二章十二話:類は友を呼び、友も類を呼ぶ
「……うらやましい、――」
数日後、竜王城にて。
「うん、ナード君とイニ君は、なんだかんだで来てくれたみたいだねぇ。いや~、嬉しい限りだよ~。ジェットコースターにめげずに来てくれたんだから~」
「なんだか『楽しいにょ~ほほほほ!』とか言ってたヒトも居ましたけどねぇ」
「リリアンちゃんだっけ? あー、まあ彼女はちょっと特殊かなぁ……」
「知り合いなんですか?」
「いや、親が知り合いというか、命を狙った仲というか……。セィーブのところみたいに、不可侵条約結んだわけじゃないしなぁ……」
「はあ……?」
エミリーの書いた履歴書パピルスを見つつ、エースとケティはこんな会話をしていた。
ちなみにケティは例によってサボリ……、というわけではなく、エースの書類整理の手伝いであった。最終的に“りゅーおーらんど”にて雇うことが決定した十五人(少なっ!?)のヒトビトを、エースが確認する手伝いといったところだ。
「いやでも、よくアレで十数人も残ってくれましたよね~」
「ちょっと、どういう意味だい?」
「一割くらいじゃないですか? 結局。いやこれでも、あの惨状を思い出すとまだ来てくれた方だと思いますけどね~?」
「君、最近エミリーほどじゃないけど容赦がなくなってきていやしないかい? いや、むしろそっちが地か?」
「いやですね~、事実じゃないですか。で、オーガタンクの皆さんはどうしたんです?」
エースが絶叫しそうになるギリギリを見計らって話題を変えてくるあたり、この娘は案外、なかなか出来る逸材であった。そしてそんな彼女の話題転換に素直に応じる辺り、エースとしてもジェットコースター後の光景はやり過ぎた自覚があるのかもしれなかった。
「初日のアレがトラウマにでもなったのか、雇われたくないって言われたからねぇ。ま、何か仕事があったら斡旋してあげるつもり」
「あ、あははは……。そういえば、トラウマって何でしたっけ?」
「心の傷ね。深くえぐってくるやつ」
「はぁ」
そしてこうやって、現代の語彙を着実に増やしていくケティであった。
一通り見終わった後、エースはケティに書類を手渡す。「後で写本しておいてね」という彼の言葉に「自分でやればいいじゃないですか!」と叫ぶあたり、ここの職場の人間関係はだいぶテキトーであるらしかった。
もっとも無論、エミリーに弟子扱いされている彼女である。見つかったら「しゃべり方がなっていない、でございます。ペナルティ」と言われるに決まっているのだが。ギルティ認定は厳しいのである。
広間から出たエースは、竜王城のダンジョンスイッチを操作して、書斎に接続する。
時間経過によって内部のマップが徐々に変わっていくこの竜王城において、迷子にならないという日は絶対にない。一応脱出手段として「ずっと同じ扉を開閉し続けると、入り口付近の扉にはじき出される」というギミックが存在してはいるが、エースのように「内装を直接操作する」というのは、ある種の裏技であるといえた。もっともこれは、竜王城が最初から「ダンジョンスイッチでマップの配置図をいじれるように作られている」からの操作だということを忘れてはいけない。竜王の製作したダンジョンを、エースは基本的に改造したりすることが出来ないのだった。
さて。
竜王城の書斎は、さほど広くはない。過去にはかつて竜王が己の右腕たる男と苦楽を共にしたこの部屋であるが、この場所は基本、少人数で「書いて」「話す」場である。そんなにヒトが入る必要がない部屋であるため、竜王もさほど大きくスペースをとらなかったのだ。
そんな場所に入ると、彼に向けてエミリーが一礼した。
「相変わらず代わり映えしない格好だね」
「ぶっ飛ばすでございます」
「いや、いきなりすぎない? というかそんなにメイド服好きかよ拳を握るな。……でえっと、ユーが呼んだ“りゅーおーらんど”運営者候補は、どちらデース?」
「何でございます、その妙なしゃべり方は……」
軽く額を押さえるエミリー。エースとしてもテキトーに言った台詞なので、解説を求められてもいかんともし難かった。というか、突発的にイントネーションをいじるとかいう発想はもはや子供のそれであった。
とそんな時。
部屋のカーテンが締め切られ、太陽の光が遮られる。
「お?」
剛、号、強と風の音。
周囲に「きょきょきょきょきょ」というような動物らしき鳴き声が響き渡り、周囲から小さな生き物が飛び出してくる。それらが部屋の一角に集り、あやしげなオーラを放ちながら一つにまとまっていく。
さながらそれは、古いホラー映画の伯爵登場時にありそうなワンシーンのごとくであったが。
「えい」
ダンジョンスイッチを二度操作したエースによって、あえなくその演出は不気味さが激減させられた。
やったことはシャルパン会場のとき、セィーブたちを捕縛したのと同じだ。ただし彼が取り出したのはペンライト(!)である。その科学文明的な明かりによって、バルドスキーの華麗な登場シーンは、魔力でまとったオーラの光によってあやしげに照らされることのない、華麗(笑)なものとなってしまった。
「……もう少し、こちらの都合も考えていただけると有り難いのだが」
「残念ッ! 真っ昼間からそんな登場されても、全然締まらないって。というかカーテン閉めてる段階で色々と駄目でしょ。ほら、開けるよ~」
「ちょ、止めてくれ、ギャーッ! 目がーッ!」
「はっはっは、残念だったな。そういう遊びをするためには、まだまだお前も修行が足りないのだよ。やるんならせめて、地下帝国から脱出するくらいの――」
「お客様で遊んでるんじゃない、でございます」
両目を押さえて転げまわるバルドスキーに笑っているエースの脳天に、エミリーの馬場チョップが炸裂した。
転げまわる男二人に対して、エミリーは肩をすくめた。とりあえずエースのサングラスを奪い、バルドスキーにかけさせる。多少二人が落ち着いたのを見計らって、エミリーはカーテンを半開きにした。
「いや~、まあともかく、久しぶりかな。えっと……」
「バルドスキーだ。……貴公、もしや私の名前を忘れていたのか?」
「いや、そもそも俺ヒトの名前覚えるの苦手だし」
最初の段階から覚えていなかったようだ。
軽くしょげるバルドスキーだったが、そんな彼の様子を確信犯で無視してエースは話を続けた。
「まあでも、改めて久しぶり。バルドスキー」
「……どうでも良いことだが、私が、貴公が誰なのかを知っていることに、一切疑問を抱いていないようだな?」
「エミリーが話してるでしょ」
「そうではなく……、誰かを知ったら協力されないと考えて――」
「あー、真実を話さなかった可能性を検討したかって? そりゃまあ、竜王と一騎打ちした場に居たわけだし、ばっちりこっちの顔見たり声聞いたり、言葉遣いとか選んでる語彙とかくらい聞かれてるだろうし。そうすれば多少はね。その上でここに来てるってことは……。ほら、ね?」
風体が変わっていると誰だか分かり難くなるという点に無頓着な主人公であった。
ちなみにバルドスキー、どうやらエースに名前は駄目だったが顔の方は覚えられていたらしい。
そしてエースの話した過去に、わずかな感慨深さを覚えたバルドスキーであった。一瞬過去に思いを馳せる彼であったが、続くエースの言葉を聞いて、現実に引き戻された。
「そっちこそ、今ここに居るってことは、エミリーの話を聞き入れてもらえたってことなんだろうけど……。実際、どうなの? 俺に恨みとか、色々あると思うんだけど」
「ふむ、確かにな」
バルドスキーは、難しい顔をする。まるで人生の最難局に到達したような、そんな思案顔であった。だがしかし、彼は力を抜いたように微笑む。
「面と向かうと、確かにこみ上げてくるものはある。だが、竜王様のお言葉を私も聞いている」
「ああ、アレね……」
それは一章終話にて、ちらりと語られた一言であった。詳しくは例のごとくそこを参照あれということで、話を進行させる。
「……正直、アミューズダンジョンという発想が斬新過ぎて実現できるかは分からないが――貴公が、竜王様の意志を継いでいくというのなら、協力できなくもないこともないといえないかもしれないことはない」
「ないが多くて逆にわからないけど、まあいいよ。……というか、自分もわかって使ってる?」
一応偶数だから、筆者はたぶん大丈夫だと思う。
言いながら苦笑いするエースに、バルドスキーは掌を差し伸べた。一瞬驚いたエースであったが、彼はその手をとる。彼の微笑みや声音、力強いその握手などは、彼の心境がどことなくあふれ出るものであった。
バルドスキーは、最終的に竜王の復讐よりも、竜王の意志を尊重した。
そしてそこに、おそらく後悔は一つもないだろう。
そんな彼の意思に、エースは最大限の敬意を払う。両手でバルドスキーの手をつかみ、そして、頭を下げた。
「……ありがとう、ございます」
「かしこまらずとも良い。なんだか無図かゆい」
おそらくカノンやニアリー、セイラ含めて見たこともないだろうほど本気で腰が低いエースの姿に、バルドスキーも思わず苦笑いをした。
「……」
そんな二人の姿を見て、エミリーはぼそりと何事か呟く。
「――、でございます」
その表情は、果たして何と形容したら良いか――。
しかし、彼女はすぐいつもの無表情を取り繕った。
「では、バルドスキー。貴方は今から、魔王様の配下でございます」
「魔王……? ああ、了解しました」
何故か一瞬顔をしかめたバルドスキーだった。
頭を上げたエースに、彼は立ち上がるよう言う。
そして、エースに頭を垂れた。
「御身がその志を失わない限り――私は、貴方に付き従いましょう」
「あー、うん……。まあ、程ほどにね?」
その声音の裏側に、エース個人のエンタメだの何だのといった感情があることは、バルドスキーには当然伝わらなかったことだろう。
なんとも言えない顔で眉間のあたりを摘んでいると、そんなエースにバルドスキーはふっと笑った。
「ところで、最初の登場演出はどうであった? なかなか様になっていただろう?」
「君も大概、いい性格してるよなぁ……。もうちょっとひねりが欲しいところかな?」
あと何というか、前々章までのシリアスとは一変して、バルドスキーも竜王の臣下らしく微妙な性格を持ち合わせているらしかった。
※ ※ ※ ※
とにもかくにも、こうして、“りゅーおーらんど”は徐々にその下地を強化していく。
少なからず半年後に、それなりの成果を叩きだせるほどには。
そしてその近い未来、とある教会において。
「ん~~~~? 新しいダンジョンって何かな」
修道服姿の凛々しい青年が、薄い微笑をたずさえつつ“りゅーおーらんど”の存在を吟味することになるのだった。
修道服姿の青年「ふっふっふ、さて、どうしてくれようか・・・」
筆者「あ、君しばらく出番ないよ?」
修道服姿の青年「ファッ!?」
次も一週間以内投稿できるといいですね~。
セノ「次こそきゅんきゅんの出番きゅん☆」
筆者「でも番外編2書き終わってからね(最長一週間)」
セノ「きゅん☆ッ!?」




