二章六話:テンプレは蹴散らすもの
本編外で見覚えのある顔がちらほら・・・?
青年のシルエットは、数本の剣と槍が貫通していた。
常人(常魔族?)ならば、まず助からないほどの致命傷である。
壇の下のケティは手で口を塞ぎ、補佐の冒険者五人も驚いて彼を見ていた。
それは、ことのなりゆきに唖然としていた魔法剣士ナードや、ゴブリンの曲剣士たちも同様であったことだろう。
それほどまでに、目の前で起きた出来事は急変しすぎていた。
冷徹なセィーブの目が、一瞬だけ目の前の男を侮蔑するようなものに変化した。
だが、残念(?)なことに我等が主人公は――。
「ふぃー、びっくりした。ありがとね、エミリー」
「予想は出来たから、スタンバイはしていたのでございます」
我等が主人公は、メイドテレポータの手によって無傷であった。
『……何?』
彼の体につきたてられた刃は全て、黒い穴に吸い込まれていた。それらは、反対側の白い穴に通じており、どれもエースの体を傷つけることができなかったようだ。
空間を湾曲させるという、普通の魔族からすれば規格外そのものの行動によって、彼女は己の主を守ったのだ。
「空間制御魔術、同時展開は基本でございます」
こともなげに言ってのけるエミリーは、普通に無表情であった。
両手の指で小さな三角形を作っていたりするが。
その手元に魔力が通じており、エースの周囲を制御していることがうかがえる。
セィーブはエミリーの仕業だと理解し、困ったように頭を引っ掻いた。
『参ったなぁ。何で邪魔するんですか、お嬢』
『むしろ、何故貴方が私の主を殺そうとするのか、でございます。ことと次第によっては――貴方達、かけらもその骸を残せると思うな』
ごう、と。
エミリーの全身から魔力の圧が放出された。
放たれたそれは、以前冒険者パーティー“オーガタンク”とケティが受けた圧よりも、より濃厚な力を伴っていた。
具体的には、物理的な力すら伴って。
会場が、ちょっと、みしみし言い出すくらいには。
その場において、多くの魔族が腰を抜かした。ケティや冒険者五人も当然含まれる。だがエースを取り囲んでいる者たちや、ある魔法剣士だとか猫猫しい女の子とか、一部は強く威圧されるだけに留まった。
『答えろ、でございます』
無表情ながらも、髪が逆立ちはじめるエミリー。
魔角が輝きだしているあたり、本気で怒っているようだ。
そんな背後をチラ見して「あれ、俺そんなに彼女に慕われてたっけ?」と、何やら疑問を抱いた男が一人居たりしたが、そんなことはさておき。
やや体が固まっていたものの、それでもセィーブは話す。
『言ったじゃねぇですかい。俺は、そいつに竜王様の後を継ぐ資格があるとは思えない』
『例えお父様が、それを納得したとしても?』
『俺達は、魔族の未来に使える軍隊ですよ、お嬢。だからこそ統率者の味方をしていたんだ。……その頭にこんなテキトーなのを持ってくるというのなら、喜んで牙をむきます』
『……私は、お父様の願いの後継者でございます』
『ならば、俺達は貴女も殺すだけです』
肩をすくめるセィーブ。それに対してエミリーは無表情のまま――いや、無表情ではない。
『出来ると思っているの? この、私を殺すと』
珍しく怒りを込めた言葉を放つと、彼女の周囲に膨大な魔力が集り始めた。
吹きすさぶ魔力の風は、さながら竜巻のようでもあり、小さくも強い嵐のようでもあった。
その奔流に、場内がざわつく。そしてエミリーの角は、圧倒的な閃光を放ち――。
『ちょ! ストップ、ストップ、こんなところで竜になったら会場やばいって! 支払い、支払い!』
とたん、エースが後ろを振り向いて叫んだ。
彼の一言を受けた瞬間、吹き荒れていた魔力が消し飛ぶ。
『……申しわけない、でございます』
『あー、うん、そうしてくれると助かる』
ちなみに場内の半数以上をビビらせたことに対して、謝罪するという発想が思い浮かんでいない二人であった。
『で、君らも一旦下がってくれない? 流石に仕切りなおししたいんだけど』
苦笑いしつつ、エースは自分に刃を向けていた男達にそう言った。
「わざわざそんな言葉を聞き入れて、体勢を整えさせると思っているのか?」
「それもそうだね。えっと、……侍くんでいいかな、呼び方」
「……ミカツラだ」
「そう。じゃあ、ミカツラ君から見て、俺、どう見える?」
「何を聞いている?」
「強そうとか、弱そうとか。そういう見た目とかかな?」
「……得体が知れない」
ゴブリンの青年は、微妙な表情でそう言った。
まあ、確かにその評価は妥当だろう。魔族にとっての魔角とは、相手が使える魔法の種類や、その種族を表しているものでもある。それが存在しない段階で既に色々おかしいというのに。
「ほとんど魔力を感じないくせに、何故あの中で平然としていられる」
エースの全身からは、勇者時代の半分も魔力が感じ取れない。であるにも関わらず、エミリーの吹きすさぶほどの魔力を前にして、硬直どころか畏縮すらしていないのだった。
ミカツラの言葉に、エースは軽く答える。
「ん~、慣れ?」
「慣れで出来てたまるか」
目の前で刃を向けられている相手にすらツッコませる男、エースである。
ちなみに事実としては、彼の肉体が半精霊になっていることが原因である。普通のヒトならば、体内に保有しているはずの魔力がある。しかし精霊は、その身のほとんどが自然界の四大元素と同質なのだ。簡単に言えば、単体で膨大な量を保有しているわけではなく、常に周囲に霧散させている状態と言えば良いか。その上で、必要に応じてその霧散しているところから魔力を引っ張ってくることが出来るのだ。結果として、半精霊は一見すると魔力が低く、実力を感知しにくい。
その上で竜王は、エミリー以上の魔力を常に保有していたのだから、どれだけ竜王が規格外であったかがうかがい知れるというものである。
だが当然、エースはそんな事実を知らない。
なので、
「そんな俺が、親切で仕切りなおした方が良いと言っているのに――いいのかい? この場から離れないで」
「――ッ!」
軽く睨んで、こんなハッタリをぶちかましたりするわけだ。
だがしかし、効果は覿面であった。
ミカツラをはじめとした四人は、その言葉に反応して一気に距離をとる。
セィーブも壇上を下りて、それに続いた。一つの陣形を形成し、眼前の相手の警戒する。
それが、エースの作戦であるとも知らずに。
離れた位置で、ミカツラはエミリーを一瞥して呟く。
「……恥を知れ、竜王の娘」
その声は、エミリーに届いては居ない。
だがしかし、エミリーも彼を一瞥すると、鼻で軽く笑った。
「……ん、何? 知り合い?」
「いえ、でございます」
「あっそ。えっと……、じゃあ、時間もないから、ぱぱっと終わらせちゃいますかね」
そう言うと、エースはスイッチを再度押す。
『えっと、もうしばしお待ちを、すぐ終わらせるんで!』
その言葉に、会場は騒然とした。
セィーブ率いる男達は、おそらくかつての竜王の元で戦っていた軍団の残りであるはずだ。つまり、この場にいる者たちのなかでも、相当上位に位置するはずだ。
しかし、そんな相手を前にこの得体の知れない男は、すぐ終わらせると宣言したのだ。
一体この後、どれほどの想定外の戦いが繰り広げられるというのだろうか――、魔族たちのボルテージは、混乱しつつも高まっていった。
『……ずいぶんと舐めてくれるじゃないかい。え? シハイニンさんよ』
セィーブも、背負っていた巨大な杖を抜き放つ。
その杖の周囲に魔力が集り、何某かの術を構成しはじめた。
それを見て、エースはボクシングのような構えで一歩下がる。
しばしの、静寂。
達人同士の戦いにおいては、お互いがお互いの先を読み合う状態が発生すると、このように双方共に一歩も動かないということが起こる。しかし、この時のそれは、また異なる性質のものだった。
余裕を持って、相手が出るのを待っているエースとエミリー。
一方のセィーブ側は、相手の動きが読めず、なかなか最初の一歩を踏み出せない。
だが、そんな悠長に構えていてはいけなかったのだ。
そんなんだから、エースがスイッチを、かちかち、と二度操作する時間を与えるのだ。もっともその音は、猫娘系獣人娘の「くちゅん」という可愛らしいくしゃみでかき消されてしまったのだが。
そしてその瞬間――勝敗は決した。
エミリー「同時展開は基本、で、ございます」
???「ただし(震え声)ってところね。無理はいけないわよ?」
エミリー「ッ!? 基本、でございます」
次回も一週間以内に投稿できるとひゃっはー!




