二章十話:“りゅーおーらんど”完成版試写会(後)
エミリー「……この粗悪品のポーション、どうにかならないでございます?」
エース「いや、だって原料の”スリングライム”すらまともなの出来ないし・・・」
「こちら、でございます」
さてここは遊園地の奥。
前話で書いたとおり、りゅーおーらんどに建てられたお城のような建物。どこぞの有名テーマパークのようなものではなく、竜王城を簡略化したような建物だ(つまりちょっと禍々しい)。この施設の扉にはスタッフオンリーと書かれており、まあ要するに従業員用の施設である。
その施設の上部のとある一室に、エミリーとバルドスキーは居た。
手招きをするエミリーについていった彼であったが、彼の知るダンジョンという概念とのあまりの違いに、ただただ言葉を失っていた。
そんな彼を見て無表情に肩をすくめる彼女である。
既に無表情(笑)なキャラ付けの彼女ではあるが、表情に感情が出る出ないについて少し法則があるかもしれない。もっともだから何だという話だが。知ったところでエースが彼女をからかい所を一つ見つけるということにしかならないため、筆者がそれを研究するのはやめておこう。
まあともかく、バルドスキーが通された場所こそ、ここ、モニタールームである。
エースが使っているモニタールームとは違い、椅子も画面も更に多い。部屋の赴きも「監視室」と言ったほうが正しいようなイメージの部屋であった。
そこの部屋の一番後方、偉い人とかが座りそうな場所には「りゅーおーくん」と書かれた札が立てられていたりするのだが、おおよそこの世界の技術力と発想力で実現されたとは思えない、名状しがたい(彼にとってはという意味で)その内装に度肝を抜かれているバルドスキーの目には、かけらも入らなかった。
「……ここは、一体?」
「トラブル解決用の施設監視および防犯、自警を促すための特殊設備、だそうでございます」
エースが言った言葉を、そのまま暗記して述べるエミリーであった。
実際エースがダンジョン内に監視カメラをつけたのは「どんなヒト達がどのアトラクションに乗ってどんなリアクションをするか見て見たい!」というあんまりな理由であったが、その後に入ったもう一人のスタッフの助言により、多少はまともな理由付けがなされたようである。
バルドスキーを席の一つに座らせると、備え付けのマイク(!)を操作して、エースに一声かけるエミリーであった。
「……で、これは一体何なのでしょうか」
「だから、“りゅーおーらんど”の洗礼、でございます」
監視カメラによってとられた映像。画面を九つ使って映される大画面の映像は、まあ大方予想通りというか、ジェットコースター無双な姿が映っていた。
上がる絶叫。
飛び出す悲鳴は3D。
見ているだけでは理解できない過重を感じさせる、ごうごうとした風の音と共に。
巨大なレールの上を走るトロッコ(?)のような乗り物の姿に、バルドスキーは開いた口が塞がらなかった。
「……一体何なのでしょうか?」
「ジェットコースター、というのだそうでございます」
停車したコースターには、憔悴したヒトビトの姿。その周囲にも、似たように力尽きたヒトビトが転がっているのが、なんとも酷い有様だった。
残り二十名ちょっとくらいになった中で、次に乗り込む有志をつのるエース。
『出来れば乗って欲しいんだけどなぁ……? ほら、トレーニングか何かだと思って』
一体どの口がほざくんだ、どの口が。そう思いはしたが、エミリーは一ミリもその内心を表に出さなかった。
ちなみにジェットコースターは、確かに彼の言ってる通りまともなレベルの代物に落ち着いている。若干距離が長いので速度は早いが、行方不明者が出たり記憶喪失になったり首がぽろりしたりすることはまずないだろう。それを検討している段階で既に色々とアレなのだが、コメディ時空では普通に起こりうる現象なので、懸念しておくにこしたことはない。
ざわつく一同。十数人乗りのコースターは、今か今かと次の生贄を待っている(?)。
やがて諦めたように、数人が立ち上がった。場の空気に流されている部分もあるだろうが、そうでなかったとしても基本的にいい人ぞろいなのだ。
『……あー、気をつけろよ』
『あ、ああ。ゴブリンのも、ポーション飲んで少し休め。ほら』
『恩に着るぜ』
こんな会話を交わしたのは、鬼族の剣士と空族の魔法剣士だ。
どこか遠いところを眺めているようなゴブリンの剣士の姿に、ナードは彼らしくもない引きつった笑みを浮かべた。
そんな彼らに限らず、既に乗り込むヒトビトの大半は、これから己の身に起こる脅威に戦々恐々としている。だがそんな中にあって、コースターの椅子から離れていないものが一人居た。
『にぇ~にぇ~、はやく動かしてにょ~!』
猫々しい獣人の少女である。
ナードは別にゴブリンの剣士の言葉を疑っていたわけではなかったが、それでも平然としている少女の姿に、色々と思うところはあったらしい。彼女の隣に座り、少し話を聞いた。
『……君は、大丈夫なのか?』
『え、にゃにがですか?』
『いや、だから……』
『あ~、これ? 全然問題にゃいですにょ? むしろ、なんだか楽しくなってきたくらいです! ふわっとするの!』
どうやら、エアタイムが気にいったらしい。
嬉々としてテンションの上がる彼女の感性に、この魔法剣士は思わず頭をかしげた。
この少女、カルチャーギャップ(?)による物理的文化摩擦を撥ね退けるくらい、三半規管など諸々の機能が高いらしかった。獣人族の中でも、身体機能の高い種族であるらしい。そして、少女の言葉を地獄耳のごとく聞きつけたエースはにんまりと微笑んだ。
モニタリングしているエミリーの左頬が引きつったのは言うまでもない。
そんなモニタールームへ向けてなのか、ちらっとカメラ目線(!)を送るエース。そして手元のダンジョンスイッチを操作すると、画面に映った映像が切り替わる。
変化した画面構成は、ジェットコースターを隅々まで映す仕様になっていた。モニターの右下が先頭車両目線の映像、その他がジェットコースターの各箇所を映している映像となる。ご丁寧に左下の方は、最高頂点から落下した後の変顔(?)でも撮影するような配置となっていた。
さて、ここでようやくジェットコースターについてだ。
“りゅーおーらんど”にて最初に作られたジェットコースターは、一番初めということもあってか、結構オーソドックスな構成だ。最初の山に向けてチェーンリフト(というよりワイヤーリフト?)を使った巻き上げ装置のような名状しがたい蜘蛛とも猫ともつかないモンスター。キャメルバック(ラクダこぶのような山と谷を繰り返す構成のレール)にお城スレスレの位置に配置されたレール。コークスクリューのごとく螺旋状に回転する道筋と、終盤にかけての怒涛の急カーブが、見ていて微妙に気分を悪くさせそうだ。もっとも現代文明人なら、よほど苦手でなければ吐くことはない構成でもあるのだが。
そんなコースターの最高頂点は、ダンジョンマップの構成のせいか、無駄に高く見える。以前のバージョンでさえ、ハーフトロールな誰かさんが思ったほど高くなかったのだ。そこから更に低くなっているのでさほど高くはないのだが、周囲に比較対象となる風景が存在しないため、そこの感覚が大分狂わされる。結果として、搭乗者たちの恐怖心を煽るのに一役かっていた。
『まだかにゃ~?』
『……?』
ナードは一応空族であるためか、上空に居ることにそこまで忌避感はないらしい。だからこそ冷静に、何度もコースターを堪能している少女の言葉に耳を傾けることが出来た。
さて恐怖とは、想像力である。
予測能力と言い換えても良いかもしれない。
自分の五感で感じられる情報、自分のこれまでの経験やら知識など、それらに加えて自分が置かれている状況を想像し予想し理解する、これらの能力があって初めて感じられるものであろう。無論、思考機能を持つ動物の大半が持つ情動であるといえる。本能に根ざした感情でもあり、また本能ではない部分から発生する感情でもある。
そして本日、ジェットコースターによって彼らの内に発生しうる理解は次の二つ。
臨死や自身の安寧が喪失されるといった「危機的変化」。
更に、己の持ちうる理解の外から起こる「予測不可能」。
大半のものたちは、この二つがミックスされた混乱と全身にかかるGによって、思考することを手放してしまう。
だがそれを越えた先にある享楽の域に、どうやらこの少女は至っているらしかった。
『ふわっとして、どぉおおん!』
『ん……っ!? ッ! ッ!!?』
そして一瞬の空隙の後、時速百キロ以上の衝撃が、搭乗者たちに襲い掛かるわけだ。
『にゃああああああああああああああああ!』
嬉々として叫ぶ少女一人は例外だろう。その他大勢、野太い声を上げるものもいれば、ナードのように絶句してしまうものもいる。
実際に乗っているわけではないが、画面右下を見つつバルドスキーも言葉を失っていた。
「……一体何なのでしょうか?」
「女神に聖女教、でございます」
遠い目をしながら答えるエミリーのそれは、なんだかちょっとズレた言葉だった。
ちなみに意味は、釈迦に説法とか馬耳東風というような類である。
類義語に「勇者にフォル聖書」、「地底の女王のわめき」というものがあります。
巻き上げ式ジェットコースター、でも巻き上げてるのはモンスターみたいなっ!
次回も一週間以内更新を目指す、でございます。




