二章十一話:ホワイト企業を目指します
バトル馬鹿はつきつめると、「戦えるならもう何でもいい」という領域に至るとか何とか。
死屍累々。
流石にそんな惨状を見たエースは、これ以上彼らを拘束する気になれなかった。
「えっと……、とりあえず、日を置いてから雇われる雇われないってのを決めてもらえると助かるかな? それでいい?」
「はい! はいはいは~い! 私、もう明日からでもいいですよ! むしろ毎日乗りたいですっ!」
そんな風に叫ぶ猫娘(もう一々形容するのが面倒)を一旦ケティたちに任せて、エースは倒れているヒトビトへ確認を取る。
一応それぞれにポーション (品質:粗悪)を配って、気分だけでも最低限良好にしてもらおうとしていた。もっとも受け取りようによっては、それだと逆効果であることにエースはまだ気付いていなかったのだが。
だがもっとも、大半のヒトビトはそれどころではなかったのだが。
例えば多くの獣人やトロールたちは力尽き、半漁人はかわいた顔で噴水に駆け込んでいる。そうでなくても大体が憔悴しきっている中において、数名ほどが会話できるくらいの余力を残しているのは僥倖とみるべきか。はたまた魔法剣士ナードの見立て通り、ある程度の実力者がそんなに居なかったというべきだろうか。
「……どうした、ゴブリンの」
「……なんだろうな、何かこう、『やりきったっ!』ていう清清しさみたいなものがあるぜ。あんまり良い気分ではねぇけど」
そんなことをナードに言う、ゴブリンの青年であった。
ちなみに両者ともに、シャルパンの会場に集った時よりも顔が圧倒的に悪い。種族傾向として赤ら顔なはずの空族のナードでさえ白い顔をしているのだから、どれほどショックだったかは言うまでもないだろう。毎日乗り続ければ、かのアトラクションがそんな大したことはないということを体感で理解できるのであるが、最初の段階でこれでは、先が思いやられるかもしれなかった。誰が思いやれるのかは知らないが。
そんな彼らに、ポーションを手渡すエースである。
「あ、どうもっス」
「……助かる」
「いいよ~。まあ、最初はこんなもんかなぁ……」
倒れる彼らに手渡すと、エースは全体を見て苦笑い。気絶まではいかなかったようだが、やはりファーストコンタクト(?)には失敗したらしかった。もっとも他にやりようがあるかと言っても、微妙なところであろうが。エースも深く考えてやっているわけでもないので、その点は自業自得(?)であろう。
そんな胡散臭げな笑いの青年に(見た目のせいでもうどうしようもないくらい胡散臭く見える)、ゴブリンの剣士は質問する。
「あんた……、何でこんなの作ろうと思ったんですかい?」
「ん? えっと、君は?」
「イニといいます。まあしがない傭兵みたいなもんです」
「ふむ。で、えっと、アミューズダンジョンを何で作ったんだって?」
「そうっス」
「あ、敬語ナシでいいよ。疲れてるだろうしね」
彼の言葉に、エースは少し思案する。
何も考えず脊髄反射で答えると「俺が楽しみたいから!」とか答えてしまいそうなので、少し時間を置くのは正解であろう。
「色々事情はあるけど……、一つはまあ、竜王の考え方の延長上かな?」
「……竜王様の考え方の延長上?」
「基本的に竜王は、種族間の軋轢で闘争に発展するのを嫌っていたからねぇ。もともと戦争に参加しない姿勢を貫いていたあれが戦争に参加したのも、人間側が『聖武器』だの『精霊武器』だのを戦争に積極的に使うようになってからだし。知ってるよね?」
「……『始祖の魔王と最初の勇者』の話か?」
「そこまで遡らなくてもいいけどねぇ。それ、聖女教とかの発端あたりまで戻っちゃいそうだし。まあそうでなくても、僅差で魔族優勢だったところのパワーバランスがやばくなって、最悪魔族側が滅亡レベルで負けちゃいそうだったから、各所で猛攻をかけて調整を施した……というのが竜王の戦争参加だったんじゃないかと、俺は思ってるんだけどね。まあその後の軍配備だとか含めて、もっと上手く立ち回れただろと言ってやりたいとこだけど」
当然、これは在りし日の竜王との会話からの推測に他ならない。
エースと竜王と両者が、それなりにシンパシーを感じるからこその予想だ。
だがナードとイニからすれば、竜王を呼び捨てにし、馴れ馴れしくその行いに文句をたれるこの青年が、少し不気味に思えた。
「王国だと有名どころで『聖剣“カー”』とか『精霊剣“エイトライン”』とかかな……? カノンの『イナヅキ』とかだとそもそも――」
「あー、いや、そういう話はともかく……、というかカノンって誰だ?」
イニの疑問は、当然のように無視された。
「まあともかく、軋轢によって血が流れるって、あんまり良くないんじゃないって話。蛇の獣人とか、竜から滅茶苦茶迫害されてたっぽいけど、そこは竜王が解決したりしたでしょ?」
「いや、知らねぇッスけど」
「あー、まあシャルパンくらい離れてるとマイナーな話か……」
どこかの集落で、フードを被った流れの魔術師の青年などが突然悲しい気持ちに襲われたかどうかは定かではない。
「でもそういうのってさ。やっぱり見方変えたり妥協したり受け入れたり、あるいは譲歩したり諦めたり、考え方変えたりとか色々すれば、共存って出来るんじゃないのかな~と思うわけよ。人間だって亜人 (エルフやドワーフなど)とかとは共存できてるわけだし。そんな滅茶苦茶なことを強いたりするのは、野蛮でしょ?」
「シハイニンさん、今シャルパンの人間を奴隷にしてる商人たち何割か敵に回したぞ?」
「オフレコね、内緒」
ちなみに人間も魔族も双方、戦時中の捕虜だった相手を、奴隷として隷属させている事例は少なくない。シャルパンなどのような場所では目に見えてこき使われているものもいる。隷属についてもある程度は竜王が制限をかけはしたが、それによってどれほど人間達の扱いがマシになったかという点は、察してあまりあるところだろう。
逆に人間側が持つ魔族の奴隷も奴隷で、大半が「見たくない」「醜い」「汚らわしい」とかいう特権階級の意見が優先され、人目につかないところで働かさせられていたりするのだが、これはちょっとした余談であろう。
「だからまあ、双方に益があるのは何かな~って考えた時に、今までにない類の施設だったら、何か面白いことが出来るんじゃないかなって思ったのがあるかな」
「面白い、ねぇ」
「血の流れない、文化的な接触ってことね。ほら、紙に書いてある禁則事項、ちゃんと読めば分かると思うけど。この施設の中では人間も魔族もみんな平等だからねぇ。みんなお客さんだったり、キャストだったり。……少なくとも、働くヒト、遊びに来るヒト双方にとって、良い場所を目指そうとは思ってるよ」
そう語るエースは、ぼんやり自分の故郷のことを思い出していた。農民だというのに案外自由時間がとれ、友達と遊び、学び、見聞を広めた日々のことを。領主経営の土地の中でも、それなりに安定した土地で過ごしていた自覚はあるエースである。嫌な思い出も多くあるが(特に最後の最後でトラウマレベルの出来事こそあったが)、そういうトラブルはどんな場所でも、絶対に起こらないというわけではない。それを含めて、自分の故郷は理想的な労働環境だったという自信があった。
「だからまぁ、当面の労働力と、後はアドバイ……意見出してくれるヒトみたいな感じで雇おうと思ってるんだけど、どうだい?」
「……現状の施設はともかく、今の話を聞いた感じだとそれなりに、面白そうだと思いますかね。俺、決闘は好きですけど殺し合いは嫌いなので」
「決着つくと、何度も戦えないから?」
「わかってるじゃねぇですか」
ふっと笑いながらイニは、隣をちらりと見る。ナードにも何か言えと促す彼である。
一方のナードは、何やら真剣に考え込んでいる様子だった。
しばらくして、彼は口を開く。
「意見を出した場合、それは取り入れられるのだろうか?」
「本人の希望内容と、俺の能力にもよるかな? まあ、出来る限り見当はするつもりだけど」
そうか、と、ナードは少し楽しそうな顔をする。
イニが「何考えてるんだこのバトルジャンキー」みたいな目で彼を見ているが、当の本人は気にせずこう続けた。
「……修行の場を用意していただきたい。現状のクエストダンジョンとは別に、ひたすら戦うことを専門とするような場所を」
イニが「あー、お前……」みたいな顔をしたが、エースは逆に「ひゃっほ~い」みたいな顔をした。
「ひゃっほ~い! 面白いねぇ、それ」
あ、実際口に出して言っちゃった。
「そうか、闘技場みたいなものね。となるとダンジョンモンスターと戦うってことでいいのかな? 実際にヒト連れてきてもいいけど、それだと完璧には回らないだろうし」
「せっかくならば、未知のモンスターが居ると助かります。常に新たな発見のある戦いこそが、己の力を高めてくれると考えるので」
「ん~、その条件だと案外、結構簡単に実現しそうだなぁ……」
エースのその一言で、ナードの腹は決まったらしい。
「もしそれが実現されるというなら、是非もない、力を貸しましょう」
「お前、本当に何というか残念な………………。はぁ。まあいいけど」
頭を抱える友人のことなどお構いナシに、ナードはエースに向かって頭を垂れた。
ちなみに。
「……黒の勇者は一体、何がやりたいのでしょうか?」
「おおむね先ほど説明していた通りかと、でございます。もっとも私も、疑問については同意見でございます」
セィーブたちの収監されている檻を運びながら、そんな会話がエミリーとバルドスキーの両者の間で交わされたかは知らない。
エース「さて、この後は楽しい話し合いだ」
エミリー&バルドスキー「「話し合・・・い?」でございます?」
次も一週間以内投稿が目標よ~ん。
セノ「そろそろきゅんきゅんの出番も欲しいきゅん☆」
大丈夫、ちゃんとあるから(遠い目




