすい。その気質は、黒の勇者よりもはるかに我等の側に傾いていると言える。だからこそ――」

 法務大臣の続けた言葉を受けて、商人はにやりと笑った。

「そして、彼はおそらく我等を裏切らない。愛する王女が居る限り」

「万が一裏切ったとしても、黒の勇者よりは殺すのは容易いでしょうしね」

「ふふん? なかなか穿った意見だな」

 口元だけで貴族に向けて笑う法務大臣。

 女中達が、それぞれの席のカップの中身を入れなおした。

 一口含んでから、法務大臣は暗い声音で続ける。

「……残す問題は、“魔術殺しの双刃”だ。私の私兵も無力化し、あまつさえ()()に記録することすら叶わなかった。……かの“魔弾の狙撃手”でさえ、魔弾の術を奪えたというのに」

 日記とは、当然「吟遊詩人の日記帳」である。

 エース暗殺後、法務大臣の手によってニアリー・コールに手渡されたそれは、彼の力をほどなく奪っていた。砂漠地帯にてそれに気付いた彼が、果たして生き残れるかどうかについては、三章までお待ちいただきたい。

「でも、足取りがつかめないのでしょう? 流石は魔術殺しと言うべきでしょうか」

「探査も使えず、どうしようもない。そこで貴殿には、その調査を頼みたい」

 でっぷりとした貴族の男は、再び汚らしい笑みを浮かべた。「お任せを、必ずやかの女を、我が手中に捕らえて見せましょうぞ。ヒヒヒッ」

 言葉上はともかく、その薄ら笑いに含まれたニュアンスを正確に理解した法務大臣は、ため息と同時に眉間に皺を寄せた。

「……やるならば、表向き絶対に漏れるようにするなよ? 私の役職を忘れるな」

「はっはっは! なに、見事に蹂躙して、屈服させて見せましょうぞ」

 そのうすら笑いには、流石にプロの女中たちであっても全員、身震いしてしまったのは、仕方のないことと言うべきか。

 商人の男は「やれやれ……」と言った様子で、そんな貴族の男を見ていた。

「これだから、お古い貴族っていうのは……」

 その言葉を言いつつも、結局彼も加担する側の一人であることに代わりはなかったのだった。


※   ※    ※    ※


「おう、アスター。さっき親父さんから伝聞術で届いてたみたいだけど、何が書いてあったんだ?」

「……おお、珍しくアスターちん不機嫌きゅん☆ 羞恥プレーな文面でも書いてあったきゅん☆?」

「……早く終わって帰ってきて、お父様に文句を言います」

 ちなみに王城の一角で、アスターが父親の言葉に顔を赤くさせられ頭を悩まされていたことに、幸運なことに王女は気付くことはなかったらしい。



魔術殺しの双刃・・・ 一体何者なんだ(棒


次も一週間以内投稿できると、えっと、嬉しいです。

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