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二章十三話:かくも無慈悲か陰謀に振り回される

「半年後」という結果だけが残る。


※番外編2投稿しました。



 どこに誰の悪意が潜んでいるかというものは、一見してわかったものではない。

 一番問題なのは、その悪意が果たして本当に悪意なのかということも含まれるということだ。

 自分自身を「善」と考えた場合、それを阻害する要因は「悪」と言えるかもしれない。また逆に自分の行いこそが「悪」だと考えた場合、対立する誰かこそが「善」となりうるのかもしれない。

 それはつまり、誰かにも誰かの正義がある、ということと同じように。

 誰かから見れば、誰かしらは悪である、ということだ。

 例えば、この王国。

 人間との関係を絶ちたかった竜王と、国内の建て直しを早急に行いたかったセラスト国王の利害が一致した結果が、現在の微妙な均衡状態なのである。竜王が死に、勇者が消滅し、双方に双方とも争うだけの理由があったとしても、それでもまだ何かしらの行動に踏み切っていないというのは、つまるところそれを刺激するだけの事件が起きていないから、ということに他ならない。

 慣性の法則ではないが、一度その流れが出来上がってしまうと、抜け出すことは難しいということだ。

 そのこと自体についての正否を問うつもりはない。というか、所詮本作はコメディ(?)なので、押して知るべしだ。ジェットコースターの使いどころが難しくて、筆者としてもエースとしても哀しいところであろう。

 それはともかく、では何故こんな話をこの場で持ち上げるのかというと、それはつまり、二代目勇者ことアスター・リックスに関わってくる話だからである。

獣人族(ライカノイド)たちの、軍勢ですか?」

「うむ。軍務大臣たちに知らせがあったらしくての」

 謁見の間。

 アスターがエリザベート王女より精霊剣「エイトライン」を受け取った場所である。

 この場にいるは二名と少々。アスターとセラスト以外は、国王の周囲に控える騎士と、アスターの父親であるアーレス・リックス、国王のサポートもかねる法務大臣などである。

 セラスト国王の言葉に、跪きながらアスターは少し疑問を浮かべた。

「軍勢……? ですか。軍勢?」

「何故そこを二度も聞く?」

「えっと、いえ、何と言ったら良いでしょうか……。そこはかとなく、言葉に違和感が」

「ふむ。まあわしも違和感はあるが、他に言いようがないようじゃしの」

 アスターに伝えられた情報は、次のものであった。

 ここ半年、勇者が消滅してから妙な動きをしている魔族たち。しかし、特にここ最近は目立った動きもなかったのだが、しかし、軍部は新たな動きをキャッチした。

 それが、獣人たちの軍勢である。

 かつて災害めいた大事件のあったオルコッパン元交易都市付近にて、その姿が確認された。大柄な空族(ロングノース)の男に率いられた彼らの姿は、一見するだけで街の住人達を震え上がらせた。呪われたモンスター「マッドゴブリン」によって壊滅的な被害を受けたその土地は、現在、「魔導番室」(一章五話参照)で得られた研究結果を試行したりする、実験場めいた場所となっていた。高位の魔術師も居ないわけではないが、住まう人々の大半は非力であり、軍団戦、もっといえば戦争の経験も皆無である。そんな経験のある魔術師は大半が魔導番室に引篭もっているか隠棲してるか軍に所属しているか、さもなければ大半が戦死している。物理兵装のみで叶わなかった竜王に対して、連携して戦い、破れた者たちのみだ。

「えっと、でも、まだ見かけたってだけなんですよね?」

「まあ、それだけで判断をするのは早計というべきじゃの。……教会側からも情報が回ってきての」

 聖女教会とは。

 教会の詳細については後の章できっちり説明する機会があるので軽く省くが、聖女教とは、王国ひいてはフォースメラ大陸で最もメジャーな宗教といえる。聖女エスメラと「運命の女神」との日々と語らいをもとにした宗教だ。聖女エスメラの名前は、大陸の共通言語がエスメラ語である時点で、その影響力の大きさを押して知るべしだろう(驚くべきことに魔族たちの共通言語でもある。もっとも宗教までは共有していないが)。言語の編纂のみならず、現在の魔術の基礎を築き上げたかと思えば建築学の基礎のようなものを整備したりするくせに、音楽を謡い詩を語らい、数理の探求を続け、エースが持つ聖剣などの武器を作り上げたりするような人間でもある。ちなみに本職はなぜか刀鍛冶ときている。

 伝聞レベルではあるのだが、万能人であったことは確かなようだった。

 そんな彼女の威光を一部でも請け負っている教会の影響力も、察して余りあるところである。

 そして教会の齎した情報であるが、非常に端的なものであった。

「『魔族の各地で軍隊を組織しようという動きもある』ということらしいの」

「……えっと、動き、()?」

「うむ、やはりそこに注目するか。流石エースが鍛えただけはあるか。でも、ともかくそういった動きが有るという情報が出されたわけじゃ」

 他の大臣達と違う点に注目したアスターに、セラストは少し瞳をほころばせた。

 その国王の含みの有る言い回しに、アスターは少し引っかかりを覚えた。

 ちなみにこの情報に対する裏づけを国王が言及しないのは一応理由があるものの、それも王国の司祭が出てくるまでは放置させてもらおう。

 ただし、国王セラストは唾でも吐き捨てるような不機嫌そうな顔で文句を垂れた。

「相変わらずわしより若いくせに狸ジジイというべきか……。まあもっと若いが」

「国王様、えっと、口調が……」

「おっとスマンの」

 すぐ普段の優しそうなおじちゃん(多少ガリガリから回復しつつある)の顔に戻り、彼はアスターに言う。


「対処、頼めるか?」

「えっと……、作戦を練るのに協力いただければ」


 ともかくこうして、マッドデーモン討伐後のアスターの次の任務が決まったのだった。



※   ※    ※    ※



「で、何で王女たまがここに居るきゅん☆?」

「あら、私が居てはいけませんか? セノさん」

「別に問題あるとかじゃなくて……、まあ別にいいきゅん☆」

 十代中頃の見た目より幼そうな仕草で頭をかしげるセノに、王女は他意のない微笑を向けた。その眩いオーラを受けてセノがぼそりと「やっぱり無垢さに関しては、年齢的に限界があるきゅん☆……」と呟いたりしたが、幸い誰の耳にも入らなかった、と思う。入ったところでセノの実年齢について話が飛び火するという、誰にとっても幸せにならない未来しか訪れないので、これはまさに幸運だった。

 ここは王城の客間。といっても、大掛かりなことをするような客間ではない。王族や貴族が個人的に人を呼んだときに使われたりする場所である。例によって例のごとく質素な部屋だ。多少造形などは凝っているものの、堅実さが前面に出ている。

 内部も強いて言えば諸事情あって資源不足となっているパピルスが、まだまだ存在するような場所である。部屋のつくりはともかく、細部や備品などは流石王城というべき感じであった。

 アスター、レオウル、セノ、エリザベートの四人が入って、ちょっと手狭になるくらいの部屋である。中央の机に報告書やら羊皮紙やらを広げて、アスターはうんうん唸っていた。セノとレオウルはそれぞれ自分の武器やら商売道具やらを手入れしながら、アスターに口を出す形である。

 ちなみにエリザベートが部屋に訪れた折、レオウルのムチムチダイナマイトバディ(筋肉)にちょっと慄いたり、セノのボディラインが結構出てたり大胆な肌色成分に目を丸くしたりしていたことは余談である。

 ともかく、アスターが何に頭を悩ませて居るのかと言えば。

「……何をしたら、軍隊とか止められるんでしょう」

 頭を抱えるアスターの意見は、まあ正しい。

 例えばこれが、一国がかかえる軍隊である場合ならば、政府と話をつけるなり何なりするということになる。

 政府が公認していない秘密組織であっても、コンタクト手段は示されていることが多い。基本的に味方を増やそうとしている組織の場合は、何らかの手段で会員を増やすため、どんな形でも宣伝をしているものだ。

 エースが求人を出したのも、そういう理由あってこそ。最もその後、この半年に至るまで織り込みチラシ(!)だの何だのと更なる宣伝方法をバルドスキーとあと一人とで考えたりしていたわけだが、そこは何話か後に回すことにしよう。

 さて、ここまでの前提をもって、この王国の人間VS魔族という構図を俯瞰してみよう。

 ……軍隊に関する情報が、極端に少ないという訳である。

 まず第一前提として、魔族を統率していた「竜王」が死んでいる。その後を継いだとされる後継者(もっともアスターはその存在を眉唾に思っているが)についても、極端に情報が秘匿されていた。ここはエミリーが空間転移で東奔西走しているお陰なのだが、そんなけったいな事実は人間側に伝わるはずはない。

 とすれば、国と関係ない(そもそも魔族も国という形態をとってはいないのだが)組織が暗躍していると見るべきなのかもしれないが……、残念なことに、軍部でその類の情報をつかめていなかった。アスターの父は「あの無能軍人めがッ!」とか怒鳴っているものの、軍務大臣やその部下が無能というわけではないことくらい、アスターは充分承知している。とすれば、情報がそもそも漏れ出ない方法で軍団を組織していると見てよいだろう。

 早い話、軍団でまとまって移動しながら仲間を増やしていると見てよい。

 紙の情報や亜人経由の情報すら回ってこないとなると、もはや部族長すら通さず義勇軍を集めているとしか、彼には考えられなかった。

「王子珍道中じゃないっていうのに……」

 ちなみに王子珍道中「賭博学園編」のラストにおいて、学園都市内部で王子が義勇軍を募るエピソードがあったが、主にそれと同じことが起こってるのではとアスターは考えていた。

 基本的に、義勇軍側が情報の公開をしないでくれと言えば、大半の民衆は口を塞ぐ。

 なぜならば、義勇軍に兵力を提供せずとも、彼らと意見の一致をみているからだ。事実上、それは潜在的協力者と言い換えられるだろう。状況によってはそこに一癖、二癖思惑をにじませているものも居るかもしれないが、こと現在までその情報がないとなると、そういった可能性を検討するのは時間の無駄かもしれない。

「……はぁ」

 と、ため息をつくアスターに、エリザベートは体を寄せる。

 一瞬びっくりするアスターに、彼女は微笑んだ。

「でしたら、いっそのこと部族長に話を聞いてみてはどうでしょう?」

「えっと、それは話を……?」

「ああ、済みません。言葉が足りませんでした。確か地図が……」

 デスクの上に散らばっている紙の底にあった王国の地図を取り出し、エリザベートは説明する。

「オルコッパンの位置がここ。ここから南西を向けばオルバルです」

 オルバルは、オルコッパン亡き後の貿易都市である。他国とのちょうど国境付近の場所であり、友好都市としても栄えている。下手しなくても王都より豪華な街並みだ。

「ですが、この両者の位置から程近い場所にある山、わかります?」

「ライデンマウンテン……? あ、そうか、獣人の砦が近いですね」

 ライデンマウンテンとは、雷が降り注ぐ山である。……他にまともな説明がないのかと問われれば、そうだとしか言いようがない。トロールたちの故郷であり、頂には部族長「雷帝」が居座っている。もっともそんなことを人間側は知らない。只この山は、常に周囲が雨天、雷雨が降り注ぐ悪天候な上、ここにしかいない冒涜的な名状しがたいモンスターが居たりするため、大半のヒトは寄り付かない。

 ただし、場所の目安としては非常に目立つわけである。

 名前を聞いて、付近に獣人の砦があると連想できるくらいには。

「でも部族長と話をつけるって……」

「エース様が、一応話が出来る人だといっておりませんでしたか?」

「あー、エリザベート様も聞いていましたか。確かにそう僕も聞いていますが、えっと……」

 そのエピソードが番外編で書かれるかどうかは別にして、ちなみにエースは、アスターにこう言っていた。「獣王、話はできるヒトだったけど脳筋だよ、脳筋」。酷く疲れた様子でそう言うエースに、アスターは「ノーキンとはどういう意味の言葉でしょうか?」と質問することは出来なかった。カノンの「休ませてやってくれ」という目線に日和った結果であった。

 ただし、その「ノーキン」という単語が持つ面倒くさそうなオーラは感じ取っていたわけだ。

 だがしかし、ここでもエリザベートが嬉々として作戦を説明しているのを邪魔するのもどうかな~と考え、彼は何も言わなかった。

「交渉が出来るというのなら、その義勇軍に対しても何らかの行動をすることが出来るということではありませんか? 例えば、軍に入るヒトの人数に制限をかけたり、あるいは軍そのものと連絡口を持ってもらったり」

「見返りとか要求されません?」

「その時は、私が出しゃばらせていただきます♪」

 ふわっとした彼女の笑みは、見るもの全てを和やかな気持ちにしてくれそうなものであった。

「交渉ごとなら、お母様に鍛えられています。今お母様は出られているので、その場合は私が参りましょう。お父様に頼めば、騎士隊も動いてくれるかもしれません」

「……それはえっと、非常に危ないといいますか? 仮にも、その――」

 お忘れかもしれないがエリザベート王女、竜王にさらわれたということになっている。事実はともかく、少なくともそれが黒の勇者エース・バイナリーの竜王城入りの切欠であり、竜王死亡の遠因であったことを考えると、魔族との会談の場を取り持つというのは、恐ろしく危険なことであるようにアスターには思えた。

 だが、しかし。

 エリザベートは、アスターの左手をとった。

 一瞬で顔を茹蛸のように真っ赤に染めるアスター。

 エリザベートは、真摯に言った。


「貴方は私の剣、なのでしょう?」

 でしたら、最後までその任を全うしてください。


 その彼女の言葉に、アスターは何も言えなくなった。

 彼女は、辛そうに呟く。

「……済みません。アスター。でも、私も私なりに、戦いたいのです」

 微笑を失って、突如真っ暗な顔になるエリザベート。エースとセイラの訃報を聞いた直後のようなその顔に、人生経験の足りないアスターは戸惑うばかりであった。

 ただ、それでも。

「……僕は貴女のことを愛しているのですから、えっと……、自分を大事になさってください」

「……ありがとうございます」

 その言葉に、エリザベートはわずかに頬を染めて微笑んだ。



※   ※    ※    ※



「……何だ、この桃色の空気は」

「空気読んで黙ってるレオウルちん、きゅんきゅんは結構偉いと思うきゅん☆」

 ちなみにそんな子供二人を傍観しつつ、偽聖剣の魔法石を手入れしているレオウルと、そんな彼のサラサラキューティクルヘアーを三つ編みに編んでやってるセノという、シュール極まりない光景が展開されていたことは、読者の目に入れてもらっておく。

 話が綺麗に締まらないのは、本作の基本である。



セノ「騙されたああああああきゅんッ☆!」

カノン「番外編6で頑張れ」ポンッ


次回も一週間以内投稿を目指すでございます

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